異星人が見た異世界転生記(我輩はゴアである・改)

雲黒斎草菜

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第三巻・ワンダーランド オオサカ

 深夜の訪問者

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 窓から注ぐ柔らかげな風に煽られて、部屋のカーテンがふありと広がり、そこから射し込む青白い月の光がアキラの勉強机を強く照らしていた。

(誰かおるのか?)
 こんな夜中に。しかもまったく音も聞こえない。だが人の気配がした。

 訪問者だとすると、少しマナーに欠けておるな。

(ん?)
 机の表面をしなやかに揺れ動く影が一つ。視線を移動させて面食らう。窓枠に腰かけた誰かが、足を外に垂らしてプラプラさせておった。

(なっ!)
 息を呑んだぞ。あー呑んだともさ。

 影を作り出していた人物は、とんでもなく妖しげな空気を纏った一人の少女だった。
 真っ白な両肩を曝け出した袖のない水色のロングワンピース。薄く柔らかな衣服はボディの曲線をあからさまに剥き出しにしており、光の織りなすその妖艶な姿は誰もが息を呑む形をなしていた。

(素晴らしい……。なんと月の光に映える少女なんだ)
 我輩の思いが自然と言葉を刻んでいた。

 白い肌は光を吸い取るように透明感があり、必要以上に大きな目には水で濡らしたガラス玉みたいな瞳が二つ。その中に映り込んだ満月がキラキラと揺れ動いていた。

「………………」
 窓枠から寝ているアキラのベッドに半身を捻らせ、時々何かを語るのだが、何も聞こえない。たぶん独り言をつぶやいておるのだろうが、可愛らしい小さな唇が魅惑的な動きを示しており、そこから目が離せないのだ。

 この子は誰だ?
 シルバーアッシュでもしたのか、風を含んだ髪は細く長い銀白色だ。まるで透き通った川面をたゆむ水草みたいにたなびいていた。

 アキラの同級生であろうか?

 いやいや。同級生にこんな超然たる美少女はいない。アキラの学校で一番は藤本恭子ちゃんである。あ、それ以外の女子がアレだとは言っておらんが、ひとり富士山型のボディをした委員長は除くがな。みなそれなりに可愛いのだが、この少女は異質な魅力を持っていた。

 まさか別の学校の友人か?
 ガールフレンド?
 このアキラにか?
 大きくかぶりを振る。

 あり得んな。

 当の本人はでっかい口を開けて爆睡中である。窓辺にとんでもない美少女が腰かけておるのに、どうだ、あのバカ面は……情けないぞ、我輩は。


 絹糸で織られたような高級感のある衣服が、すりゅりと滑らかな音を出し、まるで体重を感じさせない優美な動きで窓枠に両足を載せると、少女はその上を軽々と歩いて真横にある勉強机へ飛び移った。
 静かな音を立てて両手両足で着地。ドレスの裾が波打ち、銀髪がふありと舞う。

(なんと!)
 少女はケモミミであった。つまり獣ミミであるぞ。
 まあるいヒップを突出し、音を立てずに四つ這いで辺りを窺い、満足げに吐息を落すと、気持ち良さそうに机の上で仰向けになった。そしてしなやかな手足で艶めかしく宙を掻き体をくねらせた。

 月明かりの下で披露されたとんでもなく妖しい振る舞いは、我輩の胸の内を鷲掴みにしてくれた。そう、けしからんボリュームをしたボディに視線が固着してしまったのだ。

 我輩は急いでスマホを録画モードに切り替えた。ギアに見せて自慢してやるのだ。なぜなら、今夜あいつは博士のカバンに忍び込んで花園(キャバレー)へ行っておる。奴だけ良い思いをされたくないのだ。

 だいたい我々は電磁生命体なのである。送電線経由で行けばキャバレーであろうがストリップの楽屋であろうが、瞬時に移動できるのだ。つまり小型飛行機を使えば簡単にエベレストの頂上を見ることができるのに、徒歩で行く苦労が知れん。と言ってやったが、奴は臨場感が違うと突っ返して、あえて冒険するほうを選びよった。

 なんか自尊心が傷付けられたのだが、こうして間近で少女の行動を目の当たりにすると、ギアが言った臨場感という言葉が滲みてくる。やはりレンズを通して見たほうがより鮮明に見える。

 おっと、反論は受け付けんぞ。
 我々はな、視覚細胞を持つヒューマノイドとは感性が異なるのだ。


 少女は机の上でコロコロと転がり、横向けに寝ると、もう一度部屋の中を見渡した。

「誰か入ってる?」

 それは可愛らしげなアニメボイスだった。今度ははっきりと聞こえてきたが意味が通じん。入って来たのはこの子のほうなのだ。

 それにしてもなんと深い目をしておる子だろ。清澄な黒い瞳と鳶色(とびいろ)の虹彩は無垢な光に満ちており、悪意を持って侵入して来たのではないと言い切れる何かを伝えてくる。どちらにしてもアキラの友人ではないようだ。

 意味不明の安心感を抱き、ほくそ笑む我輩の背後から、
「ねえ……」

(誰だ?)

「ねぇ……」

 もう一人の声が。
 こちらもアニメ風だが、どちらかと言うと元気のいい少年の役柄がぴったりの声。かと言っても、オデン好きでスキンヘッドのチビガキを演じる声優さんほど弾けてないぞ。●●松さんではないほうな。そう言えばこのあいだカミタニさんが絶賛しておったぞ。輪郭線を黒にせず青系の色にしたのは革新的だと……ま、関係無い話ではあったな。すまんな、青年。

 話を戻そう。


 光が作り出した白と黒の明暗が折り重なる隙間から、もう一人の少女がまるで黒い幕の後ろから現れるかのように解放的な長い脚を曝け出し、光の舞台へと登場した。

(うおぉぉぉ)
 こちらも溜め息ものであった。

 大きく突き上げた胸元を大胆に広げた青と濃紺のチェック柄シャツ。レースで縁取られたミニスカートから伸ばした脚をさらに長く強調する黒いオーバーニーソ。スカートまでの太腿が強烈にまぶしく我輩の目を突き刺してきた。

 机の上で寝そべる少女が白と言うのなら、こちらの少女は健康的に陽に焼けた小麦色。エンドレスサマーの世界からやって来た浜辺の美少女だ。キャップ帽を深めにかぶり顔はよく見えないが、整った口元を見るだけでわかる。相当な美形である。

 白い少女とは対照的にこちらの髪は濃い栗色。どちらも美しさに変わりは無い。月光で金色に輝かせたロングヘアーをハーフアップにしたスタイルはボーイッシュだ。尖った顎から耳の先までの曲線の美しいこと。我輩は何度も溜め息を吐いていた。


 この二人は何者であろう?
 会話から推測すると何かを覗きに来ているようにも感じられるが、ここはアキラの部屋だ。ある物と言えばマンガとアニメのDVDぐらいなのだ。

 もしや博士の研究を盗みに来たスパイ?
 それもあり得ない。この家はそのような輩に対処すべき対策が施されておる。その最たる頂点にそびえ立つのがNAOMIさんである。あの方は24時間すべての事象を監視しておるからな。

(なんと!)
 キャップに隠れてよく見えなかったが、こちらもケモミミであった。マジ本物の獣耳であろうか。いやそりゃぁないな。ディスベル星系では獣人が支配しておって、ケモミミは当たり前だったがここは地球である。

 そうか。レイヤー(コスプレイヤーの略)の少女たちがこの近所で集まっていたのだが、その子らが迷い込んだのだ。そういう事か。これはお得感満載なのだ。こちらから行かずして向こうからのご訪問である。強いて言えばチャイナ系が良かったのだが、いやいやどうして、お稲荷系もいいもんだな。


 にしても──。
 超絶美少女が二人も窓から入って来て、一人は机の上で横たわり、一人はアキラの椅子に座り──ぬぉ! 腰掛けておるかと思ったら、両足を座席に載せて膝を抱いて座っておる。ミニスカートでその体勢は、くのぉぉ。スマホの置かれた位置からでは正面が見えん。バイブを利用して移動してやろうか。いやしかし、そうすると派手な音が出てあの子らに気付かれる。

(こ、こら。アキラ! グースカやってる場合ではないだろ! ミニスカ女子であるぞ!)

 一度寝たら天地がひっくり返っても起きない奴だが、これはチャンス──なのか。よく解らないが、とにかく起こさなければ。

 最低の音量で、
「アキラ、起きろ」
 やはり肝心のアキラは、イビキで返事をするだけ。代わりに、
「あきらー?」
 白い少女がスマホの置いてあるサイドデスクに腕を伸ばしてきた。

 ヤッバ。まずったかな?

 少女は我輩が入ったスマホを白く長い指でつまみ上げると、顔近くまで持って行き、レンズに向かって、こくっと小首を傾けた。

 か……可愛いのだ。
 ギア! 超ドアップで、獲ったどぉぉぉ!
 あ。撮った、だったな。

 日本語は正しくな。我輩が言うのも何だが──そだ。この際である。作者に向かって釘を刺しておくからな。あいつの日本語が最もおかしいのだ。


 とかやっておるが、危機的状況は打破されていない。
 ついに……。
「あー見えるよー」と白い少女が言い。
 スマホに優しく手を添えて来たのは小麦色の少女。

「……こっちからも見えるよ」

 わ……我輩が見えるとですか?
 もうシッチャカメッチャカである。どこの方言かも知れんが許しておくれ。

「おフロの中が見える……」

「へ? 風呂?」
 意味不明なのだ。まったく状況と言葉が一致していない。しかもこの子たちはスマホをただの機械として認識していないと思われるふしがある。まさか我輩のことを知っておるのか?

 この携帯に我輩が潜んでいることを知っておる者はほんの一部の人間だけである。レイヤーの少女たちが知る由もない。
 しかしここまで来たら黙ってはいられない。可愛さよりも怪しさ倍増である。

「き……きみたちは誰だ。説明を求める。このままでは不法侵入となってだな。場合によっては……あ? むにゃ……」
 急激に睡魔が襲ってきた。

「ほぉら。丸見えだー」
 白いほうの甘い声音にくらっとする。
「な、何が見えるのだ? いったいきみたち……は……あふぅ」
 何かを透かして見るような澄明な瞳に覗きこまれ、眠気を誘う心地のよい音波は……ぐぅ。

「──って。我輩は電磁生命体なのだ。眠るわけが無かろう……うぅ……むにゃ……」
  
  
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