転生令嬢はのんびりしたい!〜その愛はお断りします〜

咲宮

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第三章

25 前世という名の過去編3

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幼い少女、花乃にとって何気ない言葉は、少年にとっては変わりのない大切なものとなった。

「花乃…様」

「うん!」

名前を呼んだものの、何かしっくりこなかった。
そういえば、運転手であった佐山さんは恭一郎のことを名前ではなく旦那様と呼んでいた。
もしかしたら自分にもその呼び方が合っているのではないだろうか。
そう少年は考えた。

「お嬢様」

「……うん」

花乃はどこか不思議そうに返事をした。
彼女は、自分と呼ばれたのがわかればそれでいい…あまり呼び方にこだわらなかった。

「お嬢様…と呼ばさせていただきます」

「えぇ。わかったわ」

少年がどこか満足そうに言うので、思わず花乃も嬉しくなった。
少年にとっては、こちらの方がどこかしっくりきたのだろう。

「ねぇ」

「はい」

「あなたの名前は?何て呼べばいい?」

「………」

少年は一瞬戸惑い、そして悩んだ。
あの家族とも呼べぬ者達から言われ続けたその名前を、少年は好きでは無かった。
あの家に、置いてきたつもりだったのかもしれない。
そんな名前もので呼ばれたくなかった。
何故かそんな思いにかられた。
悩んでいる間、黙り込んでしまっていたようで花乃は少し心配そうに聞いた。

「…ごめんなさい不快にさせてしまったら」

何かを察したような言い方だった。
少年はそれを申し訳なく感じた。
そして、決断する。

「……元の名は捨てました。ですから、お嬢様が呼びたいように呼んでください」

「……」

少年にとっても、自分とわかれば呼び方にこだわるわけではなかった。
別に、名前などなくても大丈夫。
そう考えたのだ。

「それって私が名前をつけていいということよね!?」  

返ってきたのは意外な言葉。

「え」

「どうしよう。誰かの名前を考えるなんて初めてなの…。ペットを飼ったこともなくて。……うーん」
 
「……」

少年は、純粋に嬉しかった。
しかし、同時に驚いてもいた。
目の前にいる花乃の反応は、自分の知らない反応ばかり。
しかも、それは全て少年にとって凄く良いものになっていた。

「ちょっと待ってね…」

しっかりと考えてくれる姿を見ると、胸が暖かくなった。
本気で自分に向き合ってもらえていると実感できたのだ。

「……よし決めた」

そう言って花乃は少年にしっかりと向き合った。

「あなたの名前は今日から赤月!」

「赤月…赤い月…?」

「そう。赤い月って、嫌な意味を聞いたことは多いと思うの。でも最近ね、ストロベリームーンという言い方があるのを知って。ストロベリームーンには"願いが叶う"という良い意味もあるの!私は、あなたにあって願いが叶ったわ。だから今度はあなたに願いを叶えてほしい。それと、嫌な意味なんて感じさせないくらい…凄い人になりそうだから」

「……ありがとう…ございます。大切にいたします」

「変かもだけど…ごめんね」

「お嬢様…どこか変なのでしょうか。このような素晴らしい名をいただき、誠に光栄でございます」

「そう…?」

「はい。大変嬉しく思います」

自分のためだけにわざわざ考えてくれた。
その行動一つでさえ、赤月にとっては嬉しかったのだ。

「良かった…」

花乃も思わず安堵した。
気に入られたみたいで何よりだった。

「じゃあ…これからよろしくね赤月」

「はい。お嬢様」

少年は、赤月という名を手にし新しい人生を歩み始めることとなった。






それはもう晴れやかな気持ちで。
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