53 / 173
婚約者編
陛下の治癒
しおりを挟む朝からリヒト様が王宮に呼ばれて出て行ったので私達は縁側でまったりしてると、庭の向こうからユアンさんとルース君が離れにやって来た。
「おーいクロム~!手合わせすっぞ~!」
隣にいたクロム君がシュバっと消えて、次の瞬間には庭で二人に囲まれてた。
手合わせという割に、全員抜刀してる。
クロム君は短いドスのような刀を両手に持って二人を見据えている。
ルース君は長い刀を抜いて、すごく腰を落として右側面にかまえてる。
ユアンさんの刀は普通の長さで、ルース君とは違ってまっすぐ剣道の様な綺麗な姿勢で構えて動かない。
「えぇ、なんで武器つかうの……?」
「大丈夫でございますよ。大人が武器を使わないとクロムの鍛錬になりませんし。実践を意識しませんと」
ミリーナさんは何でも無いことの様に言う。
戦闘民族怖い。
子ども相手に二対一ってのも怖い。せめて木刀にしていただきたい。
そんな事を考えている間にカキーンカキーンと音はするけれども行動を目に追えない戦いが始まってしまった。 ピンクブロンドの髪と小さな灰色の髪の残像を必死で追っている感じ。色の塊としか捉えられない。
ルース君が上空に高く飛んで上で一回転し、クロム君が落ちて来るルース君を迎えにいく様に飛んだのまでは分かったけれど、そのあとは目で追えなくて何が起こったかわからない。
クロム君が着地しようとした庭にはユアンさんが待ち構えていて、土煙が舞い上がって二人を包んでよく見えない。
風が吹いて土煙が晴れたら二人が鍔迫り合いをしているのが見えた。
ユアンさんは飄々としていて汗もかいてない。クロム君の方は息が上がっていて、力で押されている。
その隙をついてルース君がクロム君に刀を突き刺した。クロム君の腕から血飛沫が上がる。
目の前が真っ暗になって、何を叫んだのか覚えてない。
気づけば足袋のまま庭に飛び出していて、クロム君の怪我をした腕を押さえていた。
「クロム君!!やだ!!クロム君!い、痛いよね!?わ、私に、力が使えれば!だ、誰か、やだ!」
涙がぼろぼろ出て来て止まらない。
目の前にクロム君のびっくり顔。
「どうしよう、血が!誰か!ルルリエさん!助けて!クロム君クロム君!!」
「竜人はこのくらい平気だよ~つむつむ~」
「おじょう、だいしき」
涙が止まらなくて、前がよく見えない。
クロム君の舌足らずだけど冷静な声だけが脳に響く。
——右手が熱い。
右手の熱さをクロム君に流す様に夢中で傷に触れる。
私とクロム君を白金の光が包み、私の魔力がクロム君に通ってまた私に循環する感覚。
光が消えた後、唖然としたユアンさんとルース君、にっこり笑った(!)クロム君が私の前にいた。
クロム君の怪我を、私が治した。
————治せると、あの瞬間分かった。
傷の治った(表情は元の無表情に戻った)クロム君を抱きしめて、ユアンさんに向き直る。
「ユアンさん、リヒト様は今陛下の御前にいらっしゃるんですよね?」
「え、えぇ。陛下の具合が急変しておりまして。先程まで私共も控えておりました」
「最速でリヒト様の所に連れて行ってもらえませんか」
「どういう……?」
「お願いします!一番早い方法で連れて行って!!」
私の真剣な表情に一つだけ頷いたあと、「失礼」と一言だけいって、私をお姫様抱っこして紺の翼を出して上空に飛んだ。
あれだけ遠いと思った王宮がグングン近づいて来る。
後ろから灰色の小さな翼を出したクロム君と、濃い紫色の翼のルース君もついてきている。
王宮の三階部分の窓にユアンさんが近づくと、中から窓が勢いよく開いてびっくり顔のリヒト様がユアンさんから私を受け取ってくれた。
「つむぎ!?どうした?」
リヒト様のいた所は陛下の寝室ではなく控え室の様な場所で、リヒト様しか今はいないみたいだった。
ユアンさんとルース君、クロム君も窓から中に入って来ている。
「あの、あのあの、私、力の使い方、分かったかもしれなくて!」
「何だと!?」
降ろした私の肩を掴んで驚愕の顔を見せる。
「その、たぶん、あの」
「ん?」
「あのね、あの、誰かを癒すのって、私の魔力?を相手と循環させてるっぽくて、その……」
リヒト様はつっかえつっかえ話す私の話を辛抱強く聞いて下さってる。
「わ、わたし、運動神経悪いし、要領がうまく掴めなくて、それで……」
ぼっと顔が熱くなる。私今きっと真っ赤だと思う。
「あの、治ってほしいって私が思いを送って、相手も私を思ってくれると上手く流れがつかめるっていうか、だから……」
ちらとリヒト様を見ると悪い顔でニヤっと笑ってる。
「愛されると力が使えるって事だな?」
「えと、多分」
「それ俺得意だぞ?良かったな」
「!?だ、だから、他の人はふつう出来ないんだけど、陛下に事情を話して、嘘でもその時だけ私に気持ちを向けてくれたらもしかして……嘘だからだめかもだけど、やってみる価値は、あるかなって」
「俺を介せばできんじゃね?」
「え?」
「ん、だから俺得意だし」
「んん?」
2,477
あなたにおすすめの小説
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!!
打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました
成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。
天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。
学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
もう何も信じられない
ミカン♬
恋愛
ウェンディは同じ学年の恋人がいる。彼は伯爵令息のエドアルト。1年生の時に学園の図書室で出会って二人は友達になり、仲を育んで恋人に発展し今は卒業後の婚約を待っていた。
ウェンディは平民なのでエドアルトの家からは反対されていたが、卒業して互いに気持ちが変わらなければ婚約を認めると約束されたのだ。
その彼が他の令嬢に恋をしてしまったようだ。彼女はソーニア様。ウェンディよりも遥かに可憐で天使のような男爵令嬢。
「すまないけど、今だけ自由にさせてくれないか」
あんなに愛を囁いてくれたのに、もう彼の全てが信じられなくなった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる