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第一章 運命の出会い
五
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拓海と秀也の講義は別棟で行われるため、二人はそれぞれの教室に向かうために別れようとした。その別れ際、秀也が寂しそうな顔を浮かべて、一向に自分の教室がある棟に向かおうとしない。
学生の本分である勉強をするために教室に行くだけだろう。そんな、今生の別れのような顔をされても困る。
授業が始まる時間までは余裕がある。気にすることはないと思っていても、そうはいかなかった。拓海は少し歩いて振り返ると秀也が別れた場所から一歩も動いておらず、ずっと自分の方を見ていると気づいていた。
その様子も拓海が振り返るごとに表情を明るくするので、無視できない。
どうすれば、いいんだ。
すると、秀也の方に電話があったそうで、ポケットからスマホを取り出し、拓海の方に手を振ると背を向けた。それを確認して、拓海は気にせず教室に向かうことが出来た。
「おはよう拓海」棟の入口辺りで拓海に声を掛けたのは、南だった。半袖シャツに白いスラックス姿で、周りの人目を惹いている。
「南先輩!」と呼んだ拓海は数時間前にもアルバイト先で会っていた南を珍しそうに見ている。
南は六年生で附属病院に臨床実習に行っているはずなのに、朝早くに学生がメインの講義棟にいるからだ。
こっちの棟に何の用だろう、と拓海が尋ねようとしたが、南はずっと玄関の外を眺めていたため、拓海もその視線を追った。
ゲッ! なんであいつまだあそこにいるんだよ。
拓海は秀也にシッシッと追い払うようなジェスチャーをすると、南から「あの子が例の子?」と聞かれた。
「え? はい、まあ」
南は何かを考えるように顎に手をやると、「あ」と言って教室に戻ろうとする後ろ姿の秀也を見て驚いている。
「どこかで見たことあると思ったら、池上病院の息子さんじゃないか」そう言って目を丸くする。
池上病院って、一族経営で有名な大病院じゃないか。その息子だったのか、どうりで品がある男だと思った。
「知ってるんですか?」
「まあね。去年ウチの親も呼ばれた懇親会に参加したときに高校生だった彼を見たよ。あの時とは大分雰囲気が違うけどね」
南の両親が病院経営の方に携わっている事を知っていた拓海は納得した。
まあ、高校生で大人の社交場に立たされちゃ、告白してきたときみたいに緊張で震えていただろうな。
拓海は心のなかで当時の秀也に同情しながら、少しだけ想像して小さく笑った。
「それで、その感じだといい感じになってるの?」
南が拓海の柔らかい空気を察してニヤけながら揶揄する。
「そんなんじゃないって言ったじゃないですか!」
拓海は南の言葉に条件反射のように反応して、否定する。
「それよりも、こっちになんか用でもあったんですか?」
そう尋ねると、南は思い出したように「事務室に行かなきゃだったんだ! またな!」と言って、走り去っていた。
六年生は大変だな。俺もあと二年間か。
南がいなくなって一人になった拓海を視る周りの目が厳しくなった。それらの目には、「発情するΩのくせにαに近づくな」「Ωなんて劣性」「Ωがいる場所じゃない」とバース性を否定する蔑視が込められている。
学生の本分である勉強をするために教室に行くだけだろう。そんな、今生の別れのような顔をされても困る。
授業が始まる時間までは余裕がある。気にすることはないと思っていても、そうはいかなかった。拓海は少し歩いて振り返ると秀也が別れた場所から一歩も動いておらず、ずっと自分の方を見ていると気づいていた。
その様子も拓海が振り返るごとに表情を明るくするので、無視できない。
どうすれば、いいんだ。
すると、秀也の方に電話があったそうで、ポケットからスマホを取り出し、拓海の方に手を振ると背を向けた。それを確認して、拓海は気にせず教室に向かうことが出来た。
「おはよう拓海」棟の入口辺りで拓海に声を掛けたのは、南だった。半袖シャツに白いスラックス姿で、周りの人目を惹いている。
「南先輩!」と呼んだ拓海は数時間前にもアルバイト先で会っていた南を珍しそうに見ている。
南は六年生で附属病院に臨床実習に行っているはずなのに、朝早くに学生がメインの講義棟にいるからだ。
こっちの棟に何の用だろう、と拓海が尋ねようとしたが、南はずっと玄関の外を眺めていたため、拓海もその視線を追った。
ゲッ! なんであいつまだあそこにいるんだよ。
拓海は秀也にシッシッと追い払うようなジェスチャーをすると、南から「あの子が例の子?」と聞かれた。
「え? はい、まあ」
南は何かを考えるように顎に手をやると、「あ」と言って教室に戻ろうとする後ろ姿の秀也を見て驚いている。
「どこかで見たことあると思ったら、池上病院の息子さんじゃないか」そう言って目を丸くする。
池上病院って、一族経営で有名な大病院じゃないか。その息子だったのか、どうりで品がある男だと思った。
「知ってるんですか?」
「まあね。去年ウチの親も呼ばれた懇親会に参加したときに高校生だった彼を見たよ。あの時とは大分雰囲気が違うけどね」
南の両親が病院経営の方に携わっている事を知っていた拓海は納得した。
まあ、高校生で大人の社交場に立たされちゃ、告白してきたときみたいに緊張で震えていただろうな。
拓海は心のなかで当時の秀也に同情しながら、少しだけ想像して小さく笑った。
「それで、その感じだといい感じになってるの?」
南が拓海の柔らかい空気を察してニヤけながら揶揄する。
「そんなんじゃないって言ったじゃないですか!」
拓海は南の言葉に条件反射のように反応して、否定する。
「それよりも、こっちになんか用でもあったんですか?」
そう尋ねると、南は思い出したように「事務室に行かなきゃだったんだ! またな!」と言って、走り去っていた。
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