9 / 74
第二章
8
しおりを挟む別室に案内され、今は扉の前にいる。
「では、これにて失礼いたします」
「はい…」
ガイさんはそう言うと颯爽と来た道を戻っていった。
……これってあれだよね。
自分のタイミングで入れってことよね。
…なら一生入らなくてもいいかしら。
「はぁ…」
思わずため息が出る。
知らない人と…それも殿下なんて高位な方なんかと。
乾いたノックの音。
「失礼します」
「どうぞ」
中からはさっきの冷たい声。
入室の許可を得たので思い切って中に入る。
「……」
中には殿下が書類と無表情でにらめっこをしていた。
殿下の部屋というより応接室に近いような雰囲気だ。
「……お初にお目にかかります。オルティアナ公爵家令嬢、アイシアと申します」
淑女の礼をとる。
しかし、やはり殿下は興味がないのか見向きもしない。
「…どうぞ座って下さい」
書類を見たまま、ただ一言。
言葉通り、殿下の正面に座る。
「失礼いたします」
特に緊張はしていない。
心の中では早く終われと願うばかり。
座ったはいいもの、やはり沈黙が流れる。
申し訳ないが、私には殿下と話すことなどないし、そもそも意気投合できるような種類の話も無い。
なので、私から話かけるなどという選択肢は存在しない。
「……」
書類を見終わったのか、殿下は片付け出した。
「……オルティアナ公爵令嬢」
「…はい」
「何か自分のアピールポイントはありますか」
口を開いたと思ったら、まさかの面接が始まりましたよ。
第一次審査とは思ったけど…。
「…特にありません」
「……………では、特技などは」
「……特にありません」
気を遣ってくれたのかわからないけど、似たような質問をされた。
申し訳ないけど、そんなもの私にはない。
アピールポイントはだらだら生活することができるところ、なんて言えないし。
「…そうですか」
はい、そうです。
面接中も殿下は目を合わせず下を向いたまま。
その方がこちらもありがたい。
少しばかり喉が乾いたので用意されていたお茶を飲む。
私は、昔──前世からの癖で、飲むときは受け皿も持ってしまうのだ。
受け皿からコップを離さずに。
これは本当に小さい頃から続いてしまっていること。
とにかく自分の握力に自信がないし、バランス力も無いので両手で持つことをいつも心がけていた。
普通なら片手で持てるのだろうけど。
私はできない…。
…うん。さすがに王城の人が用意しただけあって凄く高級感がある。
でも…あんまりタイプじゃないかな。
リーシェがいれてくれたほうが美味しい。
「……え」
気のせいかな。
殿下から声が聞こえた気がするけど。
…おそらくくしゃみかあくびか咳払いとかだろう。
気にする必要はないか。
「……夢……か……?」
今度は何か言ってる。
……うん。殿下は疲れていらっしゃるのね。
「……。……オルティアナ公爵令嬢」
「…はい」
「……髪にゴミが」
「…あ……ありがとうございます」
そんなことを気にしていたのか。
見られていないと思ってたけど意外に見ていたみたい。
前髪を触る。
何か小さなものが舞う。
「あぁ……夢ではないのですね」
……?
何とおっしゃいました?
「もう……お会いすることなどできないと思っておりました」
えーっと……。
この部屋には私以外に誰かいるのかしら。
それとも…何か演技とかをしてるのかな。
「……顔をお上げください。オルティアナ公爵令嬢」
「え…?」
言われるままに顔を上げれば、どこか嬉しそうな殿下がいた。
……何かあった?
「!やはり…間違いではないのですね」
「えっ……と。……何がでございましょうか」
「あぁ。お会いでき感激です。もう私は今日にでも死んでしまうのではないのでしょうか」
「…?」
いや、あの。
突然何を言い出すのこの殿下は。
……きっと疲れているのね。そうに違いないわ。
「その困惑された顔も変わらず………なぜ私がこの国の王子に"転生"したのかようやくわかりました」
「え」
今、"転生"と言った?
気のせい……よね?
「いえ。気のせいではございません。"転生"と確かに言いました」
怖!
心を読まれてる…!?
「相変わらず思ったことが表情にでてしまうのですね」
「相変わらず……?」
「転生しようと…貴女は結局何も変わらない。今はそれがどれほど嬉しいか」
「はい?」
ちょっと、勝手に一人で世界を作らないでくれないですかね?
私何一つ理解してないのですが。
「あの……えっ?」
「まだ…余韻に浸っていたいところですが……仕方ありません」
「…えっ…と?」
殿下の死んだ表情はどこへ?
今目の前にいるのはキラキラオーラ全開の微笑む殿下なのですけど?
「やっと私の願いが叶う……」
「願い?」
「はい」
え、待って。
凄く凄く嫌な予感がする。
何一つ現状理解はしていないけど、本能が告げる。
────この男は危険だと。
「…………これで失礼します」
うん。逃げよう。
大丈夫。殿下は疲れているだけよ。
だから休む時間が必要なの。
そう言い聞かせて席を立った。
扉へ向かいたかったのだが、何故か殿下に腕を優しく掴まれる。
そして、引き止められたかと思うと、いきなり殿下がひざまずいた。
「……逃しませんよ。我が愛しきお嬢様」
────今なんて?
71
あなたにおすすめの小説
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
完 独身貴族を謳歌したい男爵令嬢は、女嫌い公爵さまと結婚する。
水鳥楓椛
恋愛
男爵令嬢オードリー・アイリーンはある日父が負った借金により、大好きな宝石だけでは食べていけなくなってしまった。そんな時、オードリーの前に現れたのは女嫌いと有名な公爵エドワード・アーデルハイトだった。愛する家族を借金苦から逃すため、オードリーは悪魔に嫁ぐ。結婚の先に待ち受けるのは不幸か幸せか。少なくとも、オードリーは自己中心的なエドワードが大嫌いだった………。
イラストは友人のしーなさんに描いていただきました!!
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました
春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。
名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。
姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。
――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。
相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。
40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。
(……なぜ私が?)
けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。
婚約破棄された夜、最強魔導師に「番」だと告げられました
有賀冬馬
恋愛
学院の祝宴で告げられた、無慈悲な婚約破棄。
魔力が弱い私には、価値がないという現実。
泣きながら逃げた先で、私は古代の遺跡に迷い込む。
そこで目覚めた彼は、私を見て言った。
「やっと見つけた。私の番よ」
彼の前でだけ、私の魔力は輝く。
奪われた尊厳、歪められた運命。
すべてを取り戻した先にあるのは……
【完結】公爵令嬢の育て方~平民の私が殿下から溺愛されるいわれはないので、ポーション開発に励みます。
buchi
恋愛
ポーシャは、平民の特待生として貴族の学園に入学したが、容貌もパッとしなければ魔力もなさそうと蔑視の対象に。それなのに、入学早々、第二王子のルーカス殿下はポーシャのことを婚約者と呼んで付きまとう。デロ甘・辛辣・溺愛・鈍感コメディ(?)。殿下の一方通行がかわいそう。ポジティブで金儲けに熱心なポーシャは、殿下を無視して自分の道を突き進む。がんばれ、殿下! がんばれ、ポーシャ?
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる