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4.廊下に出ると
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「……あれ?」
魔法使い達が集まっている部屋から廊下に出て来た私は、奥の方から歩いて来る赤髪の男性を見つけて思わず声を出していた。
その特徴的な髪色は、エーファイン王国の王太子であるアザルス殿下のものに間違いない。彼はその赤い髪をなびかせながら、こちらに近づいて来る。
「アザルス殿下」
「む、お前は……ファナティアか?」
「ええ、ファナティアです。まさか、いとこの顔を忘れていましたか?」
「いや、魔法使いとしての服装に慣れていなかったというだけだ」
私の顔を見たアザルス殿下は、少し驚いたような顔をしていた。
私がラルルの補佐になったことを知らない訳でもないだろうに、どうしてそのような顔をするのだろうか。それは少々疑問であった。
ただ本人も言っている通り、貴族の令嬢としての姿ではない私に驚いているだけなのかもしれない。しかし声をかけるまで気付いていなかったようだし、彼は案外人の顔というものを見ていないものなのだろうか。
「……聖女の補佐に任命されたのだったな?」
「あ、ええ、そうなんです。今は実の所、聖女ラルル様の元に向かおうとしていて」
「……それは急ぎの用なのか?」
「まあ、そうですかね。でも、アザルス殿下には挨拶をしておかなければなりませんからね」
流石にアザルス殿下を見かけたとなると、挨拶しない訳にはいかなかった。この国の王太子である彼には、例え親戚であっても無礼があってはならない。
しかしそれでも急いでいるため、私はそこで話を切り上げることにした。とにかく今は、ラルルの名誉を守ることが大切だからだ。
「それではこれで、失礼しますね」
「……いや、少し待て」
「え?」
「聖女ラルルなら、程なくしてこちらに来ることだろう。そこまで焦る必要もないはずだ」
「えっと……」
アザルス殿下に呼び止められた私は、違和感を抱いていた。
彼はなんというか、とても歯切れが悪かったのだ。それはいつも凛々しく飄々としている彼から考えると、少し奇妙なものである。
「すみません。聖女ラルル様を早く呼びに行かないと、少し厄介なことになりそうなんです」
「厄介なこと?」
「はい。行かせていただけませんか?」
「……仕方ないことか。まあ、良いだろう」
「え、ええ……」
アザルス殿下の様子は、明らかにおかしかった。
だが、それを考えている暇があるという訳ではない。私はラルルを迎えに行かなければならないのだ。
そう思って、私は少し早足で歩き始めた。出遅れた分、急がなければならない。聖女ラルルは、まだ部屋にいるのだろうか。
魔法使い達が集まっている部屋から廊下に出て来た私は、奥の方から歩いて来る赤髪の男性を見つけて思わず声を出していた。
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「アザルス殿下」
「む、お前は……ファナティアか?」
「ええ、ファナティアです。まさか、いとこの顔を忘れていましたか?」
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私の顔を見たアザルス殿下は、少し驚いたような顔をしていた。
私がラルルの補佐になったことを知らない訳でもないだろうに、どうしてそのような顔をするのだろうか。それは少々疑問であった。
ただ本人も言っている通り、貴族の令嬢としての姿ではない私に驚いているだけなのかもしれない。しかし声をかけるまで気付いていなかったようだし、彼は案外人の顔というものを見ていないものなのだろうか。
「……聖女の補佐に任命されたのだったな?」
「あ、ええ、そうなんです。今は実の所、聖女ラルル様の元に向かおうとしていて」
「……それは急ぎの用なのか?」
「まあ、そうですかね。でも、アザルス殿下には挨拶をしておかなければなりませんからね」
流石にアザルス殿下を見かけたとなると、挨拶しない訳にはいかなかった。この国の王太子である彼には、例え親戚であっても無礼があってはならない。
しかしそれでも急いでいるため、私はそこで話を切り上げることにした。とにかく今は、ラルルの名誉を守ることが大切だからだ。
「それではこれで、失礼しますね」
「……いや、少し待て」
「え?」
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「えっと……」
アザルス殿下に呼び止められた私は、違和感を抱いていた。
彼はなんというか、とても歯切れが悪かったのだ。それはいつも凛々しく飄々としている彼から考えると、少し奇妙なものである。
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「はい。行かせていただけませんか?」
「……仕方ないことか。まあ、良いだろう」
「え、ええ……」
アザルス殿下の様子は、明らかにおかしかった。
だが、それを考えている暇があるという訳ではない。私はラルルを迎えに行かなければならないのだ。
そう思って、私は少し早足で歩き始めた。出遅れた分、急がなければならない。聖女ラルルは、まだ部屋にいるのだろうか。
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