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最終章 人族編
クレアの逃亡
しおりを挟む私の体調が回復したので勝戦パーティーが催され、国内の全貴族が招待されている。
私のためのパーティーとは言っても、過保護なリヒト様が私の参加を一時間だけと定めたので、大規模な会場は人が多くてクレアちゃんとレアットちゃんを全然見つけられないまま時間となってしまい子供達と離れに帰ってきた。
「クレアちゃん達に会うの、楽しみにしてたのになぁ……」
帰ってきた時に一度お見舞いに来てくれたクレアちゃん達とは、ちゃんと元気になってからはまだ会えていなない。王宮パーティーのご飯で女子会したかったのに。
離れにつくなり軍服を脱いで甚平に着替えた二人は、夕方の庭で天馬達と遊んでいる。
ふいに小道から人影が見えて、よく見るとクレアちゃんがトボトボとこちらに向かって歩いてくる。
慌てて駆け寄ると、私に抱きついて泣き始めてしまった。
「クレアちゃん!?どうしたの!!??とにかく上がって?」
何かを察したシゴデキミリーナさんが、暖かいお茶を淹れた後すぐに子竜達をお風呂に入れるべく二人を連れて退出してくれた。
「っ…………ぐずっっ、つむぎちゃん、突然おしかけちゃって、ごめんなさいっっ……」
「そんなのいいよ。いつだって遊びに来て?」
「うわぁぁあああん」
子供みたいに泣くクレアちゃんが痛々しい。
ルース君が贈ったであろう薄い桃色の着物を着て、紫の帯をしめてる。バリバリのルース君色。糸目すぎて瞳の色は知らないけれど、ピンクブロンドの髪の色と、紫の翼の色を纏ったクレアちゃんはすごく大切にされていると思う。
「あ、あと、どのくらいでパーティー、おわるかな」
「あと?えっと、一時間ぐらいかな?」
「おわ、おわったらルース様、来ちゃうかな、わた、私、逃げてきちゃって……」
そう言ってまたわあっと泣き始めてしまった。
だきしめて背中をさすっていたら、ポツポツと話し出す。
「ルース様の、元カノに会って…………すごいお姉さまで………………」
「お姉さま?ほとんどの人が二十代に見えるけど……」
竜人の寿命は長い。三百から五百歳らしく、最後の百年ほどでゆっくり老いていく。
見た目では年齢はわからない。
「獣人は、匂いで大体の年齢が、わかるから……」
なんと!匂いの情報すごいな!!
「は、初めて一緒に出られたパーティーで、私、楽しみにしてて……」
「パーティー会場で、ルース君の元カノに会ったの?」
どこかで聞いた様な話だな。
「噂では、し、知ってたんだけど、バリエン伯爵夫人。四十歳ぐらいだと思う。政略結婚で、歳老いた旦那さんに嫁いで、若くして未亡人になった方」
お、おぅ、情報量多いな。
「その方に何かされた?私、やっつけにいこうか?」
こっちは王弟妃なんだぞ!息子二人も強いんだぞ!
「ち、違う!!違うの、ルース様にエスコートされて、浮かれてて……」
「声、かけられた?」
クレアちゃんが泣きながら頷く。
「『ルース様、子守りなんて大変ですわね?乳母に任せて私と周りませんこと?』って……」
うわぁ……なんで元カノっていう生き物はみんな性格が悪いのか。
「そ、それで、わたし、逃げて来ちゃって……」
「ルース君、お仕事も兼ねてるはずだから終わるまではリヒト様のそばを動かないと思うけど……終わったらきっとここに来るねぇ。匂いで、辿れるんだよね?」
クレアちゃんがこくんと頷く。
「まだ、会いたくない?」
またこくんと頷く。
「じゃあ、時間稼ぎに行こうか!ちょっと待っててね?」
キッチンへ行って大きなバスケットに作り置きのパンやらお菓子やらお惣菜やらを詰めていく。あるもの全部詰めたらバスケット二つ分もできてしまった。
よく食べる息子が二人もいると、常になんかあるな、うちは。
二人のお風呂のお世話から出てきたミリーナさんに耳打ちして荷物を作ってもらう。
「クロム君、レスター、厩に行ってヴァルファデとテトを連れてきてくれる?手綱と二人乗り用の鞍も付けてきて?」
お風呂上がりのキョトン顔の二人が、それでも天馬を操れるのがうれしいのか我先にと飛んでいくのを見送って私は二通の手紙を書く。
「さ、クレアちゃん、気分転換に行こうか!」
「へ?」
二頭の天馬の背に乗って庭に戻った息子達に駆け寄り行き先を告げると、二人とも飛び上がって喜んだ。
「天空領に行こう!」
「へ!?」
わははは!息子二人に頼めば大人の天馬も操ってもらえるということにちょっと前に気がついたのだ!私はこれでどこにでも行ける!!!マイタクシー!!リヒト様には今日バレちゃうけど!
ミリーナさんに頼んだ荷物を受け取って、バスケットも縁側に出すとノリノリの息子達が二人で私を支えてテトに乗せてくれた(一人でも持ち上げられるけど役目の取り合いになりそうなので二人にしてもらった)
クレアちゃんはヴァルファデを撫でた後、自分で翼を出して騎乗した。(いいなぁ、翼)
クロム君がテトに、レスターがヴァルファデに乗り、二人が軽々と大きな荷物も持ってくれる。
「じゃあ二人ともお願い!」
ミリーナさんに見送られて天空領へ向かう。王都の上空に浮かせてあるので、テトならすぐに着く。
「テト、わがまま聞いてくれてありがとう、大好き」
クロム君ごしにテトに話しかけると嬉しそうに高く鳴いてくれた。
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