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番 編
天女
しおりを挟む採血の日にだけお兄さんと短時間会える様になった。
毎日採血してもいいのに、それはルルリエさんが許してくれず、私の体調をみて数日おきの時もあれば一週間おいたときもあった。
「つむぎ」
「お兄さん!」
いつもお兄さんが離れに来て、私のご飯を食べて帰っていく。
触れ合いのない、慌ただしいデート。あんなにベタベタしてきていたのに、お兄さんは私に一切触れてこなくなった。理由を聞くのは怖いし、それ以外はいつも通りなのでその事には触れられずにいる。会える様になっただけで、満足だ。
「三日後、狼が来るぞ。引導を渡してやれ」
「………………え……?」
「採血もしてもらう事になる。少し慌ただしいな。わりぃ。お前は俺の物だと知らしめるいい機会だ。何があっても俺を信じろ」
「信じろって……信じてるけど……ユリウス様と、会わなきゃダメ?」
「会って、お前の意思でここにいる事を示さねぇと一生追われるぞ。狼とはそういう種族だ。執着が強い。守れるけど、追い回され続けるのも嫌だろ」
「それは……そうだけど……」
「俺が横にいる」
「絶対?」
「ああ」
「なら……あって……みようかな……」
ユリウス様が私に執着しているなんて考えづらい。何のために私に会いにくるんだろう。また待っていて欲しいって言うつもりだろうか。
お兄さんはいつも通りで、困ってるとか焦ってるとかは感じられない。普段通りに美味しそうに食べて帰って行った。
◇◆◇
「お嬢様、殿下からドレスと装飾品が届きましたわ、今日はこれを着ていきましょうねぇ」
ユリウス様と会うと言われた日の朝に、お兄さんからドレスの様な着物と簪が届いた。
紺色の生地で、胸の下で金色の帯で留めて着るチューブトップタイプになっていて、がっつり肩が出るのかと思いきや、その上から羽衣のような軽い水色のシフォンの羽織りを羽織る。肩、超透けてる。
天女風に左右で輪っかになる様に髪を結って、金の櫛形の簪と銀のシャラシャラ動く髪飾りをつけられて完成の様だった。頭、すごく重い。
「お兄さん、私が肩出すと怒るのに何でだろ」
「今日は見せびらかしたいのですよ、きっと」
「ふふふ、そうだといいな」
「採血も致しましたし、つらくなったらすぐに言ってくださいましね」
ミリーナさんと母屋をぬけて、王城へと入っていく。超遠い。何なの。
お兄さんの龍宮城みたいなお屋敷は、白い外壁に所々エメラルドグリーンの飾りが施された紅色の屋根のお屋敷だ。内装は割とシンプルで平安時代の貴族のお部屋風。侘び寂びを楽しむ感じ。
今私が歩いている外廊下でお兄さんのお屋敷の母屋と繋がっている王城は、コバルトブルーの飾りと金の屋根の豪華絢爛な建物で、至る所に錦の布が垂れ下がっていて目がチカチカする。内装もキラキラした物が沢山置いてあって、壊さないか心配になる。
因みに王城に入った時から靴をはいた。
床が大理石に変わったのでカツンカツンと音が響く。
「すっごい豪華だね」
「王城ですからね。他国に舐められないようにですよ。殿下はわりとシンプルな物を好みますが、竜人は元々キラキラした物が好きな性なんです」
そうなのか。獣人の種類によって、色々なんだなぁ。建物のキラキラしい圧がすごくて、今の私が浮いてないのだけは幸いだ。
「この扉の先は謁見の間の王族席でございます。既に殿下もラディアンの使節団も中でお嬢様を待っておりますよ」
「えぇ……入りづらいなぁ……はぁ、やだなぁ」
「殿下がついております。大丈夫でございますよ。オオカミなど、とっちめてやれば良いのです」
「ふふ、うん、行ってくるね」
私がそう言うと、ミリーナさんは近くにあった鈴を鳴らして「御着きでございます」とよく通る声で言った。
————「入れ」
お兄さんの、声。
重厚な金の扉が開けられて、金の豪華な椅子にだるそうに座る軍服姿のお兄さんが見えた。
王様の椅子に勝手に座った悪い人に見えるな、とちょっとだけ可笑しくなって、お兄さんの目が優しくこっちを見てるのに気がついた。
紺色の瞳の中の金が、とろりと揺れる。
豪華な広間が薄く見える。薄いのは御簾が下げられているからで、向こう側には大勢人がいるのが分かるけれど顔の判別まではできない。
お兄さんが立ち上がって私をエスコートしてくれた。
いつもの軍服より豪華で沢山の褒章が胸についていて、金と銀の刺繍の入ったサッシュが肩から斜めに掛けられている。
「すげぇ綺麗だ」
お兄さんは余裕そう。私は頷くだけで精一杯なのに。
壇上は畳敷きで二十センチほどの高さがある。
その畳の上にまたもう一枚縁が錦で彩られた正方形の畳がおいてあった。
その上にシルクのフカフカの座布団がおいてあって、私はそこに座らされた。靴を履いたままなのがすごく変な感じ。
お兄さんの豪華な椅子の真横に座ると、ミリーナさんが天女っぽいドレス着物の裾を綺麗に見える様にふんわり広げてから退出していった。
「御簾、上げさせるけど、いいか?」
「ん……大丈夫」
小声で聞いたお兄さんに何とか返事をすると、お兄さんは一振り手を振って何か合図をしてから自分もまたどかっと椅子に座った。
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