駆け落ちした王太子様に今更戻って来られても困ります。

木山楽斗

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20.力を合わせて

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 ベッドの上で、小柄な少女は穏やかな顔をしている。
 彼女の名前は、ラルル。このエーファイン王国の王太子が惚れ込んでいた女性だ。見つかった時は憔悴していたが、今はそれなりに元気を取り戻しているらしい。

「ラルル、具合はどうかしら?」
「お陰様で、順調に回復しています。まあ、元々体は丈夫な方でしたからね。これでも魔法使いですから」
「それなら何よりだ。君には本当に、随分と迷惑をかけてしまったね。エーファイン王国の王家の一人として、改めて謝罪したい。本当にすまなかった」
「いえ、大丈夫です。色々とありましたが、こうして良くしてもらっていますから」

 ラルルは、アザルス殿下が見つかった所からそれ程離れていない場所で拘束されていた。
 彼女はアザルス殿下に連れ去られて、ほとんど身動きが取れなかったらしい。どこで手に入れたのか、魔法を封じる腕輪をつけられて、監禁されていたのである。
 助かった彼女と話ができたのは、しばらくしてからのことだった。そこでエーファイン王国の考えを話して、なんとか了承してもらえたのである。

「そういえば、お二人は正式に婚約されたのですよね。おめでとうございます」
「ありがとう。でも、あなたは本当に良かったの? 聖女の地位は……」
「ええ、私には必要がないものだと判断しました。なんというか、これ以上目立つ必要もないかと思いまして。魔法使いとして働いても、充分なお給金はいただけます。まあ、聖女を続けられる程の力はなくなったという方が、英雄らしいとも思いますし」

 ラルルは、聖女の地位を私に明け渡した。一般的な魔法使いとして王城で勤務することを選んだのだ。
 それは私達の事情というものを、存分に考慮してくれた判断であるらしい。それはもちろん、こちらとしてはありがたい限りなのだが。

「まあ、お二人の仲を知った今、わざわざそれを阻むようなことをしたくないということはありますが……」
「あ、えっと……そんな風に思ってくれていたの?」
「そのようなことを気にする必要はないのだが……」
「もちろん、それだけが理由ではありませんが、でも私としてはそういった恋というものは叶って欲しいものですから。どうか末永くお幸せに」

 私とウルグドは、二人で顔を赤らめていた。
 なんというか、ラルルという少女は意外にもロマンチストなのかもしれない。私達の仲というものを、かなり思いやってくれているようだ。

「まあ……もちろん、ファナティアのことは幸せにするつもりだ。それは誓っておこう」
「ありがとう、ウルグド。とても嬉しく思うわ」
「お二人ならきっと、この国をもっと良くしてくれるのでしょうね。一国民として、期待しておきます」
「そうね。王位を継ぐのはイグルス殿下だろうけれど、それでも私達にもやれることはあるもの」
「ああ、この国をより良い国にするためにも、頑張っていくとしよう」

 私とウルグドは、ラルルの言葉に力強く頷いた。
 これからも私達には、やるべきことが山ほどある。しっかりと務めていくとしよう。二人で力を合わせて、これからも。


END
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