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番外編 クルミ
お説教
しおりを挟む父様にはやっぱり怒られなかった。
「あまり心配をかけるな」と言われてあたまをポンポンされただけ。
「ここまで同じだと怒りずれぇ…………」
と最後にボソッと言ってたけど何だろう。
その代わり、母様にはこってり絞られてしまった。母様にはどう伝わっているのかわからないけれど、縁側の硬い板床に正座?なるものをさせられて、大泣きされながらコンコンとお説教。
「家出するなら行き先ぐらいいいなさい!!あとお夕飯には帰りなさい!!馬鹿!!!」
それもう家出じゃないんじゃ…………と思ったけど何か言うとヒートアップしそうなので大人しく黙って聞いた。疲れた。
父様がなんとも言えない目で母様を見ているのがちょっと面白かった。
完全に(お前がそれ言う……?) って目だった。母様、過去に何やらかしたんだろう。
兄様からは毎日お花が届く。
伯父様の邸には沢山の花が植えられているのでそれをむしってくるらしい。いいんだろうか。
兄様自身が離れに来てくださって、私の頬にキスをして帰る。マーキングされているとわかってすごく嬉しい。
私宛に他国の王族からくる見合い話を断る代わりに、私の15の成人までは口説く(!)事を伯父様から禁止されていた兄様はしっかりそれを守っていたらしい。
けれどライが飛び込んで来て私と仲良くなってしまった。
それを無理矢理伯父様のせいにして、そっちが私に他国の王子を近づけたのならもう知らんと、急にガンガン気持を言って下さる様になったのだそう。
そんな変な攻防戦が繰り広げられているなんて知らなかった。
母様の説教が長すぎて飽きてきた所で父様が母様を抱き上げて甘やかす。
「そのくらいにしてやれ、今日は休みにしたから天空領に行くか?テルガードがお前を乗せたがってる。草を摘みたいんだろ?」
「草じゃない!ハーブ!!!」
「天空領に天馬が100頭いるからな、色んな馬が見れるぞ?」
「わぁ!いく!!」
父様は母様の機嫌の取り方が上手いなぁ。
これは色々失敗してレベルを上げてきた感じだな…………
あの後野生の天馬達は天空領に住み着いてる。
獣人に狙われない、天馬の楽園。
天空領はすごく広いし、食料も豊富だからね。
◇◆◇
「クルミ!!!!昨日の夜帰ったんだって!?まだ寝てなくていいの!?ど、どこか怪我は!!?コーネルにはクルミを怖がらせた責任とってもらおう!!トーナメントに無理やり入れて全部やっつけてあげる!クロムが!」
「陛下だまって下さい。あと離れて」
私をぎゅうぎゅう抱きしめて離さない伯父様に、クロム兄様が氷点下のつっこみを入れる。
「クロムお前!!!またクルミにキスしただろ!!!すぐバレる事するな!!」
「………………はぁ。陛下が先に約束を破ったのでこちらも出方を変えただけです」
「僕のせいじゃないでしょ!!!」
「陛下、この国で起こることの全ての最終責任は陛下でございます故、いささか無理矢理感はありますがクロムが正しいかと」
アロンドが援護射撃をしながら私にウインクをくれた。
「なんだと!!!王様って可哀想!!可及的速やかにレスターに譲る!!!」
「「はぁ~~~」」
兄様とアロンドのため息が重なり、私にくっついた伯父様を容赦なく剥がし、ひょいと私を抱き上げてお茶のテーブルにすわる。
私を膝に乗せたまま。
「おいクロム!何で近衛のお前が優雅に茶を飲むんだ!!クルミから離れろ!!」
「僕の婚約者ですので。喉も渇きましたし」
えぇ……………………兄様割と好き放題やってるんだな………………
アロンドがニコニコしてメイドに追加のお茶を頼んでいる。アロンドも慣れてるな、これ。
「おっ前!いくら甥っ子だからって!成人までは頬のキスだけだからな!!超えるなよ!!せいぜい苦め!!!」
「…………………………チッ」
え?今兄様舌打ちした??聞き間違いだよね。
うんきっとそう。
◇◆◇
「ああクルミ、おぬし、いい顔をしとるな」
ジジ達と、なぜかアイラちゃんと秋のいる図書館のお茶会。
秋はたまにアイラちゃんを離れに呼ぶ。
何をするわけではないけれど二人で楽しそうにお茶を飲む。母様の作ったオヤツをお供に。
私がジジ達のところに行くと言うと何故か二人もついてきてしまった。
「ジジイ共もたまには役に立つねぇ。ジジイだけれども」
「ふぉふぉ、我らにとっては可愛い可愛い教え子じゃからの」
「あの、あのね、私、天馬が好きって気がついて…………」
「えぇクルミ、知らなかったの?母上なんてもっと子供の頃から知ってたよ?俺の天馬の世話はクルミがしてくれるから安心ってよく言われるもん」
えーー、母様、言ってくれたら良かったのに。
でも、自分自身で気づけないとだめか。
自分のことなんだから。
「わ、私、天空領の天馬のお世話を、してみたくて…………伯父様、許してくださるかな」
「まるごとくれるんじゃない?今は名目上母上が管理していることになってるけど、母上は父上とのデートと草つむのしか使ってないし」
「そうかな、王族のお仕事もくれるかな。私にもできるものがあれば嬉しいな」
「じゃあ俺のを手伝ってよ。儀式系は俺がやらされるもん。多い」
「うん。秋みたいにはできないけど、私は私に出来ること、やる」
「ん」
秋は頓着なさそうに答えて紅茶を飲み、アイラちゃんが淹れたのの方がうまいとこぼす。
私の能力が低いことを、1番馬鹿にしていたのはきっと私だ。周りは誰も気にしていないというのに。
「ジジ達、ありがとう。この前はごめんなさい」
「謝るのはわしらの方じゃよ。おぬしら四人の兄妹はわしらにとっては特別なんじゃよ。恐れ多くも、本当の孫のように思っておる」
「馬鹿を言うでないよ!私の孫だよ!!!」
「アイラちゃんも…………ありがとう。今度とまりに行ってもいい?サラも、誘ってみたい」
「女子会だねぇ」
「えぇ、俺もアイラちゃんち、いきたい」
◇◆◇
《小話》 フォルドside
「陛下、姫が成人するまでクロムに我慢させたのは、可愛いからだけではないのでしょう?」
アロンドが茶を淹れながら言う。
「まぁねぇ……僕もリヒトも、竜国の王族だからと雁字搦めの人生だったからね。子供達には、そんな思いをさせたく無い』
アロンドが困った様に笑い、それから言う。
「お世継ぎの重責とご病気の両方から救われて、自由を謳歌していらっしゃる様で何よりでございます」
「アロンド、嫌味はもっと分かりやすく言え。僕はもう少しこの自由を満喫したいんだよ」
ため息をつき、「来年こそは妃を娶って頂きます」と茶器を置きながら言う。
「クルミにも、普通の子のように将来の事を自由に考えて欲しい。まさか竜国の王族がそんな事を考える日が来るとはね。全部紬ちゃんのおかげだ。クルミのレールを歳上のクロムが早々に引くのを阻止したかった。まぁクロムもそれが分かっていたから素直に言う事聞いてたんじゃない?最後は有耶無耶にしてきたけど!!あのクソガキ!」
「……………………かっこいいことおっしゃっても、その理由、2%ぐらいでしょうか?」
「0.000001%だ!!!あのクソガキ!!僕の可愛い可愛い姪っ子が!!!」
「そのクソガキを重宝してどこにでも連れて行くのは貴方でしょうに」
「顔と頭がいいからね!!!外交に便利!!!僕の甥っ子最高!!!強いし!!」
「はぁ………………」
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