17 / 28
17.必要としてくれる人
しおりを挟む
「あなたが何故家を出たのか、それを聞いてもよろしいのでしょうか?」
「それは……」
正面に座るアルディス様は、真面目な顔で私に質問を投げかけてきた。
それは私にとって、あまり答えたくない質問である。故にすぐに言葉を発することはできない。
「まあ、言えるようなことではありませんか。家出などという大胆な行動をしたのですから、きっと何か根深い理由があるはず……聞くのは無粋でしたね。申し訳ありませんでした」
「いえ……お気になさらないでください」
私の躊躇いを察してくれたのか、アルディス様は質問を取り下げてくれた。
それは私にとって、ありがたいことである。職場に押しかけてくるという大胆な行動もあったが、彼も私のことは気遣ってくれているようだ。
「しかしあなたには、理解していてもらいたい。僕はあなたを必要としているということを」
「アルディス様が私を……職場でもそのようなことを仰っていましたね?」
「端的に言いましょう。あなたには、私と婚約してもらいたいのです」
「……え?」
アルディス様は、驚くべきことを特に表情も変えずに口にした。
それに私は、困惑する。そんなことを言われるなんて、思ってもいなかったからだ。
ただ隣にいるメセリアも、後ろに控えているリエネッタさんも特に驚いてはいないようである。予測できることだったということだろうか。
いや確かによく考えてみれば、それはあり得ない話ではない。私もアルディス様も、婚約が決まっていない身だ。何なら家出する前に、そのことについて話していたくらいだ。
そもそもマートン伯爵家とヴェリトン伯爵家は、元来友好的である。私とアルディス様の婚約が成立する要素は、ないという訳でもない。
「……アルディス様は、私と婚約することがヴェリトン伯爵家にとって良いことだと考えているということでしょうか?」
「……まあ、そう考えていただいても構いません。とにかく、あなたはヴェリトン伯爵家のこれからに必要な人だと思っています」
アルディス様の言葉に、私は少し怯んでいた。
彼から必要とされている。その事実に私は、少し浮かれてしまったのだ。
どうやら私は、思っていたよりも多くの人達から求められていたらしい。その発見は、とても嬉しいものである。
もっとも、アルディス様の言葉にはお世辞も入っていることだろう。重要なのは私個人ではなく、マートン伯爵家の令嬢であるだろうし。
「……所でアルディス様は、どうやってお姉様のことを知ったのですか?」
「メセリア? 急にどうしたの?」
「いえ、少し気になっていて。お父様はお母様が、ヴェリトン伯爵家に連絡したということでしょうか?」
私が黙ってしまったからか、メセリアは疑問を口にした。
しかしそれは、言われてみれば確かに気になることだ。マートン伯爵家がわざわざヴェリトン伯爵家に連絡を入れたのだろうか。もしもそうだとすると、私としては少々ばつが悪いが。
「アルディス様、どうなのですか?」
「まあ、そんな所ですね」
「なるほど、ということは……」
アルディス様の質問に対する回答に、私は友人達の顔を思い出すことになった。
私の家出を聞いて、二人はどんなことを思うだろうか。それがとても気になった。
メセリアやアルディス様が来る前の私なら、二人は何も思わず放っておいてくれるなんて、考えていただろう。
だが、少し冷静になった今の私にはわかる。それがまったく見当外れであるということが。
あの二人のことだ。私のことを決して放っておきはしない。どのような形かはわからないが、確実に何か働きかけてくるだろう。
「それは……」
正面に座るアルディス様は、真面目な顔で私に質問を投げかけてきた。
それは私にとって、あまり答えたくない質問である。故にすぐに言葉を発することはできない。
「まあ、言えるようなことではありませんか。家出などという大胆な行動をしたのですから、きっと何か根深い理由があるはず……聞くのは無粋でしたね。申し訳ありませんでした」
「いえ……お気になさらないでください」
私の躊躇いを察してくれたのか、アルディス様は質問を取り下げてくれた。
それは私にとって、ありがたいことである。職場に押しかけてくるという大胆な行動もあったが、彼も私のことは気遣ってくれているようだ。
「しかしあなたには、理解していてもらいたい。僕はあなたを必要としているということを」
「アルディス様が私を……職場でもそのようなことを仰っていましたね?」
「端的に言いましょう。あなたには、私と婚約してもらいたいのです」
「……え?」
アルディス様は、驚くべきことを特に表情も変えずに口にした。
それに私は、困惑する。そんなことを言われるなんて、思ってもいなかったからだ。
ただ隣にいるメセリアも、後ろに控えているリエネッタさんも特に驚いてはいないようである。予測できることだったということだろうか。
いや確かによく考えてみれば、それはあり得ない話ではない。私もアルディス様も、婚約が決まっていない身だ。何なら家出する前に、そのことについて話していたくらいだ。
そもそもマートン伯爵家とヴェリトン伯爵家は、元来友好的である。私とアルディス様の婚約が成立する要素は、ないという訳でもない。
「……アルディス様は、私と婚約することがヴェリトン伯爵家にとって良いことだと考えているということでしょうか?」
「……まあ、そう考えていただいても構いません。とにかく、あなたはヴェリトン伯爵家のこれからに必要な人だと思っています」
アルディス様の言葉に、私は少し怯んでいた。
彼から必要とされている。その事実に私は、少し浮かれてしまったのだ。
どうやら私は、思っていたよりも多くの人達から求められていたらしい。その発見は、とても嬉しいものである。
もっとも、アルディス様の言葉にはお世辞も入っていることだろう。重要なのは私個人ではなく、マートン伯爵家の令嬢であるだろうし。
「……所でアルディス様は、どうやってお姉様のことを知ったのですか?」
「メセリア? 急にどうしたの?」
「いえ、少し気になっていて。お父様はお母様が、ヴェリトン伯爵家に連絡したということでしょうか?」
私が黙ってしまったからか、メセリアは疑問を口にした。
しかしそれは、言われてみれば確かに気になることだ。マートン伯爵家がわざわざヴェリトン伯爵家に連絡を入れたのだろうか。もしもそうだとすると、私としては少々ばつが悪いが。
「アルディス様、どうなのですか?」
「まあ、そんな所ですね」
「なるほど、ということは……」
アルディス様の質問に対する回答に、私は友人達の顔を思い出すことになった。
私の家出を聞いて、二人はどんなことを思うだろうか。それがとても気になった。
メセリアやアルディス様が来る前の私なら、二人は何も思わず放っておいてくれるなんて、考えていただろう。
だが、少し冷静になった今の私にはわかる。それがまったく見当外れであるということが。
あの二人のことだ。私のことを決して放っておきはしない。どのような形かはわからないが、確実に何か働きかけてくるだろう。
503
あなたにおすすめの小説
訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果
柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。
彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。
しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。
「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」
逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。
あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。
しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。
気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……?
虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。
※小説家になろうに重複投稿しています。
あっ、追放されちゃった…。
satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。
母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。
ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。
そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。
精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。
ワザとダサくしてたら婚約破棄されたので隣国に行きます!
satomi
恋愛
ワザと瓶底メガネで三つ編みで、生活をしていたら、「自分の隣に相応しくない」という理由でこのフッラクション王国の王太子であられます、ダミアン殿下であらせられます、ダミアン殿下に婚約破棄をされました。
私はホウショウ公爵家の次女でコリーナと申します。
私の容姿で婚約破棄をされたことに対して私付きの侍女のルナは大激怒。
お父様は「結婚前に王太子が人を見てくれだけで判断していることが分かって良かった」と。
眼鏡をやめただけで、学園内での手の平返しが酷かったので、私は父の妹、叔母様を頼りに隣国のリーク帝国に留学することとしました!
完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件
音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。
『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』
『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』
公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。
もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。
屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは……
*表紙絵自作
殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!
さら
恋愛
王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。
――でも、リリアナは泣き崩れなかった。
「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」
庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。
「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」
絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。
「俺は、君を守るために剣を振るう」
寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。
灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
政略結婚で「新興国の王女のくせに」と馬鹿にされたので反撃します
nanahi
恋愛
政略結婚により新興国クリューガーから因習漂う隣国に嫁いだ王女イーリス。王宮に上がったその日から「子爵上がりの王が作った新興国風情が」と揶揄される。さらに側妃の陰謀で王との夜も邪魔され続け、次第に身の危険を感じるようになる。
イーリスが邪険にされる理由は父が王と交わした婚姻の条件にあった。財政難で困窮している隣国の王は巨万の富を得たイーリスの父の財に目をつけ、婚姻を打診してきたのだ。資金援助と引き換えに父が提示した条件がこれだ。
「娘イーリスが王子を産んだ場合、その子を王太子とすること」
すでに二人の側妃の間にそれぞれ王子がいるにも関わらずだ。こうしてイーリスの輿入れは王宮に波乱をもたらすことになる。
妹が約束を破ったので、もう借金の肩代わりはやめます
なかの豹吏
恋愛
「わたしも好きだけど……いいよ、姉さんに譲ってあげる」
双子の妹のステラリアはそう言った。
幼なじみのリオネル、わたしはずっと好きだった。 妹もそうだと思ってたから、この時は本当に嬉しかった。
なのに、王子と婚約したステラリアは、王子妃教育に耐えきれずに家に帰ってきた。 そして、
「やっぱり女は初恋を追うものよね、姉さんはこんな身体だし、わたし、リオネルの妻になるわっ!」
なんて、身勝手な事を言ってきたのだった。
※この作品は他サイトにも掲載されています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる