【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香

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最終章 人族編

堤 宗介

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 リヒト様のお祖父様の御法事の日はすぐにやってきた。

 私はうっすらと梅の花の柄が入った黒のジャガード織の着物に、黒い透けるシフォンの羽織りを羽織っている。帯だけは何色でも良い様で、薄桃色の帯を大きなリボン風に結ってもらっている。

「「 ははうえ~! 」」


 私の周りを飛び回る息子二人は、黒の半袖シャツにダークグレーの短パン、黒のローファーを履かせて雑誌から抜け出たみたいで可愛すぎる!スカーレットさん、天才!

 私達王家だけで裏の神殿に参った後、王宮の大ホールで他国の方達の集まる会場に戻った。

 陛下が何やら感謝の奏上をした後、長い黙祷があり、その後は立式のパーティーになった。皆がリラックスして歓談を始めている。

「何か食う?」

「ううん、大丈夫。もう終わる?」

 リヒト様は約束通りずっと側にいてくださっている。

「ああ、もう退出しても大丈夫だ。よく頑張ったな」

 私が頑張れたのは、リヒト様と子供達が始終側にいてくれたからだ。

 少しホッとして、ぼんやりと広い会場を眺めていると、この世界では見ない、けれど見慣れた服を着た人がいるのに気がついた。

 相手も私の視線に気がついたのか、ふんわりと笑った後ゆっくりとこちらに近づいてきた。

 日本でよく見た細身の黒いスーツに、中にベストまで着ていて黒いネクタイも締めてる。この世界に来てネクタイって初めて見た。

つつみ宗介そうすけと申します。以後、お見知り置きを」

 私の目の前で止まった彼はそう言ってぺこりとお辞儀をする。

「つつみ…………さん?」
日本風の名前にギョッとしてばっと顔を上げると黒髪を襟足で緩く結った優しいお顔のイケメンと目が合った。

「お察しの通り、僕はあなたと同郷です」

「あ…………玲林 紬と、申します」

 優しいお顔がにっこり笑って甘い顔になる。
日本人の懐かしい柔らかさがある。背は高い。180センチはあると思う。竜人ばかり見てきたからか、細身の身体は華奢に見える。スマートな雰囲気が大人っぽい。

「玲林さんよりも一年程前でしょうか、僕も貴方と同じ、人族の国から召喚を受けました。現在召喚者はあなたと私の二名だけ、同時期に二名もいるのは初だそうですよ」

 そうなんだ。召喚にはすごい魔力を必要とするって言ってたし、失敗ばかりで割に合わないらしいから。

「ご家族は……いらっしゃいましたか?」

「ええ、横浜の地元に母と姉が。僕は東京で一人暮らしでしたので、マンションも大学も内定先も全て投げ出してきてしまって……大問題になってないといいのですが……玲林さんは?」

 日本人しか分からない単語を連発した会話にリヒト様が隣で驚いているのが分かる。

 私の腰にまわされた腕にギュッと力が入った。

「私は……両親は他界していて独り身でしたし、大学は二年で中退した直後だったのです。東京の家は……どうなっているのかわかりませんが」

「お互い成人していた事が幸いでしたね。全国区のニュースでテレビに出るなんて嫌ですから」

 そう言ってふわりと笑う。

「玲林さんはどこの大学に?」

「青葉学院です、教育学部でした」

「中退なさったのなら教員免許、残念でしたね」

 そうだった、小学校の先生になろうとして……
今の今まで忘れてた。子供が好きで、学校の先生に憧れて……

「といっても異世界に来てしまった身ではもう関係もないですね。僕は東聖大学の生物学部でした」

「東聖大学…………優秀でいらしたんですね。最難関の国立大学なんて、私には別世界です」

「いいえ、ただの生物オタクですよ。青葉だって、偏差値は高いじゃないですか」

 異世界で偏差値の話をするとは思わなかった。
隣のリヒト様をチラと見ると頭にキスを落としてくれる。いつもなら男の人と喋るだけで凄く怒るのに、堤さんにはリヒト様も陛下も気を遣ってるのが分かる。怒りを表に出さない様にしてる。

「…………夫の分からない話を、したくないのです」

「おや、そういうつもりはありませんでした。ただただ、懐かしくて。本日は晩餐をご一緒できるとうかがっております、積もる話はその時に」

 堤さんはそう言って一礼するとパーティーの人の中に消えていった。
彼の後ろに何人もの神官らしき人達が続いていく。

「つむぎ?どうした?泣いてるのか!?」

 リヒト様はきっと我慢してくださっていた。
私と堤さんしか分からない単語を連発していた事に。
私が日本を思う気持ちをさえぎらないで待っていて下さった。私の為に。

「ゔ~~~~だいすき」
首に腕をまわして抱き上げてもらう。

「っあ!?母屋帰る!?」

「ん……このまま連れていって」

「なんっ!?」



◇◆◇



 夜に堤さんとの晩餐があるというのに散々愛されて体が動かない。抗議を込めて全体重をかけてやるけどびくともしてない。

「何で堤さんには気を遣っていたの?他の国の王族達と明らかに対応がちがったよね?夜の晩餐も、人国とだけなんでしょう?」

「あんまり気持ちのいい話しじゃねぇけど……」

 そう言ってリヒト様は言葉を切る。
不安が顔に出ていたのか、私の顔を見て少し笑った後続けた。

「七百年前、俺の祖父が王だった時代、将軍の一人に番が見つかった。
相手は人間の女。
当時人族はうちの国の傘下に入ったばかりだった。
王族じゃないし、俺ほどの獣性は無かったから問題ない様に見えた」
 
 へぇ、その時も竜人と人間だったんだ。私達と同じだ。

「だけど相手の女にはもう夫がいたんだ。
番と認識した将軍の怒りは凄くて、相手の夫だけでなく刃向かった者全てを殺してしまった。
元々少ない人族の人数をまた大幅に減らしてしまったんだ。
当時の人族の長はエルダゾルク神に抗議の奏上をした。本来地上の揉め事に神々が介入する事はないが、エルダゾルク神の采配した事が原因だったからな、異例だが神からの返答があったんだ……
エルダゾルク神からの回答は同じ数だけ竜人の魂を捧げるという事だった。
竜人の命を差し出すわけにはいかないと祖父は人間に国宝の浮遊領を差し出す事で手打ちにしてもらったんだよ。
国宝の豊かな領地を差し出し、今後困ったことがあった時は必ず助けると約束して人間の長の奏上を取り下げてもらった過去がある」

「浮遊領?」

「ああ、天空領の事だ。空に浮いてる。いにしえにエルダゾルク神から竜族が賜ったと言われている。魔力で動かすこともできるし、楽園のような豊かな土地だ」

へぇ、空に浮かぶ土地なんてすごい。
人間は見たことなかったけれど、空にいたんじゃ見ないはずだ。

「人族が祖父の法事に来るのはそういう理由だ。過去の事件と結ばれた協定を忘れるなよという牽制だろうな」

 ミリーナさんがドアの外から声をかけてくる。
晩餐の支度をしなくてはならない時間らしい。
こんな事を聞いてしまって、堤さんと何を話したらいいのだろう。















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