324 / 499
第一部「ハルコン少年期」
37 研究所の長い一日_22
しおりを挟む
* *
「なるほど、女盗賊さんもついに王都に進出ですか?」
「えぇ、そうでやす。王都は今、空前の開発ラッシュ? でやしてな。アタイば事務所にお声がけを頂きやして、……。領では、ここしばらくをば、手すき(仕事が減っていること)なものゆえ、応援をばきたところでやす。まんず、ば3次下請けってヤツばいな!」
なるほど。通常の工事の業者なら、申請書類で女盗賊さんが入所したとワカったはずだ。
でも、3次下請けだと、書類で通していなかったことも、「突発」ならあり得るか。
とりあえず、今度からはもう少し、提出された書類をちゃんと精査する必要があるかもなぁとハルコンは思った。
「そうでしたか。では、しばらくの間、王都にいらっしゃるのですか?」
「あぃ」
そう返事をして、女盗賊はメスの牙狼がニッコリと微笑むような、柔和な表情で頷いた。
ハルコンは彼女の変わらない笑顔に、久しぶりの再会に心穏やかな気持ちになった。
訊くと、今は丁度昼休憩の時間とのことなので、彼女を研究所の食堂まで連れてゆき、セイントーク領の話などをいろいろ聞くことができた。
どうやら、再開発も順調に進み、そろそろひと休みの頃合いに入ってきているように窺えた。
「それにつけても、ハルコン殿。大変出世をばなされたのやすな。この広い研究所の所長をされてると伺いやして、おったまげたでやす!」
「ははは、ありがとうございます。私なんてまだまだ子供ですから。あくまでお飾りだと思っていますよ!」
「そ、そんなことねぇでやす。ハルコン殿は、今や子爵の大貴族でやす! 以前頂いた貴重な仙薬A? でやしたか、……ウチの若い衆がへまをやりやして、大ケガをばしとったんだすが、あのお薬をば飲み申すて、息を吹き返したばい。げにまっこと、感謝申す上げるとでやす!」
「それはよかったです。あの薬は、もう直ぐ量産体制ができそうなんです。先行して、女盗賊さんのところにも、何ケースか後で送っておきますね!」
「誠に感謝でやす」
そう言って、女盗賊は深々と頭を下げた。
そのタイミングで、同席していたカルソン教授が、こちらにアイコンタクトをしてきた。
「失礼、ハルコン所長。こちらの女性の方は、お話を伺うと、今でも盗賊稼業をされてらっしゃるのですか?」
「いいえ、カルソン教授。この方は、今は従業員をたくさん抱えた、立派な実業家なんですよ。ですから女盗賊さんというよりも、元女盗賊さんの方がしっくりくるかもしれませんね」
「ふひひ、元でもどちらでも、よか方で構わんとだす!」
切れ長の大きな目を細め、笑顔で教授を見つめる女盗賊。
一見すると柔和なそれだが、鋭利なナイフのような凄みが、少しも隠しきれていない。
カルソン教授も笑顔のまま「ゴクリ」と唾を飲むと、その音がハルコンの耳にまで届いてきた。
あぁ、なるほど。見る人が見れば、女盗賊さんの凄みがちゃんとワカるんだね、とハルコンは思った。
「では、所長。この度の移動の件、こちらの元女盗賊さんに護衛の依頼をかけたら如何でしょう? 以前、赤ん坊の頃の所長を救出した話とかも伺っておりますし、とても信頼に足る人物とお見受けします」
「なるほど。女盗賊さん、今後の予定はどうなっておりますか?」
「ん~っ? アタイば、獣人の人足をば現場に届けたら、後はフリーだす。このままぶらぶらと王都観光をばせた後、セイントーク領に戻る予定でおりましたでやす」
「それならば、如何でしょう? 私は週明けにサスパニアまで出張に向かうのですが、護衛依頼をかけてもよろしいでしょうか?」
「ん~っ?」
そう言って、女盗賊は首を捻って、しばし考えた様子だ。
彼女は私が昔大変世話になった人だし、セイントーク領発展に大いに貢献した、今や地元の名士の一人だ。この話を引き受けてくれたら、ホンとありがたいんだけどなぁ、……と、ハルコンは思った。
「よかよ!」
元女盗賊の名士様は、事もなげにニッコリと快諾してくれた。
「なるほど、女盗賊さんもついに王都に進出ですか?」
「えぇ、そうでやす。王都は今、空前の開発ラッシュ? でやしてな。アタイば事務所にお声がけを頂きやして、……。領では、ここしばらくをば、手すき(仕事が減っていること)なものゆえ、応援をばきたところでやす。まんず、ば3次下請けってヤツばいな!」
なるほど。通常の工事の業者なら、申請書類で女盗賊さんが入所したとワカったはずだ。
でも、3次下請けだと、書類で通していなかったことも、「突発」ならあり得るか。
とりあえず、今度からはもう少し、提出された書類をちゃんと精査する必要があるかもなぁとハルコンは思った。
「そうでしたか。では、しばらくの間、王都にいらっしゃるのですか?」
「あぃ」
そう返事をして、女盗賊はメスの牙狼がニッコリと微笑むような、柔和な表情で頷いた。
ハルコンは彼女の変わらない笑顔に、久しぶりの再会に心穏やかな気持ちになった。
訊くと、今は丁度昼休憩の時間とのことなので、彼女を研究所の食堂まで連れてゆき、セイントーク領の話などをいろいろ聞くことができた。
どうやら、再開発も順調に進み、そろそろひと休みの頃合いに入ってきているように窺えた。
「それにつけても、ハルコン殿。大変出世をばなされたのやすな。この広い研究所の所長をされてると伺いやして、おったまげたでやす!」
「ははは、ありがとうございます。私なんてまだまだ子供ですから。あくまでお飾りだと思っていますよ!」
「そ、そんなことねぇでやす。ハルコン殿は、今や子爵の大貴族でやす! 以前頂いた貴重な仙薬A? でやしたか、……ウチの若い衆がへまをやりやして、大ケガをばしとったんだすが、あのお薬をば飲み申すて、息を吹き返したばい。げにまっこと、感謝申す上げるとでやす!」
「それはよかったです。あの薬は、もう直ぐ量産体制ができそうなんです。先行して、女盗賊さんのところにも、何ケースか後で送っておきますね!」
「誠に感謝でやす」
そう言って、女盗賊は深々と頭を下げた。
そのタイミングで、同席していたカルソン教授が、こちらにアイコンタクトをしてきた。
「失礼、ハルコン所長。こちらの女性の方は、お話を伺うと、今でも盗賊稼業をされてらっしゃるのですか?」
「いいえ、カルソン教授。この方は、今は従業員をたくさん抱えた、立派な実業家なんですよ。ですから女盗賊さんというよりも、元女盗賊さんの方がしっくりくるかもしれませんね」
「ふひひ、元でもどちらでも、よか方で構わんとだす!」
切れ長の大きな目を細め、笑顔で教授を見つめる女盗賊。
一見すると柔和なそれだが、鋭利なナイフのような凄みが、少しも隠しきれていない。
カルソン教授も笑顔のまま「ゴクリ」と唾を飲むと、その音がハルコンの耳にまで届いてきた。
あぁ、なるほど。見る人が見れば、女盗賊さんの凄みがちゃんとワカるんだね、とハルコンは思った。
「では、所長。この度の移動の件、こちらの元女盗賊さんに護衛の依頼をかけたら如何でしょう? 以前、赤ん坊の頃の所長を救出した話とかも伺っておりますし、とても信頼に足る人物とお見受けします」
「なるほど。女盗賊さん、今後の予定はどうなっておりますか?」
「ん~っ? アタイば、獣人の人足をば現場に届けたら、後はフリーだす。このままぶらぶらと王都観光をばせた後、セイントーク領に戻る予定でおりましたでやす」
「それならば、如何でしょう? 私は週明けにサスパニアまで出張に向かうのですが、護衛依頼をかけてもよろしいでしょうか?」
「ん~っ?」
そう言って、女盗賊は首を捻って、しばし考えた様子だ。
彼女は私が昔大変世話になった人だし、セイントーク領発展に大いに貢献した、今や地元の名士の一人だ。この話を引き受けてくれたら、ホンとありがたいんだけどなぁ、……と、ハルコンは思った。
「よかよ!」
元女盗賊の名士様は、事もなげにニッコリと快諾してくれた。
86
あなたにおすすめの小説
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた
季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】
気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。
手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!?
傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。
罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚!
人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる