【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香

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番 編

テト1

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 マリセラちゃんを心配して帰って行ったヒルデさんを途中まで見送って、ちょうどいい機会なので道を逸れて、お家の周りに何があるのか迷わないように注意しながらお散歩する事にした。

 小さな小川があったり、レモンの木があったりで冒険みたいですごく楽しい。

 ちょっと離れすぎてしまったかなと思い、太陽の方角を確認しながら家の方に戻る途中、何かを打ち付ける様な音がする事に気がついた。

 誰かいるのかなと思って音の方に近づいてみて息を呑んだ。

 興奮した黒い大きな馬が右足を木に打ち付けている。ガンッという音はこの音だったという事がわかる。

「お、落ち着いて、どうしたの?」

 凄く怖い。こんな大きな馬にひと蹴りでもされたら大怪我では済まないかもしれない。動物園で見た事のある馬よりも一回り大きい気がする。そのぐらい圧のある体躯をしている。

「ま、前足が、変な感じなの?打ち付けたら、よ、余計にひどくなるよ……?」

 よく見ると右の前脚が変な方向に曲がっている。
骨折しているのだという事が分かってサーと血の気が引いた。
 馬の重い体重を支える脚が一本でも折れたら、もうこの子は死ぬしかない。

 近くにこの子のものだったと思われる鞍と手綱が落ちている。

「怪我をして、おいていかれちゃったの!?ちょっと待ってて!もう打ち付けないで!!」

 走ってお家に帰って、バケツに水を汲んで、ヒルデさんの買ってくれていたニンジンとリンゴをひったくるようにして持つ。馬が普段何を食べるのかなんて知らない。草を食べてるイメージと、お話の中ではニンジンをよく食べてるはず!

 息を切らして戻ると、黒い馬は私の言った事が分かったのか大人しく木の下で待っていてくれた。
 幾分か興奮もおさまった様で、木に寄りかかりながら、三本の脚でつたなく立っている。

 どのくらいこの子は一人だったのだろう。怪我をして、不安で、うまく動かない脚を不思議がってイライラして、寂しくて。
 考えただけで涙が出てくる。

「遅くなってごめんね、お水、ここに置くね?」

 足元にバケツを置いてやると、ブルンとわなないて、こちらを見た。

 まんまるな藍色の瞳がじっと私を見つめる。

「…………?首、下に曲げられない……?そっか、前脚が折れてるもんね、ごめんなさい!」

 バケツを持って黒馬の顔に近づける。
 最後まで私をじっと見た後、ペチャペチャと水を舐める音が聞こえたので、バケツの中で上手に飲めている様でホッとする。

 水を飲んで、より興奮もおさまったように思う。
元々大人しい気質の子なのかもしれない。

 ニンジンを手ずから食べさせてみると、チラとまた私を見た後すぐに食べてくれた。
 りんごも同じ様に食べさせる。

「よ、よかった、食欲はあったね。あとでもう少し食べようね」
 町の市場で買った野菜はまだ沢山残っていたはず。

 恐る恐る頭を撫でてみると、気持ちよさそうに目を閉じてされるがままになっている。すごく可愛い。

「あ、あのね、私、癒しの魔法が使えるんじゃないかって言われてて。い、一度もできた事無いんだけど、が、頑張ってみてもいいかな?」

 黒馬はじっと私をみる。
スリっと手のひらに顔を押し付けた感覚があった。

「いいって、事、かな?」

 オロオロとしていると、今度は顔に直接スリスリと擦り寄られて思わず声が出る。

「ふふ、可愛い。お返事してくれたの?賢いね」

 お馬さんの頭を優しく抱きしめてお礼を言ってから、脚元に屈んで折れた脚に触れてみる。
さっきまで感じていた恐怖は既になく、プルプルと子鹿の様に震える前脚に右手をかざす。

 歴代の聖女は右手をかざすだけだったと聞いたけれど、私はそれで発動した事はない。

「うぅ……やっぱりわからない……どうしよう」

 このまま治らなければこの子は死んでしまうだろう。馬にとって足の怪我はそれ程のものだ。

 その時、黒馬が残る前脚を突っ張って、無理矢理頭を下げてきた。
 私の肩に頭をつけ、スリスリと顔を撫でる。

「い、痛いでしょ!?戻って!!————っ慰めて……くれてるの?」

 痛いのも辛いのもあなたなのに……と思ったら、右手に何か熱い物を感じ、思わず前脚に触れると白金の光が黒馬と私を包んで、何か波の様な感覚が私から黒馬へと循環する感覚があった。

「何……これ……?」

 高いいななきが上から聞こえ、また私の顔にスリスリと擦り寄って来るので慌てて脚を見るとまっすぐに力強く立つ姿が見える。

「成……功した?す、すごい、出来た!」

 いつもと何が違って、どうして今回は成功したのかわからないけれど凄く嬉しい!
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