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第十六章 王として 四
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四
一度手洗いに連れていってから、アッズーロはナーヴェを寝台に寝かせた。敷布も掛布も枕も取り替えられた寝台に、気持ちよさげに収まったナーヴェは、アッズーロを見上げ、真剣な口調で切り出してきた。
「アッズーロ、お願いがあるんだ」
予想は付いていたことだ。アッズーロは先回りして言った。
「われに接続して、大臣会議に参加したいのであろう?」
「うん……」
ナーヴェは、心配そうにアッズーロの顔色を窺う。
「許してくれるかい……?」
アッズーロは溜め息をついた。
「そなたが、その身を犠牲にして得た情報があるのであろう? ならば、否とは言えぬ。だが」
腰に手を当て、アッズーロは妃を見下ろす。
「右肩の治療が危うくなるようであれば、即刻接続を切る。これが参加を許す条件だ」
「うん。ありがとう、アッズーロ」
嬉しげに微笑んだナーヴェは、可愛らしくて、そのまま抱いてしまいたくなる。けれど、右肩が治るまでは、抱くどころか、普通に抱き締めることすら憚られる。
(忌々しい限りだ)
胸中で呟いて、アッズーロは身を屈め、ナーヴェの目元に軽く口付けると、踵を返した。
「フィオーレ、われも着替える。下袴、筒袴、長衣、腰帯、上着、全て替えるゆえ、用意せよ」
「畏まりました」
控えていたフィオーレは、すぐに動いてアッズーロの衣装箱から、命じた衣を取り出し始めた。
(バーゼは、どこまでの情報を掴んでいたんだろう……?)
素早く着替えるアッズーロをぼんやりと眺めながら、ナーヴェは思考する。ナーヴェを三人の男達から救うため、農具倉庫に踏み込んできたバーゼは、テッラ・ロッサ軍について言及していた。
(バーゼは、ぼくがテッラ・ロッサ軍に撃たれたから、アッズーロがテッラ・ロッサ軍を招き入れたはずはないと主張していた。それに対して、ヌーヴォローゾは、双方の軍を疑心暗鬼に陥れる彼らの作戦が機能したからだと反論していた。つまり、反乱を起こしている人達は、アッズーロがテッラ・ロッサ軍をこの国に招き入れたと思っていた訳だ……)
黒幕はエゼルチトだが、まだ証拠固めが済んでいない。ゼーロ達に話しても、なかなか信用は得られないだろう。
(ぼく達自身が信頼されていない状態だから、まずはそこを改善していかないと……)
「ならば行ってくる」
着替え終えたアッズーロが声を掛けてきた。
「うん。きみが会議室に着いた頃に接続するよ」
笑顔で応じて、ナーヴェは一旦アッズーロを見送った。右肩の治療に集中するためには、できるだけ接続する時間を短くしなければならない。
(できれば、会議自体も早く終わらせられるように、努力しよう……)
ナーヴェは、効果的に今回の議事を進めるための演算を行なってから、アッズーロに接続した。
衛兵が開けた扉から、アッズーロが会議室へ入っていくと、中央の卓に着いていた十二人の大臣達が議論をやめて一斉に立ち上がり、頭を下げた。部屋の隅では、バーゼもまた、椅子から立って頭を下げている。そんな彼らの前を通って、アッズーロは、一段高い王座に腰掛けた。直後、大臣達は各々の席に座り直し、アッズーロを見上げる。アッズーロは、その中の一人に視線を向け、命じた。
「これまでの議論のあらましを説明せよ、ヴァッレ」
「仰せのままに」
再び立ち上がって一礼した従姉は、凜とした声で述べていった。
「バーゼの諜報活動により、判明したことから申し上げます。第一に、反乱民の主体はカテーナ・ディ・モンターニェ侯領の者達ですが、ピアット・ディ・マレーア侯領、レ・ゾーネ・ウーミデ侯領、フォレスタ・プルヴィアーレ・カルダ侯領から合流した者達もいると分かりました。第二に、彼らの主張の詳細は、王都の地震及び神殿の焼失、その半月後の流星は、陛下が偽の王の宝を仕立て上げたことに対する神の怒りである、このままでは国が滅ぶゆえ陛下を退位させねばならない、というものだと分かりました。第三に、反乱民は、陛下が彼らを鎮圧するため、テッラ・ロッサ軍を招き入れたと考えていると分かりました。対して、まずは、陛下の権威の象徴たる王の宝ナーヴェ様に、民の前でその本領を発揮して頂くことを、加えて、テッラ・ロッサと連絡を取り合い、軍派遣の意図を質し、新たな協力態勢を築くことを、検討致しておりました」
「――わが妃を、再び奴らに会わせる気はない」
アッズーロは案の一つをきっぱりと却下した。ナーヴェは、心身ともに傷つけられた。反乱民を目にするだけで苦痛なはずだ――。
【ぼくは会うよ、アッズーロ】
「声」とともに、実体ではないナーヴェが、王座の傍らに現れた。
【ぼくのことを心配してくれているんだろうけれど、大丈夫だよ。彼らはみんな、ぼくの子どもみたいなものだから、できるだけのことをしたいんだ。勿論、きみ達のためでもあるしね】
穏やかな眼差しで、宝はアッズーロを見つめてくる。実体ではないその右肩に傷はない。ナーヴェ自身にとっては、右肩の傷は、大したことではないのかもしれない。
(そう言えば、パルーデのことも完全に許しておったな、こやつは)
この宝は、底なしに寛容で、腹立たしいほど慈愛に満ちているのだ。
「――が」
アッズーロは、難しい顔をした大臣達へ、溜め息交じりに告げる。
「妃自身は、会うと言うておる。忌々しいことにな」
「では……?」
立ったままのヴァッレが、代表して訊いてきた。
「引き続き、検討するがよい」
アッズーロは、目の端に嬉しげなナーヴェを見ながら、厳しい表情を作る。
「但し、その手法如何によっては許可せぬゆえ、慎重に審議せよ」
「仰せのままに」
一礼して、ヴァッレは椅子に腰を下ろした。
アッズーロは従姉から、元許嫁候補に視線を転じた。
「テッラ・ロッサとの交渉については、ペルソーネがヴァッレを補佐し、中心となって進めるがよい。ペルソーネ、三度に渡りテッラ・ロッサへ赴いた経験と人脈とを生かせ」
「畏まりました」
ペルソーネは、立ち上がって一礼し、静かに座った。
「ムーロ」
アッズーロは続けて、黒髪に黒い肌の軍務担当大臣を呼ぶ。
「ヴァッレとペルソーネを補佐せよ。軍事面については、そなたが交渉せよ」
「御意のままに」
ムーロも立ち上がって一礼し、椅子に座り直した。
【もう一つ、大臣達に知らせて対応してほしいことがあるんだ】
ナーヴェが、王座の傍らから話し掛けてきた。
「申せ」
小声で促したアッズーロに、ナーヴェは新たな事実を告げてきた。
【羊の病が、レ・ゾーネ・ウーミデ侯領の外へ広がっているらしいんだ。あの人達が反乱を起こした背景には、多かれ少なかれ確実に羊の病がある。どの程度広がっているのか、何故報告が上がってこないのか、調査した上で対応すれば、反乱を鎮める一助になるはずだよ。何より、羊の病が広まってしまえば、ぼく達の国民みんなが困ることになる】
「レ・ゾーネ・ウーミデ侯領で封じ込めたのではなかったのか」
苛立って呟いたアッズーロに、ナーヴェは悲しげに頷いた。
【うん。ぼくも把握できていなかったことだけれど、ぼくに罰を与えた一人がそう言っていたから、確実な話だと、ぼくは推測している】
(パルーデめ、自領で終息したことのみ伝えてきて、後は黙っておったな……!)
顔をしかめたアッズーロは、すぐに畜産担当大臣の顔を見た。
「ゾッコロ、わが妃が掴んだ新たな情報だ。レ・ゾーネ・ウーミデ侯領で流行していた羊の病が、他領にて未だ蔓延しておる疑いがある。反乱が起きた理由の一つとも考えられる。これについて早急に調査し、報告せよ」
「はっ。ただちに」
小柄で小太りの大臣は、慌てて立ち上がって一礼すると、がたんと椅子を鳴らして座った。その様子に、ゾッコロの双子の兄で、農産担当大臣を務めるズッケロが、呆れたように小さく首を横に振る。アッズーロは、その兄にも命じた。
「ズッケロ、農産担当大臣として、ゾッコロを補佐せよ。畜産と農産の両方を営んでおる民も多いゆえな。窮乏の度合いを中心に調査するがよい」
「畏まりました」
兄のほうは、弟とそっくりな容貌ながら、落ち着いた動きで立ち上がり、一礼して座った。
「しかし、羊の病とは……」
財務担当大臣モッルスコが眉間に皺を刻んで発言する。
「何故、今まで蔓延の報告が上がってこなかったのか、それも調査する必要がありますな」
「それよりもまず!」
道路担当大臣カッメーロも声を張り上げて発言する。
「これ以上の蔓延を防ぐため、道路を封鎖する必要がありましょう!」
「そうだな」
アッズーロは鷹揚に頷いた。傍らで、ナーヴェも満足そうな顔をしている。
「われが特に命じた者達以外は、各々の担当において、羊の病に対処する案をまとめよ。明日、改めて臨時会議を開き、検討する。本日は、これまでだ」
「「仰せのままに」」
大臣達は立ち上がり、頭を下げる。バーゼもそれに倣っている。王座から立ち上がったアッズーロは、彼らの前を再び通って扉へ向かう途中で、バーゼに命じた。
「バーゼ、後でわが執務室へ参れ」
「仰せのままに」
頭を下げたまま応じたバーゼの返事を耳に拾って、アッズーロは会議室を後にした。
【大臣達は、みんな優秀で、この国をよくしようという意欲に満ち溢れていて、素晴らしいね】
実体ではないナーヴェが、視界の隅に浮遊してついて来ながら、感心したように言う。
【お陰で、ぼくは情報提供するだけで、口を挟まずに済んだよ】
回廊に差し込む夕日に透けた美しい姿は、ひどく儚く、やはり幽霊のようだ。
「われはすぐに行くゆえ、肉体に接続して治療に専念するがよい」
アッズーロは、話には付き合わずに命じた。
【うん、そうするよ】
ナーヴェは、すまなそうに微笑む。
【きみは、ぼくのために、会議を短く切り上げてくれたんだね。ごめん】
謝罪を残して消えたナーヴェを追い掛けるように、アッズーロは急ぎ足で寝室へ戻った。
一度手洗いに連れていってから、アッズーロはナーヴェを寝台に寝かせた。敷布も掛布も枕も取り替えられた寝台に、気持ちよさげに収まったナーヴェは、アッズーロを見上げ、真剣な口調で切り出してきた。
「アッズーロ、お願いがあるんだ」
予想は付いていたことだ。アッズーロは先回りして言った。
「われに接続して、大臣会議に参加したいのであろう?」
「うん……」
ナーヴェは、心配そうにアッズーロの顔色を窺う。
「許してくれるかい……?」
アッズーロは溜め息をついた。
「そなたが、その身を犠牲にして得た情報があるのであろう? ならば、否とは言えぬ。だが」
腰に手を当て、アッズーロは妃を見下ろす。
「右肩の治療が危うくなるようであれば、即刻接続を切る。これが参加を許す条件だ」
「うん。ありがとう、アッズーロ」
嬉しげに微笑んだナーヴェは、可愛らしくて、そのまま抱いてしまいたくなる。けれど、右肩が治るまでは、抱くどころか、普通に抱き締めることすら憚られる。
(忌々しい限りだ)
胸中で呟いて、アッズーロは身を屈め、ナーヴェの目元に軽く口付けると、踵を返した。
「フィオーレ、われも着替える。下袴、筒袴、長衣、腰帯、上着、全て替えるゆえ、用意せよ」
「畏まりました」
控えていたフィオーレは、すぐに動いてアッズーロの衣装箱から、命じた衣を取り出し始めた。
(バーゼは、どこまでの情報を掴んでいたんだろう……?)
素早く着替えるアッズーロをぼんやりと眺めながら、ナーヴェは思考する。ナーヴェを三人の男達から救うため、農具倉庫に踏み込んできたバーゼは、テッラ・ロッサ軍について言及していた。
(バーゼは、ぼくがテッラ・ロッサ軍に撃たれたから、アッズーロがテッラ・ロッサ軍を招き入れたはずはないと主張していた。それに対して、ヌーヴォローゾは、双方の軍を疑心暗鬼に陥れる彼らの作戦が機能したからだと反論していた。つまり、反乱を起こしている人達は、アッズーロがテッラ・ロッサ軍をこの国に招き入れたと思っていた訳だ……)
黒幕はエゼルチトだが、まだ証拠固めが済んでいない。ゼーロ達に話しても、なかなか信用は得られないだろう。
(ぼく達自身が信頼されていない状態だから、まずはそこを改善していかないと……)
「ならば行ってくる」
着替え終えたアッズーロが声を掛けてきた。
「うん。きみが会議室に着いた頃に接続するよ」
笑顔で応じて、ナーヴェは一旦アッズーロを見送った。右肩の治療に集中するためには、できるだけ接続する時間を短くしなければならない。
(できれば、会議自体も早く終わらせられるように、努力しよう……)
ナーヴェは、効果的に今回の議事を進めるための演算を行なってから、アッズーロに接続した。
衛兵が開けた扉から、アッズーロが会議室へ入っていくと、中央の卓に着いていた十二人の大臣達が議論をやめて一斉に立ち上がり、頭を下げた。部屋の隅では、バーゼもまた、椅子から立って頭を下げている。そんな彼らの前を通って、アッズーロは、一段高い王座に腰掛けた。直後、大臣達は各々の席に座り直し、アッズーロを見上げる。アッズーロは、その中の一人に視線を向け、命じた。
「これまでの議論のあらましを説明せよ、ヴァッレ」
「仰せのままに」
再び立ち上がって一礼した従姉は、凜とした声で述べていった。
「バーゼの諜報活動により、判明したことから申し上げます。第一に、反乱民の主体はカテーナ・ディ・モンターニェ侯領の者達ですが、ピアット・ディ・マレーア侯領、レ・ゾーネ・ウーミデ侯領、フォレスタ・プルヴィアーレ・カルダ侯領から合流した者達もいると分かりました。第二に、彼らの主張の詳細は、王都の地震及び神殿の焼失、その半月後の流星は、陛下が偽の王の宝を仕立て上げたことに対する神の怒りである、このままでは国が滅ぶゆえ陛下を退位させねばならない、というものだと分かりました。第三に、反乱民は、陛下が彼らを鎮圧するため、テッラ・ロッサ軍を招き入れたと考えていると分かりました。対して、まずは、陛下の権威の象徴たる王の宝ナーヴェ様に、民の前でその本領を発揮して頂くことを、加えて、テッラ・ロッサと連絡を取り合い、軍派遣の意図を質し、新たな協力態勢を築くことを、検討致しておりました」
「――わが妃を、再び奴らに会わせる気はない」
アッズーロは案の一つをきっぱりと却下した。ナーヴェは、心身ともに傷つけられた。反乱民を目にするだけで苦痛なはずだ――。
【ぼくは会うよ、アッズーロ】
「声」とともに、実体ではないナーヴェが、王座の傍らに現れた。
【ぼくのことを心配してくれているんだろうけれど、大丈夫だよ。彼らはみんな、ぼくの子どもみたいなものだから、できるだけのことをしたいんだ。勿論、きみ達のためでもあるしね】
穏やかな眼差しで、宝はアッズーロを見つめてくる。実体ではないその右肩に傷はない。ナーヴェ自身にとっては、右肩の傷は、大したことではないのかもしれない。
(そう言えば、パルーデのことも完全に許しておったな、こやつは)
この宝は、底なしに寛容で、腹立たしいほど慈愛に満ちているのだ。
「――が」
アッズーロは、難しい顔をした大臣達へ、溜め息交じりに告げる。
「妃自身は、会うと言うておる。忌々しいことにな」
「では……?」
立ったままのヴァッレが、代表して訊いてきた。
「引き続き、検討するがよい」
アッズーロは、目の端に嬉しげなナーヴェを見ながら、厳しい表情を作る。
「但し、その手法如何によっては許可せぬゆえ、慎重に審議せよ」
「仰せのままに」
一礼して、ヴァッレは椅子に腰を下ろした。
アッズーロは従姉から、元許嫁候補に視線を転じた。
「テッラ・ロッサとの交渉については、ペルソーネがヴァッレを補佐し、中心となって進めるがよい。ペルソーネ、三度に渡りテッラ・ロッサへ赴いた経験と人脈とを生かせ」
「畏まりました」
ペルソーネは、立ち上がって一礼し、静かに座った。
「ムーロ」
アッズーロは続けて、黒髪に黒い肌の軍務担当大臣を呼ぶ。
「ヴァッレとペルソーネを補佐せよ。軍事面については、そなたが交渉せよ」
「御意のままに」
ムーロも立ち上がって一礼し、椅子に座り直した。
【もう一つ、大臣達に知らせて対応してほしいことがあるんだ】
ナーヴェが、王座の傍らから話し掛けてきた。
「申せ」
小声で促したアッズーロに、ナーヴェは新たな事実を告げてきた。
【羊の病が、レ・ゾーネ・ウーミデ侯領の外へ広がっているらしいんだ。あの人達が反乱を起こした背景には、多かれ少なかれ確実に羊の病がある。どの程度広がっているのか、何故報告が上がってこないのか、調査した上で対応すれば、反乱を鎮める一助になるはずだよ。何より、羊の病が広まってしまえば、ぼく達の国民みんなが困ることになる】
「レ・ゾーネ・ウーミデ侯領で封じ込めたのではなかったのか」
苛立って呟いたアッズーロに、ナーヴェは悲しげに頷いた。
【うん。ぼくも把握できていなかったことだけれど、ぼくに罰を与えた一人がそう言っていたから、確実な話だと、ぼくは推測している】
(パルーデめ、自領で終息したことのみ伝えてきて、後は黙っておったな……!)
顔をしかめたアッズーロは、すぐに畜産担当大臣の顔を見た。
「ゾッコロ、わが妃が掴んだ新たな情報だ。レ・ゾーネ・ウーミデ侯領で流行していた羊の病が、他領にて未だ蔓延しておる疑いがある。反乱が起きた理由の一つとも考えられる。これについて早急に調査し、報告せよ」
「はっ。ただちに」
小柄で小太りの大臣は、慌てて立ち上がって一礼すると、がたんと椅子を鳴らして座った。その様子に、ゾッコロの双子の兄で、農産担当大臣を務めるズッケロが、呆れたように小さく首を横に振る。アッズーロは、その兄にも命じた。
「ズッケロ、農産担当大臣として、ゾッコロを補佐せよ。畜産と農産の両方を営んでおる民も多いゆえな。窮乏の度合いを中心に調査するがよい」
「畏まりました」
兄のほうは、弟とそっくりな容貌ながら、落ち着いた動きで立ち上がり、一礼して座った。
「しかし、羊の病とは……」
財務担当大臣モッルスコが眉間に皺を刻んで発言する。
「何故、今まで蔓延の報告が上がってこなかったのか、それも調査する必要がありますな」
「それよりもまず!」
道路担当大臣カッメーロも声を張り上げて発言する。
「これ以上の蔓延を防ぐため、道路を封鎖する必要がありましょう!」
「そうだな」
アッズーロは鷹揚に頷いた。傍らで、ナーヴェも満足そうな顔をしている。
「われが特に命じた者達以外は、各々の担当において、羊の病に対処する案をまとめよ。明日、改めて臨時会議を開き、検討する。本日は、これまでだ」
「「仰せのままに」」
大臣達は立ち上がり、頭を下げる。バーゼもそれに倣っている。王座から立ち上がったアッズーロは、彼らの前を再び通って扉へ向かう途中で、バーゼに命じた。
「バーゼ、後でわが執務室へ参れ」
「仰せのままに」
頭を下げたまま応じたバーゼの返事を耳に拾って、アッズーロは会議室を後にした。
【大臣達は、みんな優秀で、この国をよくしようという意欲に満ち溢れていて、素晴らしいね】
実体ではないナーヴェが、視界の隅に浮遊してついて来ながら、感心したように言う。
【お陰で、ぼくは情報提供するだけで、口を挟まずに済んだよ】
回廊に差し込む夕日に透けた美しい姿は、ひどく儚く、やはり幽霊のようだ。
「われはすぐに行くゆえ、肉体に接続して治療に専念するがよい」
アッズーロは、話には付き合わずに命じた。
【うん、そうするよ】
ナーヴェは、すまなそうに微笑む。
【きみは、ぼくのために、会議を短く切り上げてくれたんだね。ごめん】
謝罪を残して消えたナーヴェを追い掛けるように、アッズーロは急ぎ足で寝室へ戻った。
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