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3.夫と妹の浮気
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私はフェルド様とともに、ドミラス様を付けていた。
それはフェルド様の発案である。動揺する私から、半ば強引に推論を引き出した彼は、疑いがあるなら確かめるべきだと提案してきた。
少し悩んだものの、私はその案に乗ることにした。ドミラス様への疑惑、それが本当ならば私は確かめなければならない。
「ドミラス様……」
「ロレイナ、すまなかったね。急に席を外してしまって……」
町の酒場にて、ドミラス様はある人物と挨拶を交わした。それは私の妹、ロレイナである。
彼女がこの町に来ているなんて、私は聞いていない。ドミラス様は口振りからしてお墓に来る前に会っていたのだろうし、彼も秘密にしていたことになる。
「仕方ありませんよ。フェルド伯爵令息が来ていたのでしょう?」
「ああ、急な来訪だったからね。何かあるのかもしれないと、様子を見に行きたくなってしまった。結果的には、ただのお墓参りだったが……」
「そうでしたか……」
二人は親しそうに話している。状況からもわかるが、親密な仲ということだろう。
それを見て、フェルド様は目を細めている。彼はどちらかというと真っ直ぐな人なので、こういったことは快く思わないのだろう。
「ルーティア嬢、ドミラスとロレイナ嬢を咎めるぞ……」
「待ってください、フェルド様」
「何?」
「……大丈夫ですから、落ち着いてください。私はドミラス様を咎めようなんて、思いはしませんよ」
飛び出そうとしたフェルド様のことを、私は止めた。
もちろん、私もこの状況には驚いた。だがこれが咎めるべき状況であるかというとそうではない。そう思ったのだ。
「……私はドミラス様にとって、良き妻とは言えませんでした。エリファル様に思いを馳せて、ずっと過去に囚われていたものですから」
「それがなんだというのだ?」
「私にはドミラス様に対する愛が、欠けていたということです。それを埋めるのが妹であったというならば、それは仕方ないこと……」
ドミラス様に対して、私は報いることができていなかった。
彼はそれでも笑顔で応対してくれていたが、心の中では面白くないという思いが芽生えていてもおかしくはない。
確かにこれは浮気という形ではあるが、私に咎める権利はないといえる。そう思ってしまうのだ。
「それとこれとは関係がないことだ。そもそもあなたは貴族の結婚というものを履き違えている。それは恋愛関係のものではないはずだ」
「わかっています、しかしそれでも……」
「良かったですね、何も問題が起きなくて……私も何かが見つかったのではないかと、少し身構えていたものです」
「……うん?」
「え?」
私とフェルド様が議論を交わしていると、妹の少々不可解な言葉が聞こえてきた。
私達は、ほぼ同時にロレイナの方を向く。一応顔は隠しているため、その表情は窺えない。
「まったくだ。なんとも肝が冷えたよ……しかし、墓での二人は見物だったな。エリファルの死を悲しんでいて……笑えたよ」
「……ひどいものですね」
「……ひどいのはそちらの方だろう。姉の夫と知りながら、僕のことを誘惑してきたのだから。なんとも驚いたよ。まさか君が、そういった質だったなんて」
ドミラス様とロレイナの言葉に、私とフェルド様は固まっていた。
そこにいる二人は、本当に私が知っている夫と妹なのだろうか。それが信じられない。二人の言葉に、私の心はひどく揺れ動いていた。
「……いい加減教えていただけませんか? 一体何があったのかを。ここまで深い関係になったのですから、秘密なんて必要はないでしょう」
「君も欲張りだな……まあいいか。少し話をしようか。僕には気に入らない奴がいたんだ」
ロレイナからの問いかけに、ドミラス様は意気揚々と答え始めた。口で言っていることと違い、彼はなんだか話したそうだ。
それ程までに、上機嫌であるということなのだろうか。何故上機嫌なのか、その理由はあまりのも考えたくないものだが。
「そいつはいい子ぶっていてね。なんとも嫌な奴だった。こちらを見下すあの目は、今でもよく覚えている……最初に会った時から、ずっと気に食わなかった。いつかはこの手でと思っていたものだ」
「……実際に行動したのですか?」
「僕だって馬鹿ではないさ。すぐに行動はしなかった。根回しをしたんだ。幸いにもそいつは清廉潔白で、闇というものに目を向けてこなかった。消し去ることは容易だった」
ドミラス様が語っているのが、誰であるのかは明白だった。
彼はほぼ確実に、エリファル様のことを言っている。つまり彼の行方不明は、あの人が関与していたということだ。
「しかしそれでも、僕の気は晴れなかった。奴の全てを奪い去ってやりたいという気持ちは、今でも変わっていない。奴と両想いだった女を娶ったのもそのためさ。あの女を僕のものにすることで、奴という男を完全に消し去れると僕は考えている」
「……それは私の前で言うことではないのでは?」
「君だってわかっているだろう? あの女の心を掌握することに対して愛などはないということが……僕にとって大事なのは君だ」
ドミラス様は、ロレイナを引き寄せた。
二人の顔が重なっている。口づけを交わした、ということだろうか。
だが、私にとって最早二人が浮気しているなどという事実はどうでもよいことだった。それよりももっと重要な事実を知ってしまったから。
「……ルーティア嬢、最早あなたも俺を止めまい」
「フェルド様……駄目です」
「何故止める? 俺が奴を八つ裂きにしてやる。あなただってそれを望んでいるはずだ」
「何も証拠がありません。今出て行っても、フェルド様がただ犯罪者になるだけです」
動揺していた私だったが、私以上に怒りに震えているフェルド様を見て少し冷静になれた。
彼の視線は、ドミラス様に真っ直ぐに向いている。今にも飛び出していきそうな勢いだ。私まで彼に乗ってはいけない。感情を律して、判断を下さなければならないのだ。
「それでも構わない、とはいえないか……」
「ええ、そうでしょう……仮に何かするなら、私の方です。フェルド様よりは、失うものは少ない。わかりやすい動機もあります」
「それは許さない。エリファルのためにもあなたは俺が守る」
「ありがとうございます」
なんというか、フェルド様は敢えて怒りに身を任せていたような気もする。私が冷静になれるように、そう振る舞ってくれたのだろうか。
どちらにしても、私達は一旦落ち着かなければならない。状況をきちんと整理して、適切な調査を行わなければ、裁けるものも裁けなくなってしまうのだから。
それはフェルド様の発案である。動揺する私から、半ば強引に推論を引き出した彼は、疑いがあるなら確かめるべきだと提案してきた。
少し悩んだものの、私はその案に乗ることにした。ドミラス様への疑惑、それが本当ならば私は確かめなければならない。
「ドミラス様……」
「ロレイナ、すまなかったね。急に席を外してしまって……」
町の酒場にて、ドミラス様はある人物と挨拶を交わした。それは私の妹、ロレイナである。
彼女がこの町に来ているなんて、私は聞いていない。ドミラス様は口振りからしてお墓に来る前に会っていたのだろうし、彼も秘密にしていたことになる。
「仕方ありませんよ。フェルド伯爵令息が来ていたのでしょう?」
「ああ、急な来訪だったからね。何かあるのかもしれないと、様子を見に行きたくなってしまった。結果的には、ただのお墓参りだったが……」
「そうでしたか……」
二人は親しそうに話している。状況からもわかるが、親密な仲ということだろう。
それを見て、フェルド様は目を細めている。彼はどちらかというと真っ直ぐな人なので、こういったことは快く思わないのだろう。
「ルーティア嬢、ドミラスとロレイナ嬢を咎めるぞ……」
「待ってください、フェルド様」
「何?」
「……大丈夫ですから、落ち着いてください。私はドミラス様を咎めようなんて、思いはしませんよ」
飛び出そうとしたフェルド様のことを、私は止めた。
もちろん、私もこの状況には驚いた。だがこれが咎めるべき状況であるかというとそうではない。そう思ったのだ。
「……私はドミラス様にとって、良き妻とは言えませんでした。エリファル様に思いを馳せて、ずっと過去に囚われていたものですから」
「それがなんだというのだ?」
「私にはドミラス様に対する愛が、欠けていたということです。それを埋めるのが妹であったというならば、それは仕方ないこと……」
ドミラス様に対して、私は報いることができていなかった。
彼はそれでも笑顔で応対してくれていたが、心の中では面白くないという思いが芽生えていてもおかしくはない。
確かにこれは浮気という形ではあるが、私に咎める権利はないといえる。そう思ってしまうのだ。
「それとこれとは関係がないことだ。そもそもあなたは貴族の結婚というものを履き違えている。それは恋愛関係のものではないはずだ」
「わかっています、しかしそれでも……」
「良かったですね、何も問題が起きなくて……私も何かが見つかったのではないかと、少し身構えていたものです」
「……うん?」
「え?」
私とフェルド様が議論を交わしていると、妹の少々不可解な言葉が聞こえてきた。
私達は、ほぼ同時にロレイナの方を向く。一応顔は隠しているため、その表情は窺えない。
「まったくだ。なんとも肝が冷えたよ……しかし、墓での二人は見物だったな。エリファルの死を悲しんでいて……笑えたよ」
「……ひどいものですね」
「……ひどいのはそちらの方だろう。姉の夫と知りながら、僕のことを誘惑してきたのだから。なんとも驚いたよ。まさか君が、そういった質だったなんて」
ドミラス様とロレイナの言葉に、私とフェルド様は固まっていた。
そこにいる二人は、本当に私が知っている夫と妹なのだろうか。それが信じられない。二人の言葉に、私の心はひどく揺れ動いていた。
「……いい加減教えていただけませんか? 一体何があったのかを。ここまで深い関係になったのですから、秘密なんて必要はないでしょう」
「君も欲張りだな……まあいいか。少し話をしようか。僕には気に入らない奴がいたんだ」
ロレイナからの問いかけに、ドミラス様は意気揚々と答え始めた。口で言っていることと違い、彼はなんだか話したそうだ。
それ程までに、上機嫌であるということなのだろうか。何故上機嫌なのか、その理由はあまりのも考えたくないものだが。
「そいつはいい子ぶっていてね。なんとも嫌な奴だった。こちらを見下すあの目は、今でもよく覚えている……最初に会った時から、ずっと気に食わなかった。いつかはこの手でと思っていたものだ」
「……実際に行動したのですか?」
「僕だって馬鹿ではないさ。すぐに行動はしなかった。根回しをしたんだ。幸いにもそいつは清廉潔白で、闇というものに目を向けてこなかった。消し去ることは容易だった」
ドミラス様が語っているのが、誰であるのかは明白だった。
彼はほぼ確実に、エリファル様のことを言っている。つまり彼の行方不明は、あの人が関与していたということだ。
「しかしそれでも、僕の気は晴れなかった。奴の全てを奪い去ってやりたいという気持ちは、今でも変わっていない。奴と両想いだった女を娶ったのもそのためさ。あの女を僕のものにすることで、奴という男を完全に消し去れると僕は考えている」
「……それは私の前で言うことではないのでは?」
「君だってわかっているだろう? あの女の心を掌握することに対して愛などはないということが……僕にとって大事なのは君だ」
ドミラス様は、ロレイナを引き寄せた。
二人の顔が重なっている。口づけを交わした、ということだろうか。
だが、私にとって最早二人が浮気しているなどという事実はどうでもよいことだった。それよりももっと重要な事実を知ってしまったから。
「……ルーティア嬢、最早あなたも俺を止めまい」
「フェルド様……駄目です」
「何故止める? 俺が奴を八つ裂きにしてやる。あなただってそれを望んでいるはずだ」
「何も証拠がありません。今出て行っても、フェルド様がただ犯罪者になるだけです」
動揺していた私だったが、私以上に怒りに震えているフェルド様を見て少し冷静になれた。
彼の視線は、ドミラス様に真っ直ぐに向いている。今にも飛び出していきそうな勢いだ。私まで彼に乗ってはいけない。感情を律して、判断を下さなければならないのだ。
「それでも構わない、とはいえないか……」
「ええ、そうでしょう……仮に何かするなら、私の方です。フェルド様よりは、失うものは少ない。わかりやすい動機もあります」
「それは許さない。エリファルのためにもあなたは俺が守る」
「ありがとうございます」
なんというか、フェルド様は敢えて怒りに身を任せていたような気もする。私が冷静になれるように、そう振る舞ってくれたのだろうか。
どちらにしても、私達は一旦落ち着かなければならない。状況をきちんと整理して、適切な調査を行わなければ、裁けるものも裁けなくなってしまうのだから。
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