81 / 173
家族編
灰色子竜の葛藤
しおりを挟む朝早く起きてすぐに逃げる様に離れに来ると、お母さんとクロム君がミリーナさんの運んできた朝食の膳を食べていた。
私を認めたクロム君は固まっている。
どうしたらいいか分からないって顔をしてる。
すぐに子竜を揺籠に寝かせてその場でしゃがむ。
「クロム君、おいで」
いつもはすぐに飛んでくるのに、今日はとぼとぼ歩いてくる。
時折りお母さんを気にして振り向いている。
手を広げているのに、私の元についても抱きついていいのか迷っている風だったので、こちらから抱き寄せぎゅうぎゅう抱きしめる。
「クロム君がいなくて、さみしかった。待っててくれて、ありがとう」
「はは……うえ」
「うん、今日はクロム君の好きな肉まんをいっぱい作ろうね」
「ははうえ……」
「二人でテトとルルの赤ちゃん、遠くからそっと見てみようか。仔馬ちゃんきっと可愛いよ」
「ははうえ、ゔぇ……ゔあっ…………っ」
小さな体が熱くなって、全身で泣いてるみたいにしがみついてきた。
こんなに小さな子でも、子竜誕生の儀式の時には臣下側として跪いていた。
臣下だと分かっているからこそ、本当の子供の誕生後にどうしたらいいのか分からなくなってしまったのだろう。
「店はクレアとキラキラ坊やが用意する人材に任せるからね。私はしばらく夜まで通いでここにくるよ」
「お母さんありがとう。すごく心強い。」
泣いてしがみついてくるクロム君の頭をなでて、クロム君の食べかけの御膳前に座る。
いつもは自分でお食事エプロンをするのに今日はしてない。小さなことからも、この子の葛藤が見えてしまって胸がギュッといたくなった。
何でもない風にお食事エプロンを付けてやる。大麦のお粥と副菜が何品かあったので、お粥をふうふうしてスプーンを運ぶとやっと可愛いお顔を見せて口を開けた。
「ふふ、これじゃあたりないね?あとでおにぎりとゆでたまごも食べようか?おにぎりは何の具にする?」
「ははうえ……」
「うんうん、クロム君の好きな鮭にしようか。お海苔もまこうね?」
「ははうえ」
「おにぎりは三つにしようね。鮭と、唐揚げのと、あとは何にしようかな~」
「ははうえ」
「今日は特別にポケットにクッキーの袋、入れてあげる。いつでも食べられるよ?」
「ははうえ」
こりゃあ私の仕事はこっちになりそうだねぇと独り言を言ってお母さんが子竜を抱いてミルクをあげ始めた。
特に人見知りすることなくミルクに嬉しそうにしがみついて飲んでる姿を見て安心する。
「つむぎちゃん、入ってもいいかしら?」
ルルリエさんの声が廊下からする。
いつも彼女は庭から来るのに、気を遣ってくれたんだと分かる。
「ルルリエさん!来てくれてありがとう!赤ちゃんも見てくれる?」
直ぐに駆け寄って襖を開けると、私の表情を一瞬うかがった後、部屋に入って診察をしてくれた。
「赤ちゃん、人型じゃないの。変?」
「王家の子だからね、獣性が強いのよ。殿下もたしか竜体で産まれたはずよ。人の姿には、なりたくなればなるから心配しなくて大丈夫。知能も魔力も高い証拠だから、子育ても楽なはずよ?」
お母さんに抱かれた子竜の脈を測りながらルルリエさんが言う。
「ナイフで傷をつけられたの。黒くて私じゃ傷が見つけられなくて。手当をしてあげたいの。癒しの力を使っても、発動しなくて……」
「もう治ってるからよ。跡形もない。安心して?竜人は強いのよ」
ミリーナさんが全員分のお茶を淹れてくれて、皆が座ったので、不安なことを一気にみんなに聞いた。
おっぱいが出ないこととか、ミルクの中身は何なのかとか。おむつはしなくていいのかとか。
人型で出てくると思い込んでいたので、イレギュラーすぎて手探りの子育てになってしまった。布おむつ、頑張って縫ったのに……
「まぁまぁ、ご不安だったのですね?大丈夫ですよ。私は殿下の乳母なんですよ?何でもお任せ下さいまし」
!?そっか!竜体で産まれたリヒト様のお世話をした人がここに!
「まずは認識を改めませんと。竜体のレスター殿下はもっと喋らないクロムだとお思いになって下さいまし」
「へ!?」
「つむぎちゃん、さっき知能が高いって言ったでしょ?こちらの言ってることは何でも理解するわよ?ちなみにミルクは今日までで、明日からはモモンガと同じものあげてね」
「では私がお手洗いについて説明してまいりますね?妃殿下、私が抱いても大丈夫でございますか?」
「あ、うん、お母さんとルルリエさんとミリーナさんはなぜか平気。他の人は、今は、嫌かも……」
ミリーナさんはすごく嬉しそうににっこり笑って、子竜を抱いてトイレに向かった。
中からトイレについて説明する声がする。
ここで流してとか、人型になった時の座り方とか。クロム君用のトイレにつける補助具の説明までしてる。
えぇぇ……赤ちゃんなのに……?
唖然と見守る私にルルリエさんが苦笑する。
「もっと喋らないクロム君…………」
「そうよ?得意でしょ?つむぎちゃんはこのままでいいの。やることがあるのはモモンガの方ね」
私とクロム君がキョトンとすると、ルルリエさんは笑って続ける。
「モモンガ、よく聞きなさい。あんたの母上は人間よ。すっご~~~~~~く弱いの。最弱なの。ダンゴムシ級よ!レスター殿下はまだ力の加減が出来ないわ。言ってる意味、分かる?」
クロム君の顔色がザァーっと青くなる。
え?いつも手加減してくれてたの?
「モモンガが止めなさい。本当は父親の役目だろうけど、あんたの方が適任ね。力の使い方と加減の仕方をレスター殿下に叩き込みなさい」
クロム君が真剣な顔で頷く。
「つむぎちゃん、モモンガとレスター殿下が組み合って大喧嘩してるように見えても止めちゃダメよ。モモンガは賢いし、ちゃんと分かってるわ。二人とも怪我をしても大丈夫。殴っても蹴られても、力の使い方を知るのに必要なことなの。こんなに強い魔力の使い方をしらないなんて、殺人鬼になっちゃうわよ?」
「~~~~~~!?わ、わかった。クロム君、お願いできる?」
クロム君がコクンと頷いた時、子竜が飛んで私の元に来た。
腕を広げたら、スピードを上げた子竜がもう目の前にいて、クロム君にむんずと足を掴まれてる。
「ははうえ、やさしく、弱くする」
それだけ言うと、手をそっと離した。子竜は向きを変えてクロム君の頭に着地してふわふわの毛の中でうずくまった。
「ふふふ、兄上が大好きなんだね?可愛い」
私がクロム君を兄上と呼んだことにミリーナさんが驚愕した顔をしたけれどまるっと無視した。
2,636
あなたにおすすめの小説
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!!
打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました
成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。
天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。
学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる