オットマンの上で

刺客慧

文字の大きさ
4 / 23

第四話:玉と竿(上)

しおりを挟む
 トイプードルの双子ライジャとデズルはいつにもましてご機嫌。
 ルンルンと何かを誰かに話したい様子である。
 
 双子はみんなのアイドル。ルンルンと邪気の一切ない顔でご機嫌に歩く双子を見てみんなにっこり。イラつく者、一名……。
 
 今日はアナグマのジェイミーがいない。スカンクのエフィが双子に話しかけた。
「あら。二人とも何かいいことあった?」

「あ、エフィしゃん。おとうしゃんがね、おかあしゃんに言ってたのきいたんだ」

 双子の言うお母さんはこの家のママだ。お父さんはママの旦那と呼ばれるホモサピエンス。何故かこの家にいる小汚い中年男だ。

 ママはその中年男と喧嘩けんかした翌日、アサイチ、起きがけにうがいした水を水筒のお茶に混ぜて弁当といっしょに渡す。みんなそんなママが大好きだ。

「きのう、二人で聞いたんだー」
 双子は交互にしゃべり返事をする。

「何を聞いたの?」

「あのね、双子のトイプードルに合わせて、双子のダルメシアン飼おうって」「トイプードルはオスだから、おんなにょこがいいなって」

「まあ、それは素敵ね」

「そうなんだー、仲良くなれたらいいでしゅ」「四人でお外行って、アイス食べるでしゅ」
 淡い想像をして二匹はうっとり、エフィもほっこり。その背後に甘ったるい空気の破壊者がはたんを吐き捨てて仁王立ちしていた。

「素敵ぃー、春よねぇー」

 エフィは苦虫をみ潰した顔で後ろを向いた。ねばっこくて重量感のあるバススポンジのペンギンは日干しにあきて、ろくに乾燥せぬままリビングに取り込まれていた。

「あんたたち、おめでとぉー」

「ありがとー」

 どのタイミングでいつものように、ゲゲゲゲ、と暴言を吐いて嘲笑あざわらおうか考えていることは明らかだった。

「さっき、一緒にアイスたべるとかいってたけど、もしかしてアンタら、その双子をお嫁さんにしたいんじゃないのぉ」

「え……」

 双子はわかりやすく、もじもじと恥ずかしそうにしだした。
「いえいえ。そんなのまだ早いでしゅ」「まだあってないでしゅ。いい子たちかどうか、まだわかんないでしゅ」

「そうよねー。相性も大事よねえ。けど、二人とも肝心のことわすれてないかしらぁ」

「ちょっと、やめなさいよあんた」
 エフィは強めに釘を刺しながら、双子とペンギンちゃんの間に割って入った。

 ニュ、と反応しながらペンギンちゃんはあらげ始めた語気を少し和らげた。
「大事なはなしよぉ。将来的にあんたたちの結婚に関わる大事な、大事なはなしよぉ」

 ねっとりした話し方はそのままだった。双子はペンギンちゃんの話に前のめりになってしまった。

「そ、それはどういったことでしゅか?」「僕たち、ぜひ知りたいのでしゅ」

「分かったわ。言ってあげる」

 双子は固唾かたずを飲んだ。

「あんたたち宦官かんがんじゃない」

 この話を聞いていた全員の頭に大きなはてなマークがついた。

「カンガン?」
 双子は顔を見合わせながら聞きなれない単語に不思議がった。ペンギンちゃんは息巻いた。

「いいわ。説明しましょう! あんたたち……。陰茎いんのう睾丸こうがんがないじゃないのよぉ! 宦官よー! 〇ンポのないイカレ野郎じゃないのよぉ」

 エフィは目の前の自分と同じ性別めすの馬鹿さ加減に頭を抱えた。最終手段は頭を叩いてもやめさせることだ。ペンギンちゃんにエフィは近づいたが察知さっちされたようで、振り向きざま頭突ずつきを、不意打ちを食らう形でかまされた。

 頭を押さえて苦しむエフィを介抱かいほうしながらも他のオットマンの面々はあまりの外道っぷりに容易に近づけなくなった。

 一方、ゲゲゲゲ、と嘲笑ちょうしょうされながら双子は自分たちの股間を触りながら呆然あぜんとしていた。

 ほんとだ……。僕たち生えてないでしゅ。 僕たちの〇ンポどこ行ったでしゅ」

「ゲゲゲ、寝ているときにアンタらのタグは見せてもらったわよ。ズバリあんたらはメイドインチャイナ!
 上海あたりの刑務所で受刑者の社会奉仕活動の時間に生産されて、その時にむしり取られたのよぉ!
 あんたたちの玉と竿は今頃いまごろ中国大陸に転がってるわよ!!」

 ライジャは口を開けて呆然自失ぼうぜんじしつとなった。

「宦官だと……、結婚できないのでしゅか?」

「〇ンポのないイカレ野郎が結婚できるわけないじゃない! アンタたちは一生お互いのケツの穴を舐め合って死んでいくのよ!」

 デズルも口を開けて呆然自失となった。


***


 しばらくしてジェイミーが帰宅した。

「ペンギンちゃんは、全く……」

「容赦なく頭突きしてきたのよ。信じられない!」

 エフィは額に大きな湿布しっぷを貼っていた。数時間たち、ジェイミーが帰ってきた後も痛みで涙目のままだ。

「僕ら宦官かんがんらしいでしゅ」「〇ンポのないイカレ野郎らしいでしゅ」

「あんな奴の言うこと本気にしなくていいわよ!」

 これにはジェイミーも大いに頷いた。
「うん。宦官ってのは人のことじゃなくて、職業だよ」

 否定する点が少々ずれている。

「そうなんでしゅか?」

「ペンギンちゃんが間違って覚えてるだけ。昔の中国で皇帝こうていつかえる人は、あらかじめ陰嚢いんのう睾丸こうがんを取り除くんだよ。それに〇んぽあるなしともかく、普通に結婚してたみたいだよ」

「人間は恐ろしいでしゅ……」
「けど、ライ……。ぼく考えたでしゅ」
「なにデズ?」
「僕ら無職いやでしゅ。甲斐性かいしょうつけないと結婚できないでしゅ」
「そっかー! デズはえらいなー。 なら、僕ら宦官でいいでしゅ」
「ジェイミーしゃん、皇帝を紹介してほしいでしゅ。僕ら働くでしゅ」

「ジェイミー。この子たちどうすればいいかしら……」

「うーん。いろいろ言いたいけど、まずは宦官について勉強しなきゃね」

 この言葉に双子は喜び、エフィは不安そうな顔になった。

「試しにこれを読んでみるといいよ」
 ジェイミーは二人に古いハードカバーの本を渡した。

 題名は『項羽こうう劉邦りゅうほう』。上巻だ。
 作者は『司馬遼太郎しばりょうたろう』。

 何も知らない二匹は、これを読んだら僕らも宦官だ、と遠吠とおぼえをしながら燃えるようにやる気を出した


***

 
 数日後……。

 エフィはしばらく姿が見えない双子を探しあてた。二匹はママの旦那の出しっぱなしの布団の上にいて、目深まぶかにかぶったタオルケットの中でプルプル震えていた。

「二人とも、どうしたの? 大丈夫……」

 双子は涙を流して、カンガン、チョウコウと小さくつぶやていた。

「宦官こわいでしゅ……」「趙高ちょうこうは悪魔でしゅ……」

 傍らにはジェイミーが貸した本が途中でしおりをはさんだまま置かれていた。

 エフィは深々とため息をついて一つ決断した。向かうはママのところだ。

   ……、……。

 翌日のことである……。

 オットマンの上では皆が芸術祭の準備に明け暮れていた。各々が彫刻ちょうこくや絵画を作り、公開をした後、皆でその後は壊したり火をつけたりするのである。バンド演奏の場合はギターを壊す。非常に生産的である。

「エゴンくん順調だね。明日には完成かな」
 ジェイミーは自分の絵画を描きながらアルビノゴリラのエゴンに声をかけた。眼鏡を直しながら、エゴンは照れて、うす、とだけ言った。

 ふと、遠くから、わんわんわんわん、小さくご機嫌な声が聞こえてきた。ライジャとデズルが久しぶりにオットマンに戻った、と思い振り向いた。

 ジェイミー他、双子を久しぶりに見た面々は眼を真ん丸にした。

 双子はパンツをはいていた。白のブリーフである。そしてパンパンに前が張っていた。

 パンツの中のモノが余りに大きいため、双子は四つんい歩きができず、二足歩行で、るんるんと歩いていた。

 花畑が行く先、行く先にできそうなほがらかさである。パンツとパンツの中身さえなければ……。

「あ、ジェイミーしゃん」「あ、エゴンしゃん。おひさしぶりでしゅ」

「こ、こんにちは……」

 双子はお互いの顔をみたり、オットマンの面々をチラチラ見たり落ち着かない。そんな双子を前にして皆はお互いの眼を合わせながら固まっていた。

「えーと……。雰囲気変わったね」

「え、分かるでしゅか」「そうでしゅ。僕ら変わったでしゅ」

「あ! なになに! あんたら、それ、〇んぽじゃない! 〇んぽじゃないのよ!!」
 ソファーに勝手に上がりテレビを見ていたペンギンちゃんがスライディングしながら双子の前にやってきた。

「そうでしゅ。ぼくらこれで一人前の男でしゅ」「おかあしゃんにつけてもらったんだー」

 ペンギンちゃん以外は口をあんぐり開けたまま、壊れた機械のように首を静かに上下させていた。

 そして元凶げんきょうはというと、無邪気に、ゲゲゲゲと笑ってさらにつっかかった。
「おもしろーい! デカ〇んじゃないのよぉ! ちょっと触らせなさいよ」

「てれるでしゅ、だけどいいでしゅ」

 ライジャの方が自信満々に自分のもっこりふくらんだ股間を突き出した。ライジャとデズル二人を見比べると二人とも太さは同じくらい。しかしライジャの方が四割ほど長い。

「なに……。なにこれ。風船とかじゃないわ。質量がある!」

 ぺしぺし叩きながらペンギンちゃんは驚愕きょうがくする。ただ、ライジャのマラは時々、ギュ、ギュ、と鳴き声みたいな音を出した。

 疑問に思ったペンギンちゃんがさらに強くたたこうとすると、ライジャのマラが突然動きペンギンちゃんの腹に刺さった。

 並大抵のボディーブローより重い。ペンギンちゃんの後ずさりをしながら、やるじゃない、とほくそ笑んだ。何なんだろう一体……。

「僕のも見てよー」
 今度はデズルが得意気に自分のマラをペンギンちゃんの前に出した。

 今度はペンギンちゃん恐る恐る。ツン、ツン、と自慢のくちばしでブリーフの上からつついた。そしてまたもや驚愕する。

 固いのだ……。まるでダイヤモンド。

 ペンギンちゃんが動揺していると、デズルは腰を大きく下げてペンギンちゃんに向けて一突き!

 ゲー、と叫びながらペンギンちゃんは大きく吹っ飛ばされ、目をまわして倒れた。当然、股はおっぴろげている。

 どんなもんだい、と双子は普段ペンギンちゃんがするように大いばりにふんぞり返った。
 周りからは、おおー、と関心の声と共に拍手があがった。

 終始黙ってみていたジェイミーの隣にエフィが来た。

「ねえ。あの二人一体……」ジェイミーはエフィに聞いた。

「私がママに頼んだのよ」

「え……」

 話は昨日の晩にさかのぼる……。
 エフィからことの顛末てんまつについて聞くや否や、ママはおびえる二人を一生懸命なだめ、即席そくせきでパンツと股間のものを準備して一晩でドッキングを済ませたらしい。

 ジェイミーにとっては信じられない神業。ただ……。

「あれは、ちょっと、思ってたのとちがうな」

「何言ってるの。あんたが変な本読ませなきゃこんなことにはならなかったわよ」

「すみません。少しは彼らに冷静になってほしいと思い……。反省します……」
 ジェイミーはエフィに深々と頭を下げた。

「ジェイミーしゃん」
 双子はジェイミーの前に希望に満ちあふれた顔できた。

「男になった僕らは芸術祭には出られないでしゅ」「出稼ぎして結婚資金をかせいでくるでしゅ」

 またしてもジェイミーとエフィは、え、と口をそろえて言い、固まった。

「出稼ぎってどこに……?」

「ここでしゅ。プテステージというところでしゅ」
 双子は借りてきたお父さんのスマホを出して、画面を見せた。新作AVの紹介画面だ。メーカー、プテステージとある。

「ここが新人俳優を募集してるでしゅ」

「女の人を喜ばせてお金がもらえるでしゅ」

 ……、……。

 無言の間を作ったことをジェイミーとエフィは後悔した。双子は二足歩行のまま異様な速さで遠吠えをあげながら走り去っていった。

(続く…)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...