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第三章
24 前世という名の過去編2
しおりを挟む車が止まった。
外を見れば、豪華なという言葉では足りないくらい広い豪邸。
きらびやかというよりも落ち着いた雰囲気が特徴的だ。
「さ、降りて」
「…」
自分の元いた家よりもはるかに大きいことに驚く。
「そういえば。僕君に自己紹介してなかったね。…こほん。改めまして。僕は藤御堂恭一郎。ここ藤御堂家の当主だよ」
「!」
藤御堂家。
それは、この国で最も有名とされる家。古くからの伝統や経営力でこの国の経済界のトップを不動のものにしている。
しかし、その姿は謎に包まれている。
……その藤御堂家の、まさか当主だったとは。
「良かった。さすがにうちの事は知っててくれたみたいだね」
そう言いながら恭一郎が歩き出した。
本邸らしきところに入れば、この家の使用人の人々からの出迎え。
ただただ少年は恭一郎についていくしか無かった。
圧倒的にわからないことの多いまま、流れに身を任せていた。
美しい家の造りに気をとられていると、いつの間にか恭一郎からはぐれてしまった。
ここが家の何処かなどわかるわけもなく、ただ立ち尽くしていた。
「……」
人気があまり感じられない。
元来た道を戻ろうとした、そのとき。
「あなたは誰?」
可愛らしい声。
そこには小さな女の子がいた。
10歳くらいだろうか。
「……」
突然のことに驚いていると、少女が口を開いた。
「もしかして…父様のお客様?」
「……客じゃない。雇われ人」
「雇われ…?もしかして!」
「?」
雇われ人と聞いて少女が嬉しそうに少年に近寄った。
「あなたが私の専属執事でしょ!」
「専属…?」
「そう!…父様と約束したの。兄様や姉様には専属執事がいるのに私にはいないから。私にもいて欲しくて」
自分はこのために連れて来られたのか。
そう少年は思った。
「…専属なんて…いるの…?」
「もちろん…!」
「まぁ…便利だしね」
少年はどこか棘を含む言い方をしてしまう。
「…仮に自分が専属執事だとして…。こんなボロボロで汚い奴でもいいの。使えないかもしれない。何の役に立たないかもしれない」
少年が一気に言うと、少女は一瞬目を見開いた。
しかしすぐに恥ずかしそうに顔を伏せた。
「ごめんなさい。勝手に一人で舞い上がっちゃって…。……私は使えるとか、役に立つとかじゃなくて、その…」
柔らかく…どこか寂しそうに少女は微笑む。
「ずっと自分の傍にいてくれる人が欲しいの。……頑張ったときに褒めてくれたり、悲しいときに慰めてくれたり。…そんな人が。別に、専属執事なんてただの肩書きでいいから」
それは、幼い少女の小さな願いに思えた。
「…それは、別に自分じゃなくてもできる」
少年はどこまでも否定的だった。
「…そうかもしれない」
これには少女も返す言葉が無い…そう思われた。
「でも…あなたがいいな」
「…?なんで…」
「……なんだかね、とてもあなたの近くが落ち着くの。…出会ったばかりなのに変だし、気持ち悪いかもしれないけど。…あなたの暖かで優しい雰囲気がとても心地よくて」
暖かで優しい…?
自分の、一体どこにそんな要素があるのだろうか。
「そういうのって、自分ではわからないと思う。でも…私は少なくとも感じる…」
「……」
「凄く不思議な感覚。…ふふ」
目の前にいる少女は嬉しそうに微笑んだ。
しかし、少年は理解ができない。
「…そんな人は他にでもいる」
「…どうだろう。私は今のところあなたにしかまだ、出会っていないわ」
「…ならこれからも出会う」
「……」
それを聞いて少女は少し考え込んだ。
「出会わない気がする…」
そう呟いた。
少女にとっても、本当に初めての感覚だったのだ。
今まで出会ったことのない、明らかに何かが違う感覚。
ただ、不思議と確信がもてる。
この先、こんな出会いはきっと無いと。
これが運命の出会いというのに、きっと少女は気が付かないだろう。
「…じゃあ、約束する。この先、何があっても私があなたを傍におく。誰かに変えるなんてことは絶対にしない。だって私はあなたがいいんだもの。だから…私の専属執事になってくれませんか」
小さな少女は、少年に向かい合って言葉を紡いだ。
その言葉は、少年が今まで心の何処かで欲していた言葉。
きちんと自分を見た上で、自分の存在を認めてくれる…そんな言葉を。
少女の言葉は少年にとってどこまでも暖かく、乾ききった心を潤していった。
そして、少年も確信する。
この少女以外いないと。
「自分で…良いのなら」
「!本当に?」
「…はい」
少年は、初めて嬉しい涙を流した。
感動が何かを、体は感じたのだろう。
「ありがとう…凄く凄く嬉しい…!……あ、私は花乃と言うの。よろしくね」
そう少女────花乃は、これ以上ない喜びの笑みを浮かべた。
こうして、二人は出会った。
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