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第三章
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「なんか、鬱陶しい」
いくら智親にそんなことを言われても、このニヤついた顔を引き締めることはできない。
「お前のファンが泣くぞ?」
「そんなのどうでもいい」
ホント、どうでもいい。
「いい加減に、何があったか教えてくれてもいいだろ?」
探偵に会って、報告書を受け取り、二、三質問した。俺の満足した顔に彼も上機嫌で帰っていった。部屋まで戻りその書類を片付けた。落ち着くためにコーヒーを淹れて飲んだけれど、ソワソワする心は落ち着くことはなかった。諦めて、智親の部屋まで来て、今に至る。
「もう少ししたら、教えてやるよ。ところで、安田くんはどこに行ったんだ?」
「お前が来る十分くらい前に呼び出されて出てったきりだ」
早く、帰ってこい。ああ、待ち遠しい。
コンコンとノックの音がする。ひ…安田くんではないだろう。自分の部屋をノックする奴はいない。あっ、もしかして、智親に気を使ってのノックなのか?智親を見ると誰なんだとドアを開ける。なんだ…安田くんではないのか。
「碧、いる?」
顔を出したのは高倉恭。
「出かけてますけど」
「じゃあ、待たせてもらおうかな」
安田くんが高倉さんと昼に一緒のテーブルで食べてるのはみたことがある。克さんと一緒にいなければならないし、無闇に声をかけると迷惑になるからと、見守るだけだった。いつもこんなふうに、この部屋に遊びに来ていたのだろうか?
「今日はどうしたんですか?初めてですね、ここに来るの?尾崎さんは一緒じゃないんですか?」
「二人で約束したから泰基はいないよ」
「そう言えば…」
「牧野も夜は食堂で食べてよ。碧と二人でディナーだからさ」
俺を無視して話が進む。
「随分親しいんですね」
「ん?俺と碧?そうだよ」
「付き合ってるんですか?」
「どうだろ…そんなに睨むなよ。まだだよ。今日、告白しちゃおうかな」
「安田くんが高倉さんのファンにいじめられますよ」
内心穏やかではないけれど、ここで喧嘩を始めても仕方ない。どうやら夕食を共にというのは本当で、昨日食材を買ってきていて、智親にもそう伝えていたそうだ。
普段一緒に過ごすことのない高倉さんとコーヒーを飲んでる。
「ところで、大沢はどうしてここにいるわけ?」
「俺も知りたい。俺に用ってわけじゃなさそうだし。気持ち悪いほど機嫌よかった。今は微妙だけど」
「いや、ちょっと…。それにしても安田くんは帰ってこないな。晩御飯作るなら、そろそろ準備する時間じゃない?前の時も…」
「大沢も碧の手作り料理、食べたことあるんだ」
「ええ、一度だけ」
「そうだな、遅いよな。牧野、知らねぇの?」
「美都瑠が呼んでるって、一年生が呼びにきて出て行きました」
「あれ?美都瑠くんは昨日から外出してるはずだけど。もう帰ってきたのかな?」
「そうなんですか?」
「碧が一人で食堂で晩御飯食べてたから、一緒に食べてあげたんだよな」
「一緒に?二人で?」
智親の質問に爽やかな笑顔で頷く高倉さんに呆れてしまう。
「連れ去られたりしてないよな?」
この人のファンは過激な人が多いと聞く。だから、尾崎さんの他に特定の人を側に置いてないと思ってたのに。ここにきて何故安田くんなんだ?
「美都瑠に連絡してみるよ」
智親が電話してる間も落ち着かない。
「大沢はさ…」
そんな俺の焦りを知ってか知らずか、のんびりした高倉さんの声にイラっとする。
「何ですか?」
「碧の事、どう思ってるの?あの子の見た目はどこにでもいる普通の…いや、普通以下の子だよ?」
「そのセリフ、俺もあなたにしたいです。高倉さん、何か知ってるんですか?」
「それ、そのセリフ、俺もそっくり返すよ。何か知ってるのか?」
「そうですね…。全部…でしょうか?」
「全部?あの眼鏡のこととか?」
「高倉さんは…」
「えっ?」
二人の会話を智親の大きな声が遮った。
「どうしたんだ?」
電話を終えた智親に聞くと顔色が悪い。
「美都瑠は呼び出したりしてないって。明日帰るって連絡入れても返事はなかったって」
「電話、してみる」
すると隣の部屋から着信音が聞こえた。
ドアを開けると机の上に置いてある携帯が大きな音を出し、震えていた。
いくら智親にそんなことを言われても、このニヤついた顔を引き締めることはできない。
「お前のファンが泣くぞ?」
「そんなのどうでもいい」
ホント、どうでもいい。
「いい加減に、何があったか教えてくれてもいいだろ?」
探偵に会って、報告書を受け取り、二、三質問した。俺の満足した顔に彼も上機嫌で帰っていった。部屋まで戻りその書類を片付けた。落ち着くためにコーヒーを淹れて飲んだけれど、ソワソワする心は落ち着くことはなかった。諦めて、智親の部屋まで来て、今に至る。
「もう少ししたら、教えてやるよ。ところで、安田くんはどこに行ったんだ?」
「お前が来る十分くらい前に呼び出されて出てったきりだ」
早く、帰ってこい。ああ、待ち遠しい。
コンコンとノックの音がする。ひ…安田くんではないだろう。自分の部屋をノックする奴はいない。あっ、もしかして、智親に気を使ってのノックなのか?智親を見ると誰なんだとドアを開ける。なんだ…安田くんではないのか。
「碧、いる?」
顔を出したのは高倉恭。
「出かけてますけど」
「じゃあ、待たせてもらおうかな」
安田くんが高倉さんと昼に一緒のテーブルで食べてるのはみたことがある。克さんと一緒にいなければならないし、無闇に声をかけると迷惑になるからと、見守るだけだった。いつもこんなふうに、この部屋に遊びに来ていたのだろうか?
「今日はどうしたんですか?初めてですね、ここに来るの?尾崎さんは一緒じゃないんですか?」
「二人で約束したから泰基はいないよ」
「そう言えば…」
「牧野も夜は食堂で食べてよ。碧と二人でディナーだからさ」
俺を無視して話が進む。
「随分親しいんですね」
「ん?俺と碧?そうだよ」
「付き合ってるんですか?」
「どうだろ…そんなに睨むなよ。まだだよ。今日、告白しちゃおうかな」
「安田くんが高倉さんのファンにいじめられますよ」
内心穏やかではないけれど、ここで喧嘩を始めても仕方ない。どうやら夕食を共にというのは本当で、昨日食材を買ってきていて、智親にもそう伝えていたそうだ。
普段一緒に過ごすことのない高倉さんとコーヒーを飲んでる。
「ところで、大沢はどうしてここにいるわけ?」
「俺も知りたい。俺に用ってわけじゃなさそうだし。気持ち悪いほど機嫌よかった。今は微妙だけど」
「いや、ちょっと…。それにしても安田くんは帰ってこないな。晩御飯作るなら、そろそろ準備する時間じゃない?前の時も…」
「大沢も碧の手作り料理、食べたことあるんだ」
「ええ、一度だけ」
「そうだな、遅いよな。牧野、知らねぇの?」
「美都瑠が呼んでるって、一年生が呼びにきて出て行きました」
「あれ?美都瑠くんは昨日から外出してるはずだけど。もう帰ってきたのかな?」
「そうなんですか?」
「碧が一人で食堂で晩御飯食べてたから、一緒に食べてあげたんだよな」
「一緒に?二人で?」
智親の質問に爽やかな笑顔で頷く高倉さんに呆れてしまう。
「連れ去られたりしてないよな?」
この人のファンは過激な人が多いと聞く。だから、尾崎さんの他に特定の人を側に置いてないと思ってたのに。ここにきて何故安田くんなんだ?
「美都瑠に連絡してみるよ」
智親が電話してる間も落ち着かない。
「大沢はさ…」
そんな俺の焦りを知ってか知らずか、のんびりした高倉さんの声にイラっとする。
「何ですか?」
「碧の事、どう思ってるの?あの子の見た目はどこにでもいる普通の…いや、普通以下の子だよ?」
「そのセリフ、俺もあなたにしたいです。高倉さん、何か知ってるんですか?」
「それ、そのセリフ、俺もそっくり返すよ。何か知ってるのか?」
「そうですね…。全部…でしょうか?」
「全部?あの眼鏡のこととか?」
「高倉さんは…」
「えっ?」
二人の会話を智親の大きな声が遮った。
「どうしたんだ?」
電話を終えた智親に聞くと顔色が悪い。
「美都瑠は呼び出したりしてないって。明日帰るって連絡入れても返事はなかったって」
「電話、してみる」
すると隣の部屋から着信音が聞こえた。
ドアを開けると机の上に置いてある携帯が大きな音を出し、震えていた。
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