告白ゲーム

茉莉花 香乃

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告白ゲーム

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翌日の放課後、空腹と寝不足と緊張でヘロヘロの僕は、学校の裏手にある全てが見渡せるほど小さな公園に来ていた。

なぜこんな所に公園があるのだと思うほど、草が生え、子供の遊んだ形跡はない。高校の裏は去年までは田んぼで、宅地造成されるとかで先に公園だけ作ったのだと寺本が言った。なぜそんなことを知ってるのかと問えば、ここから歩いて五分くらいの所に住んでいるからだと言う。知ってる。家まで付けたことはないけど、バス停とも駅とも反対に歩いて帰るのは知ってる。僕は自転車通学だから、公園の入口に停めてある。

「来てくれてありがとう。もう一度言うよ?佐久間、好きなんだ。付き合ってください」

右手を差し出し頭を下げる。昨日、この手を取るって決めたのに、なかなか右手を出すことはできなかった。

足元がフラフラする。
地震かな?
地面が揺れてる。
どうしよう…どうしよう。

僕の右手は自分から動かすことなく寺本の手に掴まれた。

「えっ?」
「フラフラしてるから。ごめん…何か、悩ませた?そりゃ、悩むよな。でも、真剣なんだ。昨日、真面目に返事してくれて嬉しかった。無理って言われたけど、気持ち悪いとか、何考えてるのとか俺の告白に対する嫌悪じゃなくて、俺の気持ちに応えてくれたから断りの返事でも嬉しかったんだ。でも、できれば受けて欲しいから…突然だったから少しは考えて欲しいなって思ったんだ」

何ですか?この演技力。凄い。役者になるのだろうか?夏休み前までテニス部で汗を流していたのに、卒業後はどこか劇団にでも入るのかな?そうか!その練習?ポカンとした顔をしていたのだろう、寺本が微笑む。微笑むんだよ?笑うんじゃないんだよ!嘲笑うんじゃないんだよ!ああっ…この笑顔を見られただけでここに来て良かったって思うよ。

掴まれたままの右手に力を入れて握り返す。その意味を正しく受け取った寺本は、それでも言葉で返事をして欲しいと、真剣な顔を僕に向ける。

「よろしくお願いします」

告白の返事にしてはおかしかったかもしれない。けれど、告白したこともないし、されたことも今回が初めての経験なので正解がわからない。

おずおずと顔を上げると満面の笑みの寺本が両手を広げてた。

「えっ?」

これは、どういう展開ですか?

「ほら!」
「えっ、えっ…無理」

両手を振り拒否しようとするけれど、肘を持たれ引き寄せられた。寺本の腕の中で身動きが取れない。

これは…?ああ、演技の練習か?嫌な相手ともこんなふうに触れ合うことは当たり前で、映画やドラマではキスもしてる。最近じゃバラエティでも、平然とキスする姿は僕には信じられない。男同士でもキスしてるの見たことある。まあそれはテレビの中の話だから、寺本が僕とキスはしないだろう。まだ好きな人ともキスしてない。この貞操は守りたい。

乙女じゃないけど、いくら僕が好きな寺本でも、寺本の気持ちが僕にないなら意味ない。ゲームの中ってのが余計に拒否反応の現れる原因だ。そんな心配しなくてもキスなんてしたいとは思わないだろう。僕だぞ?男だ。寺本がいつも可愛い女子と付き合ってたのは知ってる。今はフリーなのかな?好きになった最初の頃は気になって噂を拾っていたけれど、最近じゃ当たり前になってたから気にしないようにしてた。テニスコートの横を通るたびに女子の『寺本く~ん』っていう鼻にかかったような、黄色い声援を何度聞いたか。

強い腕に、それでも僕に触れる力は強くなく、守られるようにされると涙が出てきそう。同じ高校三年生とは思えない。慣れた様子に、遊ばれてる感が半端ない。

やっぱり断れば良かった。一ヶ月持つかな?もしかしたら、寺本から断るかもしれない。

『やっぱ、無理だった』

頭の中に響く声にブルっと震えた。終わる時は僕の方から別れを言わなければ。男となんか付き合いたくなかったと言われる前にゲームだと知っていたと言わなければ。そうでなければ、いくら谷底に落ちてもいいと思ってもそれは辛いものになるだろう。

「俺の家来て?直ぐそこなんだ」
「寺本くん?」
「うん。嫌?」
「えっ、良いけど…」
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