誰からも必要とされていないから出て行ったのに、どうして皆追いかけてくるんですか?

木山楽斗

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16.待ち構えていたのは

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 バラント商会で働く人達に、私の素性が判明したことは予想外のことであった。
 ただ、就業時間まで働いてみたが、それ程重く捉えられているという訳でもなさそうだ。普通にいつも通り、こき使われた。

 もっともそれは、仕事の忙しさによってそんなことを気にする暇はなかった、というだけなのかもしれない。バラント商会は有力故に仕事は多いのだ。私のことよりも、目下の仕事の方が商会の人達にとっては問題だったといえるだろうか。

「お姉様、大変でしたね、今日は……あんなに仕事があるなんて」
「あ、うん。でも、仕事に関してはいつも通りなんだよね……気になるのは、アルディス様のことかな。出直すって言っていたけど……」

 そんなこんなで私は、メセリアとともに自室に向かっていた。
 当然のことながら、アルディス様のことは気になっている。彼が何故やって来たのか、その理由は話してくれていたが、そこまで飲み込めている訳ではない。

 本人が出直すと言っていたので、また話す機会はあるだろう。それまでに心の整理をしておくべきかもしれない。

「まあ、アルディス様に関しては非常にわかりやすいものだと思いますけどね」
「わかりやすい?」
「ええ……多分、単純なことなのだと思います」

 メセリアは少し笑みを浮かべながら、アルディス様について語っていた。
 この聡い妹は、彼の考えを既に見抜いているということだろうか。流石はマートン伯爵家を背負う者だ。ただそれなら、私にも教えてもらいたい所である。

「あ、お姉様、あれを見てください」
「……うん?」

 そこでメセリアは、私が暮らす集合住宅の方を指差した。
 私は、その方向に視線を向ける。すると私の部屋の入口に、一人の男性が立っていた。それはアルディス様である。どうやら彼は、部屋を訪ねて来たらしい。

「熱心ですね……」
「まあ、出直すと言っていた訳だし、こうなるよね……」
「大丈夫ですか? 疲れているようなら、後日にしてもらってもいいと思いますけれど」
「大丈夫。このくらいは、慣れているから。アルディス様のことが頭に引っかかっている方が、体に悪いような気もするし……」

 メセリアが心配してくれたが、アルディス様と話すくらいの気力は残っている。これでもしばらく、バラント商会で揉まれた。ある程度は慣れているから、明日が仕事でも大丈夫だ。
 ただ、あまり遅くはならないでもらいたい所である。手短に済む話かは微妙な所なので、少々心配だが。

「……アルディス様、いらっしゃっていたのですね」
「む……ミリーシャ嬢、帰って来ましたか」

 少し急いで部屋の前まで辿り着いた私は、アルディス様に話しかけた。
 私が帰って来るまで、ここにはきっとバラント商会の者が出入りしていたはずだ。その人達は、アルディス様のことをどう思ったのだろうか。
 いやこの際それは、もう気にしないことにするべきだ。最早重要なことでもない訳だし。

「こんな所で話すのも何ですから、部屋に入ってください。まあ、そんなに広い所ではありませんが……」
「女性の部屋に足を踏み入れるのは、紳士として少し気が引けますが……」
「構いませんよ。見られて困るものなんて、ありませんから」

 私はとりあえず、アルディス様を部屋に招き入れることにした。
 ここで話すのは、他の住人に迷惑だ。多少の気恥ずかしさはあるものの、そうするのが最善であるだろう。
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