異星人が見た異世界転生記(我輩はゴアである・改)

雲黒斎草菜

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第三巻・ワンダーランド オオサカ

 魔猫の嘆き(第三巻・最終話)

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「世話を焼かせやがって」

 クララの足下に恍惚状態のケモミミの少女が身をくねらせていた。
 児童福祉法違反にも思える光景なのだが、ケモミミは本物だし、少女ではないのでたぶん問題は無いだろう。

 にしても尋常でない陶酔状態なのは、広場に連れてこられたメルデュウスをもう逃がすまいと、残っていた大量のマタタビラクトン濃縮液をギアがドローンからばら撒き、それを全身に浴びたのだ。深い酩酊を続けるのは致し方ない。
 意外と長い手足をバタつかせて草っ原を転げ回り、地面に全身を擦りつける様子は、今さら言うのもなんだが、猫科の動物が起こす挙動そのものである。

 それでも半身を起こし、
「殺シニ来タノカ?」
 やはり言語を理解しておる。
「誰も殺したりしまへんがな」
「ジュノン・アカディアンのケトラスはマッショウするとキイタ」
 意外としっかり喋るメルデュウスに驚きである。

「なんでっか? ケトラスって?」
「メルデュウスのことだ。手に負えないほうを矯正するのが一般的だ」とはクララ。

 キヨ子はぐいっと小さな体を前に出し、
「野蛮な! 私の目の黒い内はそのようなことはさせません」
 黒いも白いもあんたは6才だ。
「安心しろキヨ子。我々はキャザーンだ。メルデュウスごときを手に負えないなどと言わぬワ。娘子軍と比べたらむしろ可愛いほうだ」
 どんな集団なのだ。

 クララどのは腕を組んだ優美な姿をケモミミ少女に向け、
「ただ、お前にはまだ規律が学ばれていないだけだ」

「キリツ?」

「そうだ。集団で行動を起こすには規律が必要なのだ。一人ではデカイことはできぬ。そのため我々は群れる。だが集団で行動を起こすには互いに協力し合い、団結しあわなければ真の力は発揮できない。全員の力を束ねるために必要なきまりがある。それが規律だ。それに従って一気に爆発させる。これが娘子軍であり、KTNなのだ」

 ほぉ。さすがキャザーンの頭領だな。NANAから独り立ちして立派になったモノであるな。

「どうだ、メルデュウス。今日みたいに大勢の観客の前で踊ってみぬか?」
「カラダを動カスのハ好キ……」
「よし。なら下宿へ帰ったらお前のオーディションをしてやろう」
「オーデション?」
「ああ。お前の適性を測る。ラビウスには動物系の番組に出てもらう。そしてメルデュウスはドルたちのバックダンサーとして、KTNのライブでワイヤーアクションをワイヤー無しでやってもらう。美少女が宙に舞う姿。受けるぞ」
 芸能会社の本領発揮というワケであるな。ていうか、ほとんどシルク・●ゥ・ソレ●ユだな。
 それはそれはまったくもって素晴らしいショーである。

「なぁ、クララはん? 照明係はワテにやらせてもらえまへんか」
「いいだろう」
 クララは大きくうなずき、我輩は呆れ果てる。
 身内ですべてを固める。キャザーンならではの戦略だ。

 納得したメルデュウスはクララに身を任せ。ドルベッティはラビラスを抱き寄せる。これで一件落着なのである。

「ねえ。このおじさんはどうするの?」
 のんびりした声で尋ねるアキラと、青いシートの端っこをそっとめくる恭子ちゃん。
「ぐっすり寝ていますね」
 
「だったな、すっかり忘れておった」
 お気の毒にな、ヲガワさん。

「ひとまずセスナを返してくる。オマエらは先に下宿へ帰ってくれてもよいぞ」
「はあぁ。疲れたな。せや。アキラ、タコ焼き買って帰ろうや」
「いいね。今夜はたこ焼きパーティでもしようよ」
「タコ焼き代はおまはん持ちな」
「え~~。ここまでのタクシー代は僕が払ったんだよ」

「ほら、これで買って帰れ。釣りはタクシー代にしろ」
 と1万円札を出したのはクララである。さすがKTNプロモーションの女社長だ。仲間をねぎらう術もスマートだった。

「やれやれ……」
 キヨ子どのは6才児の口から出たとは思えないくらいラノベ慣れしたセリフを漏らし、膝に付いた砂を払って立ち上る。
「それじゃあ。セスナをたのみますよ」
 この子がどんどん年寄り臭くなって行くようだが、大丈夫かNAOMIさん?

「今回はあたしも疲れたわ」
 疲れない、疲れない。あんたは一生疲れない。


 クララとドルベッティは、寝ているヲガワさんを機長席に座らせ、我輩も顛末を最後まで見ておきたかったのでクララと同乗した。
 機は再び空へ舞い上がり、そして何食わぬ格好で駐機場へセスナを格納した。

「はぁぁ。無事に済んだな」とは我輩。
 究極の柔軟材に包まれたスマホの中から、安堵の息を吐いた。
 クララどの胸ポケットは極楽である。アキラの木琴みたいなゴツゴツした胸ポケットには戻りたくない。

 至高の気分に浸る我輩には気付きもしなかったのだが、
「なんだこれは?」
 妙な雰囲気を肌で感じたのであろう。クララとドルベッティに緊張が走っておった。

「囲まれてるぜ、お姉さま……」
「囲まれた? 誰に?」
 外を見て、吃驚仰天(びっくりぎょうてん)である。

「ネコだ!」
 駐機場の金網からネコが侵入してくる。それも非常識な数のネコ集団である。おそらくこの埋め立て地に住みついた野良猫たちだろうが、その数が凄まじい。じわりじわりとセスナ目指して忍び寄って来る。

「マタタビ効果だ!」

 イリドミルメシンの濃縮原液をぶっかけられたセスナからネコたちには堪らない芳醇な香りが飛散しているのであろう。しかも空から撒きながら着陸したのだから、舞嶋中のネコが集まって来たのに違いない。こうもネコに効き目があるとは。まことに吃驚仰天(びっくりぎょうてん)であった。

「人間には気付かれないから、放っておけ」
 さすが根性の座ったクイーンだ。
 我輩も思う。そのうち飽きたら離れていくであろう。
 それよりもだ。眠れるセスナの持ち主をどうするかであるな。

「ヲガワさん起きて……」
「ん……………むにゃ?」

「オッサン、着陸したぜ!」
 荒っぽく揺り起こすのはドルベッティ。

「起きねえな。お姉さま」

「地球人にスタンキーは、きつ過ぎたのか?」
 クララは首をかしげ、とんでもないことをドルベッティに命じた。
「仕方が無い。ソニックシェーバーでケツでも突いてみろ」

 おいおい。荒っぽいな。

「あ……」
「どうした、ドル?」
「シェーバーが無い」
 ポカンと口を広げるドルベッティ。

「どういうことだ?」

「たぶん。魔法の村の辺りで落としたんだ」
「おいおい。今さら探しには行けぬぞ」
「どーしよ」

 クララは白い指で唇の下あたりを押さえ、思案すること数秒。
「もう放っておけ。そのうちバッテリー切れになるだろ」

 ちょっと待つのだ。もし闇の魔法使いの誰かが拾ったらそれは本物の魔法の杖となるぞ。

「あるいは……」
「何であるかな、クララどの?」

「UFJが20世紀FAXと契約しないことを祈るだけだ」
「ファックス? どういう意味だ?」

「映画会社ではないか、あそこと契約してみろ。UFJのことだ必ず『スペースヲォーズ』をテーマにして何らかのアトラクションを作る。そうしたら、ほら……」

 あそこの映画会社な……20世紀FAXとかいう。
 あ。ほんとだ。黒騎士の頭領が本物の光の剣を振り回すかも知れないのである。
 今度のUFJは危険なのだ。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 後日談で悪いが――
 何とか目覚めたヲガワさんは、操縦教官が眠りこけたとはあるまじき行為。頼むから内緒にしてくれと、遊覧費用を無料にしてくれたそうだ。
 加えて尾山航空遊覧サービスの社長は新たな業務アイデアを出した。
 それがさっきニュースとなってお茶の間に流れておったのだ。

「ねえ。なんでネコと一緒に遊覧飛行をするサービスを考えたんだろうね、ヲガワさん」
 テレビの画面から、食卓にティーカップを並べているNAOMIさんへと視線を移動させるアキラ。

「ネコがセスナから離れないらしいわよ」

 NAOMIさんはそう応え、キヨ子どのは自分の身長ほどもある朝刊をバサリバサリと四つに折り畳んで言う。
「機体全体をマタタビラクトンに浸けたようなものですからね」
「飛行機洗えばいいのに」
「クララの残り香が消えるのがやなんでしょ」
 汚物を見るような目をしてやるなよ。キヨ子どの。

「ま、いいじゃない。ネコと一緒に空を飛べる日本初のサービスなんだし。あたしもイケ面パイロットに抱かれて飛んでみたいわ」
 そんなことしたら操縦のジャマで、すぐ落ちると思うのだが……。
「いいじゃない。恋に落ちるのよ。ロマンチックねー」
 おーい。サイバー犬が遠い目をするな。

 ま、飛行機とネコ好きの人は一度行ってみるとよいな。

「それより、関西電力はどこ行ったのです?」
「今日はメルデュウスのデビューだから応援に行ったわ」
「どこへ?」
「UFJの『蜘蛛男』のアトラクションでリアル・『蜘蛛女』を演じるんですって」

「うっそぉ。塚本誘ってさっそく行かなきゃ」

 慌てて席を立つアキラにキヨ子が吠える。
「だめです。電磁気学の試験にパスしてからです」

「え――――!」

「えーではありません。高校で習う基礎的なことですら、あなたは零点なのです。物理の中間テストで満点を取らなければ遊ぶことなど許しません!」
「あ、ほらほら。UFJのコマーシャルにメルデュウスちゃんが出てるわ」
 黄色い声のNAOMIさんと、思わずときめくアキラの声。
「あっ。ほんとだ……。す……すごい。オッパイおっきい……」
 ぴっちりとフィットした蜘蛛人間スーツは出るところと引っ込めるところを強調していた。

「アキラさん! 私と言う妻を持ちながら、そんなものを見るのではありません。」

 キヨコの尻に敷かれたアキラの未来は多難だというのに、キャザーンの侵略は快調で芸能界だけでは留まらぬようだ。
 うかうかしていると政界にまで進出して、あっという間に日本は連中の手に落ちるぞ。

「私の目の黒い内はそんなことさせませんわ」
 アキラの背中にしがみ付いていたキヨ子どのが毅然と振り返り、またもやそう言い切った。

 たった今、日本とアキラの将来はこの6才児に委ねられたのである。
 なむなむ……ち~ん。


 ところでキヨ子どの。何か言いたいのか?
 目が黒々しておるいぞ。

「ひと言、いいですか――」
 グイッと迫る小学一年生。
「今後一切、北野家ではペットを飼うことは許しませんのでそのつもりで!」
「ここはキヨコの家じゃないよ」
「黙らっしゃい!」
「あふぁぁ…………」




【我輩はゴアである(ワンダーランドオオサカ)第三巻】これにてお終いでございます。

 続けて第四巻をお読みになる前に、トイレはいかがでしょうか?
  
  
  
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