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1.男爵家の双子
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好色家として悪い意味で有名なボルガン公爵に私が嫁ぐことになったのは、姉であるセフィーナが彼に見初められたからだ。
弱小な貴族であるスウェンリー男爵家のことなど、彼は気にも止めていなかったはずである。先日の舞踏会で初めてセフィーナを見て、彼はその場で求婚を申し込んだそうだ。
姉とボルガン公爵との間には随分と年齢差があるが、彼はそれを気にも留めていなかったらしい。
それはきっと、彼がこの国でも有数の権力者だからだ。多少の風評被害を被ってもなんとかなると、そう思っているのだろう。
いやそもそもの話、ボルガン公爵は既に有名だ。彼に今更失うものなどないだろうか。
ともあれ、姉に求婚した彼と私がどうして婚約することになったのは、スウェンリー男爵家における私の立場が関係している。
セフィーナの双子の妹として生を受けた私は、ずっと冷遇されてきたのだ。
「ボルガン公爵は寛大な方だ。双子の片割れであるお前でも、構わないと仰っている。まあ幸いにも、お前はセフィーナとそっくりだ。見てくれだけは良いといえる。セフィーヌに感謝するのだな……」
スウェンリー男爵家では、不思議なことに代々双子が生まれやすかった。今は亡くなっているが、お父様だってそうだったらしい。
だからなのかはわからないが、当家はある考えに支配されている。それは後から生まれた双子の子供が、先に生まれた子供の分身であるとする考えだ。
分身は、本体とされる兄や姉の付属品に過ぎない。スウェンリー男爵家において、私は一人前としては認められていないのだ。
だからお父様は、セフィーナのことは娘として可愛がっているけれど、私に対して冷酷である。ボルガン公爵の元に私を嫁として出すのも、それが関係しているのだろう。
「……お父様は間違っています」
「うん?」
「ボルガン公爵との婚約など、上手くいくはずはありません。彼の離婚歴はご存知のはずです。ソフィーナだって弄ばれて、捨てられるに決まっているではありませんか。そもそも私達はまだ結婚できる年齢ではありません。彼は結婚さえせずに、ソフィーナを……」
お父様に対して意見を述べたのは、セフィーナだった。
彼女は、信じられないというような顔をしている。それを見て私は、少しだけ安心した。
「セフィーナ、安心しろ。例えこいつがどうなっても、お前が汚される訳ではない。所詮は付属品に過ぎないのだからな」
「ソフィーナはソフィーナです。私の付属品などではありません」
「私の娘は、心優しい子だな……しかし、今は良いとしても何れは理解しなければならないぞ? こいつはお前の分身でしかないのだ。上手く使うべき存在なのだ。ボルガン公爵に明け渡せば、それなりの利益は得られるだろう。例え婚約が果たされずともな」
セフィーナの言葉でも、お父様には響かない。その根底には、私に対する意識の差があるということだろう。
セフィーナは私にずっと優しかった。双子の姉だから彼女はわかっているのだ。私がセフィーナの分身などではないと。
だけど、そんなことを言っても無駄だ。それ程長く生きている訳ではないけれど、もうわかっている。お父様が私を娘と認めることなどないと。
「スウェンリー男爵、私は、いつボルガン公爵の元に行けばよろしいのでしょうか?」
「ソフィーナ、何を……」
「セフィーナ様、私は構いません。家のために、ボルガン公爵のものになります。それが私にできるせめてもの貢献でしょうから」
私は、セフィーナにゆっくりと首を振ってみせた。
彼女は、絶望的な表情をしている。私がボルガン公爵からどういった扱いを受けるのか、それがきっと頭に過ったのだろう。
「なるほど、そういうことか。セフィーナ、お前は良心の呵責で私に反対したのだな」
「……え?」
「分身の方は、物分かりが良すぎる。やはりこいつには、人の心なんてないのだな」
お父様は、いつもそうだった。私が何をしても、それをセフィーナへの称賛に繋げる。私は所詮、踏み台なのだ。
それなら私が、犠牲になるとしよう。スウェンリー男爵家のために犠牲になるのは、妹である私だ。それを運命だと思うことにしよう。
弱小な貴族であるスウェンリー男爵家のことなど、彼は気にも止めていなかったはずである。先日の舞踏会で初めてセフィーナを見て、彼はその場で求婚を申し込んだそうだ。
姉とボルガン公爵との間には随分と年齢差があるが、彼はそれを気にも留めていなかったらしい。
それはきっと、彼がこの国でも有数の権力者だからだ。多少の風評被害を被ってもなんとかなると、そう思っているのだろう。
いやそもそもの話、ボルガン公爵は既に有名だ。彼に今更失うものなどないだろうか。
ともあれ、姉に求婚した彼と私がどうして婚約することになったのは、スウェンリー男爵家における私の立場が関係している。
セフィーナの双子の妹として生を受けた私は、ずっと冷遇されてきたのだ。
「ボルガン公爵は寛大な方だ。双子の片割れであるお前でも、構わないと仰っている。まあ幸いにも、お前はセフィーナとそっくりだ。見てくれだけは良いといえる。セフィーヌに感謝するのだな……」
スウェンリー男爵家では、不思議なことに代々双子が生まれやすかった。今は亡くなっているが、お父様だってそうだったらしい。
だからなのかはわからないが、当家はある考えに支配されている。それは後から生まれた双子の子供が、先に生まれた子供の分身であるとする考えだ。
分身は、本体とされる兄や姉の付属品に過ぎない。スウェンリー男爵家において、私は一人前としては認められていないのだ。
だからお父様は、セフィーナのことは娘として可愛がっているけれど、私に対して冷酷である。ボルガン公爵の元に私を嫁として出すのも、それが関係しているのだろう。
「……お父様は間違っています」
「うん?」
「ボルガン公爵との婚約など、上手くいくはずはありません。彼の離婚歴はご存知のはずです。ソフィーナだって弄ばれて、捨てられるに決まっているではありませんか。そもそも私達はまだ結婚できる年齢ではありません。彼は結婚さえせずに、ソフィーナを……」
お父様に対して意見を述べたのは、セフィーナだった。
彼女は、信じられないというような顔をしている。それを見て私は、少しだけ安心した。
「セフィーナ、安心しろ。例えこいつがどうなっても、お前が汚される訳ではない。所詮は付属品に過ぎないのだからな」
「ソフィーナはソフィーナです。私の付属品などではありません」
「私の娘は、心優しい子だな……しかし、今は良いとしても何れは理解しなければならないぞ? こいつはお前の分身でしかないのだ。上手く使うべき存在なのだ。ボルガン公爵に明け渡せば、それなりの利益は得られるだろう。例え婚約が果たされずともな」
セフィーナの言葉でも、お父様には響かない。その根底には、私に対する意識の差があるということだろう。
セフィーナは私にずっと優しかった。双子の姉だから彼女はわかっているのだ。私がセフィーナの分身などではないと。
だけど、そんなことを言っても無駄だ。それ程長く生きている訳ではないけれど、もうわかっている。お父様が私を娘と認めることなどないと。
「スウェンリー男爵、私は、いつボルガン公爵の元に行けばよろしいのでしょうか?」
「ソフィーナ、何を……」
「セフィーナ様、私は構いません。家のために、ボルガン公爵のものになります。それが私にできるせめてもの貢献でしょうから」
私は、セフィーナにゆっくりと首を振ってみせた。
彼女は、絶望的な表情をしている。私がボルガン公爵からどういった扱いを受けるのか、それがきっと頭に過ったのだろう。
「なるほど、そういうことか。セフィーナ、お前は良心の呵責で私に反対したのだな」
「……え?」
「分身の方は、物分かりが良すぎる。やはりこいつには、人の心なんてないのだな」
お父様は、いつもそうだった。私が何をしても、それをセフィーナへの称賛に繋げる。私は所詮、踏み台なのだ。
それなら私が、犠牲になるとしよう。スウェンリー男爵家のために犠牲になるのは、妹である私だ。それを運命だと思うことにしよう。
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