アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-

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第九章 戦役

四話 事態は勝手に動き出す

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 フェニックスを倒しても、入り口は消えなかった。
 俺は破壊された岩橋の上を、ポッポちゃんに掴まって飛び、一度そこから出る。
 そして、一気に五層の階段部屋まで戻り、セシリャ、ラーレ、トゥースの三人を連れて、再度ダンジョンボスの部屋まで戻ってきた。

「えぇ……なにこの危なそうな場所! みんな本当に無事なんだよね?」
「うん、ほらあそこにいるでしょ?」

 このダンジョンボス部屋の圧倒的な様子に、セシリャは驚きの声を上げた。
 俺が離れた場所にいるみんなを指差すと、セシリャはほっと安堵の溜息を漏らした。

「こんな場所で戦ったのですか……凄いです。あっ、ユスティーナだ!」
「本当に攻略したのね……私はもしかして英雄譚の一部を見てるのかしら?」

 トゥースは純粋に喜んでいるみたいだが、ラーレは少し俺の事を懐疑的な目で見ていた。
 お前は何者なんだという思いが込められているのが、ヒシヒシと伝わる。
 一人じゃ十回もフェニックスを倒せたか疑問なんだから、俺だけにその目を向けないでほしい。

 ポッポちゃんに三人を運んでもらい、最後に俺もみんなの場所に戻る。
 すると、アニアが【慈愛の雫】の性能を確かめているのか、魔法を使っている姿があった。

「ゼン様……これいいのです! 見ててくださいね。ブレス! っね!?」

 ユスティーナ、ヴィート、シラールドの三人が横に並んでいるところに、アニアが『ブレス』を唱えると、魔法の効果が三人に出ているのが分かる。
 更に遠距離回復魔法の『フォースヒール』を唱えると、これも三人の体を癒している。

「攻撃魔法も効果の範囲が大きくなるのですが、威力は変わらないみたいです」

 アニアがそう言いながら地面に向かって『ファイアアロー』を放つ。
 すると、いつも通り普通の炎の矢が飛んだのだが、飛んでる途中でそれが分裂して地面を焦がす。
 範囲は座布団一枚分ぐらいだろう。通常であれば拳より小さな焼跡しか残らないので、結構範囲は大きくなっていると思える。
 一点への威力は変わっていないが、これはこれで強くないか?

「まだ慣れないと無理なのですが、これ範囲の調整が出来そうなのです」

 アニアが再度『ファイアアロー』を放った。今度の焼跡は倍ほどの範囲になっている。

「MP消費は増えてるんだよな?」
「はい、でも回復や支援魔法は効率がよさそうです。攻撃魔法はもう少し試さないと分からないのです」
「なるほどね、って事はアニアに合ってるって事だな。聖女様パワーアップしちゃったな」
「ゼン様に聖女って言われると、変な気分になるのです……」

 確かに、俺もアニアやアルンに魔槍って呼ばれたら、止めてくれよってなるな。

 【慈愛の雫】はもう少し検証が必要だろうが、現段階でその効果は大きいと思える。
 そういえば、アニアが魔法技能レベル4になったら覚える『エリアヒール』は、どんな事になるんだ? 効果が被ってるから意味がなかったら、アニアが涙目になりそうだな。
 その時は一日かけて慰めよう。そうしよう。

 ふと視線に入った白い物体に注目すると、そこではポッポちゃんがピョンピョン飛び回り何かを集めていた。気になって近づいてみると、小石を集めている。

「ポッポちゃん、これ持って帰るの?」

 俺が質問をしてみると、ポッポちゃんは俺を見上げて「そうなのよ! 主人、お願いなのよ!」と、クルゥと鳴いた。
 食のために、それを助ける石も厳選するなんて、ポッポちゃんは本当に拘りを持ってるな。

 そうだっ! 食といえば溶岩石を鉄板代わりに肉を焼いたりすると美味いってあったな。
 ちょっと地面を砕いて持っていこうかな?
 ……いや、だったらここに嫌ってほどある溶岩その物を持っていけばいいのか。

