【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香

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婚約者編

陛下の治癒

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 朝からリヒト様が王宮に呼ばれて出て行ったので私達は縁側でまったりしてると、庭の向こうからユアンさんとルース君が離れにやって来た。

「おーいクロム~!手合わせすっぞ~!」

 隣にいたクロム君がシュバっと消えて、次の瞬間には庭で二人に囲まれてた。

 手合わせという割に、全員抜刀してる。

 クロム君は短いドスのような刀を両手に持って二人を見据えている。

 ルース君は長い刀を抜いて、すごく腰を落として右側面にかまえてる。

 ユアンさんの刀は普通の長さで、ルース君とは違ってまっすぐ剣道の様な綺麗な姿勢で構えて動かない。

「えぇ、なんで武器つかうの……?」

「大丈夫でございますよ。大人が武器を使わないとクロムの鍛錬になりませんし。実践を意識しませんと」

 ミリーナさんは何でも無いことの様に言う。
戦闘民族怖い。

 子ども相手に二対一ってのも怖い。せめて木刀にしていただきたい。

 そんな事を考えている間にカキーンカキーンと音はするけれども行動を目に追えない戦いが始まってしまった。 ピンクブロンドの髪と小さな灰色の髪の残像を必死で追っている感じ。色の塊としか捉えられない。

 ルース君が上空に高く飛んで上で一回転し、クロム君が落ちて来るルース君を迎えにいく様に飛んだのまでは分かったけれど、そのあとは目で追えなくて何が起こったかわからない。

 クロム君が着地しようとした庭にはユアンさんが待ち構えていて、土煙が舞い上がって二人を包んでよく見えない。

 風が吹いて土煙が晴れたら二人が鍔迫つばぜり合いをしているのが見えた。 

 ユアンさんは飄々ひょうひょうとしていて汗もかいてない。クロム君の方は息が上がっていて、力で押されている。

 その隙をついてルース君がクロム君に刀を突き刺した。クロム君の腕から血飛沫が上がる。

 目の前が真っ暗になって、何を叫んだのか覚えてない。

 気づけば足袋のまま庭に飛び出していて、クロム君の怪我をした腕を押さえていた。

「クロム君!!やだ!!クロム君!い、痛いよね!?わ、私に、力が使えれば!だ、誰か、やだ!」

 涙がぼろぼろ出て来て止まらない。

 目の前にクロム君のびっくり顔。

「どうしよう、血が!誰か!ルルリエさん!助けて!クロム君クロム君!!」

「竜人はこのくらい平気だよ~つむつむ~」

「おじょう、だいしき」

 涙が止まらなくて、前がよく見えない。
クロム君の舌足らずだけど冷静な声だけが脳に響く。

——右手が熱い。

 右手の熱さをクロム君に流す様に夢中で傷に触れる。

 私とクロム君を白金の光が包み、私の魔力がクロム君に通ってまた私に循環する感覚。

 光が消えた後、唖然としたユアンさんとルース君、にっこり笑った(!)クロム君が私の前にいた。

 クロム君の怪我を、私が治した。

————治せると、あの瞬間分かった。

 傷の治った(表情は元の無表情に戻った)クロム君を抱きしめて、ユアンさんに向き直る。

「ユアンさん、リヒト様は今陛下の御前にいらっしゃるんですよね?」

「え、えぇ。陛下の具合が急変しておりまして。先程まで私共も控えておりました」

「最速でリヒト様の所に連れて行ってもらえませんか」

「どういう……?」

「お願いします!一番早い方法で連れて行って!!」

 私の真剣な表情に一つだけ頷いたあと、「失礼」と一言だけいって、私をお姫様抱っこして紺の翼を出して上空に飛んだ。

 あれだけ遠いと思った王宮がグングン近づいて来る。
後ろから灰色の小さな翼を出したクロム君と、濃い紫色の翼のルース君もついてきている。

 王宮の三階部分の窓にユアンさんが近づくと、中から窓が勢いよく開いてびっくり顔のリヒト様がユアンさんから私を受け取ってくれた。

「つむぎ!?どうした?」

 リヒト様のいた所は陛下の寝室ではなく控え室の様な場所で、リヒト様しか今はいないみたいだった。

 ユアンさんとルース君、クロム君も窓から中に入って来ている。

「あの、あのあの、私、力の使い方、分かったかもしれなくて!」

「何だと!?」
降ろした私の肩を掴んで驚愕の顔を見せる。

「その、たぶん、あの」

「ん?」

「あのね、あの、誰かを癒すのって、私の魔力?を相手と循環させてるっぽくて、その……」

 リヒト様はつっかえつっかえ話す私の話を辛抱強く聞いて下さってる。

「わ、わたし、運動神経悪いし、要領がうまく掴めなくて、それで……」

 ぼっと顔が熱くなる。私今きっと真っ赤だと思う。

「あの、治ってほしいって私が思いを送って、相手も私を思ってくれると上手く流れがつかめるっていうか、だから……」

 ちらとリヒト様を見ると悪い顔でニヤっと笑ってる。

「愛されると力が使えるって事だな?」

「えと、多分」

「それ俺得意だぞ?良かったな」

「!?だ、だから、他の人はふつう出来ないんだけど、陛下に事情を話して、嘘でもその時だけ私に気持ちを向けてくれたらもしかして……嘘だからだめかもだけど、やってみる価値は、あるかなって」

「俺を介せばできんじゃね?」

「え?」

「ん、だから俺得意だし」

「んん?」



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