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第九章 戦役
十四話 亜人軍
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一ヶ月と少しで帰ってきたゴブリン集落は、何やら物々しい雰囲気に包まれていた。
集落の至るところから煙が上がり、金属を叩く音が聞こえる。
「ポッポちゃん、この辺で降りようか。ちょっと集落を見たいや」
俺がそうお願いすると、ポッポちゃんは「モクモクじゃないところに降りるのよ!」とクルゥと鳴いて答えてくれた。
ポッポちゃんが選んだ適当な場所にゆっくりと降り立つと、周りにはゴブリン達が集まってきた。
その中で一際大きく、真っ黒な剛毛に身体を包まれたオークの一匹が、俺の前に進み出るとその場で膝を突いた。
「ボーク君、出迎えありがとう。ゴブ太君と話がしたいから、案内してくれるか?」
俺がボーク君の肩に手を掛けながらそう言うと、彼は「大王の仰せのままにッ!」と、仰々しく答えた。
ゴブ太君がゴブリンキングになり、周りが引っ張られるように進化をした。ボーク君もその一匹で、ジェネラルオークから、オークウォーロードになっている。
その所為か、出会った時の寡黙そうな雰囲気を残しつつ、軍人のような感じになっている。
本当に亜人の彼らは、進化をする度に存在が変わっていくんだな。
ボーク君の後ろを付いていくと、その道中で見えたのは、至るところで行われている製鉄作業だ。どうやら、煙の正体はこれらしい。俺の隣をトコトコと付いてくるポッポちゃんも、興味津々のご様子だ。
「あの崖から鉄を取ってきてるのか?」
俺の質問にボーク君は振り返ると、「そうで御座います。我が大王」と、答えてくれる。仰々しすぎるぞ……
ボーク君の態度に、少しむず痒い思いをしながら歩いていると、ゴブ太君の寝床である、この集落で一番大きな建物が見えてきた。
木造二階建てのその建物に通される。以前と変わらず、中にはメスの亜人がいて、何やら家事らしき事をしていた。ホブゴブリン以上の進化をしていると、結構人と同じような生活をしだすんだよな。
ゴブ太君は少し離れた場所にいるらしいので、少し待つ事になった。
ポッポちゃんを胡座をかいた足の中に置いて撫で続ける。首筋あたりに指を突っ込んで掻いてやると、ポッポちゃんは「そ、そこなのよ……主人……」とクルゥ……と悩ましい声を上げている。
余程気持ちが良いのか、目が半開きだ。あまりやり過ぎて癖になっても困るので、この辺で止めておこう……
ポッポちゃんとコミュニケーションを取っていると、結構な速度で二体の反応が近付いてきた。
それはこの建物の前で止まると、一体だけが中に入ってきた。
そして、そのまま俺がいる二階に上ってくると姿を現した。
「ゴルゴーンちゃん、久し振り。ここの生活には馴れた?」
上半身は人族の女性、下半身は大蛇の姿を持つゴルゴーンちゃんは、俺の姿を目にすると、下半身をくねらせながら近付いてくる。
そして、目の前に来ると優雅に頭を下げて、「大王のご帰還お待ちしておりました」と蛇っぽくシャーッと鳴き、長い舌をピョロッと出して笑顔を見せてくれた。
「元気そうで何よりだよ。外にいるのはエレメンタルホーンだよね? ちゃんと扱えているみたいで安心した」
彼女には以前、この集落と敵対した亜人が持っていたアーティファクトを渡していた。
その効果は、一体の魔獣を従える事が出来るという物なのだが、問題なく扱えているようだ。
ゴルゴーンちゃんが「大王様からの贈り物、この森を支配する為に使っています!」とちょっと熱の篭った目で言っている。
会話を続けていると、ゴルゴーンちゃんがモジモジとしだした。一体何事かと心の中でドキドキしていると、「あの大王様っ! お、お近くに行っても!?」と精一杯頑張りましたといった感じで声を出した。
「い、良いんじゃないのかな?」
これは部下とのコミュニケーションみたいなものだろう。そうだろう。そうだ、大丈夫だ。俺の膝にはポッポちゃんがいる。ポッポちゃんがいれば、俺が暴走する事はない。
若干うろたえてしまったが、俺は彼らの大王様だ。表情を変えずに威厳を持って対応する。
ゴルゴーンちゃんが近付いてきた。美人という言葉が本当によく合う顔立ちは、少しキツイ印象を与える。だが、今は笑顔を絶やさないので、可愛らしい。
彼女が俺の目の前まで来ると「失礼します」と言いながら、下半身を俺の後ろに回し始めた。
彼女が俺に害を与える事はない。だが、何が始まるのかと、俺はドキドキだ。しかし、それはおくびにも出さずに、ちょっと真面目なかっこいい表情を作る。
シュルシュルという、ゴルゴーンちゃんの下半身が作り出す音は暫くして止まった。
何をしたんだと後ろを振り向いてみると、ゴルゴーンちゃんはそこでとぐろを巻いていた。
そして、振り向いた俺の顔を見ると、笑顔を見せて俺の両肩に手を置き、「お掛け下さい」と、俺を引き寄せる。
「そういえば、前もこうしてもらったな……」
以前は、ゴブ太君やらが周りにいたからあまり気にならなかったが、改めてやられると、ちょっとドキッとするな。
でも考えたら、これって膝枕みたいなものか。だからセーフ。ゴルゴーンちゃんは人間じゃないしセーフ。それに、ポッポちゃんがいるし!
俺が一人心の中で言い訳を作っていると、ポッポちゃんが「卵なのよ……」とクゥ……と小さな声で鳴いた。最後の防波堤が自分から決壊してんだけど!?
ポッポちゃんはゴルゴーンちゃんを、それなりに気に入っているみたいだ。俺の膝からピョンッと飛ぶと、ゴルゴーンちゃんの下半身に乗り移った。「冷たくていいのよ!」と鳴いている。確かにちょっと冷たくて良い気持ちだな。
ゴルゴーンちゃんの下半身の感触を楽しんでいると、猛スピードで近付いてくる気配を捉えた。
アーティファクトを持つ今ならば、スノアにも勝てそうなアイツが、外で叫んでいる。
正確に言えば、「大王!! 大王!!」と連呼しながら走ってるんだけど……
そんな猛烈アピールに、俺はちょっとだけ暑苦しさを感じたので、ゴルゴーンちゃんの蛇肌で緩和したのだった。
ゴルゴーンちゃんにより掛かる俺の前で、ゴブ太君が頭を垂れた。
ふと、これまでの心の動きを考えてみると、彼らからのこの対応を俺は最早受け入れるつもりなのだと、今更分かってしまった。
「数はどれだけ増えた?」
俺の質問にゴブ太君が「七千ほどに!」と答えた。
「その殆どはゴブリン?」
ゴブ太君は少し申し訳なさそうに「ハッ! 数は増えましたが、進化をするには敵がおりません!」と真面目に答えた。
ゴブ太君は自分が不甲斐ないとでも言いたげな表情をしている。だが、実際この短期間でかなり増やしている。
その内訳を聞いてみれば、森の支配が進みこの集落に引き入れた亜人と、新しく生まれた亜人を合わせた数との事だ。凄まじい増え方だな。元は五千いたはずだけど、一ヶ月と少しで、千五百以上産んでる計算だぞ。
「驚くべき成果だな。ゴブ太君にこの群れを任せて正解だった」
俺がそう言うと、ゴブ太君が泣いた。厳ついゴブリンが泣いている。てか、普段から泣くから珍しくないけど……
「今日来たのは、以前言っていた敵との戦いが始まったからだ。俺のために戦え」
俺は単刀直入に来訪の目的を告げた。
すると、ゴブ太君は目を見開き、厳しい表情で俺を見つめた。
「敵は人間だ。だが、俺の棲家に攻め込んだ敵だ。俺が命じる相手は遠慮なく殺していい」
彼らが俺を呼ぶ、大王らしく言い放つ。
「そういえば、ここの亜人達は殆どが森から出た事はないんだったな。この森を南に抜ければ草原がある。一面緑の草地を見せてやるぞ」
最後に俺がそう言うとゴブ太君は涙を流しながら「おぉ……初めて我らの力を御身のために……おぉ……」と、重低音でギィギィ……と大げさに鳴いた。
本当にゴブ太君はよく泣くな……。ゴルゴーンちゃんもちょっと引いてるじゃねえか。
話を聞いたゴブ太君の動きは迅速だった。
即座に幹部連中を集めると、俺の前で大王からのお言葉だ! みたいな事をやりだす。
まるで、宰相のような立ち位置だが、それにはちょっと武闘派すぎるな。
群れは明日にでも出られるらしい。常に臨戦態勢とか、やはり人とは行動概念みたいな物が違う。
「今回もお土産を持ってきたぞ。受け取ってくれ」
彼らにはまた今度も武器防具を提供する。
鉄を生み出せるようになり、鉄製武具の作成を開始した彼らだが、まだその技術は未熟だし、数も揃っていない。そのために、多くのゴブリンが腰布に棍棒という、雑魚仕様だ。
外に出た俺は、そこでマジックボックスに詰まっている武器防具を取り出した。
それは止まる事なく出続ける。自分でも数の把握が難しいほどのあり、少なくとも二千以上はあるはずだ。目の前に武器防具の山が出来上がり、ゴブ太君ら幹部はそれに見入っていた。
「分配は任す。質は多少の幅があるけど、平均は標準品質なはずだ。量が多いから全部は見られていないんだ」
この武器防具はダンジョン攻略で手に入れたアイテムだ。その殆どは鉄製の武器に、骨の鎧で、マジックアイテムはない。
再生のダンジョンに篭っていた時は、常時スケルトンを倒し続けていたので、ドロップ品が恐ろしい量になっていたんだ。
売ればとにかく量はあるので、それなりの金額になるだろう。
だが、それはそれで面倒だ。俺が直接売る事はないだろうが、それで人を動かすのも馬鹿らしい。
だから、この集落のみんなにあげるのが、俺にとっても彼らにとっても有意義な事だろう。
その他にも、別途でマジックアイテムをばらまいていると、ゴブ太君が耳が痛くなりそうな程の大声を上げた。それは集落全体への命令で「集まれ!」とだけの短い声だった。
俺の探知がこちらに集結する集落のみんなを捉える。ゴブリンキングからの命令だからか、あまり賢いとはいえないゴブリン達だが、整然とした様子だ。
そうして始まった分配式では、ゴルゴーンちゃんの蛇足により掛かる俺に、武器防具を受け取った亜人一匹、一匹に挨拶をさせるという拷問が始まった。
「うん……頑張ってくれな……」
最初は良かった。俺も王様気分で楽しかったからだ。だがそれも、千を超えたら声を掛けるのも面倒になってきた。
まるでアイドルの握手会のようだが、俺には全員に笑顔を振りまく度量はなかったみたいだ。
だが、粋なはからいをしてくれたんだ、それに答えるべきだろう。俺は嬉しそうに武具を手にした亜人達に、気合を振り絞って対応をした。
ちなみに、ポッポちゃんは先程からずっとゴルゴーンちゃんに乗っかり寝ている。気楽でいいな!
分配式も終わり、今日はこの集落に泊まる事になった。というか、もうすっかり日が暮れてしまい、空は真っ暗だ。所々に焚かれた篝火だけが、集落を照らしている。
夕食も終わり明日の出発に向け、今日は早く寝るつもりだった。だが、一つ問題が発生した。
俺は目の前で目を潤ませて、胸元で手を組むゴルゴーンちゃんに向かって言う。
「俺はこの建物の中で寝るから、気にしないでくれ。違うんだ、枕が変わると寝られないんだ」
俺がそう言うと、ゴルゴーンちゃんは申し訳なさそうな表情を浮かべて、俺から離れていった。
こんな対応をしてしまったのだが、それには理由がある。そろそろ寝ようと、寝床があるかとゴブ太君に訪ねてみたら、俺にと用意された建物に案内された。その建物とは、簡単に言えばゴルゴーンちゃん達の寝床だった。
誰の入れ知恵かは分からないが、その場所には人間の形に近い亜人を集めている。そんな場所で一晩を明かしたら、俺の貞操概念なんて物は簡単に吹き飛ぶと直感して逃げてきた。
そんな俺をゴルゴーンちゃんが追っかけてきたので、説明をして戻ってもらったのだが、ちょっと悪い事をしたな。
それにしても、俺って結構身持ち固いよな? ただ単にアニア達に怒られるのが怖いだけだけど!
翌朝になり、準備が整った亜人達の前に立つ。
昨日の一件で、俺の事を知らない者はいないので、みんな緊張感に包まれていた。
俺は整列する彼らに向けて声を上げた。
「それでは、出発するぞ! 途中で現れた敵や魔獣は排除しろ! 俺のような人間が出た時は幹部に任せろ!」
俺の言葉に呼応して、亜人達の蛮声が轟く。最早、彼らに人族である俺を疑う様子はない。
俺を始めて見る新しく生まれた亜人からしても、今まで群れを率いていたゴブ太君を筆頭に、幹部連中が膝を突く相手が目の前にいるんだ。そうならない方がおかしいのか……
改めて考えると複雑な気分だ。結構ノリノリでやっちゃったけど、考えたらこれヤバいかも……
身体がビリビリと振るえるほどの声を受けながら、そんな事を思っていると、「支配は順調なのよ……」とポッポちゃんがクゥゥ……と鳴いた。何、その知的キャラみたいな立ち位置は!
彼らの行軍に合わせるため、俺はゴルゴーンちゃんと共に、エレメンタルホーンに乗る。
前足から頭まで、高さ三メートルはある馬鹿でかい鹿の上は、意外に乗り心地がよい。
瞳は知的だし、角以外は真っ黒くてかっこいい。俺の調教枠が空いていれば、もう一頭捕まえて、俺のペットにしたいほどだ。
そんな事を考えていると、ポッポちゃんが俺にクルゥクルゥと鳴いている。
えっ、何? スノアより弱いから駄目だって? 審査基準が厳しいよ、ポッポちゃん!
集落の至るところから煙が上がり、金属を叩く音が聞こえる。
「ポッポちゃん、この辺で降りようか。ちょっと集落を見たいや」
俺がそうお願いすると、ポッポちゃんは「モクモクじゃないところに降りるのよ!」とクルゥと鳴いて答えてくれた。
ポッポちゃんが選んだ適当な場所にゆっくりと降り立つと、周りにはゴブリン達が集まってきた。
その中で一際大きく、真っ黒な剛毛に身体を包まれたオークの一匹が、俺の前に進み出るとその場で膝を突いた。
「ボーク君、出迎えありがとう。ゴブ太君と話がしたいから、案内してくれるか?」
俺がボーク君の肩に手を掛けながらそう言うと、彼は「大王の仰せのままにッ!」と、仰々しく答えた。
ゴブ太君がゴブリンキングになり、周りが引っ張られるように進化をした。ボーク君もその一匹で、ジェネラルオークから、オークウォーロードになっている。
その所為か、出会った時の寡黙そうな雰囲気を残しつつ、軍人のような感じになっている。
本当に亜人の彼らは、進化をする度に存在が変わっていくんだな。
ボーク君の後ろを付いていくと、その道中で見えたのは、至るところで行われている製鉄作業だ。どうやら、煙の正体はこれらしい。俺の隣をトコトコと付いてくるポッポちゃんも、興味津々のご様子だ。
「あの崖から鉄を取ってきてるのか?」
俺の質問にボーク君は振り返ると、「そうで御座います。我が大王」と、答えてくれる。仰々しすぎるぞ……
ボーク君の態度に、少しむず痒い思いをしながら歩いていると、ゴブ太君の寝床である、この集落で一番大きな建物が見えてきた。
木造二階建てのその建物に通される。以前と変わらず、中にはメスの亜人がいて、何やら家事らしき事をしていた。ホブゴブリン以上の進化をしていると、結構人と同じような生活をしだすんだよな。
ゴブ太君は少し離れた場所にいるらしいので、少し待つ事になった。
ポッポちゃんを胡座をかいた足の中に置いて撫で続ける。首筋あたりに指を突っ込んで掻いてやると、ポッポちゃんは「そ、そこなのよ……主人……」とクルゥ……と悩ましい声を上げている。
余程気持ちが良いのか、目が半開きだ。あまりやり過ぎて癖になっても困るので、この辺で止めておこう……
ポッポちゃんとコミュニケーションを取っていると、結構な速度で二体の反応が近付いてきた。
それはこの建物の前で止まると、一体だけが中に入ってきた。
そして、そのまま俺がいる二階に上ってくると姿を現した。
「ゴルゴーンちゃん、久し振り。ここの生活には馴れた?」
上半身は人族の女性、下半身は大蛇の姿を持つゴルゴーンちゃんは、俺の姿を目にすると、下半身をくねらせながら近付いてくる。
そして、目の前に来ると優雅に頭を下げて、「大王のご帰還お待ちしておりました」と蛇っぽくシャーッと鳴き、長い舌をピョロッと出して笑顔を見せてくれた。
「元気そうで何よりだよ。外にいるのはエレメンタルホーンだよね? ちゃんと扱えているみたいで安心した」
彼女には以前、この集落と敵対した亜人が持っていたアーティファクトを渡していた。
その効果は、一体の魔獣を従える事が出来るという物なのだが、問題なく扱えているようだ。
ゴルゴーンちゃんが「大王様からの贈り物、この森を支配する為に使っています!」とちょっと熱の篭った目で言っている。
会話を続けていると、ゴルゴーンちゃんがモジモジとしだした。一体何事かと心の中でドキドキしていると、「あの大王様っ! お、お近くに行っても!?」と精一杯頑張りましたといった感じで声を出した。
「い、良いんじゃないのかな?」
これは部下とのコミュニケーションみたいなものだろう。そうだろう。そうだ、大丈夫だ。俺の膝にはポッポちゃんがいる。ポッポちゃんがいれば、俺が暴走する事はない。
若干うろたえてしまったが、俺は彼らの大王様だ。表情を変えずに威厳を持って対応する。
ゴルゴーンちゃんが近付いてきた。美人という言葉が本当によく合う顔立ちは、少しキツイ印象を与える。だが、今は笑顔を絶やさないので、可愛らしい。
彼女が俺の目の前まで来ると「失礼します」と言いながら、下半身を俺の後ろに回し始めた。
彼女が俺に害を与える事はない。だが、何が始まるのかと、俺はドキドキだ。しかし、それはおくびにも出さずに、ちょっと真面目なかっこいい表情を作る。
シュルシュルという、ゴルゴーンちゃんの下半身が作り出す音は暫くして止まった。
何をしたんだと後ろを振り向いてみると、ゴルゴーンちゃんはそこでとぐろを巻いていた。
そして、振り向いた俺の顔を見ると、笑顔を見せて俺の両肩に手を置き、「お掛け下さい」と、俺を引き寄せる。
「そういえば、前もこうしてもらったな……」
以前は、ゴブ太君やらが周りにいたからあまり気にならなかったが、改めてやられると、ちょっとドキッとするな。
でも考えたら、これって膝枕みたいなものか。だからセーフ。ゴルゴーンちゃんは人間じゃないしセーフ。それに、ポッポちゃんがいるし!
俺が一人心の中で言い訳を作っていると、ポッポちゃんが「卵なのよ……」とクゥ……と小さな声で鳴いた。最後の防波堤が自分から決壊してんだけど!?
ポッポちゃんはゴルゴーンちゃんを、それなりに気に入っているみたいだ。俺の膝からピョンッと飛ぶと、ゴルゴーンちゃんの下半身に乗り移った。「冷たくていいのよ!」と鳴いている。確かにちょっと冷たくて良い気持ちだな。
ゴルゴーンちゃんの下半身の感触を楽しんでいると、猛スピードで近付いてくる気配を捉えた。
アーティファクトを持つ今ならば、スノアにも勝てそうなアイツが、外で叫んでいる。
正確に言えば、「大王!! 大王!!」と連呼しながら走ってるんだけど……
そんな猛烈アピールに、俺はちょっとだけ暑苦しさを感じたので、ゴルゴーンちゃんの蛇肌で緩和したのだった。
ゴルゴーンちゃんにより掛かる俺の前で、ゴブ太君が頭を垂れた。
ふと、これまでの心の動きを考えてみると、彼らからのこの対応を俺は最早受け入れるつもりなのだと、今更分かってしまった。
「数はどれだけ増えた?」
俺の質問にゴブ太君が「七千ほどに!」と答えた。
「その殆どはゴブリン?」
ゴブ太君は少し申し訳なさそうに「ハッ! 数は増えましたが、進化をするには敵がおりません!」と真面目に答えた。
ゴブ太君は自分が不甲斐ないとでも言いたげな表情をしている。だが、実際この短期間でかなり増やしている。
その内訳を聞いてみれば、森の支配が進みこの集落に引き入れた亜人と、新しく生まれた亜人を合わせた数との事だ。凄まじい増え方だな。元は五千いたはずだけど、一ヶ月と少しで、千五百以上産んでる計算だぞ。
「驚くべき成果だな。ゴブ太君にこの群れを任せて正解だった」
俺がそう言うと、ゴブ太君が泣いた。厳ついゴブリンが泣いている。てか、普段から泣くから珍しくないけど……
「今日来たのは、以前言っていた敵との戦いが始まったからだ。俺のために戦え」
俺は単刀直入に来訪の目的を告げた。
すると、ゴブ太君は目を見開き、厳しい表情で俺を見つめた。
「敵は人間だ。だが、俺の棲家に攻め込んだ敵だ。俺が命じる相手は遠慮なく殺していい」
彼らが俺を呼ぶ、大王らしく言い放つ。
「そういえば、ここの亜人達は殆どが森から出た事はないんだったな。この森を南に抜ければ草原がある。一面緑の草地を見せてやるぞ」
最後に俺がそう言うとゴブ太君は涙を流しながら「おぉ……初めて我らの力を御身のために……おぉ……」と、重低音でギィギィ……と大げさに鳴いた。
本当にゴブ太君はよく泣くな……。ゴルゴーンちゃんもちょっと引いてるじゃねえか。
話を聞いたゴブ太君の動きは迅速だった。
即座に幹部連中を集めると、俺の前で大王からのお言葉だ! みたいな事をやりだす。
まるで、宰相のような立ち位置だが、それにはちょっと武闘派すぎるな。
群れは明日にでも出られるらしい。常に臨戦態勢とか、やはり人とは行動概念みたいな物が違う。
「今回もお土産を持ってきたぞ。受け取ってくれ」
彼らにはまた今度も武器防具を提供する。
鉄を生み出せるようになり、鉄製武具の作成を開始した彼らだが、まだその技術は未熟だし、数も揃っていない。そのために、多くのゴブリンが腰布に棍棒という、雑魚仕様だ。
外に出た俺は、そこでマジックボックスに詰まっている武器防具を取り出した。
それは止まる事なく出続ける。自分でも数の把握が難しいほどのあり、少なくとも二千以上はあるはずだ。目の前に武器防具の山が出来上がり、ゴブ太君ら幹部はそれに見入っていた。
「分配は任す。質は多少の幅があるけど、平均は標準品質なはずだ。量が多いから全部は見られていないんだ」
この武器防具はダンジョン攻略で手に入れたアイテムだ。その殆どは鉄製の武器に、骨の鎧で、マジックアイテムはない。
再生のダンジョンに篭っていた時は、常時スケルトンを倒し続けていたので、ドロップ品が恐ろしい量になっていたんだ。
売ればとにかく量はあるので、それなりの金額になるだろう。
だが、それはそれで面倒だ。俺が直接売る事はないだろうが、それで人を動かすのも馬鹿らしい。
だから、この集落のみんなにあげるのが、俺にとっても彼らにとっても有意義な事だろう。
その他にも、別途でマジックアイテムをばらまいていると、ゴブ太君が耳が痛くなりそうな程の大声を上げた。それは集落全体への命令で「集まれ!」とだけの短い声だった。
俺の探知がこちらに集結する集落のみんなを捉える。ゴブリンキングからの命令だからか、あまり賢いとはいえないゴブリン達だが、整然とした様子だ。
そうして始まった分配式では、ゴルゴーンちゃんの蛇足により掛かる俺に、武器防具を受け取った亜人一匹、一匹に挨拶をさせるという拷問が始まった。
「うん……頑張ってくれな……」
最初は良かった。俺も王様気分で楽しかったからだ。だがそれも、千を超えたら声を掛けるのも面倒になってきた。
まるでアイドルの握手会のようだが、俺には全員に笑顔を振りまく度量はなかったみたいだ。
だが、粋なはからいをしてくれたんだ、それに答えるべきだろう。俺は嬉しそうに武具を手にした亜人達に、気合を振り絞って対応をした。
ちなみに、ポッポちゃんは先程からずっとゴルゴーンちゃんに乗っかり寝ている。気楽でいいな!
分配式も終わり、今日はこの集落に泊まる事になった。というか、もうすっかり日が暮れてしまい、空は真っ暗だ。所々に焚かれた篝火だけが、集落を照らしている。
夕食も終わり明日の出発に向け、今日は早く寝るつもりだった。だが、一つ問題が発生した。
俺は目の前で目を潤ませて、胸元で手を組むゴルゴーンちゃんに向かって言う。
「俺はこの建物の中で寝るから、気にしないでくれ。違うんだ、枕が変わると寝られないんだ」
俺がそう言うと、ゴルゴーンちゃんは申し訳なさそうな表情を浮かべて、俺から離れていった。
こんな対応をしてしまったのだが、それには理由がある。そろそろ寝ようと、寝床があるかとゴブ太君に訪ねてみたら、俺にと用意された建物に案内された。その建物とは、簡単に言えばゴルゴーンちゃん達の寝床だった。
誰の入れ知恵かは分からないが、その場所には人間の形に近い亜人を集めている。そんな場所で一晩を明かしたら、俺の貞操概念なんて物は簡単に吹き飛ぶと直感して逃げてきた。
そんな俺をゴルゴーンちゃんが追っかけてきたので、説明をして戻ってもらったのだが、ちょっと悪い事をしたな。
それにしても、俺って結構身持ち固いよな? ただ単にアニア達に怒られるのが怖いだけだけど!
翌朝になり、準備が整った亜人達の前に立つ。
昨日の一件で、俺の事を知らない者はいないので、みんな緊張感に包まれていた。
俺は整列する彼らに向けて声を上げた。
「それでは、出発するぞ! 途中で現れた敵や魔獣は排除しろ! 俺のような人間が出た時は幹部に任せろ!」
俺の言葉に呼応して、亜人達の蛮声が轟く。最早、彼らに人族である俺を疑う様子はない。
俺を始めて見る新しく生まれた亜人からしても、今まで群れを率いていたゴブ太君を筆頭に、幹部連中が膝を突く相手が目の前にいるんだ。そうならない方がおかしいのか……
改めて考えると複雑な気分だ。結構ノリノリでやっちゃったけど、考えたらこれヤバいかも……
身体がビリビリと振るえるほどの声を受けながら、そんな事を思っていると、「支配は順調なのよ……」とポッポちゃんがクゥゥ……と鳴いた。何、その知的キャラみたいな立ち位置は!
彼らの行軍に合わせるため、俺はゴルゴーンちゃんと共に、エレメンタルホーンに乗る。
前足から頭まで、高さ三メートルはある馬鹿でかい鹿の上は、意外に乗り心地がよい。
瞳は知的だし、角以外は真っ黒くてかっこいい。俺の調教枠が空いていれば、もう一頭捕まえて、俺のペットにしたいほどだ。
そんな事を考えていると、ポッポちゃんが俺にクルゥクルゥと鳴いている。
えっ、何? スノアより弱いから駄目だって? 審査基準が厳しいよ、ポッポちゃん!
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