 俺は火傷をしながらも、大量の溶岩をマジックボックスに吸い込んだ。
 このマジックボックスなら、熱を維持したまま保存される。
 家に帰ったら型に流し込んでみよう。
 
 全員が揃ったのでそろそろダンジョンから出る事にした。
 恒例となった水晶の輪が壊れる一連の流れを、ラーレとトゥース、そしてセシリャ相手に楽しむ。

 水晶の輪に映し出された向こうの状況を見て、俺はシラールドに質問をした。

「この様子を見てどう思う?」
「うむ、何かに備えているのは明らかだ。だが、この程度なら問題なく突破出来るのではないか?」

 俺とシラールドの視線の先には、多くの兵士が規則正しく並び訓練をしている姿が見える。
 場所はダンジョンの入り口付近だろう。

「突破は問題ないだろうね。ただ、殺さないのは骨が折れそうだ。あの司令官の様子なら、敵対する事はないと思ったんだけど、もしかしてシーレッド本国にばれたかな?」
「その可能性もある。まあ、何にしても敵なら蹴散らせば良いだけだろう」

 シラールドが強気だ。ダンジョンボスとの戦いと比べれば、楽と思えるからな。

「とにかく出るか。ラーレ様達がいるから敵兵を殺さないように俺は一応棍棒で戦う。シラールドは二人を守ってくれるか?」
「承った。だが、あまりにうっとおしい時は斬っても良いのだろ?」
「その時は、俺の方が先にやってると思うよ」

 物凄く大雑把だが方針は決まった。
 みんなにその事を告げて俺達はダンジョンから脱出する。

 俺が最初に外に出ると、そこには予想以上の兵士達の姿があった。
 水晶の輪から見えたのは本当に一部で、俺の探知には数える事が嫌になるほどの人間の気配で埋め尽くされる。
 続いて出て来たみんなも同じようで、一歩を踏み出した状態で固まっている。
 幾ら個々が強いとはいえ、千人以上の人間に囲まれている状態は、一気に緊張感が生まれた。

 俺達の姿はすでに多くの兵士達が捉えている。その多くはラーレと同じイレケイ族だ。
 兵士は驚いた様子を見せているのだが、そこに敵対心は感じられない。
 むしろ、これは……
 俺が兵士達の目に込められた、ある思いに気付き始めていると、遠くから大声が聞こえてきた。

「殿下っ!」

 声に視線を向けると、そこにはこの基地の司令官がこちらに向かって走っている姿があった。
 大分高齢のはずだが、その足取りは軽やかだ。あの人はまだまだ現役だな。

「どうやら、心配しなくていいみたいだね。みんな、武器をしまって大丈夫だよ」

 俺はラーレとトゥースの前で膝を突き、涙を流す司令官の姿を見て、みんなにそう声を掛けた。

 俺達は司令官に案内されて宿舎の一室に通された。客間なんだろうが、実務的というか質素だ。

「……要するに政権を取り戻したって事ですよね?」
「違う、元々王座はトゥース様の物だ。今は暫定的にサリーマ王妃が座っている」

 司令官が熱い視線をトゥースに向けている。本人困っちゃってるだろ。

 俺達がダンジョンに籠っている間に、どうやらこの司令官は親王派に働きかけ、サリーマ王妃を擁護して政権を奪還したらしい。今は王宮があるカーグを中心に戦いが広がっているのだとか。
 この場所に集まっている兵士達は、そんな親王派の私兵ばかりで、ラーレとトゥースがダンジョンから出て来次第、二人を旗印にシーレッドの追い出しを開始する予定なんだと。

「動くのは私の関与するところではありませんが、二人はまだ私との約束を果たしていないので渡せませんよ?」

 俺が司令官に向けてそう言うと、同席しているイレケイの人々に動揺が広がった。
 俺が彼らの返事を待っていると、司令官の隣りに座っている男が口を開いた。

「殿下をお助けいただいた事は感謝するが、すでに事態は動いてしまった。すまぬがお二人は渡していただこう」

 そう言った彼は、司令官より若干年下に見える。それでも五十は過ぎているであろう、貫録のある壮年の男だった。司令官への対応が部下のそれに見えたので、身分が高いのだと分かる。

「それは、そちらの事情。こちらには、こちらの事情があります。両殿下とは助け出す時に契約をしていますので、私の方を優先して頂きます」
「了承致しかねる。我々も恩人に仇を返すような真似はしたくないのだ。分かってくれ」

 壮年の男は丁寧な言葉を選んでいるが、小僧は引っ込んでいろという気持ちが伝わってくる。
 それにどう考えても力づくでも奪うと示唆している。
 エゼル王国の諸侯であればエアの顔を立てる気も起きるが、この地で俺が我慢する必要はないな。

「ははは、もしかして私から二人を奪えると思っていますか? 貴方方がそのつもりなら、今すぐ貴方方を消してこの場から去るだけですよ?」

 俺が笑いならがそう言うと、明らかに場の空気が凍りついた。
 護衛の兵からは険呑な雰囲気が漂い出してきた。

「……基地の外にはここの倍は兵がいる。それでも抜けられると思っているのか?」
「問題ないですね。多少手間が増えるだけでしょう。それより逃げないでいいのですか? 次の瞬間には貴方は死んでるのかもしれないのですよ?」

 今の所、九割ハッタリだが、一割は本気だ。
 もし相手が剣を抜けば、敵対者として殺して、スノアに乗って出て行く。
 もし、兵士全てを相手するとしても、ドラゴンを彼らが追えるとは思えないから問題ない。

 ユスティーナには見せたくない光景だが、二人を奪われるぐらいなら仕方がない。
 俺がここで引く方がよっぽど教育に悪いわ。
 俺らの中で一番の穏健派であるアニアも、厳しい表情を見せている。
 これは止めるつもりがない顔だな。

 横目でユスティーナを見てみると、のほほんとした様子でクッキーを頬張っていた。
 この程度の緊張感は魔物との戦いで何度も味わっているので、慣れた物なのか……

「兄ちゃん、人間殺していいの?」
「ヴィートはやらないで良いぞ。俺がすべてやる。なに、この人数なら五秒も掛らないだろ」

 ヴィートの言葉に、俺は壮年の男から目を離さずに答えた。
 壮年の男も俺から目を離さずにいるが、目が泳ぎ始めている。
 俺が折れると思ったのだろうが、初っ端から「お前殺すよ?」と、ダンジョン攻略者に返されたら、そうもなるだろう。
 ちょっと自分の行動が荒い事は分かっているが、意味のないやり取りをする気はない。
 俺から奪うならば、それを態度で示すだけだ。

 壮年の男が唾を飲み込んだ。震える口が何かを言おうとしたその瞬間、声が響いた。

「止めなさいっ! ゼン殿、この者の無礼は私が謝罪します。どうか、お許しください」

 立ち上がったラーレはそう言うと、俺に対して頭を下げた。
 その行動に、また場が凍りつく。

「ラーレ様っ!! 一体何を!」
「黙りなさい、彼は私達を救ってくれた恩義のある方。その方に何たる無礼! 所詮小娘、力のない私は黙っていようと思いましたが、もう我慢がなりません!」

 ラーレの声は力強い。
 自分では所詮小娘などと言っているが、そんな事は微塵も感じさせずにいた。

「で、ですが……正当な血筋はお二人なのです。今はサリーマ様が代りを務めておられますが、それでは納得をしない者もおるのです……。我々と兵達を率いてください」

 サリーマ王女は外から嫁いできた人だったな。血を重要だと考える人からしたら、それでは納得しないのだろう。

「分かりました、それではトゥースは置いていきます。ゼン殿、メルレインの説得は私だけで問題ないはず、そうですよね?」
「はい、私も少し熱くなっていたようです。無礼、申し訳ありませんでした」

 俺はラーレと壮年の男に頭を下げた。
 わざわざ声を荒げてまでラーレが作ってくれた道筋だ。俺としたらラーレだけがいれば問題ないのだから、それを無駄にする事は愚かだろう。
 だが、当の本人であるトゥースは寝耳に水といった様子だ。

「えっ……? 姉様どういう事……?」

 先ほどまでユスティーナを見て笑っていた顔が曇り始めた。
 それどころか、事態を把握し始めたのか、ちょっとオロオロとしだした。

 壮年の男や司令官の表情を見る限り、トゥースさえ残れば問題ないようだ。
 落としどころが出来た事に安堵の表情を浮かべている。
 特に壮年の男は体中から汗が噴き出ている。
 ちょっと、脅かし過ぎたか……

「姉様、僕も一緒に行きますよ!?」

 トゥースは涙目だが、その意志は固そうだ。
 言ったラーレもどう説き伏せたら良いのか分からないのだろう、困った表情を見せている。

 仕方ないなこれは……彼女に協力してもらおう。
 俺は頭の中で考えてポッポちゃんに指示を出す。
 すると、ポッポちゃんは俺の目を、ジーっと見つめてクルゥッと鳴いて応えてくれた。
 ポッポちゃんが動き出す。
 ピョンと飛び上がるとユスティーナの肩に乗った。そして、クルゥクルゥと耳元で鳴くとユスティーナはそれに頷いて応えている。
 ユスティーナがトゥースの注目を引くように、手をヒラヒラさせると言った。

「トゥース君、私は国のために戦う方がカッコイイと思うよ?」

 首を傾げながらユスティーナがそう言った。その仕草にトゥースが釘付けにされている。

「ッ! 姉様、僕やります。この国のために頑張ります!」

 ちょろい。だが、男は何時でも女の子に弱い。これは世界の理だろう。
 俺もアニアやジニーに同じ事をされたら、頑張っちゃうからね。
 しかし、凄いなユスティーナ。俺が頼んだとはいえ、魔性の女っぷりがもう出ちゃってるよ。
 俺はちょっとだけ、ユスティーナの未来に期待と心配をしながら、話を進める事にした。



 あの灼熱の大地から離れた俺達は、一路西を目指す。今日もスノアに乗って移動だ。

 嫌に政権を取り戻すのが早かったあの国の話だが、ラーレが前面に出て来た事で、司令官たちが俺らには本来伝える気がなかった事も聞けた。
 どうやら、タヒルを処理し王族を救い出した事で、潜伏していた複数組織が動いたらしい。
 その多くは反タヒルを掲げる勢力だったのだが、それとは別の目的を持った最大勢力があった。
 以前、アルンに聞いていたシーレッド王国の動向で、南東の国との戦争が停戦されたとあった。
 その国というのが、あの地のすぐ南にあるレニティという都市国家だった。
 この国の事は良く分からないので省くが、とにかくそのレニティ国が地下組織に力を貸していた結果、スムーズな奪還が叶ったらしい。

 トゥースは母親と共に今後戦いに巻き込まれるのだが、俺が出て来た時点では優勢っぽかったので問題ないだろう。タヒル側の頼みの綱であるシーレッド王国は、侵略してきたエゼル王国の対応で大分兵を西側に動かしているからだ。

 エゼル王国とシーレッド王国間は、召集の問題で当分大きな戦いは起きないだろうと予想されている。
 だから、俺達はダンジョン攻略を続ける。
 みんなパワーレベリングで力は十分手に入れたので、これからは一気に攻略だ。

 シーレッド王国が保有していて、公表されているダンジョンはそれほど多くない。
 調べた限りでは、安産の神、花の神、大空の神、湖と霧の神、生産の神、竜の神、地下の神、獣の神と、八個のダンジョンがあった。この中から数か所を攻略するつもりだ。
 得られる加護の力やアーティファクトは、名前から大まかな物を予想できる。
 この中から、欲しい物、シーレッドが力を入れている場所、などを照らし合わせて選択していく。

 この中でアニアが一つのダンジョンに、やたらと興味を持っていた。

「これは、とても大事な加護では……」

 アニアは俺が手にしている地図を横から覗き込んでいる。
 その視線の先には安産の神のダンジョンの印があった。

「この加護がなくても、アニアは大丈夫だと思うけどな。完全に見た感じだけど」
「……健康は健康なのですが、やっぱ不安もあるのです」
「まあ、困った時に考えよう。今回はちょっと趣旨と外れるからな」

 そんな会話をしていると、ユスティーナ抱いて俺の横に陣取るセシリャが真顔で俺達を見ていた。

「どうした、セシリャ?」
「二人ってその……えっ!? ま、まさか……」

 言っている内に段々と何かに思い至ったのか、セシリャが表情が引きつっていく。
 そして、その顔のままアニアを見つめると口を開いた。

「ア、アニアちゃ……さん……」
「セシリャさん!? 一体何を想像してるのですか!?」

 なるほど、セシリャは俺とアニアが完全に清い交際をしていると思っていたのだろう。
 アニアもセシリャはこの手の話題に、触れようとしてこないと言ってたしな。
 何を考えているか分からないが、とりあえずセシリャの中でアニアのランクが上がったようだ。
 でも、その茹でたタコみたいな顔はどうにかしてくれ、ユスティーナが不思議がってるぞ。
 あっ、タコ食べたいな。

「アニアさん……。そ、そんな可愛い顔して……」

 俺の前方で、ユスティーナの蔦に体をグルグル巻きにされて支えられているラーレも慄いていた。
 お前もなのかラーレ……
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