78 / 173
家族編
誕生
しおりを挟むたまごちゃんは順調に育ってる。今は三十センチくらいの大きさになっていて、五ヶ月で産まれるはずが、六ヶ月目になっている。
「おかしいなー話しかけたり歌ったりしてるのに、出たくないのかな?」
クロム君も困り顔だ。困り顔までキュート。
クロム君を抱き上げて、揺籠の前でじっと待っているけれどたまごはびくともしない。
「おにいちゃんですよー!あ、兄上か」
「あにうえ…………?」
「そうだよ~この子はクロム君の弟になるからね。よろしくね?」
「おとと……」
クロム君が小さな手を伸ばしてたまごちゃんをおそるおそる撫でてくれた。
クロム君が手を引っ込めたその時、カタカタっとたまごが揺れて、カツンカツンと中から音が聞こえた。
「え!?これ、中で動いてない??」
クロム君がシュバっと私の腕から縁側にジャンプして、ダンっと足を開き両手を前に出した。母屋と王宮の方に向かって何か魔力を込めたようで、空気がビリビリ揺れる感覚がした。
「な、何!?」
たまごちゃんとクロム君を交互に見て困惑する。
たまごは中からヒビが入れられたようで、大きな亀裂がはしっていた。
バサッバサッっと何重にも羽音が聞こえてきて、上を見ると空が暗くなるほどの竜人達がこちらに向かって飛んできている。先頭に、リヒト様。
「ヒィッ!何?戦争!?」
リヒト様だけ縁側に降り立ち、他の竜人達は皆お庭に降り立っていく。
「始まったか」
「え?あ、ヒビが入って……」
リヒト様は臣下の前のリヒト様だ。ちょっと怖い。
パリパリいう音と共に欠片が落ちて、空いた穴から黒くうごめく物が見えた。おかしいな?人間の姿で出てくるって聞いてたのに。たまごから出てすぐに翼を出すのが普通らしい。でも黒いな?真っ黒。
みんなからは見えない位置で軍服の裾を握ったけれど、リヒト様は何も言わない。
中華風の金の着物を着た陛下も部屋に入ってきて揺籠を覗き込む。いつものポンコツじゃなくて真剣な表情だ。
「来い」
リヒト様がたまごちゃんに言うと、たまごの周りで小さな風が起こってたまごちゃん自身が自分で殻を吹き飛ばした。空中に、小さな小さな真っ黒な竜。
「竜体で産まれたか!!さすがだな!」
陛下がよく分からないことを言って、手をかざす。
空中にいつか見た契約書類の文言がどんどん浮かんでいって、リヒト様がそれに手をかざすと下の方に署名が現れた。
リヒト様が金と銀の装飾のついた小さなナイフを子竜の指に当て、傷ついた子竜の指を署名の横に押し当てた。
陛下が満足そうに頷いてまた手をかざすと、下からキラキラと金色のカケラになって天に登っていった。
「だ、抱っこしたい……」
「もうすこしまて」
完全に臣下の前バージョンのリヒト様が、子竜を抱き上げて縁側に向かう。慌てて後を追う私が見たものは、ずらっと庭に整列した竜人達。
先頭に陛下の侍従達が刀を体の前に鞘ごと立てて持ち、片膝をついて跪き子竜とリヒト様を見てる。
二列目にリヒト様の幹部達。クロム君までいる。
その後ろに大勢の軍人さんと、文官が並ぶ。
広い庭に入りきらないほどの竜人が整列し、奥の小道の方まで続いている。
刀を持っている人たちは皆同じ姿勢で跪き、刀のない人は胡座をかいて左右に拳をつけてこっちを見てる。
後方には女性たちがしゃがんで跪いていて、みんながずらっと綺麗に整列した状態でこちらをみている。
誰も喋らない。陛下ですら。
リヒト様が子竜を高く掲げると、一斉に臣下達が頭を下げた。
「エルダゾルク神の寵児、レスター•リア•エルダゾルクに忠誠を示せ。これより王家の一員として神の子を迎える」
リヒト様の言葉に、臣下達の頭が深く深く下がる。
一番先頭にいた陛下の侍従のひとりが頭を下げたまま話す。
「我ら臣下、生涯の忠誠を誓い、身命を賭して御身をお守りすると誓約申し上げる」
「許す」
全員がまた深く深く頭を垂れる。
ビリビリするような緊張感に眩暈がしてふらつくと、陛下が肩を支えてくださった。
「もう少しだよ、頑張れ」
優しい言葉をそっとかけて、そのまま縁側のリヒト様のところに向かっていった。
陛下の手に、刀。
鞘に何か紋章の入った刀を子竜を抱いて跪いたリヒト様に渡す。
片手で恭しく頂いたリヒト様が緊張を解いて縁側に座ると、一斉にガヤガヤしだして皆がリヒト様の周りに集まり出した。
みんな子竜を見てニコニコとしてる。
陛下の侍従が子竜を撫でようと手を出したのを見て全身の血が沸騰するような感覚を覚えた。
————「嫌!!返して!!さわらないで!!!」
リヒト様から奪って抱き上げる。
「みんな嫌!!!帰って!!!!!!」
涙がボロボロ出てきて止まらない。なぜ私から取り上げるの。なんで私が抱けないの。私の子なのに!!!!
そばに来ていたクロム君も抱き上げて、走って離れの奥に逃げ込んだ。
2,820
あなたにおすすめの小説
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!!
打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました
成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。
天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。
学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる