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第四巻・反乱VR
相も変わらず代わり映えしない連中なのだ
しおりを挟む「4回目か……」
「なんやねん、唐突に?」
「なんだか我輩たち、作者が他の話を考えるまでの場繋ぎにされている気がするのだが……」
「そーでっか? それでもかまへんがな。ひな壇のガヤかて出たもん勝ちや」
「そんな若手芸人みたいな扱いはやだな」
「あほぉー! それで飯食っとんのや。贅沢ゆうなや」
「バカなこと言うな。我々は電磁生命体であるぞ。メシなど食っておらん。プライドを持て、プライドを」
「プライド?」
ポケラジが、ガタっと動いた。
最近小型のアクチュエーターを恭子ちゃんに付けてもらったポケラジは少々の移動や向きを変えることができるのだ。
にしてもくだらん機能を付加されよって。
「プライドなんか屁ぇーの足しにもならんデ……よっ、よっっと」
へーって……。
ギアの気合と共にアクチュエーターが二度ほどテーブルを叩き、我輩が入るスマホの横にポケラジが移動。
「エエか。オマはんかて電子を食うやろ。それがワテらのゴハンや。そのためにせっせと働くんや。ちゃうんか?」
「だいたいそこがそもそもおかしい。我輩の下宿先はこのスマホなのだ。その充電は我輩の電力を使うのは筋が通るのだが、北野家に対しても、下宿代と称して電力を取り上げられるのはダブル取りされてるようで、釈然とせぬのだ」
「それが世の中や。ワテはカミタニさんの照明のお手伝いもやってまっから現金収入かてあるんや。それを下宿代として銀行から振り込みさせてもろてまっせ。ようは稼ぎの違いやな」
「銀行振り込みって、よく電磁生命体が口座を持てたな」
「それは天下の桜園田信用金庫や。なんでもオーケーやデ」
「すごいな。その銀行」
「そこのバカ二匹! 公共の場でおかしな物の言いをするのをやめなさい」
「き……キヨ子どの」
再びポケラジがごとっと動いて、
「NAOMI(ナオミ)は~ん。またキヨ子はんが点けっぱなしになってまっせーっ!」
「人をトイレの電気みたいに言うのはやめなさい! それよりいま聞き捨てならない言葉を吐きましたね。どこの銀行でも電磁生命体などに口座は作ってくれません。あれはアキラさんと将来を共にする私たちの愛の口座なのです。そこへカミタニさんが、あなたの稼ぎを振り込んでくれているだけです」
言うだけ言うと、
「ところで」と切り出し、
「あなた方の電子の供給先はどこですか? まさか町内の電力を盗み食いしてませんでしょうね。そんなことになれば、即刻、警察へ突き出しますわよ」
出された警察も厄介だろうな。
「いったいどこから電力を盗んで来るのです?」
盗むって……。
「そんなに目くじらを立てないでほしい。我々は電気泥棒ではない。宇宙から飛来するほんの少しの電子を体内に入れるだけで、数十倍に増殖することができるのである」
どうだ。すごかろう。ここは一つ威張ってもいいだろう。
ひとまずキヨ子どのは尖らせた小さな唇から吐息して、
「供給先が自然エネルギーなら文句の持って行きようがありませんわね」
いやいや。あんたなら、太陽の原子核融合にだって噛みつきそうであるぞ。
とまぁ。いつものようにワァワァやっておると、
「は~い。みんな集まってぇ。ティータイムにするわよー」
心から安らぐ甘い声音と優しげな空気を纏って、茶器一式を載せたワゴンを押して入って来たのは、
「ほらほら。テーブル片してよ」
ロボットのイヌ。
「もうイヌって言ったの誰? あたしは女よー」
「どこをどう見ても、立派なロボット犬でっせ」
とは電磁生命体のギアで、我輩は溜め息を吐きつつ感想を述べる。
「ったくここはおかしな連中ばかり集まってしょうがない家であるな。我輩が言うのも何であるが……」
「僕はお茶よりサイダーがいい」
「無視かーい」
そんなおかしな連中をものともしないで、昭和の香りを撒き散らしていま入って来たのは、北野家の長男、アキラ。ある意味この子はすごいのである。
「アキラさん。また電磁気学が零点だそうですね。塚本氏からそう連絡が来ましたよ」
視聴覚委員長のコミュニケーションネットワークにキヨ子どのも参加したのであるな。
そのキヨ子どのは大きく肩を落とし、
「ったく教える甲斐がありません。底の抜けた紙コップで水を汲みあげるよりもひどい有り様ですわ」
と、小学1年生の幼児から居丈高に言われようとも、
「サイダーなんかこの家に無いわよ。それより炭酸は頭悪くなるから飲んだらダメよ」
と、これまた何の根拠もない物の言いをロボット犬に言われようとも、
「じゃあ。ヤクルト5本一気飲みする」
臆することなくバカなことしか言わない長男。アキラ、17才である。
「でもなぜブルートゥース機器は混信しないのですが? あ。NAOMIさんお手伝いします」
遅れて登場したのは、アキラと同じクラスの桜園田東高校のマドンナ、藤本恭子ちゃん。
白磁のような滑々の手を出した恭子ちゃんはメカ女子であり、キヨ子の助手兼、キヨコの家庭教師。今日もキヨコの勉強を見た後、キヨ子に変身したキヨコから(あー。ややこしいな)電子回路のお勉強をしてきたのであろうな。
「625マイクロセック周期に周波数を変換して空きチャンネルを自動的にスキャンしてピコネットを構築するからです」
とまあ、昨日見た『魔法少女ののかちゃん』を説明するのと同レベルで理解不能で難解な話を平然とする、緑川キヨ子、6才。
「ねえ。マイボテレビつけてよ」
「テレビぐらい自分でつけなさいよ」と咎めつつ、器用に前足でティーカップを並べ、横からちょこまかと手を出すのは恭子ちゃん。
「ちぇ」とか言いながら、口で乳酸菌飲料の小さなボトルの先っぽをくわえてリモコンを操作するアキラは、量子物理学の権威であり、NAOMIさんを拵えた北野源次郎博士の孫。何度も言おう。なんなんだ。この家は。
「あー。くいひたほれハンライやっへるよー(食い倒れバンザイやってるよ)。うはぁ、このおひくおいひひょうらー(このお肉美味しそうだ)」
食レポを映した画像をくわえたボトルの底で指し示すアキラの口の横から、白い液体がボトボトと。
「おいおい。こぼれておるぞ」
アキラは慌ててタオルを探しに飛んで行き、恭子ちゃんは見向きもせずに、テレビの画像に目の色を濃くする。
「ほんとね。霜降りがすごいわ。きっと高いんでしょうね」
「一口食べて甘いってゆうとるで。霜降り肉ってそんなに美味いもんなんか?」
とギアが尋ねて、キヨ子が吠える。
「脂身ばかりの牛肉を頂いて、なにが甘いですか! なにが口の中でとろける~、ですか。それは脂なんです。熱を加わえれば、溶け出すのは当然です。子供には良質な赤身のたんぱく質を与えなさい」
いや、あんたにやるとは言ってないから。
どちらにしても――。
「我々電磁生命体には関係の無い世界であるからな」
「でもな、最近妙に目立つんやけど、どの番組も食べ物ネタであふれとらへんか?」
キヨ子は画面を睨みつけ、
「テレビ業界に蔓延る安易的要素、健康、旅もの、動物、赤ちゃん、その中でも特にひどいのがグルメ。食品スポンサーの顔色を見つつ製作すればおのずと食べ物ネタであふれかえります。セットもいらない現地の野原で調理して『う~ん自然が一杯』って、雪の中でブルブル震えながら言ってりゃぁ世話無いですわね」
「今日もごっつい毒吐いとるな。キヨ子はん」
「うむ。アキラの成績がまた落ちたらしいからな」
「落ちるちゅうことは、まだ下があったちゅうことや。信じられへんな」
「だいたい!」とキヨ子がまたまた吠えて、
「いい番組を作ればおのずとスポンサーが集まります。いつからテレビ業界はスポンサーにこびる態勢になったのですか」
「それが中々難しいものなのだ」
「地球外生命体が知ったようなことを言うのではありません」
「ほな、どないしまんねん。キヨ子はんならおもろい番組作れまんの?」
「できます。これからはそれらすべてを禁止すべきです。夕方6時からは世界情勢を伝えるニュースから始まり、政治経済。そして量子力学概論、電磁気学総論、高等数学連続4時間の番組構成にすべきです」
「集金制度で賄っている某放送局でもそんな無茶なことはしないぞ」
「ホンマや。誰もテレビ見いひんようになるワ。せめて夜中のアニメは残してヤ」
「あ、に、め?」
見たな、的に首をギギギとポケラジに捻じるキヨ子どの。
怖っ!
「科学的根拠もまるで無い魔法使いが飛び交うなど。幼児が見るのならまだ笑えますが、高校生にもなって低俗すぎます! そして虐殺シーンにドロドロ描写。百害あって一利なしです」
「よう見とるな、キヨ子はん」
「幼児と居丈高女史を行き来するからな」
NAOMIさんがいいタイミングで口を挟む。
「まぁまぁ。キヨ子さん。難しい話はあとで、まずは座ってよ」
と言って、ぶるっと尻尾を振ると、キヨ子どののオカッパ頭がふんわり逆立ち、サラサラヘアーがしなやかに元に戻るや否や。
「あ~。キヨコのすきなプリンだぁ」
と手を出す、同じく緑川キヨコ、6才。違いは『キヨ子』と『キヨコ』だけ。
いまNAOMIさんがスピリチュアルインターフェースを切ったために、キヨ子どのが、本来のキヨコに戻っただけの話である。
「おまはん、くどいな……」
「なにが?」
「いちいち説明する必要はないって、前回ゆうたやろ」
「いやしかし、ここから読み始めた読者には必要かと思ってだな……」
「キヨコ、このプリンから食べるよう」
「あ。はいはい。プリン開けてあげるね。はーい、ぷっちん……と」
「やっぱり一本では足りないや。5本一気飲みするから大きなコップちょうだい」
「お腹こわしても知らないわよ」
薬になるものでも、度を超すとよくないのである。
「おー。今日もにぎやかだな」
食堂に妖艶な影を落としたのは、クララ・グランバード。艶(つや)っぽい大人の色気を全身から放出させ、今日も金髪を爽やかになびかせた、紺のレディーススーツに同じ色のタイトミニ姿であった。
「クララはん。今日もべっぴんさんやな」
ポケラジににこりと笑みを落とし、
「ふむ。今日から新しいプロジェクトが動き出すからな。とても楽しみなのだ」
「また、例のカミタニはんでんな。あの人はホンマ精力的な人やからな」
「ねえ、クララさん。新しいプロジェクトって?」と訊いたのは、3本目の乳酸菌飲料のボトルを開けて、ドボドボ音を出してコップに注ぐアキラ。
「ふむ。実はな、アニメを手掛けることなったのだ」
「アニメぇ――っ!!」
声がでかいな、アキラ。
「ウッソー。すごいね」
アキラはえらく興奮しておるが、ギアは冷静に。
「さすがカミタニはんや。するどいとこに目をつけたやんか」
我輩も同感だ。アニメに関しては少々熱いのだ。だから思いのたけをぶつける。
「日本のアニメは世界で通じる素晴らしい文化であるからな。下手な役者を使うよりリアルに感じるのがすごいのだ」
キヨ子はじろりと我輩のスマホを睨むだけで留まり、恭子ちゃんは胸の前で指を絡めつつ、
「すごいお話ですけど。内容はどんなのですか?」
「宇宙を舞台に暴れ回る、美少女軍団の話だ」
「「「「「「ええっ!」」」」」」
クララ以外、6人、いや、人類が3名、地球外生命体が2名、そしてロボット1台が同時に息を詰めた。
「なんちゅう雑多な人種がおる家や、ここ」
「どこに吃驚しておるのだ、ギア!」
コイツの感想など聞いていない、クララはとんでもないことを発表したのであるぞ。
「クララどの。その話って……」
クララは切れ長の目をきらりと光らせて、
「そうだ。キャザーンのことだ」
「原作は誰でんねん?」
「にゃりーパミパミだ」
「誰だそれは? バッタ物感が半端無いのだが」
「ええやんけ。こっちのほうが言いやすうてエエがな」
「パミパミとはどこの人なんだ?」
「ワタシだ。ペンネームと言うらしいな」
「げっ!」
クララは大きな胸をさらに突き出して、ギアは息を飲んだ。
「そ……それではフィクションではなくノンフィクションではないか!」
仰け反る我輩。背骨は無いけどな。
「いやいや。アニメやからバレへんやろ」
これは大変な話である。奴らの行いをアニメ化するのはちとマズイ。何しろ宇宙一の暴力的詐欺集団である。
「詐欺集団と言うな。よろず相談所と言ってほしいな。だいたい最後は力づくになるがな」
平然と言いのけたクララはいっそ清々しい顔だった。
「暴力のところは否定しなかったぞ」
「ここんとこはマジやからな」
「それで声優さんは?」アキラは何も気にしていない。
「それがいろいろ難しいらしくて。難航しておる」
「どういう意味?」
「ふむ。カミタニさんが言うには、最近声優界がアイドル化して、本物の声優と言うのが少なくなった感があるそうだ」
「まあ。それは我輩も感じるところであるな」
「声優はんが芸能活動をする時代なんや。それが悪いんでっか?」
「カミタニさんの言葉をそのまま使うと、最近の若者は知識で肥大化した脳ミソをうまく使えてないという。何が好みか自分で解らずに教わった通りのことしかできないので、みな同じになってしまう、とな」
「なるほどな。さすが敏腕プロデューサーのカミタニさんの意見や。若手ディレクターも同じ教育をされとるからそれでオッケーとなるんやな」
「カミタニさんはそんなお子様向けアニメにする気は無いようだ」
クララが立派な胸を張り、ついそちらへ視線が誘われる。
「つまり個性がなくなってきとるちゅうことや」
「でも若者にはそれが受けておるのだ。これが風潮なんだろな」
「でっしゃろな……」
「なによ。あんたたち今日はえらく真面目じゃない」
と告げるのはNAOMIさんで、クララはニコニコしたまま立ち上がる。
「ま。声優とか絵はアニメ監督の仕事で、ワタシは原作を任されているのだ。これは重要なことだぞ」
「原作って……」
「そうだ。実経験をそのまま文字に変えればいいので楽だ」
「さっきも言ったが、そういうのをノンフィクションと呼ぶのだ」
クララは食堂の扉から半分出た体を捻らせて、付け足すかのように言う。
「ドルド星系を暗躍していたザッパー軍をひねり潰したときの爽快感はたまらないぞ。ああ。どうやって文章に綴ろうか、楽しみになってきた」
「あんたなら緻密に精細な描写ができるだろう。想像じゃないんだからな」
「では執筆活動に入るからな。覗くなと爺さんに言っておけ」
風呂以外は覗かないと思う……。
にしても、キャザーンがアニメなったらクララがトップなのだ。となればきっとあの戦闘コスチュームで登場するだろう。そうなると十中八九アダルト向けになるな。
とんでもないアニメができそうなのだ。
先行きが怖いのである。
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