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婚約者編
おかえり
しおりを挟む私の乗った馬車は、エルダゾルクの中心街にあるというアイラさんの店舗兼自宅には寄らずにそのまま王宮に帰ってきた。
「新しいお店、見たかったのに」
「後で連れて行ってやるよ、起き上がれるなら」
「起き……?別に疲れてないよ?」
リヒト様はその質問には答えずに、母屋の私達の部屋にずんずん入っていく。
そのままストンとベットに降ろされて、やっと理解した。
「ま、まだお昼なんだけど!!?」
「関係ない」
「お昼ご飯は?おなかすいてない?」
「後だ」
「えっと、先にシャワーを浴びたいな?なんて」
「後だ」
軍服の襟元をぐいと緩めて、ズルズルとベットの奥に追いやられる。
「もう逃さない。俺の全て」
噛み付くみたいなキスが降って来る。身体中にキスされて、左肩の梅の花を撫でられキスを落とされる。
「手加減もしてやらない」
「ヒィっ!何で!」
「悪いが竜は待てが苦手でな」
「は、離れに帰る!!」
「へぇ?逃げてもいいけど、獲物追っかけるの、俺得意だぞ?」
金の瞳孔が縦に延びて、本当に獣みたいな目で見下ろして来る。
怖いはずなのに、愛おしい。
「や、優しく、してくれるなら……」
「~~~~~~っっ、善処は、する……」
「神様、助けて……」
「んな事エルダゾルク神に祈んな!」
◇◆◇
結局二日間拘束されて、怒って殴ったらやっと離れに連れて来てくれた。(殴った手の方が痛かった)
縁側に座った私の頬にテトがスリスリしてくれて、膝にはモモンガの様な小さなクロム君がくっついている。
「お迎え、行きたい、言ったのに」
おぉ、クロム君が拗ねてる……人外の可愛さ。人外だけど。
私の横で着流し姿のリヒト様が胡座をかいて、バツの悪そうな顔で頭を掻いてる。
「あ~~クロム、お前の仕事、メインを紬の護衛にするから許せ」
ガバッと起き上がったクロム君がリヒト様を見る。
「主、ほんと?」
「ん、そのかわり鍛錬しろよ。弱い奴には任せておけない。俺らのうちの誰かと必ず毎日手合わせな」
「!!!!」
私の膝の上でぴょこぴょこ揺れるクロム君が可愛い。手合わせも、嬉しいんだね?
「よろしくね?嬉しいな」
「おじょ、だいすち」
ふわぁぁぁぁあああああ、可愛いぃぃぃ!!
「リヒト様がお仕事でいない時は一緒にここで眠ろうね」
「主、外国、いく」
「行かねーよ!!!!どんだけ懐いてんだよ!!」
食材がないので、おいてあった小麦粉で一口まん丸ドーナツを作ったのを私の膝にくっついたクロム君の口に入れてあげる。
「ケキの味」
久しぶりに聞いたな、ケキ。
可愛いが過ぎるな。
私の肩を抱いたリヒト様は、盃でお酒を飲みながら時折り私の左肩にキスを落とす。
「象徴華、気になる?変?」
「いや?俺のもんだっていう印みたいで気に入ってるだけ」
やっぱりリヒト様は凄い殺し文句をさらりと言う。全然照れもせず。
「今度はおつまみも用意するね」
「お前がいれば、それでいい」
ここにいる時間が好きだ。母屋からは見えない様に配慮された私の離れ。すごく広いお庭があって、テト達が行き交う。
「これやる」
取り出したのは小さなアクセサリーボックスで、無意識に身構えてしまった。
「…………これは絶対にこの世に二つと無いものだから安心しろ」
そう言ってパカっと開いて渡してくれたのは、プラチナの台座に光る黒い宝石の指輪だった。
輪の部分のプラチナとすごく繊細な金のチェーンが二重にあって、三連の指輪をしているみたいになる。
真っ黒の宝石は大き過ぎることもなく、シンプルでカッコいい。
「俺の逆鱗を加工して作ったものだ。それ自体にも魔力があるから、低級な奴らは寄ってこれなくなる」
「逆鱗……ファンタジー……」
「婚約指輪だ。ずっとつけてろよ」
左手の薬指に通されて、そのまま私の膝で寝ていたクロム君の頭を撫でると一瞬ぶわっっっと毛が逆だった。
「え……?なに……?」
私のびっくりをよそにまたすよすよねはじめたクロム君を見てリヒト様が言う。
「魔力の大きさにびっくりして、けど俺の魔力と気づいてまた寝たな。クロムにしてはまぁ合格点だな」
「へ、へぇ……?」
------------------------------------
▶︎▶︎【あとがき】
紬 「だ•い•す•き」
クロム 「だ、い、す、ち」
紬 「だ•い•す•き」
クロム 「だ、い、し、き」
紬 「~~~~~~~~~~~~♡♡♡」
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