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第九十七話 夢の中で苦しんだ話
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Yさんは妻と2人で旅行した際に、比較的安いホテルに宿泊したという。
この日は強行軍であり、3県をまたいで複数の観光地を回ってきたためにどちらもかなり疲労が蓄積していた。
そのため、ホテルにチェックインしたのが22時過ぎだったがすぐに寝ることになった。
「ああ、風呂は明日の朝入るから、もう寝るよ」
「わかったよ。私は化粧落としてシャワー浴びてから寝るね」
妻より先にYさんはベッドに横になり、すぐに眠りに落ちた。
「ん……?」
Yさんは目を開いて驚いた。明るさからして朝にはまだまだ遠いようなのだが、驚いたのはそんなところではない。
ホテルのベッドの上で寝たはずが、彼が寝ているのはまるで廃屋であった。
さらに、首から下を動かすことができない。顔を動かして周囲の状況を探る。
元は何の部屋だったのかわからないが、上の方の窓からわずかな明かりが入ってきた。
部屋の中がぼんやりと見えてくる。
ほこりまみれの床に空の段ボールが置かれている。Yさんはベッドに横になっていたはずだが今は布団の上だ。
壁に古びたカレンダーが貼られており、「〇〇建築」の文字がわずかに見えたが何月のものかはわからなかった。
土嚢を入れるような白い袋が破かれて散乱しており、奥の方では戸板が外されている。
誰かが住んでいた家が、持ち主を失って荒れていった果てのような印象を受けた。
「えっ、あれは?」
心の中でYさんは叫びそうになる。
奥の方にうずくまっている女らしき姿があった。白っぽいシャツにカーディガンのようなものを羽織っている。
「う……うう……」
耳に嗚咽のような声が流れてくる。
この女が発しているものに違いなかった。
顔を伏せてこちらを見ていない女だが、Yさんはついついそのまま見つめすぎてしまったことを後悔した。
女がゆっくりと顔を上げて、彼の方を見る。
目が合った。
一瞬で顔の特徴をつかんだYさんは戦慄する。
異様に丸い両目。黒目がほとんどなく、中心に点のようになっているのみだ。口が頬まで裂けており、鼻はそぎ落とされたように、あるべき場所に存在していなかった。
「ひ……」
女が裂けていた口の端を上げる。ニヤッと笑ったのだ。
そしてYさんの方に四つん這いで一直線に向かってきた。
「あ、わ、わあ」
叫び声を上げる間もなく、女がYさんの上に乗る。そして腕が首元に伸びてきた。
「ぐう、ぐへっ」
女は力を込めてYさんの首を締め上げる。
いまだ首から下を自由に動かせないYさんは目を閉じるが、どんどんと呼吸が苦しくなってくる。
目の前がチカチカと明滅し始めた。
意識が遠のいていく。
Yさんが死を覚悟したその時。
ドガッ!
全身を殴られたような衝撃があった。
それによりYさんは再び目を覚ました。
「な、え、ここは?」
Yさんは宿泊していたホテルのベッドから落ちていた。妻が心配そうな顔で覗き込んでくる。
「俺は、どうなっていた?」
身体は動く。床で上半身を起こしてYさんは妻に尋ねた。
「その、様子がおかしかったから、ベッドから落としたの。そうしないとダメかと思って」
まだ理解が追いついていないYさん。先ほどの廃屋と女は、夢だったのだろうか。
妻に体験した内容を語って聞かせた。
「そう……苦しそうな声を出してたから私、目が覚めて。あなた、自分で自分の首を絞めてたよ」
Yさんは自らの首を両手で締め上げていた。
それを聞いてYさんは再び恐怖を感じた。
普通、自分で自分の首を絞めて死ぬことは難しい。意識がなくなっていくと絞める手の力も弱まるためだ。だが、自分の意識がないのに腕が動いて、首を絞めていた場合は?
「いくら手を剥がそうとしても無理だったし、硬直したように動かなかったから一回全身にショックを与えて起こそうと思ったんだよ」
無茶苦茶な手段だが、妻に救われたとYさんは思った。
翌朝、ホテルをチェックアウトしたYさんたちは、ホテルのフロント係に泊まった部屋で過去に何かなかったかを聞いたが、特に何もないという答えが返ってきたのみだった。
この日は強行軍であり、3県をまたいで複数の観光地を回ってきたためにどちらもかなり疲労が蓄積していた。
そのため、ホテルにチェックインしたのが22時過ぎだったがすぐに寝ることになった。
「ああ、風呂は明日の朝入るから、もう寝るよ」
「わかったよ。私は化粧落としてシャワー浴びてから寝るね」
妻より先にYさんはベッドに横になり、すぐに眠りに落ちた。
「ん……?」
Yさんは目を開いて驚いた。明るさからして朝にはまだまだ遠いようなのだが、驚いたのはそんなところではない。
ホテルのベッドの上で寝たはずが、彼が寝ているのはまるで廃屋であった。
さらに、首から下を動かすことができない。顔を動かして周囲の状況を探る。
元は何の部屋だったのかわからないが、上の方の窓からわずかな明かりが入ってきた。
部屋の中がぼんやりと見えてくる。
ほこりまみれの床に空の段ボールが置かれている。Yさんはベッドに横になっていたはずだが今は布団の上だ。
壁に古びたカレンダーが貼られており、「〇〇建築」の文字がわずかに見えたが何月のものかはわからなかった。
土嚢を入れるような白い袋が破かれて散乱しており、奥の方では戸板が外されている。
誰かが住んでいた家が、持ち主を失って荒れていった果てのような印象を受けた。
「えっ、あれは?」
心の中でYさんは叫びそうになる。
奥の方にうずくまっている女らしき姿があった。白っぽいシャツにカーディガンのようなものを羽織っている。
「う……うう……」
耳に嗚咽のような声が流れてくる。
この女が発しているものに違いなかった。
顔を伏せてこちらを見ていない女だが、Yさんはついついそのまま見つめすぎてしまったことを後悔した。
女がゆっくりと顔を上げて、彼の方を見る。
目が合った。
一瞬で顔の特徴をつかんだYさんは戦慄する。
異様に丸い両目。黒目がほとんどなく、中心に点のようになっているのみだ。口が頬まで裂けており、鼻はそぎ落とされたように、あるべき場所に存在していなかった。
「ひ……」
女が裂けていた口の端を上げる。ニヤッと笑ったのだ。
そしてYさんの方に四つん這いで一直線に向かってきた。
「あ、わ、わあ」
叫び声を上げる間もなく、女がYさんの上に乗る。そして腕が首元に伸びてきた。
「ぐう、ぐへっ」
女は力を込めてYさんの首を締め上げる。
いまだ首から下を自由に動かせないYさんは目を閉じるが、どんどんと呼吸が苦しくなってくる。
目の前がチカチカと明滅し始めた。
意識が遠のいていく。
Yさんが死を覚悟したその時。
ドガッ!
全身を殴られたような衝撃があった。
それによりYさんは再び目を覚ました。
「な、え、ここは?」
Yさんは宿泊していたホテルのベッドから落ちていた。妻が心配そうな顔で覗き込んでくる。
「俺は、どうなっていた?」
身体は動く。床で上半身を起こしてYさんは妻に尋ねた。
「その、様子がおかしかったから、ベッドから落としたの。そうしないとダメかと思って」
まだ理解が追いついていないYさん。先ほどの廃屋と女は、夢だったのだろうか。
妻に体験した内容を語って聞かせた。
「そう……苦しそうな声を出してたから私、目が覚めて。あなた、自分で自分の首を絞めてたよ」
Yさんは自らの首を両手で締め上げていた。
それを聞いてYさんは再び恐怖を感じた。
普通、自分で自分の首を絞めて死ぬことは難しい。意識がなくなっていくと絞める手の力も弱まるためだ。だが、自分の意識がないのに腕が動いて、首を絞めていた場合は?
「いくら手を剥がそうとしても無理だったし、硬直したように動かなかったから一回全身にショックを与えて起こそうと思ったんだよ」
無茶苦茶な手段だが、妻に救われたとYさんは思った。
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