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番 編
あなたの番
しおりを挟むユリウス様と会った日からニ日が過ぎた。
私は相変わらず離れにいて、テトと遊んで過ごしている。
「お嬢、欲しいの、持って来た」
なぜか数日ここに来なかったクロム君が、布袋と牛乳瓶をもってやって来た。
「まずいやつと、バタの元」
「わあ!嬉しい!ありがとう!」
お米を頼んでいたのと、バターはこの世界に普通にあったのでバターにする前の生クリームを少し貰って来てもらったのだ。
「まずいやつと……まずいやつ……」
あ、生クリームの方も舐めたな?普段飲んでる牛乳と比べちゃうと飲みにくいよね……。
「生クリームゲット!!お米はどうかな~!」
袋を開けてみると中に見えたのは思ったよりも小麦色の物で。
「もみ殻ついたまま…………………………」
「テトの餌、する?」
クロム君はテトと呼んでくれる。
最初はなんだか怯えてテトに全然近づかなかったし、テトもクロム君を完全に無視してた。
クロム君、いいこだよ、優しいよ?と私がテトに言ったところ、甘えたりする事は無いものの近くにいる事を許した様で、クロム君も餌をあげたりブラシをかけるのを手伝ってくれる様になった。
「うーん、擦り合わせてもみ殻落として、玄米でたべるかぁ。毎回はつらいなぁ。白米たべたいしな~風とか起こせればなぁ」
「風、僕、できる、魔力、動かせばいい」
「できるの!?素早く動かせる?」
「主みたいに、山ごと切ったりは、出来ない」
なんか恐ろしいこと言ったなこの子。
「え、え~と、そんな規模じゃなくて、木枯らし程度?かな」
茶器の入っていた、木をくり抜いた蓋のある入れ物にザラザラとお米を入れて蓋をする。
「この中のお米がぶつかり合う様に色んな角度で風、起こせる?」
「できる。切る?」
「切らない。ぶつかるだけ」
「ん。」
クロム君が木の蓋に手を置くと、特に何か唱えたとかは無いのにガタガタっと入れ物が動く。
「まって!待って!ストップ!!」
やりすぎたかな?
そおっと中を見ると、綺麗にもみ殻が外れた玄米が出現している!
「わぁ!クロム君すごい!!」
急いで縁側で布を広げてざっと中身を出した。
「今度はこのもみ殻だけ庭に吹き飛ばせる?」
「ん、できる。力、ですぎる?ちょっと、練習」
そう言って自分の顔に手のひらを向けて風を出している。すっごい強風(前髪が上に全部上がって可愛いかおが見えた)から段々と威力を下げていって、納得いったのかお庭の方に向けてもみ殻を飛ばしてくれた。
「クロム君はすごいねぇ。もう一度、お米同士をぶつけてね」
蓋付きの入れ物に戻してさっきと同じ事をしてもらうと、中には真っ白の白米が出来上がってた。ぬかもでたから、集めておいて糠漬けもできるかもしれない!!
「クロム君天才!!!!大好き!!」
「ぼくも、お嬢、すき」
ん゛んんっ!かわいい!!
クロム君の頭を撫でてから早速お鍋でお米を炊く。しっかり洗って浸水させたら蓋をして強火。蓋の縁までプクプクして来たら弱火にして十分。
この世界のコンロは熱くなる丸い台に乗せるだけのもので、強火用と弱火用があって切り替える事は出来ないので隣の弱火のコンロに移す。
火を止めたら十五分蒸らしてから出来上がり。つやっつやのお米!!!最高!!
「はぁあ~~~美味しい!!」
クロム君が不思議そうに見ているので手早く塩握りにして口の前に持っていくと、ハグっとかぶりついて目がキラキラしている。
鮭を焼いて鮭おにぎりと、菜っぱを味付けしたもので混ぜ込みおにぎりにして沢山作った。海苔が欲しいところだけれどそれは無い。松の木の皮でできたお料理を包む経木はあったので、それに包んでおく。
塩味と醤油味で唐揚げを沢山作って、甘い厚焼き卵を焼いていく。余っていたポテトを豚肉で巻いて串を刺した肉巻きポテトもつくろう。お兄さんに、お弁当をつくるのだ!
「クロム君、まずはおにぎり一つ食べてからお兄さんにこれ、お願いね?帰ったらデザートもできてるからね」
塩むすびを食べ終わってなおも涎を垂らしているクロム君にシャケ握りを渡し籠を手渡すと、その場からシュバっと消えていった。
「食べてからっていったのに……デザート早くたべたかったんだな、あれは」
◇◆◇
「何これ……美味い……肉と一緒にいくらでも食える。一生食える……」
「主、僕、帰る」
ソワソワとしたクロムが言う。
「帰るって何だよ紬の部屋はお前の家じゃねーだろが!仕事しやがれ!」
「お嬢、甘いの、作ってる、僕の」
「おまえのじゃねぇよ!」
「お嬢、ぼくのこと、すき、言った」
「愛されてんじゃねーよ!!クソガキ!!」
ヴィクトラン達は俺の邸ではなく王城に滞在させている。
クロムをつけて監視はしているが表だった行動は起こさず、後からこちらに到着しているはぐれ竜人の解放の儀を素直に取り行っている。
使用人にまぎれて二番目の番もしっかり同行している。国外に出たため紬の番の力が働かず、ヴィクトランの態度が地の底に落ちたことを不満がっていると報告を受けている。
血液の謎が解決出来ていないうちはもう少し泳がせる必要がある。紬にもまた頑張ってもらわなければならないかもしれない。
籠の底にカードを見つけたが、見るのが怖いという感情が浮かぶ。自分らしく無い感情に苦笑して取り出すと、紬の小さな可愛い文字が目に飛び込んできた。
~~ リヒト様の番で、嬉しい ~~
「はあ!? 何今の!? はぁーーーー!?俺明日死ぬ?いや、今死ぬ!?」
思わずバンッと机に伏せたカードを恐る恐るもう一度見る。
————初めて俺を、名前で呼んだ。
「俺の番が世界一可愛い……」
「「「「 ………………………… 」」」」
「なんであんな遊び人が純情な天女を手にれるんスか!!!俺に春はいつ来るの!!」
「リツ、うるさいですよ」
「ユアンさんは殿下側じゃないすか!!!クソ!綺麗な顔の男はみんな爆発四散しろ!!」
「綺麗な面って言えば、本当にヴィクトランの野郎はキラキラしてたね~~!宮女がみんな浮き足だっちゃってやばいね~~」
「男の俺ですら見惚れたもんな。だが何というか、目が座ってておかしい印象だったな」
国外に出たため番の祝福の力が及ばないせいで、ヴィクトランが紬を求める暴力的な気持ちはもう無いはずだ。過去に経験した多幸感が忘れられず、中毒の様になっている。紬を取り返しさえすれば、またあの多幸感が手に入る。と。そこに紬の気持ちはない。
聖女をみすみす国外に渡せないという王からの命令を最大限に使って、自分の欲のみを追っている
紬を呼称するあのセリフに、あのオオカミが紬と関係を築こうと努力してこなかったのがありありと分かる。
番の匂いに酔うばかりで、心から紬と思いを重ねる努力をしなかった。
相性は最高なんだからと油断でもしたか。
「中毒なんだろうよ」
「中毒ってなんの~?」
ルースが首を傾げる。
「紬の与える多幸感のだ。それほど番とは特別な存在だ」
「殿下もお気持ちが変わりましたか?その様には、見えませんでしたが」
「俺は番としての匂いが分かる様になっただけだな。獣化の問題はあるが。気持ちの面は変わらない」
「最初っから溺愛してたもんね~」
番とは分からないうちから紬に惚れた。紬から与えられる多幸感も変わりはない。俺のせいで自国に入ってからの方が距離があるぐらいだ。
——番であろうがなかろうが、俺は紬を愛している。
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