18 / 33
第十八話 あえて
しおりを挟む
お正月も終わり、すっかりいつもの日常が帰ってきた。
今日、ハルちゃんがオフで、メイン家事担当。で、朝ごはんを作ってるわけだけど。
「二人とも! 美味しいブリ照りできるから、待っててね!」
笑顔で、そう言うものの。
私たち三人、どうしても上手な嘘つきになれないんだね。
「てい」
「ひゃう!?」
背後から近づき、ハルちゃんの両脇腹をつつく。
「何するんですかー!」
「ハルちゃん、無理してるでしょ」
ハルちゃん、三日から向こう、むやみに明るいのだ。そして、それが空元気だとわかってしまうんだな。
「……おねーさんは、何でもお見通しなんですね」
観念して、深い溜め息をつく彼女。
「だってね、辛くないはずがないじゃない。ミドリさんも、気が気じゃないよ。そうですよねえ?」
ハルちゃんの横で、お味噌汁を作っていた彼女に、話を振る。
「あ、はい! 私ですか!? その、まあ。はい。どうしたらお嬢様を元気付けられるだろうと、日々考えておりました」
ミドリさんも、辛い。そして、私はそんな二人を見ているのが辛い。
「あとは、個人的なことなのですが、辻さんに様付けで呼ばれたのが……。今や自分は、外部の人間なのだなと思い知らされまして。再就職したら、以前のようにさん付けで呼んでいただけるのでしょうか」
ふうむ。ミドリさん、そういう悩みもあったのか。
「よし! 明日は私オフだし、飲み会しよう!」
「ええ……? おねーさん、お父様があんな状態なのに、そういう気分には……」
「ごもっとも。でもね、肩に力入れっぱなしじゃ、今度はハルちゃんが参っちゃうよ。息抜きも大事! ミドリさんもね!」
そろそろ料理ができそうなので、食器を用意しながら、アドバイス。
「私もさ、仕事で百人の生活を預かってるわけよ。当たり前だけど、不幸な人だらけでね。そういう人たちと毎日接するのが、心身ともに負担にならないわけがなくて。だからね、オフではパーッとやることにしてんのさー」
ミドリさんから味見を頼まれたので、テイスティング。「美味しいですよ!」と、太鼓判を押す。
「だから、二人も、今日ぐらいはパーッといこう!」
「でも、私、荷造りがありますし……」
「遅れたぶんは、お手伝いしますよ。言い出しっぺですから」
ブリも焼き上がったので、お味噌汁ともども盛り付けていく二人。私は、ご飯をよそう。
「では、お言葉に甘えまして……」
「ミドリさんはOKだって! ハルちゃんも呑も!」
「そうですね。なにか、美味しいおつまみを作りますね」
というわけで、着席して、いただきますの合唱。うーん、二人の料理美味しい~! 私の浅漬も、なかなかね!
私もミドリ師匠に鍛えられて、料理の腕がメキメキ上がっている。特に、お惣菜のレパートリーが増えたのが大きい。ミドリさんは、大衆料理の達人だね!
ご飯を食べたら、歯磨きして、メイクして出勤! いってきまーす!!
◆ ◆ ◆
「ただいまあ~っ!」
ふう~……くたくただあ~!
「おかえりー、おねーさん!」
「おかえりなさいませ」
ミドリさんの部屋から二人がひょっこり顔を出し、お帰りを言ってくれる。
「荷造り? 精が出るねえ~」
「まあ、それもおねーさんが帰ってきたので、休憩だねー。今、美味しいものを作りますね」
キッチンに赴き、エプロンを締めるハルちゃん。
「私も、あまり読まなくなった本は、処分したほうが良いのでしょうか」
額の汗を拭いながら、思案顔のミドリさん。
「んー、私だったら、素直に電書に移行しちゃいますねえ」
「電書ですか……。それも考えるのですが、やはり紙をめくる感触と、この匂いが好きなのですよね」
ふうと、ため息を吐く彼女。
「とりあえず、私もお嬢様を手伝うとしましょう。アキさんは、仕事上がりですから、くつろいでいてください」
「寂しいこと言わないでよ。三人で作りましょ」
私も、スーツを脱いで、エプロンを締めて、気力を振り絞る。とことん疲れてるほうが、お酒と料理が美味しいってもんですよ!
「お、なんでしょ、それ」
「旬ですから、あんこうを手に入れました」
ミドリさんが、華麗に柳刃包丁を引く。
「鍋ですか」
「はい」
「じゃあ、私はお野菜を」
ネギや白菜を、ザクザク切っていく。
「ハルちゃんが蒸してるのは?」
蒸し器から、湯気が上がっている。
「肝だよ~」
「OH! アンキーモ! ワタシ、ダイコブツデース!」
「なに、その怪しい外国人喋り?」
クスクス笑うハルちゃん。
「あん肝をつつこうってことは、今日は日本酒かな?」
「はい。芳醇な辛口を選ばせていただきました~。三本ほど、買い込みましたよ」
「それは楽しみだね~」
ハルちゃんも、すっかり呑兵衛さんになって。
野菜を土鍋に入れて、アクをすくいながら茹でる。
「あんこう、投入しますね」
「お願いします。私は、もみじおろし作りますね」
すっかり野菜担当な私。しゃりしゃり……。
こんな感じで、ほのぼのテキパキと調理は進んでいき、完成~!
ちゃぶ台の上に、土鍋onカセットコンロと、お酒や食器が並べられていく。
「ん~……おいしそー! じゃあ、いただきます! そして、カンパーイ!」
お猪口を掲げ、キュッと一口。効くぅ~っ!
さて、野菜からいきましょうか。……うん、我ながらグー!
続いて、あんこうの身。うーん、このぷりぷりした感じ! 実にあんこう! 美味しい~!
「美味しいですよ、ミドリさん~!」
「お褒めに預かり、恐縮です」
彼女が、軽く頭を下げる。
「おねーさん、あん肝も食べてよね!」
「もちろん! ……ん! このコク! サイコー! 美味しいよ、ハルちゃん!」
えへへと照れる、我らがお嬢様。かわいい。
いやー、お酒が進んでいけませんなあ。などと、心の声では言いながら、手酌。くぅ~っ!
「しかし、こことももうすぐお別れかー」
桜色の頬をしたハルちゃんが、感慨深げに述べる。
もう、解約手続きは済んでおり、ミドリさんの荷造りも終盤戦。早いもんだ。
「私も、ユキと離れるのは少々寂しいですが……」
同じく、頬に朱が差したミドリさんも、感慨深げに述べる。ひとりだけ、古巣とはいえ、職場が変わるのだものね。葵家を良くない辞め方をしてしまったから、不安もあることでしょう。
「ほらほら、宴席は明るく! どんどん呑もー!」
二人にお酌していく。
「そうでしたね。そういった趣旨の飲み会でした」
つ、とお猪口を傾けるミドリさん。ハルちゃんも、「そうだね!」と、くいっといく。
「ちょっと、呑み足りないですね」
日本酒がなくなったので、秘蔵っ子のクラフトビールを出す。
「お二人とも、いかが?」
「それもいいね!」
ハルちゃん羽目を外してるね! 元気でよきかな! 少しでも気晴らしになったなら、良かった!!
「私は、このあたりで切り上げますね。明日に障りますので」
そう言って、使用済みの食器を片すミドリさん。
「ハルちゃん、ラウンドツーだー!」
「おー!」
「お二人とも、程々になさいましね」
このあたりで、私の記憶は途切れました。
翌朝、三人揃ってネイキッドで転がっていたのは、言うまでもありません。
今日、ハルちゃんがオフで、メイン家事担当。で、朝ごはんを作ってるわけだけど。
「二人とも! 美味しいブリ照りできるから、待っててね!」
笑顔で、そう言うものの。
私たち三人、どうしても上手な嘘つきになれないんだね。
「てい」
「ひゃう!?」
背後から近づき、ハルちゃんの両脇腹をつつく。
「何するんですかー!」
「ハルちゃん、無理してるでしょ」
ハルちゃん、三日から向こう、むやみに明るいのだ。そして、それが空元気だとわかってしまうんだな。
「……おねーさんは、何でもお見通しなんですね」
観念して、深い溜め息をつく彼女。
「だってね、辛くないはずがないじゃない。ミドリさんも、気が気じゃないよ。そうですよねえ?」
ハルちゃんの横で、お味噌汁を作っていた彼女に、話を振る。
「あ、はい! 私ですか!? その、まあ。はい。どうしたらお嬢様を元気付けられるだろうと、日々考えておりました」
ミドリさんも、辛い。そして、私はそんな二人を見ているのが辛い。
「あとは、個人的なことなのですが、辻さんに様付けで呼ばれたのが……。今や自分は、外部の人間なのだなと思い知らされまして。再就職したら、以前のようにさん付けで呼んでいただけるのでしょうか」
ふうむ。ミドリさん、そういう悩みもあったのか。
「よし! 明日は私オフだし、飲み会しよう!」
「ええ……? おねーさん、お父様があんな状態なのに、そういう気分には……」
「ごもっとも。でもね、肩に力入れっぱなしじゃ、今度はハルちゃんが参っちゃうよ。息抜きも大事! ミドリさんもね!」
そろそろ料理ができそうなので、食器を用意しながら、アドバイス。
「私もさ、仕事で百人の生活を預かってるわけよ。当たり前だけど、不幸な人だらけでね。そういう人たちと毎日接するのが、心身ともに負担にならないわけがなくて。だからね、オフではパーッとやることにしてんのさー」
ミドリさんから味見を頼まれたので、テイスティング。「美味しいですよ!」と、太鼓判を押す。
「だから、二人も、今日ぐらいはパーッといこう!」
「でも、私、荷造りがありますし……」
「遅れたぶんは、お手伝いしますよ。言い出しっぺですから」
ブリも焼き上がったので、お味噌汁ともども盛り付けていく二人。私は、ご飯をよそう。
「では、お言葉に甘えまして……」
「ミドリさんはOKだって! ハルちゃんも呑も!」
「そうですね。なにか、美味しいおつまみを作りますね」
というわけで、着席して、いただきますの合唱。うーん、二人の料理美味しい~! 私の浅漬も、なかなかね!
私もミドリ師匠に鍛えられて、料理の腕がメキメキ上がっている。特に、お惣菜のレパートリーが増えたのが大きい。ミドリさんは、大衆料理の達人だね!
ご飯を食べたら、歯磨きして、メイクして出勤! いってきまーす!!
◆ ◆ ◆
「ただいまあ~っ!」
ふう~……くたくただあ~!
「おかえりー、おねーさん!」
「おかえりなさいませ」
ミドリさんの部屋から二人がひょっこり顔を出し、お帰りを言ってくれる。
「荷造り? 精が出るねえ~」
「まあ、それもおねーさんが帰ってきたので、休憩だねー。今、美味しいものを作りますね」
キッチンに赴き、エプロンを締めるハルちゃん。
「私も、あまり読まなくなった本は、処分したほうが良いのでしょうか」
額の汗を拭いながら、思案顔のミドリさん。
「んー、私だったら、素直に電書に移行しちゃいますねえ」
「電書ですか……。それも考えるのですが、やはり紙をめくる感触と、この匂いが好きなのですよね」
ふうと、ため息を吐く彼女。
「とりあえず、私もお嬢様を手伝うとしましょう。アキさんは、仕事上がりですから、くつろいでいてください」
「寂しいこと言わないでよ。三人で作りましょ」
私も、スーツを脱いで、エプロンを締めて、気力を振り絞る。とことん疲れてるほうが、お酒と料理が美味しいってもんですよ!
「お、なんでしょ、それ」
「旬ですから、あんこうを手に入れました」
ミドリさんが、華麗に柳刃包丁を引く。
「鍋ですか」
「はい」
「じゃあ、私はお野菜を」
ネギや白菜を、ザクザク切っていく。
「ハルちゃんが蒸してるのは?」
蒸し器から、湯気が上がっている。
「肝だよ~」
「OH! アンキーモ! ワタシ、ダイコブツデース!」
「なに、その怪しい外国人喋り?」
クスクス笑うハルちゃん。
「あん肝をつつこうってことは、今日は日本酒かな?」
「はい。芳醇な辛口を選ばせていただきました~。三本ほど、買い込みましたよ」
「それは楽しみだね~」
ハルちゃんも、すっかり呑兵衛さんになって。
野菜を土鍋に入れて、アクをすくいながら茹でる。
「あんこう、投入しますね」
「お願いします。私は、もみじおろし作りますね」
すっかり野菜担当な私。しゃりしゃり……。
こんな感じで、ほのぼのテキパキと調理は進んでいき、完成~!
ちゃぶ台の上に、土鍋onカセットコンロと、お酒や食器が並べられていく。
「ん~……おいしそー! じゃあ、いただきます! そして、カンパーイ!」
お猪口を掲げ、キュッと一口。効くぅ~っ!
さて、野菜からいきましょうか。……うん、我ながらグー!
続いて、あんこうの身。うーん、このぷりぷりした感じ! 実にあんこう! 美味しい~!
「美味しいですよ、ミドリさん~!」
「お褒めに預かり、恐縮です」
彼女が、軽く頭を下げる。
「おねーさん、あん肝も食べてよね!」
「もちろん! ……ん! このコク! サイコー! 美味しいよ、ハルちゃん!」
えへへと照れる、我らがお嬢様。かわいい。
いやー、お酒が進んでいけませんなあ。などと、心の声では言いながら、手酌。くぅ~っ!
「しかし、こことももうすぐお別れかー」
桜色の頬をしたハルちゃんが、感慨深げに述べる。
もう、解約手続きは済んでおり、ミドリさんの荷造りも終盤戦。早いもんだ。
「私も、ユキと離れるのは少々寂しいですが……」
同じく、頬に朱が差したミドリさんも、感慨深げに述べる。ひとりだけ、古巣とはいえ、職場が変わるのだものね。葵家を良くない辞め方をしてしまったから、不安もあることでしょう。
「ほらほら、宴席は明るく! どんどん呑もー!」
二人にお酌していく。
「そうでしたね。そういった趣旨の飲み会でした」
つ、とお猪口を傾けるミドリさん。ハルちゃんも、「そうだね!」と、くいっといく。
「ちょっと、呑み足りないですね」
日本酒がなくなったので、秘蔵っ子のクラフトビールを出す。
「お二人とも、いかが?」
「それもいいね!」
ハルちゃん羽目を外してるね! 元気でよきかな! 少しでも気晴らしになったなら、良かった!!
「私は、このあたりで切り上げますね。明日に障りますので」
そう言って、使用済みの食器を片すミドリさん。
「ハルちゃん、ラウンドツーだー!」
「おー!」
「お二人とも、程々になさいましね」
このあたりで、私の記憶は途切れました。
翌朝、三人揃ってネイキッドで転がっていたのは、言うまでもありません。
10
あなたにおすすめの小説
小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話
穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
幼馴染みのメッセージに打ち間違い返信したらとんでもないことに
家紋武範
恋愛
となりに住む、幼馴染みの夕夏のことが好きだが、その思いを伝えられずにいた。
ある日、夕夏のメッセージに返信しようとしたら、間違ってとんでもない言葉を送ってしまったのだった。
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる