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最終章 人族編
中立者
しおりを挟む「やられた。紬ちゃんが天空領に着いてすぐに破棄の奏上をするはずが、国内の混乱を理由に内外不侵宣言を出された!」
兄上が拳で机を叩き、嫌な音が部屋に響く。
「ただの時間稼ぎでしょう。こちらを揺さぶって中立者としてどこまで出来るのか見ているのかと」
内外不侵宣言など他国にとっては何の効力もない。ただ単に鎖国宣言と同じだ。攻め入ろうと思えば攻め入れる。しかし竜国は中立者としての立場が足を引っ張る。内外不侵宣言まで出している国への訪問すら許されなくなる。
竜人以外の獣人を使者に立て、あちらに訪問する手筈だったがそれすらできなくなった。
「不侵宣言など三ヶ月の効力しかありません。ですが、その間こちらが何のアクションも取れないということが明るみになれば、中立者としての足枷を奴らに発表しているのと同じです……」
ユアンの言葉に皆が難しい顔をして黙る。
ユアンの黒い軍服の肩から胸元に紫の 飾緒が幾重にも掛かっている。
黒は悲しみを表す。本来軍服とは関係ないが、今は皆そのつもりで軍服を着用している。
紫は感謝を表す。
普段は煌びやかな宮女でさえ、紬が人質に取られてからは黒い着物に紫の帯をしめ、紬への感謝と無事の帰還を祈っている。
王宮中が黒と紫であふれかえっている。
「中立者とはままならないものだな。下手に動けばエルダゾルク神の怒りに触れる。国民が危険に晒されてしまう」
兄上が片手で目を覆い天を仰ぐ。
「偵察にルースを入れ込む予定でしたが、禁忌に触れる恐れが高い。三ヶ月は、待つしかありません」
自分の台詞に自分で腹が立ってたまらない。
竜国の過去の汚点を紬一人に背負わせて、我らはのうのうとこちらで変わらぬ生活を送っているなど。
天空領は紬を迎えた後、エルダゾルク王都上空から移動している。今は大海の上に浮かんでいると報告を受けている。
俺は夢で、会いに行けているだろうか。
◇◆◇
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