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家族編
双子の出産
しおりを挟む「リヒト様、テトが鳴いてる……」
お風呂から上がって少し冷静になった私が、子竜を抱いて母屋の庭に通じるバルコニーのような広い縁側のソファーで風に当たっていると、微かにテトの声が聞こえた気がした。
「テト、助けてって言ってる。いかなくちゃ」
「つむぎ? 俺が見てくるから、お前はレスターとここにいろ」
「嫌。テト、私に助けてって言ってる」
「…………? 分かった。一緒に行こう。レスターはどうする?寝かせていくか?」
「連れていく」
私の返事にリヒト様はひょいと私を子竜ごとまた横抱きにして翼を出した。
満月のあかりが辺りを照らす。
離れの裏のテト達の厩が見えてきて、入り口に降り立つとすぐに異変に気がついた。
「ルル!破水してる!!」
ルルが横たわり、下半身あたりの床が水たまりのようになっている。
「リツ!直ぐに獣医チームを連れてこい!ルルの出産が始まった!!」
リヒト様が掌から出した魔法陣に向かって叫ぶ。
テトが私の方にかけてきてスリと頬を撫でた後、ついてきてとでも言うように振り返りながらルルのところへ戻っていく。
ルルに近寄ると、辛そうに涙を流している。
「テト、心配だけど、陣痛は赤ちゃんが出てくるのに必要だよ?ルル、もう少しだよ、がんばって……」
ルルの背中を撫でてやる。
いつもより、体温が高い?
その時獣医チームがなだれ込んできて、ルルを取り囲んで診察し始めた。
「あの、もしかして、熱があるかもしれないの。みてもらえませんか?」
「かしこまりました。危ないですので下がってお待ちください」
リーダーらしき獣医が答える。
「でも……」
「班長、熱が高すぎます!仔馬を産ませるまでは薬は打てません!切開致しますか!?」
「待って!!!やめて!!ルルから離れて!!!」
獣医さん達は私の言葉に戸惑って、どうしたら良いか分からずに顔を見合わせている。
「いい、妃の言う通りにしろ」
リヒト様の言葉で、しぶしぶというようにみんな壁際に下がった。
「テト、ルルに熱があったのをおしえてくれたのね?大丈夫、ルルは自分で産めるよ。お手伝いしてもいい?」
テトに聞くと、また顔にスリスリが贈られるた。
騒ぎを聞きつけたのか、入り口にお母さんとクロム君も来ていた。
「お母さん、少しの間この子を頼みます」
お母さんに子竜を渡してルルの元に走る。
「ルル、あなたがちゃんと頑張れるようにするからね」
もう右手が熱い。ルルが私を信頼してくれているのがわかる。ルルのお腹に手をつけて、祈りながら魔力を流す。
私からルルへ、ルルから私へ。
キラキラした光が消えるのを待って、獣医チームに声をかける。
「熱は下がりました。幾分か体力も戻ったはず。ルルの事、宜しくお願いします」
私が頭を下げるとギョッとした獣医達があたふたしながらもまたルルについてくれた。
「テト、そばにいてあげよう。きっとすごく不安がってる」
テトと共にルルのそばに戻ると、横たわったルルによりそう様にテトも横になった。
真夜中近くにルルは双子の仔馬を産んだ。
仔馬もルルも心配ないという事で、獣医のチームが交代でそっと影から見守りながら、あとはテトに任せることになった。
「今日は私がこの子達を見ようか?疲れただろう」
「うん、お母さんが来てくれて本当に良かった。私も離れで、お母さんと寝たい……」
「あんた、後ろにいる旦那の顔が真っ青だよ。クロムはもううとうとしてるから私が預かるけど、つむぎは大物兄ちゃんを何とかしておやり。ちびスケは……今はつむぎと一緒の方がいいね。ほら、母上の所におかえり」
すやすやと眠った子竜を私の腕に戻してお母さんはクロム君を抱っこして離れに戻っていった。
その日初めて、リヒト様との夫婦の寝室ではなく、私個人のお部屋で寝た。子竜を抱いて。
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