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10.王太子の注目
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「さてと、アザルス兄上のことだが、実の所私はこの件について心当たりというものがある」
「心当たり、イグルス兄上、それは本当ですか?」
「そ、そうだったのですか?」
イグルス殿下は、客室のソファにゆったりと腰掛けながら、とんでもないことを口にした。
この件について心当たりがある。そんな言葉が出て来るとは思っていなかった。あまり期待していなかった故に、自然と言葉が零れてしまう。
「ああ、アザルス兄上は聖女の選抜が始まった時から、ラルルに注目していたのだ」
「注目、ですか? 確かに彼女は、優秀な魔法使いではありましたからね。僕もファナティアとどちらが上から気になってはいましたが……」
「いや、魔法使いとしてということではない」
「……はい?」
イグルス殿下の言葉に、ウルグドは目を丸めていた。
それは私も同じである。注目とは魔法使いとしてのことだと、私も思い込んでいたからだ。
ただそれが違うとなると、注目という言葉の意味は大きく変わって来る。それはあまり考えたいことではないのだが。
「アザルス兄上は、ラルルのことを女性として注目していた。一目惚れ、ということかどうかはわからないが、かなり入れ込んでいたように思える」
「そんな馬鹿な……」
「馬鹿げた話だとは、私も思う。ただ、これは残念ながら事実だ。そしてそれが今回の件の根本的な原因であるということは、言うまでもないことだろう」
「あ、あり得ない……」
ウルグドは思わずといった感じで、首を横に振っていた。
基本的に真っ直ぐな彼にとって、今回の件が色恋沙汰によって引き起こされたなどという事実は、信じがたいものであったのだろう。
しかし、イグルス殿下が嘘をついているということも考えにくい。それは王家にとって、手痛い失態といえるような出来事だ。進んで口にしたいようなことではないだろう。
「ショックを受けるのは結構なことだが、現実というものを受け入れるのは早い方が良いぞ? これから私達は、様々な事柄について対処しなければならないのだからな」
「……そうですね。すみません、取り乱してしまって」
「私もアザルス兄上と話していなければそうなっていたことだろう。幸いにもここにいるのは身内だけだ。咎めるつもりはない。だが落ち着いたというなら、話を進めるとしよう」
「……目下の課題は、聖女が不在であるということでしょう。アザルス兄上がいなくなることも大いに問題ですが、実務において支障が出るのはそちらです」
「代役を立てるしかあるまい。そしてその代役が誰であるかは明白だ。ラルルがいなかった場合、聖女が務まるのは……」
そこで二人の王子の視線が、私の方に向いた。
何を言いたいかは、考えるまでもない。ラルルの代役として、私が求められているということだろう。
それに関しても、望む所である。そもそもの話、聖女の補佐というものはそういったことも役目の内だ。しっかりと務めるとしよう。
「心当たり、イグルス兄上、それは本当ですか?」
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「注目、ですか? 確かに彼女は、優秀な魔法使いではありましたからね。僕もファナティアとどちらが上から気になってはいましたが……」
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