精霊のジレンマ

さんが

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迷いの森の精霊

133.侵食と契約

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俺の放った風魔法を纏ったストーンキャノンが大樹の葉を巻き上げると、そこにはボッカリと大きな空洞が空いている。

精霊から魔物へと急速に変化が進み出し、中にあるべきはずだった大樹や溜まった黒い靄は、完全に姿形を変え新たな魔物として再構築された事になる。

「こんなはずじゃなかった・・・」

膝から崩れ落ち、愕然とした表情で空洞を覗き込むヘカトンケイル。そして、その身体は一回りは小さくなっている。

『融合していた精霊の内、魔物化が進んだ精霊がレーシーに吸収されたのね』

「そんな事が可能なのか?」

『だってあれを見てよ』

腰から下が消滅したレーシーだが、すでに枝のようなものが伸び、徐々に回復が始まっている。そして障壁を張り巡らせ、俺達を近付けまいとしているが、驚くべきはその背中に10体20本の腕がある。それが何の腕であるかは、ヘカトンケイル自身が一番分かっているはず。

ムーアがゆっくりとヘカトンケイルに近付き、話し掛ける。

「ねえ、あなたはどうしたいの?もう、10体の精霊はレーシーに吸収されたんでしょ。これ以上吸収されると、ヘカトンケイルと呼べなくなってしまうわね」

「あの魔物の事を分かってるのか?複雑に絡み合い融合したボク達の身体を、簡単に引き剥がせるだけの力を持っているんだぞ。しかも君達と戦いながら、ボクにも襲いかかれるだけの力を持った格上の魔物なんだ」

俺達が戦っているなかで、ヘカトンケイルもレーシーと戦っていた。魔物化が進んだ精霊を抑え込みながら、そしてその精霊を守ろうと抵抗を試みたが敵う相手ではなかった。

『だから、聞いているの。あなたはどうしたいの?このまま、泣きべそのガクブル君でいるのかしら?』

「何故ボクに構おうとするんだ?勝てる相手じゃないんだぞ」

『忘れたの?最初に協力してくれって言ったのは、あなたじゃなかったかしら。だから、構ってあげてるのよ!それに、勝つ必要はあるのかしら?』

「ボクは逃げる事は出来ないんだ!レーシーが合一の大樹を乗っ取れば、その時点でボクの存在も消滅するんだぞ」

『だから、助かりたいんでしょ。それならイイ方法があるわよ♪』

ムーアが不敵な笑みを浮かべ、ヘカトンケイルは完全に気圧されてしまう。何時も見せている飄々とした態度は、今は一切感じ取る事が出来ない。

「レーシーよりも先に、合一の大樹を乗っ取ってあげるわ♪カショウと契約しなさい。そうすれば、あなたの望みは叶うわよ!」

「そんな事が出来るの?一体、何が目的なんだ?」

『そんなの決まってるわ。カショウの為に、馬車馬のように働くのよ!』

途中まで黙って聞いていたけど、最後で話がおかしくなるムーアを慌てて止めに入る。

「待て、ムーア!変な誤解を招くぞ」

『えっ、私の言ってる事はそんな変な事じゃないし、間違ってないわ。契約を司る精霊としては、正しく伝える義務があるのよ』

「そんな職務は聞いたことがないし、今までもやった事がないだろう」

「イヤ、カショウ。俺様もムーアに賛成だぞ!」

「2人とも時間がもったいないから、ちょっと黙っててくれ」

生死のやり取りをした後の脱線話に、ヘカトンケイルの混乱も激しい。もしかして、これがムーアの遣り口なのかもしれないと思ってしまう。

「俺と召還契約したら、精霊はこのブレスレットの中に取り込まれるんだ。そして俺の身体には、精霊も魔物も共存しているのは見ているだろ」

俺の背中にある純白の翼と黒翼は、精霊と魔物の共存の証でもある。

「本当にボクでも大丈夫なのかい?」

「問題ない。それに俺がアシスで生きる為には、沢山の精霊が必要なんだ。お互いに悪い話じゃないと思うけどな」

『分かったかしら。契約を受けるなら、名付けを了承しないさい』

最後の肝心なところでムーアが再び割って入ってくる。そして、ムーアとヘカトンケイルだけでなく精霊達の視線が俺に集まる。

「そうだな、ナルキ。名前は、ナルキだ!」

「短くてイイ名だな」

その瞬間、ヘカトンケイルはブレスレットに吸収され、合一の大樹からも精霊としての魔力は感じられない。
もうただの大樹には、地中深くから魔力を吸い上げる力はなく、レーシーをこれ以上強くする事はないだろう。

『ここまでは、予定通りかしら♪』

「後は、負けなければイイんだろ」
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