77 / 173
家族編
ルルの光
しおりを挟む誰が来ても頓着しない私を見て、リヒト様は元の生活に戻してくれた。ルルリエさんも診察によくくるし、ミリーナさんもそばにいる。母屋と離れの行き来もできる。
卵を落とすのが怖いので、基本的には離れで生活をしている。
いつもと変わらない、私の好きな場所。
クロム君がいて、テトとルル達が行き交う。
「クロム君はルルをお願いね?」
「ん」
私のお願いで、芝ではなくてクローバーが植えられたテト達の広い庭は、小川まで作ってあるので庭に出るだけでピクニックができる。
大きな木の木陰に入ってテトに丁寧にブラシをかける。ルルはわりと人懐っこい子だったようで、クロム君とも仲良しだ。謎に背中に乗ってブラシをかけてる。
「あれ?ヴァルファデとアルトバイス?」
ルース君とクロードさんの馬が遊びに来て、小川の水を飲んでる。
「こんな近くまできてくれるの珍しいね。どうしたんだろ」
テトがブルンと低く泣くと、ヴァルファデとアルトバイスがこちらにゆっくりやって来た。
そのままクロム君の乗ったルルの前まで来ると、二頭とも深く頭を下げて止まった。まるでお辞儀をしているみたいに。
テトがまた低く鳴くと、二頭はまた厩の方へ帰って行った。
「クロム君、今の何?」
クロム君もルルの上でキョトンとしてる。
「え?クリストフ!?」
ユアンさんの馬のクリストフまでお庭に入って来たのでクロム君と目を見合わせる。
ヴァルファデとアルトバイスは私達の近くには来ないものの庭にはたまに遊びに来る。
けれどユアンさんの馬のクリストフは一度もこの庭に来たことは無いのに。
「どう、したのかな?なんだろ?お腹すいたとか?」
また真っ直ぐにこちらに来て、ルルの前で止まり同じように頭を下げて帰って行った。シルバーの毛並みが艶めいて、忠誠を誓う騎士みたいに見えた。
「なんだろう?ルルに何かあるのかな?」
クロム君が私の腕の中に降りて来て二人でルルを見つめると、ルルのお腹あたりがぼんやり光り始めた。光は二回瞬いた後ゆっくり消えていった。
「クロム君……リヒト様の所に連れて行って」
クロム君が飛びながら私の手を引き、お庭伝いに王宮へと行く。
リヒト様の執務室なんて行ったことがないので、知らない廊下や部屋ばかりだ。
大きな豪華な造りの扉の前でクロム君が止まると、中から慌てたリヒト様がドアを開けてくれた。
匂いで分かったのかもしれない。
「紬!?どうした!?」
「妊娠したかも」
「はぁ!!!??おま、誰の子だよ!!!————ちょっと待ってろ殺してくるから」
一気に目の座ったリヒト様に絶句する。
「てめぇ、俺に散々我慢させといてどういうことだ。とにかくその男を殺してくるから早く言え」
「~~~!!リヒト様の馬鹿っっ!!!!」
執務室の中のユアンさん達がびっくりしてこっちを見てる。超超恥ずかしい!!なんて事言うの!!
「妊娠したのは!ルル!!!!!」
「「「「 は? 」」」」
今度は後ろの幹部達が声を揃えた。
「びっくりさせんな!!!………………は?」
やや遅れてリヒト様が反応する。
「とにかく、獣医さんを呼んでほしいの!!」
リツさんが手配に走ってくれて、私達は離れに移動しながらさっきあったことを話す。
「天馬の繁殖に成功したってこと~~?ありえなくない~?マジなら世界初だよ~」
完全に口調が元に戻ってるルース君が言う。
「そうなの?」
「えぇ……過去に何回も各国で連携をとって雄雌のペアを作って試しましたが、成功したことはありません……」 ユアンさんは半信半疑な感じだ。
「おいリヒト、マジなら大ニュースになっちまうぞ」
クロードさんがリヒト様に言う。
「リヒト様?多分だけど、双子だよ」
「「「「 は? 」」」」
「ねぇ?クロム君」
クロム君はキョトン顔だ。二回瞬いたからそうかと思ったけど違うかな?
「つーかつむぎ、お前ガキはどうした?」
「たまごちゃん?お留守番してるよ?」
「「「「…………………………」」」」
何なのか。母屋も離れも周りをガチガチに警備してあるから世界一安心っていったのに。
「おるすばん……………………なんかお前が言うとルルの妊娠もあり得る話に思えてきた…………」
「え?うそじゃないよ?」
片手で私を抱きながらため息をつくリヒト様は余った手で眉間を揉んでいる。
みんなコンパスが長いのであっという間にお庭が見えてきて、テトが迎えてくれた。
ルルを探すと木陰で木にもたれて立っている。
「え?さっきまで普通だったのに……」
ルルのお腹がさっきより大きくふっくらしている。
テトがかけていって、ルルを気遣っているのがわかる。
「そんなことある!?!?」
ルース君が大声をあげる。
「天馬の生態は謎の事の方が多いです。これは……つむぎ嬢のお名前を出さずにどうやって公表すれば……」
「リヒト、各国からいろんな催促がくるぞこれ」
何なのか。みんなお祝いしてあげてよ!
「テト!ルル!おめでとう!!すっごくたのしみだねぇ!!」
私が二頭の所に駆け寄ると、ダブルスリスリが送られて可愛い。
駆けつけた獣医さんによって診察がなされて、ルルの双子妊娠が確定した。これから出産のためにチームを作るとか何とか言って大汗をかきながら帰っていった。
「ね?双子だったでしょう?」
「お前の規格外もここまでくるとすげえな……」
仕事にならんとそのまま離れに残ってくれたリヒト様は縁側で私を抱き込んで呆れ顔だ。
「いつ産まれるのかなぁ。たまごちゃんと同じぐらいかなぁ」
「俺の子はあと四ヶ月ってとこか。ルルは未知すぎて分からんな」
たまごちゃんの卵は少しだけ大きくなった。
卵のまま成長するらしい。卵自体が母親と自分の魔力を合わせて作り出した魔力体なんだって。幼体にしか作れなくて、産まれてしまえばその記憶は消えてしまうから作り方はわからないらしい。
「男の子かな?女の子かな?」
「男だな。気配でわかる」
「え!!??そうなの!?知らなかった!!」
「このまま何事もなく産まれればお前は王家の後継を産んだ英雄だぞ。褒賞が出る」
「また褒賞~?褒賞好きだね?この国」
「んなわけあるか!お前が規格外なだけだ!」
「あ!じゃあ陛下のお財布でクロム君の冬服思いっきり注文しよ~~!スカーレットさんクロム君可愛くする天才なんだよね~!!」
「……………………おまえ……」
テトの上で遊んでいたクロム君がこっちをむいてにっこりしたのが見えた。
「そういえば、ルルリエさんがね、もう大丈夫だってこの前いってたよ?我慢してたの?」
「はぁ!?!?そういう事はもっと早く言えよ!!」
2,466
あなたにおすすめの小説
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!!
打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました
成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。
天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。
学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる