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第06章 伝説の剣
第19話 (閑話)赤と緑のコンビ
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「マイア殿、いつもと同じでよいかの?」
「ええ、それで行きましょう」
クラマに声を掛けられたマイアは即座に答えた。
二人はエルダードワーフに頼まれた酒が湧くという泉の調査&解決に向け、里を出た所だった。
場所は聞いている。ゆっくり歩いても三〇分と掛からないはずだ。
そこでクラマがいつも通りでと提案したのだが、マイアにも異存は無くクラマの提案を了承したのだった。
『いつも通り』。これは『勝手にそれぞれでやろう』という意味で、協力をする気は一切無い二人だった。
仲が悪いわけでは無いのだが、個でも十分解決できる力を持っている二人だから別行動でも問題は無い。寧ろ共同で行動する方がお互いが邪魔になって上手くいかない可能性の方が高い。
得意分野が違うという事もあるが、基本どっちも我が侭というか、人の話を聞かないなのだから。
里から少し離れると、クラマは九本の尻尾を生やした大きな狐の姿になった。
九尾狐のクラマ本来の姿に戻ったのだ。
九尾狐のクラマは本来の姿に戻ると、泉に向け疾駆した。
その様は、忍者もビックリなほど、目の前から消え去ったようにしか見えない速さでクラマは泉に向かって走った。
だが、この速さでもマイアには及ばないだろう事をクラマは知っていたからこその全速での移動だった。
クラマが出発したのを見届けたマイアは、余裕の表情で目的地の方に目をやると、その姿がどんどんと薄くなっていく。
やがてマイアの姿は見えなくなり、マイアは森と同化した。
『湧酒泉』に向かった二人だが、目的は湧水量ならぬ湧酒量が激減した原因の調査及び、問題の解決ができれば解決まで。
その為に、まずは『湧酒泉』に向かわないといけないのだが、『湧酒泉』周辺には行ったものの、『湧酒泉』自体に辿り着いたのは少し後になってからだった。
二人共、直接向かわずに、それぞれの得意分野で情報収集をしていたようだ。
このあたりは、さすが元ボスという所なのだろう。
クラマは森の魔物や動物に、マイアは森の樹々や妖精に聞いて回った結果、マイアが一足先に『湧酒泉』の前に立っていた。
森の中での情報収集能力では”森の精霊”であるマイアには誰も敵わないだろう。
そうして『湧酒泉』の前に先着したマイアが泉の前で独りごちる。
「原因は分かりました。排除も何とかなるでしょう。問題はどうやって行くか…ですね」
腰を屈め泉の水をひと救いしたマイア。
「おや? 意外と美味しいですね。エイジのイモショウチュウには及ばないまでも、まぁまぁいけますね」
芋派のマイアが泉の酒に合格点を出した。芋焼酎を飲む前だったら絶賛だったかもしれない。
「ただ、情報通り水位が相当下がっていますね」
泉を見るマイアが言う通り、泉の水位は半分よりも下がっていた。
歪な丸型の泉で、広い所でニ○メートル程度、狭い所でも一○メートル程度。ひょうたん型ではないが、歪な丸型で、周囲を岩で囲まれた泉だった。
その泉の中央に、少し水の盛り上がりがあるので、底から湧いた酒が水面を押し上げているのだろう。
ただ、その盛り上がりは小さく、湧酒も少量である事を示していた。
「これは湧いているのではなく巡回しているだけですね。この状態で酌めば減る一方でしょう。ふむ、これは本当に困りました。土はそれ程苦手では無いのですが、岩は少々苦手なのです。ここはクラマさんが来るまで飲みながら待ちましょうか」
そう言うマイアは収納からコップを出し、泉の酒を酌みその場に腰を下ろした。
クラマを待つ事一時間。
マイアの前にようやくクラマが姿を現した。
「……マイア殿……中々のご機嫌ぶりじゃな…」
「そんなこと無いわよ~。クラマさんもどう~? 意外といけるわよ~? うふふ」
クラマを待つ事一時間。マイアはかなり出来上がっていた。
「しかし、マイア殿が酔うのを初めて見たのじゃ。そんなに強烈な酒なのかえ?」
何度か一緒に飲んでいるクラマが不思議がるほどの酔っ払いっぷりに、そんな一言が零れた。
「さっすがにね~、この泉を全部飲み干そうとしたんだけど、結構キツイわよね~。あなたも調べて来たんでしょ? この泉の底に何かいるって~。あはは」
「それはそうじゃが、なにも飲んでしまう事もないと思うのぅ……」
「だった勿体無いじゃない? エイジのお酒には及ばないけど結構いけるのよ~。えへ」
初めて見るマイアの酔いっぷりに困惑気味のクラマ。
「どれ程飲めば、マイア殿がここまで酔うのじゃろうか……」
「初めはここまであったのよ~、えへへ~」
そんなクラマの呟きにも陽気に答える、笑い上戸(弱)のマイアだった。
クラマは、マイアの指し示した水位を見て呆気に取られて溜息をついた。
マイアが差した水位は、泉を囲っている岩の上からニメートルぐらい。現在の泉の状況は少し底面も見えるぐらいになっていて、マイアが一メートル分の酒を飲んだ事を物語っていた。
「……飲みすぎなのじゃ。妾でもそれほど飲めぬわ」
大雑把に見ても直径一○メートル以上ある泉だ。少なく見積もってもニ五○○○リットル。一升瓶一四○○○本弱。しかもそれを一時間程度でだ。常人だと死んでいたかもしれない。
それを『うふふ』や『えへへ』で済ませるマイア。さすが森の精霊…というのは全く関係ないか。
「でも、もうちょっとあるでしょ? あとは任せたわね~。むにゃむにゃ」
それだけを言い残し、夢の中へと旅立って行ったマイアであった。
「…ふむ、困ったもんじゃが、マイア殿の意外な一面も見れたので良かったかものぅ。エイジによい土産話ができたのじゃ」
くっくっくっと一人ほくそ笑むクラマだったが、何も解決できたわけでは無い。むしろこれからが勝負なのだ。
原因は判明している。森に住まう魔物・魔獣・動物に情報を集めさせたところ、マイアが言った通り、泉の底に何かが棲んでいるようだという事が分かった。
その何者かが源泉から湧き出る酒の邪魔をしていて、湧酒量が減っている原因となっているのではないかというのだ。(BY熊みたいな魔物談)
クラマが優しく問い掛けて快く教えてくれたようだ。体長三メートルオーバーの九本の尻尾を生やした凶悪そうな狐に、青白い炎を出されながらの問いに解答を拒むものは、この森にはいなかったようだ。
「この泉の底にのぅ……もう踝ほどの深さしか無いが、何も見えぬのぅ」
泉の底を見ながら一人ごちるクラマ。
さっきのマイア同様に、収納からコップを出し、泉の酒を飲んでみる。
「ほほぉ~、確かにこれは美味いのじゃ。いくらでも飲めそうじゃの」
酒をコップで飲むために人型になっているクラマも泉の酒を絶賛した。が、すぐにダメ出しも入った。
「しかし、エイジのぶらんで~には及ばんがの。なんでじゃろ、ぶらんで~には氷が入ってたからかの? 氷のぅ……氷は苦手じゃ。いつもの手で行くかの」
クラマは髪の毛を一本抜いた。するとその一本の髪の毛が狐の毛の束に変化した。
その狐の毛の束にフッと息を吹いて吹き飛ばすと、一旦飛び散った毛が一箇所に集まりだし、ボンっと煙をあげた。煙が治まると中から小さな女の子が現れた。
見た目はクラマをギューっと圧縮して縮めた感じで、ミニクラマと言っても問題ない容姿をした女の子だった。
クラマの1/3ぐらいの女の子、服装もクラマ同様に巫女のような和装をしている。
違う点といえば、服も髪も青色をしている点だった。
「六本じゃとこの程度かのぅ。今回の仕事を考えると十分じゃな。よし、この泉を少し凍らせるのじゃ」
「あいあい~!」
クラマの命令に元気よく答える青色のミニクラマ。
その真剣な表情と相まって非常に愛らしい。ステンと転んだりなんかしてしまうと萌え死者が続出しそうだ。
「やー!」
両手を前に突き出し、その容姿に似合う可愛らしい声で掛け声を出すと、水深にして五センチ程度の泉の酒がピキピキと徐々に凍り始める。
泉全体の表面が凍ると力を出し切ったのか、ミニクラマは四つん這いになりハァハァと息を荒げていた。
アルコールというのは水に比べて凍りにくい。それを表面だけとはいえ泉全体を凍らせたミニクラマの能力は、その小ささに比べ非常に高い事を証明していた。
「ま、こんなもんじゃのぅ。ご苦労」
クラマがねぎらいの言葉を掛けると、息を荒げ汗だくのミニクラマはニコっと笑い、ボフンっと煙に包まれた。煙が晴れると、もうミニクラマの姿は見えなかった。
クラマは改めて泉の前に立つと、消えたミニクラマなど元々いなかったかのような無関心さで泉を見つめる。
表面は確かに凍ってるが、泉の底が綺麗に見える。水深が浅いとはいえ、氷が薄い証拠である。厚い氷だと白くなって底が見えにくくなるはずだから。
そのあたりはクラマも分かっていて、酒全部が凍ってない事で満足気に肯いている。
「やはり、六本でちょうどよかったようじゃ」
クラマは薙刀を出すと石鎚で泉の表面の氷をつついた。
試飲の為の氷作成ならコップ一杯程度でいいのだ。そうすればミニクラマもあれ程消耗する事は無かったのだが、クラマはミニクラマに池の表面全部を凍らせろと命じた。
その理由が次の行動で明かされた。
「次は風かの」
そう言って今度は髪の毛を三本抜いた。今度もさっきと同様に髪の毛は狐の毛の変わった。今度はニ○本程度の毛の束を手に持っていた。
クラマがフッと息を掛け吹き飛ばすと、またボンッ! と煙が立ち上がり、再びミニクラマが現れた。
今度現れたミニクラマはさっきのミニクラマより二周りぐらい大きく、クラマの半分程度の大きさがあった。しかも、空色をしていた。
その空色ミニクラマに、クラマが命令を下した。
「掻き混ぜるのじゃ」
「あいあい~!」
今度の空色ミニクラマも可愛らしい声で返事をすると、「やー!」と気合を発した。
すると、一○の旋風が発生し、水面に張った氷を砕き、酒を巻き上げながら泉を縦横無尽に吹き荒らす。
青いミニクラマは水・氷系で、空色ミニクラマは風系の魔法を操れる分身だったのだ。
しかし、そう大きくない泉に一○の旋風は少々多かった。三つの旋風が酒を巻き上げたまま、制御が効かずに飛んでいってしまった。残った旋風もぶつかり合って消滅したものもあり、術を解いた最後まで残っていたのは一つだけだった。
「ふむ、ニ○本はちと多過ぎたかの。もうよいぞ、ご苦労じゃった」
クラマのねぎらいを聞いた空色ミニクラマは「はひ~」と返事とも溜息とも付かない言葉を残すとボフンっと煙に包まれ消え去った。
泉の酒は、クラマの思惑通り、氷で掻き混ぜられた状態となり、ロックとして飲むには程よい冷たさに仕上がった。
クラマは残りの酒を、コップは使うがある技を使い、一気に飲んでやろうとしていたのだ。
これは先程のマイアも同じく、コップでちびちびとは飲んでない。
ニ五○○○リットルの酒をコップで飲んでれば一時間程度の時間で飲めるはずが無い。マイアも直に池の酒を飲んでたのだ。風魔法で波立たせ、更に酒を巻き上げて自分の口に直接来るように調節しながら一滴も零さずニ五〇〇〇リットルを飲んでいたのだ。どう考えても体積が合わないのは明らかなのだが、それでもマイアの中にニ五〇〇〇リットルの酒が納まったのだ。
魔法の無駄使いな気はするが、自分に役立つように使うのは正解ではないだろうか。
ただ、今回は酒量を減らす目的だったとはいえ、そんなウワバミどころか人間業ではない(人間では無いのだが)飲み方で味も分かるのか甚だ疑問である。
「では、行こうかの」
クラマは軽い口調で泉へと飛び降りた。
先程のミニクラマの旋風で幾分減った水深は、すでに五センチも無かった。
パチャっとクラマが飛び降りた泉の底は、全て岩だったが、クラマが飛び降りた衝撃で底に岩に亀裂が入った。
クラマが重かったわけではない。亀裂が入ったのには理由があった。
その理由はクラマにも分かっていたが、まさか亀裂が入るほどとは思わず、慌てて再ジャンプを試みた。
が、しかし、クラマの再ジャンプは間に合わなかった。
ガラゴラガラゴーン
と、大音響と共に崩れだす泉の底。底に残っていた酒や岩と共に落ちていくクラマ。泉の畔で全く気付かず夢の中のマイア。
クラマは落下の衝撃に備え、空間把握をし、足から着地できるように身体の向きを整えた。
ボッシャ―――ン!
クラマの予想した着地はやって来なかった。一○メートルほど落ちて来た泉の底の更に底には、また泉が存在していたのだ。地底湖だった。
上にあった泉の二倍ほどの地下空間に水深二メートル以上の酒の泉が存在していた。水深二メートル以上というのは、クラマが二メートルほど沈んだが、それ以上は確認できなかったため二メートル以上としか判断できなかった。恐らく、もっともっと深いと思われるが、今は目の前に対峙したものの対応のためそれどころではなかった。
「やはりのぅ、そうじゃと思っておったが…酒好きな蟒蛇の中でも一番凶暴な三つ首大蛇じゃったとは、ちと予想外じゃの」
まぁ、こいつは話が通じぬし、倒してしまう事は変わらんのじゃがの。と、普段と変わらぬ軽い口調のクラマ。
この足場の無い水中、もとい酒中でクラマは戦う事ができるのだろうか。
自分でも言ってたように、相手は凶暴な三つ首大蛇。体長五メートルはゆうに五メートルは超える大蛇である。そんな大蛇を相手に、足場も確保できない不利な環境であるにも関わらず余裕の表情を見せるクラマ。
「なんじゃ、上の泉の酒よりこっちの酒の方が美味いではないか」と呟くクラマ。
今はそれ所ではないと思うのだが、三つ首大蛇が迫ってきても慌てないクラマ。
ふむ、と考えが纏まり髪の毛を三本抜いた。
一本でミニクラマ。二本で少し大きいミニクラマ。三本と来たら自分の大きさぐらいかと思いきや、初めと同じ大きさのミニクラマが三人現れた。青いのと空色のと赤いミニクラマだった。
もちろん酒の地底湖の中に浸かった状態で。
「よし、行くのじゃ!」
「「「あいあい~! ヒック!」」」
掛け声と共にクラマがミニクラマを三つ首大蛇に向けて投げ捨てた。なぜか、逆の手にはコップを持っているクラマだった。
顔を浸ければ飲み放題なのに、クラマは人型の時にはコップで飲むというポリシーを持っていたのだ。
エイジがいれば無意味だとツッコむ所だが、ポリシーというのはそういうものだから一方的にクラマを責められるものでもない。
そんなクラマに放り投げられたミニクラマ達は、無防備状態で三つ首大蛇に向かって行った。
いきなりの先制攻撃に、すぐ様迎撃体制に入る三つ首大蛇。
三つ首大蛇の攻撃方法は大きく分けて三つ。
ブレスか尾を振り回すか噛み付くか。
今回はいきなりの先制攻撃だったので噛み付くを選択した三つ首大蛇だった。
だが、その選択は悪手だった。クラマの思惑通りに事が運んでしまった。
大きく口を開いた三つの大蛇の口に簡単に飲み込まれてしまったミニクラマ達。
その数秒後、三つ首大蛇の首は、胴の継ぎ目部分から落とされてしまった。ミニクラマ達が三つ首大蛇の体内で仕事をしたのだ。
一つの首は鋭利な刃物で切り落とされたように落ち、もう一つは大きく膨らみ破裂して頭部分が地底湖に落ちて行った。三つ目は、ドゴーン! という破裂音を残し、爆散してしまった。かろうじて頭部分だけが確認できる程の爆発だった。
風・水・火の属性ミニクラマが三つ首大蛇の体内で大魔法を炸裂させたのだ。
後は残された胴体部分だけ。
「ハッ!」っと気合を発すると、クラマは水面より飛び上がり、華麗に水面に着地した。
そのままゆっくりと水面を歩き出すクラマ。
水面に残された胴体部分に到着すると、三人のミニクラマが出迎えた。
「なんじゃ?」
クラマが向けた視線の先には、お約束通りアフロになったミニクラマがいた。赤いミニクラマだ。顔も煤だらけになっている。
『次からは火は辞めておくかのぅ』などと考えながら「ご苦労じゃった」と労いの言葉をかけ三人のミニクラマはボフンと煙を残し消えて行った。
「さて、仕上げじゃの。このままじゃと此奴は再生しよるでの」
スタっと残された三つ首大蛇の胴に飛び上がると、クラマは薙刀を出し、一刀のもとに三つ首大蛇の胴を縦割りに真っ二つにした。
「やはり飲み込んでおったか」
そう言うクラマの視線の先には五○センチ大の綺麗なクリスタルがあった。クラマはクリスタルを拾い上げ、ついでに隣に並んでいた魔石も回収した。
「これを残すといくらでも再生しよるでのぅ」
三つ首大蛇から開放されたクリスタルは、胃液か何かの影響でくすんでいたが、クラマに地底湖の酒で洗われるとその輝きを取り戻し、勢い良く酒を放出し始めた。
「うおっぷ!」
いきなり勢い良く放出された酒にクラマが吹き飛ばされた。クリスタルから放出された酒は四方八方に撒き散らかされ、水位もどんどん上昇して行く。
四方八方に放出されるから、酒も濁流のごとく何もかもが巻き込まれて行く。
初めに弾き飛ばされたクラマも例外では無く、その濁流に飲み込まれてしまった。大荒れに荒れる酒の濁流。
初めはそうであっただろう水位まで上がると、ピタリと水位の上昇が収まった。
泉の中央では、初めにマイアが見た小さな水の盛り上がりも、今は噴水のように一メートルは湧き上がっていた。
それから五分。泉の中央にプッカ~と浮かび上がって来た影があった。クラマである。
「ウィック! も、もう飲めぬ…ウィック!」
「ええ、それで行きましょう」
クラマに声を掛けられたマイアは即座に答えた。
二人はエルダードワーフに頼まれた酒が湧くという泉の調査&解決に向け、里を出た所だった。
場所は聞いている。ゆっくり歩いても三〇分と掛からないはずだ。
そこでクラマがいつも通りでと提案したのだが、マイアにも異存は無くクラマの提案を了承したのだった。
『いつも通り』。これは『勝手にそれぞれでやろう』という意味で、協力をする気は一切無い二人だった。
仲が悪いわけでは無いのだが、個でも十分解決できる力を持っている二人だから別行動でも問題は無い。寧ろ共同で行動する方がお互いが邪魔になって上手くいかない可能性の方が高い。
得意分野が違うという事もあるが、基本どっちも我が侭というか、人の話を聞かないなのだから。
里から少し離れると、クラマは九本の尻尾を生やした大きな狐の姿になった。
九尾狐のクラマ本来の姿に戻ったのだ。
九尾狐のクラマは本来の姿に戻ると、泉に向け疾駆した。
その様は、忍者もビックリなほど、目の前から消え去ったようにしか見えない速さでクラマは泉に向かって走った。
だが、この速さでもマイアには及ばないだろう事をクラマは知っていたからこその全速での移動だった。
クラマが出発したのを見届けたマイアは、余裕の表情で目的地の方に目をやると、その姿がどんどんと薄くなっていく。
やがてマイアの姿は見えなくなり、マイアは森と同化した。
『湧酒泉』に向かった二人だが、目的は湧水量ならぬ湧酒量が激減した原因の調査及び、問題の解決ができれば解決まで。
その為に、まずは『湧酒泉』に向かわないといけないのだが、『湧酒泉』周辺には行ったものの、『湧酒泉』自体に辿り着いたのは少し後になってからだった。
二人共、直接向かわずに、それぞれの得意分野で情報収集をしていたようだ。
このあたりは、さすが元ボスという所なのだろう。
クラマは森の魔物や動物に、マイアは森の樹々や妖精に聞いて回った結果、マイアが一足先に『湧酒泉』の前に立っていた。
森の中での情報収集能力では”森の精霊”であるマイアには誰も敵わないだろう。
そうして『湧酒泉』の前に先着したマイアが泉の前で独りごちる。
「原因は分かりました。排除も何とかなるでしょう。問題はどうやって行くか…ですね」
腰を屈め泉の水をひと救いしたマイア。
「おや? 意外と美味しいですね。エイジのイモショウチュウには及ばないまでも、まぁまぁいけますね」
芋派のマイアが泉の酒に合格点を出した。芋焼酎を飲む前だったら絶賛だったかもしれない。
「ただ、情報通り水位が相当下がっていますね」
泉を見るマイアが言う通り、泉の水位は半分よりも下がっていた。
歪な丸型の泉で、広い所でニ○メートル程度、狭い所でも一○メートル程度。ひょうたん型ではないが、歪な丸型で、周囲を岩で囲まれた泉だった。
その泉の中央に、少し水の盛り上がりがあるので、底から湧いた酒が水面を押し上げているのだろう。
ただ、その盛り上がりは小さく、湧酒も少量である事を示していた。
「これは湧いているのではなく巡回しているだけですね。この状態で酌めば減る一方でしょう。ふむ、これは本当に困りました。土はそれ程苦手では無いのですが、岩は少々苦手なのです。ここはクラマさんが来るまで飲みながら待ちましょうか」
そう言うマイアは収納からコップを出し、泉の酒を酌みその場に腰を下ろした。
クラマを待つ事一時間。
マイアの前にようやくクラマが姿を現した。
「……マイア殿……中々のご機嫌ぶりじゃな…」
「そんなこと無いわよ~。クラマさんもどう~? 意外といけるわよ~? うふふ」
クラマを待つ事一時間。マイアはかなり出来上がっていた。
「しかし、マイア殿が酔うのを初めて見たのじゃ。そんなに強烈な酒なのかえ?」
何度か一緒に飲んでいるクラマが不思議がるほどの酔っ払いっぷりに、そんな一言が零れた。
「さっすがにね~、この泉を全部飲み干そうとしたんだけど、結構キツイわよね~。あなたも調べて来たんでしょ? この泉の底に何かいるって~。あはは」
「それはそうじゃが、なにも飲んでしまう事もないと思うのぅ……」
「だった勿体無いじゃない? エイジのお酒には及ばないけど結構いけるのよ~。えへ」
初めて見るマイアの酔いっぷりに困惑気味のクラマ。
「どれ程飲めば、マイア殿がここまで酔うのじゃろうか……」
「初めはここまであったのよ~、えへへ~」
そんなクラマの呟きにも陽気に答える、笑い上戸(弱)のマイアだった。
クラマは、マイアの指し示した水位を見て呆気に取られて溜息をついた。
マイアが差した水位は、泉を囲っている岩の上からニメートルぐらい。現在の泉の状況は少し底面も見えるぐらいになっていて、マイアが一メートル分の酒を飲んだ事を物語っていた。
「……飲みすぎなのじゃ。妾でもそれほど飲めぬわ」
大雑把に見ても直径一○メートル以上ある泉だ。少なく見積もってもニ五○○○リットル。一升瓶一四○○○本弱。しかもそれを一時間程度でだ。常人だと死んでいたかもしれない。
それを『うふふ』や『えへへ』で済ませるマイア。さすが森の精霊…というのは全く関係ないか。
「でも、もうちょっとあるでしょ? あとは任せたわね~。むにゃむにゃ」
それだけを言い残し、夢の中へと旅立って行ったマイアであった。
「…ふむ、困ったもんじゃが、マイア殿の意外な一面も見れたので良かったかものぅ。エイジによい土産話ができたのじゃ」
くっくっくっと一人ほくそ笑むクラマだったが、何も解決できたわけでは無い。むしろこれからが勝負なのだ。
原因は判明している。森に住まう魔物・魔獣・動物に情報を集めさせたところ、マイアが言った通り、泉の底に何かが棲んでいるようだという事が分かった。
その何者かが源泉から湧き出る酒の邪魔をしていて、湧酒量が減っている原因となっているのではないかというのだ。(BY熊みたいな魔物談)
クラマが優しく問い掛けて快く教えてくれたようだ。体長三メートルオーバーの九本の尻尾を生やした凶悪そうな狐に、青白い炎を出されながらの問いに解答を拒むものは、この森にはいなかったようだ。
「この泉の底にのぅ……もう踝ほどの深さしか無いが、何も見えぬのぅ」
泉の底を見ながら一人ごちるクラマ。
さっきのマイア同様に、収納からコップを出し、泉の酒を飲んでみる。
「ほほぉ~、確かにこれは美味いのじゃ。いくらでも飲めそうじゃの」
酒をコップで飲むために人型になっているクラマも泉の酒を絶賛した。が、すぐにダメ出しも入った。
「しかし、エイジのぶらんで~には及ばんがの。なんでじゃろ、ぶらんで~には氷が入ってたからかの? 氷のぅ……氷は苦手じゃ。いつもの手で行くかの」
クラマは髪の毛を一本抜いた。するとその一本の髪の毛が狐の毛の束に変化した。
その狐の毛の束にフッと息を吹いて吹き飛ばすと、一旦飛び散った毛が一箇所に集まりだし、ボンっと煙をあげた。煙が治まると中から小さな女の子が現れた。
見た目はクラマをギューっと圧縮して縮めた感じで、ミニクラマと言っても問題ない容姿をした女の子だった。
クラマの1/3ぐらいの女の子、服装もクラマ同様に巫女のような和装をしている。
違う点といえば、服も髪も青色をしている点だった。
「六本じゃとこの程度かのぅ。今回の仕事を考えると十分じゃな。よし、この泉を少し凍らせるのじゃ」
「あいあい~!」
クラマの命令に元気よく答える青色のミニクラマ。
その真剣な表情と相まって非常に愛らしい。ステンと転んだりなんかしてしまうと萌え死者が続出しそうだ。
「やー!」
両手を前に突き出し、その容姿に似合う可愛らしい声で掛け声を出すと、水深にして五センチ程度の泉の酒がピキピキと徐々に凍り始める。
泉全体の表面が凍ると力を出し切ったのか、ミニクラマは四つん這いになりハァハァと息を荒げていた。
アルコールというのは水に比べて凍りにくい。それを表面だけとはいえ泉全体を凍らせたミニクラマの能力は、その小ささに比べ非常に高い事を証明していた。
「ま、こんなもんじゃのぅ。ご苦労」
クラマがねぎらいの言葉を掛けると、息を荒げ汗だくのミニクラマはニコっと笑い、ボフンっと煙に包まれた。煙が晴れると、もうミニクラマの姿は見えなかった。
クラマは改めて泉の前に立つと、消えたミニクラマなど元々いなかったかのような無関心さで泉を見つめる。
表面は確かに凍ってるが、泉の底が綺麗に見える。水深が浅いとはいえ、氷が薄い証拠である。厚い氷だと白くなって底が見えにくくなるはずだから。
そのあたりはクラマも分かっていて、酒全部が凍ってない事で満足気に肯いている。
「やはり、六本でちょうどよかったようじゃ」
クラマは薙刀を出すと石鎚で泉の表面の氷をつついた。
試飲の為の氷作成ならコップ一杯程度でいいのだ。そうすればミニクラマもあれ程消耗する事は無かったのだが、クラマはミニクラマに池の表面全部を凍らせろと命じた。
その理由が次の行動で明かされた。
「次は風かの」
そう言って今度は髪の毛を三本抜いた。今度もさっきと同様に髪の毛は狐の毛の変わった。今度はニ○本程度の毛の束を手に持っていた。
クラマがフッと息を掛け吹き飛ばすと、またボンッ! と煙が立ち上がり、再びミニクラマが現れた。
今度現れたミニクラマはさっきのミニクラマより二周りぐらい大きく、クラマの半分程度の大きさがあった。しかも、空色をしていた。
その空色ミニクラマに、クラマが命令を下した。
「掻き混ぜるのじゃ」
「あいあい~!」
今度の空色ミニクラマも可愛らしい声で返事をすると、「やー!」と気合を発した。
すると、一○の旋風が発生し、水面に張った氷を砕き、酒を巻き上げながら泉を縦横無尽に吹き荒らす。
青いミニクラマは水・氷系で、空色ミニクラマは風系の魔法を操れる分身だったのだ。
しかし、そう大きくない泉に一○の旋風は少々多かった。三つの旋風が酒を巻き上げたまま、制御が効かずに飛んでいってしまった。残った旋風もぶつかり合って消滅したものもあり、術を解いた最後まで残っていたのは一つだけだった。
「ふむ、ニ○本はちと多過ぎたかの。もうよいぞ、ご苦労じゃった」
クラマのねぎらいを聞いた空色ミニクラマは「はひ~」と返事とも溜息とも付かない言葉を残すとボフンっと煙に包まれ消え去った。
泉の酒は、クラマの思惑通り、氷で掻き混ぜられた状態となり、ロックとして飲むには程よい冷たさに仕上がった。
クラマは残りの酒を、コップは使うがある技を使い、一気に飲んでやろうとしていたのだ。
これは先程のマイアも同じく、コップでちびちびとは飲んでない。
ニ五○○○リットルの酒をコップで飲んでれば一時間程度の時間で飲めるはずが無い。マイアも直に池の酒を飲んでたのだ。風魔法で波立たせ、更に酒を巻き上げて自分の口に直接来るように調節しながら一滴も零さずニ五〇〇〇リットルを飲んでいたのだ。どう考えても体積が合わないのは明らかなのだが、それでもマイアの中にニ五〇〇〇リットルの酒が納まったのだ。
魔法の無駄使いな気はするが、自分に役立つように使うのは正解ではないだろうか。
ただ、今回は酒量を減らす目的だったとはいえ、そんなウワバミどころか人間業ではない(人間では無いのだが)飲み方で味も分かるのか甚だ疑問である。
「では、行こうかの」
クラマは軽い口調で泉へと飛び降りた。
先程のミニクラマの旋風で幾分減った水深は、すでに五センチも無かった。
パチャっとクラマが飛び降りた泉の底は、全て岩だったが、クラマが飛び降りた衝撃で底に岩に亀裂が入った。
クラマが重かったわけではない。亀裂が入ったのには理由があった。
その理由はクラマにも分かっていたが、まさか亀裂が入るほどとは思わず、慌てて再ジャンプを試みた。
が、しかし、クラマの再ジャンプは間に合わなかった。
ガラゴラガラゴーン
と、大音響と共に崩れだす泉の底。底に残っていた酒や岩と共に落ちていくクラマ。泉の畔で全く気付かず夢の中のマイア。
クラマは落下の衝撃に備え、空間把握をし、足から着地できるように身体の向きを整えた。
ボッシャ―――ン!
クラマの予想した着地はやって来なかった。一○メートルほど落ちて来た泉の底の更に底には、また泉が存在していたのだ。地底湖だった。
上にあった泉の二倍ほどの地下空間に水深二メートル以上の酒の泉が存在していた。水深二メートル以上というのは、クラマが二メートルほど沈んだが、それ以上は確認できなかったため二メートル以上としか判断できなかった。恐らく、もっともっと深いと思われるが、今は目の前に対峙したものの対応のためそれどころではなかった。
「やはりのぅ、そうじゃと思っておったが…酒好きな蟒蛇の中でも一番凶暴な三つ首大蛇じゃったとは、ちと予想外じゃの」
まぁ、こいつは話が通じぬし、倒してしまう事は変わらんのじゃがの。と、普段と変わらぬ軽い口調のクラマ。
この足場の無い水中、もとい酒中でクラマは戦う事ができるのだろうか。
自分でも言ってたように、相手は凶暴な三つ首大蛇。体長五メートルはゆうに五メートルは超える大蛇である。そんな大蛇を相手に、足場も確保できない不利な環境であるにも関わらず余裕の表情を見せるクラマ。
「なんじゃ、上の泉の酒よりこっちの酒の方が美味いではないか」と呟くクラマ。
今はそれ所ではないと思うのだが、三つ首大蛇が迫ってきても慌てないクラマ。
ふむ、と考えが纏まり髪の毛を三本抜いた。
一本でミニクラマ。二本で少し大きいミニクラマ。三本と来たら自分の大きさぐらいかと思いきや、初めと同じ大きさのミニクラマが三人現れた。青いのと空色のと赤いミニクラマだった。
もちろん酒の地底湖の中に浸かった状態で。
「よし、行くのじゃ!」
「「「あいあい~! ヒック!」」」
掛け声と共にクラマがミニクラマを三つ首大蛇に向けて投げ捨てた。なぜか、逆の手にはコップを持っているクラマだった。
顔を浸ければ飲み放題なのに、クラマは人型の時にはコップで飲むというポリシーを持っていたのだ。
エイジがいれば無意味だとツッコむ所だが、ポリシーというのはそういうものだから一方的にクラマを責められるものでもない。
そんなクラマに放り投げられたミニクラマ達は、無防備状態で三つ首大蛇に向かって行った。
いきなりの先制攻撃に、すぐ様迎撃体制に入る三つ首大蛇。
三つ首大蛇の攻撃方法は大きく分けて三つ。
ブレスか尾を振り回すか噛み付くか。
今回はいきなりの先制攻撃だったので噛み付くを選択した三つ首大蛇だった。
だが、その選択は悪手だった。クラマの思惑通りに事が運んでしまった。
大きく口を開いた三つの大蛇の口に簡単に飲み込まれてしまったミニクラマ達。
その数秒後、三つ首大蛇の首は、胴の継ぎ目部分から落とされてしまった。ミニクラマ達が三つ首大蛇の体内で仕事をしたのだ。
一つの首は鋭利な刃物で切り落とされたように落ち、もう一つは大きく膨らみ破裂して頭部分が地底湖に落ちて行った。三つ目は、ドゴーン! という破裂音を残し、爆散してしまった。かろうじて頭部分だけが確認できる程の爆発だった。
風・水・火の属性ミニクラマが三つ首大蛇の体内で大魔法を炸裂させたのだ。
後は残された胴体部分だけ。
「ハッ!」っと気合を発すると、クラマは水面より飛び上がり、華麗に水面に着地した。
そのままゆっくりと水面を歩き出すクラマ。
水面に残された胴体部分に到着すると、三人のミニクラマが出迎えた。
「なんじゃ?」
クラマが向けた視線の先には、お約束通りアフロになったミニクラマがいた。赤いミニクラマだ。顔も煤だらけになっている。
『次からは火は辞めておくかのぅ』などと考えながら「ご苦労じゃった」と労いの言葉をかけ三人のミニクラマはボフンと煙を残し消えて行った。
「さて、仕上げじゃの。このままじゃと此奴は再生しよるでの」
スタっと残された三つ首大蛇の胴に飛び上がると、クラマは薙刀を出し、一刀のもとに三つ首大蛇の胴を縦割りに真っ二つにした。
「やはり飲み込んでおったか」
そう言うクラマの視線の先には五○センチ大の綺麗なクリスタルがあった。クラマはクリスタルを拾い上げ、ついでに隣に並んでいた魔石も回収した。
「これを残すといくらでも再生しよるでのぅ」
三つ首大蛇から開放されたクリスタルは、胃液か何かの影響でくすんでいたが、クラマに地底湖の酒で洗われるとその輝きを取り戻し、勢い良く酒を放出し始めた。
「うおっぷ!」
いきなり勢い良く放出された酒にクラマが吹き飛ばされた。クリスタルから放出された酒は四方八方に撒き散らかされ、水位もどんどん上昇して行く。
四方八方に放出されるから、酒も濁流のごとく何もかもが巻き込まれて行く。
初めに弾き飛ばされたクラマも例外では無く、その濁流に飲み込まれてしまった。大荒れに荒れる酒の濁流。
初めはそうであっただろう水位まで上がると、ピタリと水位の上昇が収まった。
泉の中央では、初めにマイアが見た小さな水の盛り上がりも、今は噴水のように一メートルは湧き上がっていた。
それから五分。泉の中央にプッカ~と浮かび上がって来た影があった。クラマである。
「ウィック! も、もう飲めぬ…ウィック!」
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