妹と王子殿下は両想いのようなので、私は身を引かせてもらいます。

２８．友人としての言葉

「今回は災難でした……」

　ベッドの上でヘリクス君は笑みを浮かべていた。
　令息同士の争いに割って入った彼は、突き飛ばされた頭を打ったらしい。
　ただ幸いにも怪我は軽く、大事には至らなかった。近くの病院ですぐに治療も行えて、とりあえずは一安心である。

「すまなかったな。公爵家が主催した場で争いが起こり、その結果として君に怪我を負わせたことを我々は謝らなければならない」
「いえ、そんな……ジオルト様のせいではありませんよ」
「……今のは公爵家の一員としての言葉だ。次に友人としての言葉を述べておこう。あまり無茶はするものではない」
「それは……」

　ジオルト様は、ヘリクス君と目線を合わせて話をしていた。
　それはまるで、父親か兄のようで、私は自然と少し笑顔を浮かべることになった。

「ヘリクス、君はまだ小さい。その体であの者達の間に割って入ることは、無謀ともいえることだ。君の勇気は素晴らしいものではあるが、もう少しその体を大切にしろ。君は未来ある伯爵家の嫡子だ。今はまだ、俺のような者を頼るべきといえる」
「はい。そうですね。そうさせてもらいます」

　ヘリクス君は、なんだか嬉しそうにジオルト様の言葉に頷いていた。
　二人の間には、確かな絆が芽生えているようだ。友人や義兄弟、その関係性を言い表す言葉はいくつかあるだろうけれど、私は二人の絆を尊きものだと思う。

「……あの令息達には、然るべき処罰を下すとしよう。それに関しては、公爵家の面子にも関わってくる。君の優しさを考慮するつもりはない」
「わかりました。ですが、できるだけ軽い処罰を……」
「ヘリクス、言っておくが慈悲を見せるだけが優しさではない。時に突き放すことも、また優しさなのだ。奴らが再起するというなら、罰はきちんと受けさせておかなければならない」
「……そう、ですか。そうなのですよね、きっと」

　ジオルト様は、ヘリクス君に自分が知る貴族としての生き方を伝えようとしているのかもしれない。
　未来ある彼を育てていくこと、それは何よりも重要なことだ。だからこそジオルト様は、先人として背中を見せることを選んでいるのではないだろうか。

「……それにしても、お二人はいつも一緒にいられるのですね？」
「うん？」
「いえ、こうして僕のお見舞いにも二人で来て下さっていますし……本当にただの友人関係なのですか？」
「ヘリクス……君は何を言っている？」

　そこでヘリクス君は、私達に疑問を投げかけてきた。
　それは彼からすれば、純粋に気になったことなのかもしれない。
　しかし私達からしてみれば、なんだか考えさせられる質問だ。私とジオルト様は、思わず顔を見合わせるのだった。