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番 編
テト2
空っぽの馬小屋を急いで掃除して、黒馬が眠れるスペースを作った。普通の馬より身体が大きいのでちょっと狭そうだけれど仕方がない。
賢い子なので、体力が戻って元気になったら自分から持ち主の元へ行くかなと思い、扉は開けておいた。
「これ、貴方のよね?大切な物だろうから、ここに置いておくね?」
鞍と手綱を作業台の上に乗せて見える所に置いてやるととても嬉しそうに鳴いたので、可愛がられていたんだなと分かる。(鞍、めっっっちゃ重かった)
「好きに出ていいからね。ちょっと買い物に出かけてくるね」
横になってウトウトとし始めたので余程疲れていたのだろう。馬って、普段は立って寝るとか聞いた事もあるし。
町に出て買い物をする。
節約のために自炊しなくてはならないので、卵や干し肉、ナッツ、小麦粉と調味料をかいこんで、黒馬の為のフルーツと野菜もどっさり買った。
思い立って、馬用のブラシも一つ買って、また森に戻った。
小屋の前の小さな湖で黒馬が水浴びをしている姿を認めてニマニマとしてしまう。
誰か待っていてくれる人がいるのは(たとえ人じゃなくても)とても嬉しい。
「ただいま!フルーツもお野菜も沢山買ってきたよ!あとでたべようね?」
ブルブルッと水を振るい落として私の元に来た黒馬は、スリスリとまた私に擦り寄って来て、それがおかえりと言ってくれている様で嬉しい。
「名前が無いと不便だよね。もうついているんだろうけど、新しく付けてもいいかな?」
藍色の瞳が優しく私を見る。
「うーん、すっごく可愛いから、可愛い名前がいいなあ~!テトはどう?呼びやすいし、可愛い」
ぎゅうと抱きしめながら言うと、またスリスリしてきたので、気に入ってくれたんだろう。
「おいでテト、ブラシを買ってきたの!せっかく綺麗にしたみたいだからブラッシングもしてあげるね?」
木陰に連れて行くと、また四肢を折って横になったので脇に座って丁寧にブラシをかけていく。
馬ってこんなに横になるのかと不思議な気分だ。
やっぱり、かなり体力を消耗しているに違いない。
「わぁ、ツヤツヤだねぇ。とってもイケメンさん」
テトはずっと目を閉じて気持ちよさそうにしている。眠ってるのかも。優しく優しくブラシをかけると木漏れ日にキラキラと毛並みが艶めく。
「もっと、固い毛なのかと思ったら、柔らかくていい匂い」
テトの背中におでこをつけると早い心臓の鼓動とお日様の匂いを感じた。
◇◆◇
ピューーーーゥ ピューーーーゥ
「ん……眠っちゃってた……鳥の声?口笛?」
ピューーーーゥ ピューーーーゥ
「クイィーーーン!!」
急にテトが高い声で鳴いて驚いて覚醒する。
「ど、どうしたの?鳥が怖い?」
「クイィーーーン!!」
もう一度空に向かって鳴いた後、突然起き上がって湖の方に駆けて行った。途中一度私を振り返り止まったので、ついてこいという意味かと納得して慌てて後を追う。
午後の柔らかい日差しの作る木漏れ日が湖に反射してテトの黒の毛並が艶々と光る。
「わぁ!テト、キラキラしてきれいだねぇ!やっぱり、イケメンさん!」
テトはまたクィーーーンと高く鳴くと茂みの方をじっと見つめて止まった。
「どうしたの?何か、いた?」
私も靴を脱いでテトの側に駆け寄ると、浅瀬にいたテトも私の体に寄り添う様に立ってくれて心強い。
————「テルガード!!おまえ生きてたのか!!」
テトが視線を送っていた先の茂みから、ガサガサと黒い軍服を着た軍人さんが飛び出て来た。
テトの側に寄り添う私を認めて紺色の目を見開いている。
「……テトの、飼い主さんですか?」
少し、怖い。剣ではなく、刀の大小を差している。背も高いし体も大きい。切れ長の目の精悍な顔。
「!?——天女!?」
怯えた私を宥めようとしてくれたのかテトが私の頬にスリスリと鼻先を付けてくる。
「テルガードが……なついている……?天女殿が世話を?」
天女って……大真面目に天女なんて言うから、一気に怖さが薄れてテトの頭を撫でてやりながら答える。
「ふふふ、天女ではなく、ちゃんと人間ですよ?テトの怪我は治したのでもう大丈夫です」
「治した……?人間!?」
黒髪の軍人さんは紺色の目を見開いて、私とテトの両方に視線を行ったり来たりさせている。金色の瞳孔が紺色の瞳の中でキラキラとしていて美しい。
「まだ体力は戻り切っていないと思うのです。私は馬の事に詳しい訳じゃないですけど……横になる事が多いので……体力が戻るまで、もう少しここで面倒をみても?」
「それは……願ってもないが……側にいてやりたい。俺も、馬小屋でも何でもいいから置いてくれれば有難い」
「ふふふ、テト、やっぱりあなた可愛がられていたのね?もう一つお部屋はあるのでお兄さんはそこにどうぞ。私も今日借りたばかりなので、片付けを手伝っていただけたら嬉しいです」
「有難い。何でもする、そちらに行っても?」
「ふふ、はい」
さっき私が怯えたからか、自分の行動に気を遣ってくれているのが分かる。精悍なお顔をしたすごいイケメンさんの表情が、ほんとに天女じゃないのか?って訝しんでいるのがありありとわかって笑ってしまう。
「礼を言う——俺は、こいつを殺すためにここに来たんだ。楽に、してやろうと……」
「はい、怪我が治って良かったです」
「どうやって……確実に折れていたはず……」
その質問には答えずににっこり笑って、手に持っていた新しいテトのブラシを渡す。
「私は夕食の準備をして来ますので、あとは二人でどうぞ。テトもあなたを待っていたようでしたよ」
そう言ってから踵を返して家に入ろうとドアに手をかけた所で後ろから小さな小さな絞り出す様な声が聞こえた。
——「良く生きてた。ごめんな」
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▶︎▶︎【あとがき】
作者 「やっとヒーローでたぁ……長かった……」
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