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番 編
再会
しおりを挟むスルスルと御簾が下から上がっていく。
お兄さんは脚を組んで椅子の肘掛けに肘をついて、手に頭を乗せるという超絶ダルそうな格好のままだ。
私達から五メートルほど離れた所に、見慣れたラディアンの騎士服を着た人達が片膝をつき頭を下げて跪いている。
————先頭に、ユリウス様。
下を向いているからお顔は見えない。
銀色のサラサラとした髪と三角の耳が見えるだけ。
ユリウス様の後ろには八人の騎士達が同じ格好で跪いて頭を下げていた。
「顔を上げることは許さん」
いつもより低い声。
壇の両脇にはクロードさんとルース君が使節団の方を向いて立っている。
クロードさんは槍を持ち、ルース君はやけに長い刀を一本帯刀していて、左手で鍔の元を押さえ、右手は柄の上あたりにピタッと空中で止めている。
いつでも動ける様にしているのかもしれない。
一番後ろの両開きの扉の前にはユアンさんが同じく刀に手をかけて立っていて、騎士服を着た使節団の人を軍服を着た人たちが挟み撃ちにしている感じがして落ち着かない。ユリウス様達は帯剣してないから余計にそう思うのかもしれない。
「お前の言う番とは、ここに連れてきた俺の至宝のことか。お前達は我が国の国民を送って来ただけだと思ったが」
「……っ!もう一度発言を、お許し下さいますか、竜国……王弟殿下」
「許す」
ユリウス様は侯爵様だ。後ろにいる騎士達も近衛騎士団の制服を着ているということは貴族の方達なはず。その人達が、跪いてお兄さんの顔すら見れずに喋らされている。
見えている物が非現実的すぎて頭がふらふらする。
ユリウス様が跪いたまま続ける。
「そこの人間は私の番。尊き竜国王弟殿下も獣人でございます。番の大切さは、分かっていただけるものと……!ラディアンの至宝、私の番をどうか!どうかお返し下さいませ!」
「そこの人間……」私がボソッと呟くと、お兄さんがチラッと私を見た。
ユリウス様は最初から最後まで私に対して甘い言葉を使ってた。〝そこの人間″なんて初めて言われた。
「何度も言わせるな、俺の至宝だと言ったはず」
「ですが!!番を引き離すなどと、世界の中立者たる竜族がっ!!お願いでございます!その者と話を!!!」
「その者……」またぼそっと呟いた私を今度は優しい目で見てくる。
「ヴィクトランにのみ拝顔の栄を与える。既にお前の手を離れている事、自覚せよ」
ユリウス様がガバッと前を向いて、私を射る様に見つめてくる。
あんなに甘かった目は座っていて、視線が鋭く怯んでしまう。少し痩せたのかもしれない。相変わらず、王子様の様な綺麗さではあるけれど。
お兄さんは引導を渡してやれと言ったけれど、こんな状況でどうしたらいいのか分からない。私の知ってる穏やかなユリウス様じゃない。
「つむぎ、ここに来い」
お兄さんが優しく言う。
真隣にいるのに呼ばれる意味がよく分からず、おずおずと立ち上がるとひょいと横抱きに膝の上に抱き上げられた。
お兄さんの胸の中にいるのでユリウス様達には背中をむけてしまっている。
「紬はエルダゾルクの聖女。俺の番だ。左肩の象徴華は我が王家の物。何人たりとも触れる事は許さない」
え?お兄さんはなんでそんな嘘を言うの?
左肩に、何?
首をねじって透けた羽織の上から自分の左肩を見る。
————私の左の肩、背中側
————梅の花
花びらの波打ちまで再現された、梅の花。痣なのに何故か白っぽいピンク色で、本物の梅の花が肩に乗った様に見えた。
「え?」私が焦って羽織を脱いで確かめようとするとお兄さんが手で止めた。
「言えなくて、悪かった。嫌われると思った」
絞り出すみたいな声が耳元できこえた。
散々番なんて、と言って来た。
番なんて馬鹿な事から解放されたいと。
「俺の至宝を追うことは今後一切禁ずる」
私が唖然としている間にお兄さんが話す。
ユリウス様は何も言わないけれど、背中に凄く視線を感じる。
「謁見は以上だ」
「——っ!王弟殿下!しばしの滞在の許可を!我が同志だった者達の破棄の儀、ラディアン王に変わり私が!」
「許す。下がれ」
冷たい声で言い捨てたお兄さんに腕の中に抱き込まれてしまったため、もう振り返る事が出来なくて、バタンと部屋のドアが閉まる音だけ聞こえた。
「ごめん」
「お兄、さん?」
「番なんて嫌なの、俺が一番よく知ってるのに。それでも、俺は幸せだと、思ってしまう」
凄く苦しそうで、どうしたらいいか分からない。
「殿下、ここまでに」
ユアンさんが声をかけてくる。
「ああ。つむぎ、よく休め。頑張ったな」
私は何もしてない。はぁはぁと息をするお兄さんから目が離せない。
「主治医の権限で壇上に上がらせて頂くわ。緊急事態のため、ご容赦を」
ルルリエさんにひょいと抱き上げられて部屋を出された。
私を軽々お姫様抱っこしたルルリエさんが早足で私を離れに連れていく。
————部屋を出る時最後に見たお兄さんは、また翼が生えていた。
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