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13.幸せな未来へと
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私とエリファル様の前には、ドミラス様がいた。
三日前に出て行った時の寝間着をボロボロにした彼は、とても貴族には見えない。
散々な目にあったということだろうか。彼は腫らした顔で目に涙を浮かべながら、こちらに視線を向けてきた。
「ルーティア、助けてくれ」
「……」
ドミラス様は、その場にいる父親や弟ではなく私に懇願してきた。
その言葉に、私は少し驚く。ただすぐに理解した。ドミラス様が縋りついて一番なんとかなりそうだと思ったのが、私なのだということを。
「僕は君のことを愛しているんだ。嘘じゃない。本当だ。エリファルがいたから遠慮していたが、ずっと思っていたんだ。君を僕の妻に迎え入れたいと……どうか僕の愛を受け入れてくれ。僕なら君を悲しませたりはしない。エリファルとは違っていなくなったりしないんだ」
「妹に簡単になびいたあなたが、今更私に必要だと思いますか?」
「そ、それは……」
ドミラス様の懇願に対して、私は冷たく言い放った。
彼は私を愛していると言っているが、仮にそれが本心だとしても、信用できる部分はない。ドミラス様は少なくとも、ロレイナの誘いに乗ったのだから。
「し、仕方ないじゃないか。君の心が僕に向いていなかったのだから……」
「ええ、そうかもしれませんね。ですが、あなたの他の行いはどうです? エリファル様を罠に嵌め、私やアーキス侯爵を欺いたあなたのことを、私が受け入れるとでも思っているのですか?」
「ち、違う。僕はただ……」
ドミラス様は、私を見てから父親であるアーキス侯爵の方を見た。
すると侯爵は、ゆっくりと首を横に振る。それは息子に対する拒絶の意思であった。彼も懇願を受け入れるつもりはないのだろう。
「ルーティア……」
「……ドミラス、見苦しい真似はよせ」
「エ、エリファル……」
ドミラス様が手を伸ばしてきた瞬間、エリファル様が庇うように私の前に立った。
彼の背中が、なんとも大きく見える。エリファル様なら私を絶対に守ってくれると、確信することができた。
「アーキス侯爵家の一員であるならば、お前もせめて誇りというものを持て……悪事を認めて潔く引き下がり、罰を受けるのだ。それが今のお前にできることだろう」
「う、うぐっ……」
「……お前と真の兄弟になれなかったことは残念だ。ともにアーキス侯爵家を背負っていけると思ったものだが、なんとも悲しいものだ」
「くそっ……! くそう……」
エリファル様の嘆きも含んだ言葉に、ドミラス様はその場に崩れ落ちた。
最早彼には、逆らう気力も残っていないだろう。ドミラス様の五年間にも及ぶ栄華は終わったのだ。彼はこれから、罰を受けることになる。その行いに対する確かな罰を。
◇◇◇
アーキス侯爵家では大きな問題が起こった訳だが、それもなんとか解決した。
社交界から多少の糾弾などは受けたものの、被害者身内であり、かつ加害者がきちんと裁かれたことから、今は落ち着いている。
エリファル様という被害者が後継者として収まっていることもあって、アーキス侯爵家の評価自体はそれ程落ちてはいない。そもそも権力がある侯爵家であることもあって、社交界での立ち位置が大きく変わるということもなかったようだ。
「父上も随分と疲弊している。俺が家を継ぐ日もそう遠くはないのかもしれないな。隠居ということも考えられる」
「そうですか……」
「その方が社交界からの評判も良いだろう。俺は被害者とされているからな……」
エリファル様は、自身の墓を見つめていた。
彼の墓は、そのままになっている。エリファル様が、そうさせたのだ。それはわざわざ作ったものを壊す必要がないからだと言っていたが、本当は今回の件を胸に刻んでおくためなのかもしれない。
「この墓に入るのは、随分と先の話になりそうだな……」
「そうでないと困りますよ」
「何れはお前も入ってもらう。俺の傍には、お前が必要だ」
「……はい」
エリファル様の心は、まだ傷を負っている。だけれど彼は、前に進もうとしていた。その揺るぎないアーキス侯爵家の令息としての意思を、私は尊敬している。
そんな彼を支えるのが、妻である私の役目だ。しっかりと務めていくとしよう。そして二度と彼の手を離さないようにしなければならない。
「私達はこれからも一緒です、エリファル様……」
「ああ、俺は今度こそお前との幸せを守ってみせる」
エリファル様の言葉に、私は笑顔を浮かべた。
今は実感することができる。彼がここにいて、その幸せがずっと続いていくのだということを。
それは私達の中に、揺るぎない意思が生まれたからなのだろう。私達は未来に進んでいく。幸せな未来に、私達は再度歩き始めたのだ。
END
三日前に出て行った時の寝間着をボロボロにした彼は、とても貴族には見えない。
散々な目にあったということだろうか。彼は腫らした顔で目に涙を浮かべながら、こちらに視線を向けてきた。
「ルーティア、助けてくれ」
「……」
ドミラス様は、その場にいる父親や弟ではなく私に懇願してきた。
その言葉に、私は少し驚く。ただすぐに理解した。ドミラス様が縋りついて一番なんとかなりそうだと思ったのが、私なのだということを。
「僕は君のことを愛しているんだ。嘘じゃない。本当だ。エリファルがいたから遠慮していたが、ずっと思っていたんだ。君を僕の妻に迎え入れたいと……どうか僕の愛を受け入れてくれ。僕なら君を悲しませたりはしない。エリファルとは違っていなくなったりしないんだ」
「妹に簡単になびいたあなたが、今更私に必要だと思いますか?」
「そ、それは……」
ドミラス様の懇願に対して、私は冷たく言い放った。
彼は私を愛していると言っているが、仮にそれが本心だとしても、信用できる部分はない。ドミラス様は少なくとも、ロレイナの誘いに乗ったのだから。
「し、仕方ないじゃないか。君の心が僕に向いていなかったのだから……」
「ええ、そうかもしれませんね。ですが、あなたの他の行いはどうです? エリファル様を罠に嵌め、私やアーキス侯爵を欺いたあなたのことを、私が受け入れるとでも思っているのですか?」
「ち、違う。僕はただ……」
ドミラス様は、私を見てから父親であるアーキス侯爵の方を見た。
すると侯爵は、ゆっくりと首を横に振る。それは息子に対する拒絶の意思であった。彼も懇願を受け入れるつもりはないのだろう。
「ルーティア……」
「……ドミラス、見苦しい真似はよせ」
「エ、エリファル……」
ドミラス様が手を伸ばしてきた瞬間、エリファル様が庇うように私の前に立った。
彼の背中が、なんとも大きく見える。エリファル様なら私を絶対に守ってくれると、確信することができた。
「アーキス侯爵家の一員であるならば、お前もせめて誇りというものを持て……悪事を認めて潔く引き下がり、罰を受けるのだ。それが今のお前にできることだろう」
「う、うぐっ……」
「……お前と真の兄弟になれなかったことは残念だ。ともにアーキス侯爵家を背負っていけると思ったものだが、なんとも悲しいものだ」
「くそっ……! くそう……」
エリファル様の嘆きも含んだ言葉に、ドミラス様はその場に崩れ落ちた。
最早彼には、逆らう気力も残っていないだろう。ドミラス様の五年間にも及ぶ栄華は終わったのだ。彼はこれから、罰を受けることになる。その行いに対する確かな罰を。
◇◇◇
アーキス侯爵家では大きな問題が起こった訳だが、それもなんとか解決した。
社交界から多少の糾弾などは受けたものの、被害者身内であり、かつ加害者がきちんと裁かれたことから、今は落ち着いている。
エリファル様という被害者が後継者として収まっていることもあって、アーキス侯爵家の評価自体はそれ程落ちてはいない。そもそも権力がある侯爵家であることもあって、社交界での立ち位置が大きく変わるということもなかったようだ。
「父上も随分と疲弊している。俺が家を継ぐ日もそう遠くはないのかもしれないな。隠居ということも考えられる」
「そうですか……」
「その方が社交界からの評判も良いだろう。俺は被害者とされているからな……」
エリファル様は、自身の墓を見つめていた。
彼の墓は、そのままになっている。エリファル様が、そうさせたのだ。それはわざわざ作ったものを壊す必要がないからだと言っていたが、本当は今回の件を胸に刻んでおくためなのかもしれない。
「この墓に入るのは、随分と先の話になりそうだな……」
「そうでないと困りますよ」
「何れはお前も入ってもらう。俺の傍には、お前が必要だ」
「……はい」
エリファル様の心は、まだ傷を負っている。だけれど彼は、前に進もうとしていた。その揺るぎないアーキス侯爵家の令息としての意思を、私は尊敬している。
そんな彼を支えるのが、妻である私の役目だ。しっかりと務めていくとしよう。そして二度と彼の手を離さないようにしなければならない。
「私達はこれからも一緒です、エリファル様……」
「ああ、俺は今度こそお前との幸せを守ってみせる」
エリファル様の言葉に、私は笑顔を浮かべた。
今は実感することができる。彼がここにいて、その幸せがずっと続いていくのだということを。
それは私達の中に、揺るぎない意思が生まれたからなのだろう。私達は未来に進んでいく。幸せな未来に、私達は再度歩き始めたのだ。
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