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第四巻・反乱VR

 実体のある体が欲しいのだ

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「ドルベッティちゃんもアニメになるんなら、声優さんはぜったい、小倉●ちゃんがいいな。元気な少年風の声なら小倉ちゃんだよ」

 クララが爆弾発言をして部屋を出て行ったものだから、食堂内はアニメの話で持ちきりである。

「ほな。クララ役は悠木●ちゃんや。可愛い魔法少女から妖艶な大人まで何でもこなす、ものスゴイ声優さんや」
「幼女から魅惑的な大人までの声が必要でしたら、私が演じて差しあげます。オファーが来たら引き受けてもいいですわよ」
 キヨ子の鼻息が荒いのは、いつの間にかNAOMIさんがインターフェースを起動したからで、
「確かに丸ナマの幼女は可能やけど、魅惑的な大人と言うより、敵方の意地悪そうな魔女でっせ」
 それに向かってギアが息巻くもんだから、
「まっ! 関西電力は家賃10パーセントアップです」
「そんな殺生な。敵方でもそのレベルになったらベッピンさんでないとアカンねんで。それならキヨ子はんにうってっつけやろ?」

「あら、まぁ。そういう意味ですの? なら許しましよう」
「ふひぃ。ほんま小1相手に往生しまっせ。」

「女の人の声なら、NAOMIさんもいけると思いますよ」と言い出したのは恭子ちゃん。
「う~ん。クララは時にとんでもなく恐ろしいことを平気で口にするから、NAOMIさんでは優しすぎるような気がする」と、これは我輩の意見である。

「ロボット犬の声優なんて聞いたことないワ」
「キヨ子さん、やっぱりギアの下宿代値上げして頂戴」
「あわわわ。冗談やがな。大阪人のオチャメなとこやろ」
 お前は宇宙人だ。大阪人ではない。一緒にすると誤解を受けるぞ。

「ねー。声優選考会には僕らも連れってもらおうよ」
「だめよ。アキラさんが行ったらジャマするだけだもの」

「TTBSの裏通りにある声優プロダクションやったら知っとるから教えてもエエで」
「何でそんなことまで知っておるのだ?」

「まぁな。カミタニさん経由や」
「ほんとにオマエは何にでも顔を突っ込んでおるな?」

「そらそや。銭ちゅのはな、追いかけるモンちゃうデ。神経を隅々にまで這わしといて、チャリンって聞こえたら、さっと行って拾って来るもんや」
「……………………」
 呆れて物が言えんのだ。

 とまぁ。素人の集まりだからして、こんなものである。好き勝手にほざくだけなのだ。




 その日の深夜。

「せやけど。アニメ化か……」
「むにゃ?」
「なんや、ゴア? おまはん寝とんかい?」
「……にゃ? あ……ふぅ。そうなのだ。どうも地球人と長く暮らしておると、習慣がうつるようでな」

「アホか。無駄なコトすんなや」
「あふぁ~。いや。いちがいに無駄とも思えないぞ。こうして騒ごうとする電子を静かに抑え込んでいるとだな……むにゃ……」

「こら! 寝るなや! ワテらは電磁生命体や。肉体疲労とか無いねん。寝るなんて無駄以外に何があるんや」

「ならオマエは起きて働けよ」

「この時間帯は良い子のアニメショーはやってへんやろ。だからしゃー無(な)しにじっとしとるだけや」
「そらぁ、深夜でもやってるアニメショーがあったら、ちょっとダークで見てみたい気もするが、そうなると会場には怖い人らが集まるんだろうな」


「アニメで思い出したけど。どない思うキャザーンのアニメ化の話」

「キャザーンの娘子軍はカワイ子ちゃん揃いだ。年長のクイーンであるあのクララでさえあの美貌だ。KTNもいまだに飛ぶ鳥落とす勢いだし。たぶん大成功を収めるはずだ」

「デュノビラ人は年を取らんからな。クララは今年でいくつや?」

「いつだったか、10万と21だと宣言しておったぞ」

「クララはサブプライム星系のデュノビラ人や。Dェーモン閣下とはちゃうから、マジで10万21才やデ。永遠の美貌を誇る女性や」

 そこの青年。首を捻るなよ。宇宙には時の流れが異なる星系の種族もいるからな。地球を基準にするのではないぞ。忘れたのなら言ってやろう。地球など銀河の端っこにある辺鄙な星なのだ。中心部から見れば屁にも満たないどーでもいい星なのだ。重要な星なら、とうにキャザーンみたいな連中に乗っ取られておる。

 だいたいアニメでは頻繁に地球が襲われるシミュレーションを繰り返して、危機管理の重要性を訴えておるのに、真剣に考えているのは子供ばかりだ。だめだな、地球の大人は。実際に起きたら、たぶん楳図先生の漂流教室みたいになるであろうな。

 悪いな、古い話で。筋書きを元に戻すぞー。


「よう考えてみぃ。キャザーンが地球を乗っ取ってもカミタニさんだけは安泰や。ほんまエエとこに目をつけたな。やっぱ天才ちゅう人はおるんやな」

「カミタニさんと言えば、キヨ子どのに宇宙船を壊されて、行き場を失った娘子軍、総勢184名を引き取って、芸能界のトップにのし上げた人だ。やはりどこか常人とは異なるんだろな」
「せや。クイーンのクララとまともに付き合えるお人や。ただの人間ちゃうで」

「大いに納得だな。お前を照明の電力係として平気で良い子のアニメショーで雇うだけの懐の大きさを持っておられるんだ。マジで考えたらすごいな。宇宙的な目線をしておるんだろうな」

「ほんまや。グローバルを越えとるよな」
「ああ。もしかしたあの人も宇宙人かも知れんぞ」

「……ワテらも宇宙人やのにな……」
 その言葉が、らしさを消し去っておることに気付かぬのか?

「アニメ。実写……か」
 ギアは言葉を閉ざし、数秒ほど思案に暮れた。

「なんだ? 何を言いたい? まさかアニメ化の次は実写版だといいたいのか?」

「せやがな。クララはマジで地球侵略を開始してんのとちゃうか? このままアニメが実写映画になってみぃ。それこそえらい事になりまっせ」
「それは考え過ぎだろ。でもそうなったらKTNのセンター辺りの連中が出演することに……いや、まてよ。タイトルにKTNを付けて、ちょい悪で可愛らしさもある少女軍団として全員起用すれば、話題性は高いし。こりゃあひょっとするとひょっとするぞ」

「はいな。主演は戦闘慣れした娘子軍や。本物のフェーザーガンやフェイズキャノンぶっ放して全員で襲って来るがな。ほーなってみい。こんな危機管理の消え失せた日本なんか数分で制圧してしまいよるで。アニメ化はその第一歩とちゃうか」

 背筋が薄ら寒くなってきたのである。
「我々も行く先を考えておいたほうがいいかもしれぬぞ」

「その時に備えて、ワテらも実写版にならへんかな?」
「映画に出たいのか?」

「あのな……。別に映画に出たいわけやないけど。地球では電磁生命体って影が薄いやろ。なんしろ地球人の網膜にはワテらのボディは映らんからな」
「地球人の可視光範囲は狭いからな。宇宙に出るといろんな種族がいて、我々の姿を普通に見る種族もたくさんいるのだ。現にデュノビラ人は我々を見て話しかけてくるし」
 ちなみにクララはデュノビラ人だし。ほかにもKTNの中に数人いたはずだ。

「どや、ここらでワテらも活躍してみいひんか?」
「クララに頼んでテレビに出してもらうのか?」
「それもエエな。せやけど電子の雲状態ではカメラレンズに映らんへんだけやのうて、テレビカメラの撮影管を破壊してまうデ」
「むぅ。それはまずい。生放送でテレビカメラを壊した昔のお笑いタレントさんみたいな伝説を作ったらやばいぞ」

「どっちにしても電子雲のままやったら、地球人には認知されへん」
「なぜに認知されなければいけないのだ?」

「アホやな。せっかくこうして地球に住んどるんや。なんか証(あかし)を残したないか?」
「そんなことすれば、発電所に売られるか、政府の研究所行きになるのは目に見えておるぞ」
「せやから。もっと地位向上を目指してや。堂々と人類の前に出て対等に会話したないか? 本来ならファーストコンタクトや。北野家の連中からはボロンちょに言われてるけどな、総理官邸で大臣と握手してもエエぐらいの要人待遇を受けてもおかしないやろ?」

「まぁ。それはそうかもしれないが……なかなか最初の一歩が踏み出せんよな」
 我輩の意見に、ギアは意味ありげに訊いてきた。
「それはなんでやと思う?」

「それは……」

 答えられないでいると、
「電子雲のままやからや」と、自ら答え、
「実体化すれば何ら問題はなくなる」
 ポケラジがゴトっと動いた。

 実体化と聞いて思い出すのは、
「ラブジェットシステムか……?」
 我輩は怖いので一切の協力をしておらんが、ギアはお金欲しさに献身しておるのだ。
「アホ! 人を銭ゲバみたいに言いな! 人身御供とちゃうで、研究に協力しとるだけや」

「それで成果はどうなのだ?」
「コンピューターシミュレーションでは完璧なんやけどな、実空間での実体化はまだまだやな」
「だろうな。精いっぱい頑張って、幽霊どまりだからな」
「せや。空気中の原子を利用するらしくめっちゃデリケートやって、キヨ子はんが嘆いておったワ」
「小学1年生でありながら、北野物理学博士と対等に会話ができる子供が言うんだから。本気で難しいのだろうな」

 再びポケラジがゴトっと動いて、
「ほんでや……。ラブマシンのシミュレーションで楽しまへんか、ちゅうのがワテの意見や」
「もしかして、ラブマシンに侵入するのか?」

「実はな……」
 今度はゴトゴトとポケラジがスマホの横まで移動してい来ると、小声で囁いた。
「NAOMIはんとキヨ子はんには黙っとるけどな。ラブマシンならラブジェットシステムのコアを使って3Dシミュレーションをさせる方法があんねん。このあいだ偶然に見つけたんや。たぶん二人とも知っとるはずやけど、ワテらがイタズラに使うのを懸念して、黙っとるんやと思う」

「イタズラとは?」

「北野博士は天才やな」
「はぁ? そんなこと言われんでも知っとる。天才とドスケベと紙一重の人なのだ」

「はいな。スケベ道に関してはワテは師匠と呼ばさせてもらうデ。その師匠が残してくれたプロセスがあるんや。データは一切削除されとるけどな、処理エンジンは残っとんのや」

「もしかして、あれか?」
「せや。あれや……」

 ギアはさらに声を落として。
「アキラが消されて悔しがってるハーレムクラスオブジェクトやがな」
 我輩の喉がゴクリと鳴った。(喉は無いぞー)

「そこなら我々が実体化できると?」
「はいなー。正解や」
「し、し、し、し」
「何を慌ててんねん。落ち着かんかい」

「しかし。データは消えてるんだろ?」

「そうや。でもな。このあいだの実験の時に気付いたんや。データは消えとるけど作ることは容易や」
「我々でもできるのか?」

「できまっせ。想像するだけや。そうすればラブマシンが瞬時にデータを分析展開して、ラブジェットシステムが3Dデータに置き換えるんや。せやから……」
「だから、なんだ?」
「本物の実空間での3D化とはちゃう。疑似世界や。システムの中にある限られたエリア内でのVRやで」
「そうか、量子コンピューターが作りだしたとは言っても所詮はシミュレーションだわな。そこはいた仕方が無い。このあいだ大騒ぎをおこした遊園地みたいなものだと思えばいい。あそこも現実と疑似世界の狭間だと言えるからな」

「その代わり、あのブッサイクなヘッドマウントディスプレイ無しやで。そのまま。素(す)ぅや」

「つまりラブジェットシステムから外に出ることはできないが、我々でもヒューマノイド型になれるのだ」
「そういうこっちゃ。さっそく行ってみようデ」
 と言うわけで――。
 我輩とギアは、定宿(じょうやど)とするスマホとポケラジから抜け出し、屋内配線を伝って、北野博士の研究室へ忍び込んだ。
  
  
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