駆け落ちした王太子様に今更戻って来られても困ります。

木山楽斗

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5.もぬけの殻

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「……おかしいわね」

 ラルルの部屋の近くまで辿り着いた私は、違和感を覚えていた。
 周囲の空気が、やけに静かなのだ。王城というものは、どこであっても大抵は人の気配というものがするものなので、これはおかしな話である。
 とはいえ、ラルルに関することなどでそのようなこともあり得ない訳ではないだろうか。平民である彼女に対して、冷遇めいたことが既に起こっているのかもしれない。

「まあ、そうなったら私の出番ということかしら?」

 ラルルに対してそのようなことが起こっているというなら、公爵家の令嬢である私は咎める必要があるだろう。
 ただ、それは本人に聞いてみなければわからないことだ。という訳で、私は部屋の前まで行って戸を叩いてみる。

「ラルル様、失礼します。ファナティアです。準備の方はどうですか?」

 立場的に上司であるため、私は丁寧な言葉遣いで呼びかけてみた。
 しかし、中からは何も答えが返って来ない。流石に聞こえていないということはないはずだが、なんだか心配になってくる。

「……え?」

 もしかして、中で体調不良などを起こしているのではないか。そんなことが頭に過った私は、思わず戸ってに手をかけた。
 すると、戸はいとも簡単に開いた。鍵が開いていたのである。
 それは不用心な話だ。いくらラルルが平民であるからといって、鍵をかけ忘れるということが起こり得るだろうか。

「……ラルル様、聞こえますか?」

 私が再度呼びかけても、中からは何も答えが返って来ない。故に私は、中に入ってみることにする。倒れている可能性だってあるので、確認するべきだと思ったのだ。

「誰もいない、か……」

 中に入った私は、周囲を見渡して誰もいないということを理解した。
 部屋の中央には、仰々しい聖女の衣装がある。ラルルはそれを着ることもなく、この部屋からいなくなったらしい。
 その状況からは、彼女が単に席を外した訳ではないことが予想できる。どうやら何かが起こっているようだ。それが何かは、まだわからないのだが。

「何か手がかりは、ないものかしら? ……あら」

 部屋の中を見渡した私は、机の上に無造作に置かれている紙を見つけた。
 それは置手紙であるだろうか。となると、この失踪はラルルの意思で行われたものになるかもしれない。
 いや彼女が何者かに連れ去られて、偽装された可能性だってあるだろうか。そんな風に色々と考えながら、私はそれに目を通す。

『誰にも言わずに、王城の裏庭に来て欲しい。大切な話がある。    アザルスより』
「……え?」

 そこにあったのは、アザルス殿下からの手紙であった。
 それを見て私は、首を傾げることになる。何故彼が、ラルルを呼び出しているのだろうか。その意味というものがわからない。
 ただその手紙の内容というものは、ラルルがどこにいるのかを示しているものであった。もしもそれが真実であるならば、答えはそこに行くことで得られるということだ。
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