【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香

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最終章 人族編

夢で会いに

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 ドアをノックする音が聞こえて、返事をする前に堤さんが一人で入ってきて私に笑いかけてから椅子に座った。

「先に聞いておきたい。俺も同行する事は可能か」

 いつもより低い、怒りがこもったリヒト様の声。

「それは拒否する。人国は竜人に嫌悪と恐怖を抱いている者が大半だ」

「期間は?」陛下が聞く。

「それも今は決められない。どの様に加護の力が振るわれるのか分からないのだから」

 私の事なのに、私は蚊帳の外で話がされて行く。

「陛下、リヒト様、少し堤さんと話をさせて頂いても?」

 陛下が両手を顔の横に上げて了承のポーズをとった。
リヒト様は唇を噛んで引きさがってくれた。

「堤さん、私が行く事で人間が増える確証などありません。私には、自覚がないのですから」

「それは承知の上です。我々人間の絶滅はもうすぐそこです。藁をも縋る気持ちなのです。同じ人間の玲林さんなら分かってもらえるものと信じております」

「…………何点か、お願いしても?」

 膝の上のクロム君を抱きしめて、レスターの頭を撫でてから言うと、堤さんはまたふわっと笑って「なんなりと」と答えた。

「一つは、私の力が及ばなくとも私がそちらに到着した時点で竜国との神約を破棄して下さい。今回のことで円満に解決したと、国家間で神に奏上して下さい」

「承知しました。こちらで生活して頂くという願いをもって円満に解決と致しましょう。他には?」

「一生そちらで生活する事はあり得ません。私は殿下を愛しています。いつかは彼の元に帰りたく思います」

「先程もいいましたが期限を決める事はありません。ですが人間の消滅に光が見られればこちらにお帰り頂く事も検討いたします。…………それに、我が国我が国と言っておりますがエルダゾルク神が管理する浮遊地。そこにいる以上、竜人の番のあなたの寿命は我らより何倍も長い。時間はたっぷりあるのでは?私の代より先はあなたを拘束しないと誓いましょう」

 淡々とした応答が続いて行く。自分のことなのに、商品売買のやり取りをしているようで気分が悪い。

「殿下が私の元に訪問するのは許して頂けますか?」

「我が国の人間は竜人を恐れております。王弟殿下のような軍部の竜人が入国すればパニックに落ち入ります。因みに領外への手紙など個人のやりとりはそもそもシステムがありません」

「そう、ですか…………」

「他には?」

 強制的にリヒト様との逢瀬の話を終わらされてしまう。頭のいい彼との会話は神経が摩耗していく。

「最後のお願いは……これに頷いて頂けなければ私は参りません」

 堤さんは目を細めて私を優しく見つめ先を促す。

「私は子供たちと離れるつもりはありません。この子達の入国が叶わないのならばここからうごけません」

 甘えん坊のお兄ちゃんとやんちゃな弟。
私はこの子達と離れるなんて考えられない。

「子供達も一緒ならばすぐに参ります」

「えぇ……うーん、まぁ、子どもだけならいいですよ。その代わり侍女も護衛も拒否致します。人族は竜人への恐怖が植えつけられている人が多いので僕たちへの攻撃はさせない様にしていただけますか?武器も、持たせないで頂きたい。我が国は日本と同じレベルの治安になっています。武器の所持も禁止でして」

「元よりそんな乱暴な子達ではありません。貴方達への攻撃は絶対にさせません」

 堤さんはため息をついたあとにっこり笑って立ちあがり、私をエスコートするために歩み寄り右手を出した。
人と話すときにバカにした様なため息をつく人は嫌い。
心臓がギュッとなる。悪いことをした気分になる。

「日本風にこだわるのでしたらエスコートは必要ありません」

 クロム君を抱いたまま立ちあがりドアに向かう。

「まぁそこはヨーロッパ風に。世界のいい所は何でも取り入れるのが日本だったでしょう?」

「必要ありません。元より私の手は子供たちで塞がっております。レスター、おいで」

 リヒト様は何も言わない。
王族のリヒト様は竜人を守る義務がある。
百人の竜人の命を前に何も言えなくなってる。
獣性の強い、やきもち焼きなあのリヒト様が。

「では、日本風に並んで歩きましょうか」
堤さんは意に介さずにそう言ってドアを開けた。

 部屋を出てから振り返り、開いたドアから見える青い顔のリヒト様に声をかけた。

「リヒトさま、夢で……会いに、来て」

「————っ!!」

 堤さんはリヒト様を一瞥し、返事を待たずに歩き出したので私も歩き出す。

 何も言えないあの人の優しさが私は好きだ。
彼のために、彼の守る国のために、私が出来ることをしたい。

「ははうえ……」

「二人ともごめんね?私に、ついてきてくれる?」

 クロム君が頷き、レスターは「はい、母上」と小さく言った。子供達が不安そうにしている今はまだ泣けない。うそでも、無理やりでも気丈に振る舞わなければならない。

「二人とも、人間に攻撃は絶対にしないと約束してくれる?」

「「 はい 」」
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