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2.待ち構えていたのは
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「……どうしてあなたがここにいるのでしょうか?」
「……君と話がしたかったんだ」
聖女が決まってから、私は控え室に戻って来ていた。
そこで色々と身嗜みを整えて、それからバートン公爵家の屋敷に戻る準備をしようと考えていたのである。
しかし部屋に一人の男性がいたことで、その計画は瓦解した。エーファイン王国の第三王子であるウルグドは、不躾にも令嬢の控え室に忍び込んでいたのだ。
銀髪で顔立ちも比較的整っている彼であっても、これでは完全に不審者とか変質者の類である。流石に一言釘を刺しておかなければならないだろう。
「ウルグド殿下、このように控え室で待っているなんて、私は少し恐怖を抱いています。いくらなんでも、失礼ではありませんか?」
「失礼、か……そうかもしれない。だけれど、君と話すにはこの方法しかないと思ったんだ。僕が話したいと言っても、君はきっと応じなかっただろう?」
「それは……」
ウルグド殿下の言葉に、私はゆっくりと目をそらした。
正直な所、彼の言っていることは図星である。私は話したいと要請されても、それを断わっていたことだろう。
だが、それには理由というものがある。私はウルグド殿下とは、どうしても顔を合わせたくなかったのだ。
「……ウルグド、あなたと話すことなんてないわ。わかっているでしょう? 今回ラルルが聖女に選ばれたということは、私とあなたはそういった関係にはなれないということなのよ?」
「もちろん、わかっているとも。僕も覚悟していたことだ。今更、父上の決定に逆らおうとも思っていない。それが僕の――第三王子としての役目だからだ」
「立派なことね。でもそれなら、猶更私の元に来た意味がわからないわ」
私とウルグドは、いとこである。私のお父様の父親が、国王様なのだ。
ただ私達の関係性というものは、それ以上のものであった。幼少期から顔を合わせていた私達は、お互いに惹かれるようになっていったのだ。
しかし私達は、王子と公爵家の令嬢である。婚約などといったものは、家が決めるものなのだ。故にお互いに思いを告げることもなかった。
だがある時、可能性が芽生えることになった。ウルグドは、聖女を妻に迎えるという役目を国王様から言い渡されたのだ。
幸か不幸か魔法使いの才があった私は、元より志していた聖女になることによって、望みを叶えようとしていた。ウルグドもきっと、そのことに希望を持っていたのだろう。
だけどそれは終わったのだ。私は聖女になれなかった。それは紛れもない事実である。
「……区切りをつける必要はあるだろう。これからも顔を合わせないなんてことは不可能なんだ。それならお互いに、割り切っておく必要がある」
「区切りって……」
「……ありがとう。というのは変な話かもしれない。けれど、お陰で僕は良い時間を過ごさせてもらったと思っているよ。君との出会いも過ごした日々も、僕の中では大切なものだった」
「……それは私だって同じよ。だけど――」
「――だからこそ、僕達は前に進んでいくんだ。これからもよろしく、ファナティア」
「ウルグド、あなた……」
ウルグドは、私に笑顔で手を差し出してきた。その笑顔は、明るいものではない。だけれど確かに、決意に満ちたものだ。
私は少し震えながらも、その手を取る。取ることにした。それを区切りにしなければならないと、悟ったからだ。
私はきっと、終わらせたくはなかったのだろう。ウルグドの言葉で、それがわかった。
「これからも、よろしく……」
「……ああ」
前に進むことを拒絶しようとしていた私にとって、この区切りというものは痛く苦しいものであった。
だけれどこれは必要なことだったのだ。これから私が、ラルルを助けていくにあたって。
「……君と話がしたかったんだ」
聖女が決まってから、私は控え室に戻って来ていた。
そこで色々と身嗜みを整えて、それからバートン公爵家の屋敷に戻る準備をしようと考えていたのである。
しかし部屋に一人の男性がいたことで、その計画は瓦解した。エーファイン王国の第三王子であるウルグドは、不躾にも令嬢の控え室に忍び込んでいたのだ。
銀髪で顔立ちも比較的整っている彼であっても、これでは完全に不審者とか変質者の類である。流石に一言釘を刺しておかなければならないだろう。
「ウルグド殿下、このように控え室で待っているなんて、私は少し恐怖を抱いています。いくらなんでも、失礼ではありませんか?」
「失礼、か……そうかもしれない。だけれど、君と話すにはこの方法しかないと思ったんだ。僕が話したいと言っても、君はきっと応じなかっただろう?」
「それは……」
ウルグド殿下の言葉に、私はゆっくりと目をそらした。
正直な所、彼の言っていることは図星である。私は話したいと要請されても、それを断わっていたことだろう。
だが、それには理由というものがある。私はウルグド殿下とは、どうしても顔を合わせたくなかったのだ。
「……ウルグド、あなたと話すことなんてないわ。わかっているでしょう? 今回ラルルが聖女に選ばれたということは、私とあなたはそういった関係にはなれないということなのよ?」
「もちろん、わかっているとも。僕も覚悟していたことだ。今更、父上の決定に逆らおうとも思っていない。それが僕の――第三王子としての役目だからだ」
「立派なことね。でもそれなら、猶更私の元に来た意味がわからないわ」
私とウルグドは、いとこである。私のお父様の父親が、国王様なのだ。
ただ私達の関係性というものは、それ以上のものであった。幼少期から顔を合わせていた私達は、お互いに惹かれるようになっていったのだ。
しかし私達は、王子と公爵家の令嬢である。婚約などといったものは、家が決めるものなのだ。故にお互いに思いを告げることもなかった。
だがある時、可能性が芽生えることになった。ウルグドは、聖女を妻に迎えるという役目を国王様から言い渡されたのだ。
幸か不幸か魔法使いの才があった私は、元より志していた聖女になることによって、望みを叶えようとしていた。ウルグドもきっと、そのことに希望を持っていたのだろう。
だけどそれは終わったのだ。私は聖女になれなかった。それは紛れもない事実である。
「……区切りをつける必要はあるだろう。これからも顔を合わせないなんてことは不可能なんだ。それならお互いに、割り切っておく必要がある」
「区切りって……」
「……ありがとう。というのは変な話かもしれない。けれど、お陰で僕は良い時間を過ごさせてもらったと思っているよ。君との出会いも過ごした日々も、僕の中では大切なものだった」
「……それは私だって同じよ。だけど――」
「――だからこそ、僕達は前に進んでいくんだ。これからもよろしく、ファナティア」
「ウルグド、あなた……」
ウルグドは、私に笑顔で手を差し出してきた。その笑顔は、明るいものではない。だけれど確かに、決意に満ちたものだ。
私は少し震えながらも、その手を取る。取ることにした。それを区切りにしなければならないと、悟ったからだ。
私はきっと、終わらせたくはなかったのだろう。ウルグドの言葉で、それがわかった。
「これからも、よろしく……」
「……ああ」
前に進むことを拒絶しようとしていた私にとって、この区切りというものは痛く苦しいものであった。
だけれどこれは必要なことだったのだ。これから私が、ラルルを助けていくにあたって。
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