51 / 173
婚約者編
帰還
しおりを挟むリツさんと数人の軍服を着た軍人さんがどんどん家具を運び出していく。
私の荷物はすごく少ないので自分でやろうとしたけれど、私を抱いたままお兄さんが片手で木箱に詰めていく。
「お、おろして。自分でやるから」
「嫌だ。もう逃さない。せっかく邸に帰る気になってるんだ、離してやらない。絶対に連れて帰る。連れて帰るまで離さない」
「ええ……」
なんかもうどうでもいいか。どうせ箱一つ分くらいしか荷物はないし。好きにさせておこう。
了承の意味を込めて首筋に擦り寄ると一瞬ビクッとしたお兄さんが言った。
「え……ここでもう襲っていいの……?マジ……?」
「いいわけないでしょエロ竜」
ガヤガヤといつになく騒がしいお引っ越し作業が続いていく。
「アイラちゃ~ん、この荷物、こんな感じでいい~??」
「おや、あんたはイケメンじゃないが見所があるね」
アイラさんの壮絶な量の化粧品達を丁寧に詰めたらしいルース君は、もうアイラさんと仲良くなってる……
「あ、わかる~?俺未亡人に人気なんだよね~アイラちゃんの護衛担当だからよろしくね~」
「いらない知識がまた一つ増えた……」
「つむつむひでぇ!久しぶりのルース君に優しくして!!」
「キラキラ坊やの様に紳士にエスコートできたら、担当護衛にしてやる」
お、おぅ。これがレベルMAXの〝自分はどうしたいのかカード“ か……すごい。キラキラ坊やってユアンさんのことだよね……
「任せて姫~!俺結構強いから、必ず守るよ~!」
ルース君全然動じてない。こっちも凄い。
「アイラ殿、馬車を選んでくれ。要望通り色々取り揃えて来た」
体を折りたたんで入って来たクロードさんがアイラさんに聞く。
「おい堅物。お前はちょっと指導が必要そうだねぇ」
「ひぃ!!!!す、すまん、女性に慣れていないんだ、俺は」
「慣れもへったくれもあるかい!!男だろ!!しっかりおし!!」
大きな体のクロードさんが小さくなってアイラさんを外にエスコートして行った。
「馬車をいっぱい持って来たの?」
「あのばあさんの要望でな。手持ちの種類全部持って来た。どうせ荷物もあるし、こんなの褒賞にもならんから別にいいけど。見てろ、母上の馬車を選ぶぞあの婆さん」
そう言って私を抱いたまま庭に出てくれた。
外には私が前に乗ったふかふかクッションのシンプル豪華な馬車と、軍事用の馬車、普通の簡素な馬車、それにやけにメルヘンなピンクと白金の装飾が沢山ついたラブリーな馬車が停められていた。
ラブリー馬車の前で、クロードさんのエスコートについてビシバシ指導しながら扉をくぐるアイラさんが見えた。
「な?あたったろ」
「ふふふ、本当だ」
「はぁ~~~~~やっと俺の前で笑った。超長かった。俺もう死ぬかと思った」
何が?私笑ってなかったかな。
「大げさだよ」
「お前はどれだけ俺がお前を好きか分かってねぇんだよ」
「七股男が何言ってんの」
「まだ言うのそれ……」
◇◆◇
カタカタと馬車が揺れる心地よいリズムで、リヒト様のお膝の上で眠りそうになる。
リヒト様は本当に私を片時も離さずに、馬車でもずっと側にいる。
「テトは連れてこなかったの?ルース君達の馬はいるのに」
「あーー、テルガードとクロムを連れて来たら、会えた事に満足してお前が余計帰ってこないと思って……」
「そんな事で!?」
「俺にとっては死活問題だったんだよ!!お前もう黙れ」
口を塞ぐ様にキスされて、すぐに甘い甘いキスに変わる。
「み、みんなに匂いでバレちゃうよ!?」
「だから何だ?俺はもう我慢しない。一生分した。帰ったらすぐ婚約するからな!!!」
「ええ……婚約って怒られてするものなの……」
「はぁ、いい匂い、可愛い、やばい。理性サヨナラ」
「ちょっと!しっかりして!」
「お、そろそろか……」
リヒト様が外の景色を見て言う。
「な、何が?」
「エルダゾルクとの国境。もう越えるぞ。紬、左肩はどうだ」
「?何も……?あ、やっぱり熱いかも、わわっ、熱つつ!!」
服をはだけて肩を出して見てみると左肩、背中の方に梅の花が咲いていた。
エルダゾルクに帰って来たんだ。
「はぁ、番の匂いやばい、可愛い、肩やばい。生肌エロい。理性死ぬ」
リヒト様は…………越境してもあんまりかわらないな。本当に番であろうがなかろうが変わらないのかもしれない。それはすごく嬉しい事だと思う。
「リヒト様、キスして欲しい」
「う…………あ……お、おねだり?」
「だめ…………?」
「ちょっとおねだり嬉しすぎて、理性やばそう」
リヒト様は片手を口元に当てて何かと葛藤してる。
「ふぅん、じゃあいいや」
「まて!まてまて!何でお前はいつもそうなんだ!!すぐに諦めんな!もっとねだれよ!」
えぇ……
2,717
あなたにおすすめの小説
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!!
打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました
成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。
天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。
学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる