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家族編
誕生
しおりを挟むたまごちゃんは順調に育ってる。今は三十センチくらいの大きさになっていて、五ヶ月で産まれるはずが、六ヶ月目になっている。
「おかしいなー話しかけたり歌ったりしてるのに、出たくないのかな?」
クロム君も困り顔だ。困り顔までキュート。
クロム君を抱き上げて、揺籠の前でじっと待っているけれどたまごはびくともしない。
「おにいちゃんですよー!あ、兄上か」
「あにうえ…………?」
「そうだよ~この子はクロム君の弟になるからね。よろしくね?」
「おとと……」
クロム君が小さな手を伸ばしてたまごちゃんをおそるおそる撫でてくれた。
クロム君が手を引っ込めたその時、カタカタっとたまごが揺れて、カツンカツンと中から音が聞こえた。
「え!?これ、中で動いてない??」
クロム君がシュバっと私の腕から縁側にジャンプして、ダンっと足を開き両手を前に出した。母屋と王宮の方に向かって何か魔力を込めたようで、空気がビリビリ揺れる感覚がした。
「な、何!?」
たまごちゃんとクロム君を交互に見て困惑する。
たまごは中からヒビが入れられたようで、大きな亀裂がはしっていた。
バサッバサッっと何重にも羽音が聞こえてきて、上を見ると空が暗くなるほどの竜人達がこちらに向かって飛んできている。先頭に、リヒト様。
「ヒィッ!何?戦争!?」
リヒト様だけ縁側に降り立ち、他の竜人達は皆お庭に降り立っていく。
「始まったか」
「え?あ、ヒビが入って……」
リヒト様は臣下の前のリヒト様だ。ちょっと怖い。
パリパリいう音と共に欠片が落ちて、空いた穴から黒くうごめく物が見えた。おかしいな?人間の姿で出てくるって聞いてたのに。たまごから出てすぐに翼を出すのが普通らしい。でも黒いな?真っ黒。
みんなからは見えない位置で軍服の裾を握ったけれど、リヒト様は何も言わない。
中華風の金の着物を着た陛下も部屋に入ってきて揺籠を覗き込む。いつものポンコツじゃなくて真剣な表情だ。
「来い」
リヒト様がたまごちゃんに言うと、たまごの周りで小さな風が起こってたまごちゃん自身が自分で殻を吹き飛ばした。空中に、小さな小さな真っ黒な竜。
「竜体で産まれたか!!さすがだな!」
陛下がよく分からないことを言って、手をかざす。
空中にいつか見た契約書類の文言がどんどん浮かんでいって、リヒト様がそれに手をかざすと下の方に署名が現れた。
リヒト様が金と銀の装飾のついた小さなナイフを子竜の指に当て、傷ついた子竜の指を署名の横に押し当てた。
陛下が満足そうに頷いてまた手をかざすと、下からキラキラと金色のカケラになって天に登っていった。
「だ、抱っこしたい……」
「もうすこしまて」
完全に臣下の前バージョンのリヒト様が、子竜を抱き上げて縁側に向かう。慌てて後を追う私が見たものは、ずらっと庭に整列した竜人達。
先頭に陛下の侍従達が刀を体の前に鞘ごと立てて持ち、片膝をついて跪き子竜とリヒト様を見てる。
二列目にリヒト様の幹部達。クロム君までいる。
その後ろに大勢の軍人さんと、文官が並ぶ。
広い庭に入りきらないほどの竜人が整列し、奥の小道の方まで続いている。
刀を持っている人たちは皆同じ姿勢で跪き、刀のない人は胡座をかいて左右に拳をつけてこっちを見てる。
後方には女性たちがしゃがんで跪いていて、みんながずらっと綺麗に整列した状態でこちらをみている。
誰も喋らない。陛下ですら。
リヒト様が子竜を高く掲げると、一斉に臣下達が頭を下げた。
「エルダゾルク神の寵児、レスター•リア•エルダゾルクに忠誠を示せ。これより王家の一員として神の子を迎える」
リヒト様の言葉に、臣下達の頭が深く深く下がる。
一番先頭にいた陛下の侍従のひとりが頭を下げたまま話す。
「我ら臣下、生涯の忠誠を誓い、身命を賭して御身をお守りすると誓約申し上げる」
「許す」
全員がまた深く深く頭を垂れる。
ビリビリするような緊張感に眩暈がしてふらつくと、陛下が肩を支えてくださった。
「もう少しだよ、頑張れ」
優しい言葉をそっとかけて、そのまま縁側のリヒト様のところに向かっていった。
陛下の手に、刀。
鞘に何か紋章の入った刀を子竜を抱いて跪いたリヒト様に渡す。
片手で恭しく頂いたリヒト様が緊張を解いて縁側に座ると、一斉にガヤガヤしだして皆がリヒト様の周りに集まり出した。
みんな子竜を見てニコニコとしてる。
陛下の侍従が子竜を撫でようと手を出したのを見て全身の血が沸騰するような感覚を覚えた。
————「嫌!!返して!!さわらないで!!!」
リヒト様から奪って抱き上げる。
「みんな嫌!!!帰って!!!!!!」
涙がボロボロ出てきて止まらない。なぜ私から取り上げるの。なんで私が抱けないの。私の子なのに!!!!
そばに来ていたクロム君も抱き上げて、走って離れの奥に逃げ込んだ。
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