滅びた国の姫は元婚約者の幸せを願う

咲宮

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67. 消えていく不安

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 噛み合っていない理由は、話を終えるとすぐにわかった。結論から言うと、叔父様の言う通りほとんど確定していたのだ。

 この5日間、後処理を任されたウィルは色々と画策されたようで何とか私を高位貴族にしようと動いていたらしい。それも上手く行かず苦しい日々を過ごしたという。

 魔神という存在は民の安寧を脅かすために公表できず、そうなると今回の功労者としてだけでは高い爵位を与える話は厳しいものとなった。それならば高位貴族の養女にしようかと悩み出した。だがそのタイミングである昨夜、叔父様によるカミングアウトが始まったらしい。

 自身が王弟であり私の叔父であることなどを踏まえて、どうか離れ離れにしないでほしいと頼みに来たそうだ。その話を聞き入れたウィルは、エルフィールド国の生き残りとして爵位を受けてくれないかと提案をしたようだ。今となっては稀少な存在である魔法使いに加えて王家の血まで引いているとなれば、公爵として迎え入れるのは十分な待遇だ。

 この形で話が進めることにしたウィルは、急いで国内の貴族用へ伝える話を作り上げた。

 内容としては、こうなる。

 まず、生き残っていたエルフィールドの姫と王弟は静かに暮らしていたが自分達以外の生き残りの存在を知り接触を試みた。すると、ラベーヌ公爵により同族である生き残りの魔法使いが国家反逆罪へ悪用されていることを知った。それを止めようと動き、ラベーヌ公爵の行いを最終的には暴いた。これにより大公を始めとするデューハイトン王家の損失は防がれることになった。

 ということで、私と叔父様はこのシナリオのお陰で国内の貴族に反感を買うことなく、新たにデューハイトン帝国の公爵として迎え入れてもらえるようだ。叔父様からの提案で、今回の件で解体となるラベーヌ公爵家の後釜を勤めることになったようだ。

 表向きがこうなっているが、裏ではこれが正統で相応の報酬だとウィルは言う。

 私が眠っている間にここまで話が進んでいたようだ。そこには叔父様の配慮を感じた。これからは2人でそれぞれ新たな道を歩いていけるようにと。それでもどこかで繋がっていられるようにという思いを感じられた。
 
「……そんなに話が進んでいただなんて」 

「残っていた問題はヴィーの気持ちだったから。兄上から、巡りあったとはいえこの数年で心変わりされてたら潔く諦めろと言われていたしね」

「へ、陛下から……」

 驚くべき裏話だ。

「だからヴィーから返事がもらえなかったらその時点で、僕は玉砕というわけだ」

「……初めて知った」

「これでも酷く緊張していたんだよ?」

「さすがね、見えなかったわ」

 優しく暖かな笑みからは、緊張の様子はまるで伺えなかった。

 話題は報酬である爵位について移る。

「ちなみにだけどヴィー。新たに名乗る家名を決めてもらおうと思ってね」

「家名を……」

「あぁ。ここからは是非彼にも同席願おう」

 そう告げると外で待機する者に叔父様を呼びに向かわせた。

「……ウィル」

「ん?」

「私の不安要素は……まだ消えてないわ」

「……それはもしかして」

「えぇ。お嬢様……フローラ様のことよ」

「あぁ、もしかして彼女の縁談を潰したと思っているのか」

「当たり前でしょう……お嬢様にとってこれ以上ない最良な相手だったのに」

「……それは国内の話だね。安心して、リフェイン嬢には本人が望む幸せを斡旋させてもらうから」

「だからそれが」

「僕じゃないよ、彼女にとっての最善は」

「え……?」

「リフェイン嬢の好みじゃないだろう。本人もこの話は承諾してる。むしろ感激されたくらいだから」

「……な、何故?」

「本人から聞いた方が説得力がますだろうから……この後彼女達も呼ぼうか」

「えぇ……」

 お嬢様がウィルのことを好みでない話は聞いていたものの、まさか縁談が駄目になって感激するとはどう言った用件なのだろうか。

「失礼します」

 叔父様が部屋へと到着した。

「お待ちしていましたよ」

 ウィルと共に叔父様を出迎え、もう一度ウィルとは向かえに座る。隣は叔父様である。

「家名ですよね。ふむ……」

「家名……」

「自由に決めていいと、陛下から言われています」
 
 叔父様には事前に伝えていたのだろうが、私からすれば唐突な投げ掛けなのでどうしていいか戸惑ってしまう。

「……叔父様、何か案はございますか」

「いや、少しの間考えたが何も浮かばない」

 とは言え叔父様も1日もたっておらず、思い浮かばないのは仕方のないことであった。

「私は1つだけなら思い付きました」

「ならそれにしよう」

「何を考えたの?」

 家名はこれから残る大切なもので、特に叔父様にとっては一生の名前となる。それをしっかりと踏まえた上でつけてほしい名前だった。

「フィーディリアです、叔父様」

「……!!」

「私はロゼルヴィア・フィーディリアとして、叔父様はライオネル・フィーディリアとして」

 あの日のもう1つの功労者である花を称えたくて取ってみた。

「なるほど」

 私の案に思わず感心して頷くウィル。

「……いいな、そうしよう」

「え、ほ、本当ですか」

「あぁ。これ以上のものはないと思う」

「こちらとしても、とても良い名前だと感じますね」

「……それなら」

 思ったよりも簡潔に家名は決まったことに驚きながらも、大切にしていこうと暖かな気持ちが生まれるのであった。

「まぁ、ヴィーはすぐにデューベルンになるのだけど」

 ウィルの小さな呟きはこちら側に届くことなく消えていった。 

「そうだ、叔父様」

「どうした、ロゼ?」

 フィーディリアと名乗り始めれば、私たちは親子になる。

「これからはお父様と呼んでも?」

「!!」

 私にとっての本当の父はあの人に違いはない。だけれど、これから新しく始める人生には亡き人となる。淡白や冷たい人間かもしれないが、これからは隣に座るこの人のことを父と呼びたいと思うのだ。

「……いい、のか?」

「……是非、呼ばせてください。お父様」

「……あぁ、ロゼ」

 暖かな視線が交差しながら、互いに笑みを溢した。少しの間沈黙が流れると、ウィルが気を取り直して告げた。

「……さて、フィーディリア嬢の最後の不安を取り除くとしようか?」

 そう微笑むと、ウィルはフローラ様とリフェイン公爵をここへ呼びに向かわせたのであった。
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