4 / 19
4.舞踏会にて
しおりを挟む
貴族の令嬢である以上、公の場に出ることは避けられない。
無論、私のような特別な事情を持つ者を隠す家もある。しかしオーデン伯爵家はそうではなかった。私のことも、きちんと娘の一人として公表されているのだ。
ただ両親は、私が嫌だというなら外に出る必要はないと言ってくれた。
それについては、私が断ったのだ。私は私に胸を張って生きている。それならば、隠れてこそこそする必要などないと思ったからだ。
とはいえ、流石に痣をさらけ出すのは気が引けた。
だから私は、メイクやレース付きの帽子で、痣を隠して舞踏会などの場には出ている。
「あの子のこと、ご存知ですか? オーデン伯爵家の末っ子の……」
「ああ、顔に大きな痣があるというあの?」
「ええ、そうです。可哀想に……でも、よくこんな所に来られますよね? 私だったら、絶対に引きこもっています」
痣があることから、私はあることないこと言われることも多い。
ただ私は、そんな風評など気にしていなかった。何を言われても、揺るがない程の心を私は既に持っている。家族が支えてくれたおかげで、私は大抵のことでは折れなくなっているのだ。
「ごきげんよう」
「え? あ、その、ごきげんよう」
「あ、え? わ、私達に何か御用ですか?」
私は、私のことを噂していた二人に話しかけた。
その二人のことを、私はよく知らない。恐らく向こうも、私のことは知らないだろう。
しかし二人は、まだ柔らかい態度で私のことを話していた。
侮蔑ではなく、同情といった感情の方が大きそうだった二人には、好感が持てる。だからお友達になるために、話しかけたのだ。
「お二人が、こちらを見ていたので、少し気になってしまって」
「あ、すみません。見てしまって」
「いいえ、謝るようなことではありません。私は、私が目立つということをよく理解していますからね。しかしこれも、一つの縁。よろしかったら、少しお話しませんか?」
「お、お話ですか?」
突然の提案に、二人は少し困惑しているようだった。
だが、ここで遠慮するのは良くない。私は人にただでさえ距離を取られやすいため、その分こちらから詰めていく必要があるのだ。
「わ、私達は別に構いませんけれど……」
「ええ、今は確かに暇ではありますけど……」
「それなら、少しお話しましょうか」
私はこうやって、交友関係を広げてきた。
それは決して、容易い道という訳でもなかった。ただそれでも、私はそういう道を歩んでいくと決めているのだ。
胸を張って生きること、それが私の今の目標なのである。
無論、私のような特別な事情を持つ者を隠す家もある。しかしオーデン伯爵家はそうではなかった。私のことも、きちんと娘の一人として公表されているのだ。
ただ両親は、私が嫌だというなら外に出る必要はないと言ってくれた。
それについては、私が断ったのだ。私は私に胸を張って生きている。それならば、隠れてこそこそする必要などないと思ったからだ。
とはいえ、流石に痣をさらけ出すのは気が引けた。
だから私は、メイクやレース付きの帽子で、痣を隠して舞踏会などの場には出ている。
「あの子のこと、ご存知ですか? オーデン伯爵家の末っ子の……」
「ああ、顔に大きな痣があるというあの?」
「ええ、そうです。可哀想に……でも、よくこんな所に来られますよね? 私だったら、絶対に引きこもっています」
痣があることから、私はあることないこと言われることも多い。
ただ私は、そんな風評など気にしていなかった。何を言われても、揺るがない程の心を私は既に持っている。家族が支えてくれたおかげで、私は大抵のことでは折れなくなっているのだ。
「ごきげんよう」
「え? あ、その、ごきげんよう」
「あ、え? わ、私達に何か御用ですか?」
私は、私のことを噂していた二人に話しかけた。
その二人のことを、私はよく知らない。恐らく向こうも、私のことは知らないだろう。
しかし二人は、まだ柔らかい態度で私のことを話していた。
侮蔑ではなく、同情といった感情の方が大きそうだった二人には、好感が持てる。だからお友達になるために、話しかけたのだ。
「お二人が、こちらを見ていたので、少し気になってしまって」
「あ、すみません。見てしまって」
「いいえ、謝るようなことではありません。私は、私が目立つということをよく理解していますからね。しかしこれも、一つの縁。よろしかったら、少しお話しませんか?」
「お、お話ですか?」
突然の提案に、二人は少し困惑しているようだった。
だが、ここで遠慮するのは良くない。私は人にただでさえ距離を取られやすいため、その分こちらから詰めていく必要があるのだ。
「わ、私達は別に構いませんけれど……」
「ええ、今は確かに暇ではありますけど……」
「それなら、少しお話しましょうか」
私はこうやって、交友関係を広げてきた。
それは決して、容易い道という訳でもなかった。ただそれでも、私はそういう道を歩んでいくと決めているのだ。
胸を張って生きること、それが私の今の目標なのである。
46
あなたにおすすめの小説
可愛い妹を母は溺愛して、私のことを嫌っていたはずなのに王太子と婚約が決まった途端、その溺愛が私に向くとは思いませんでした
珠宮さくら
恋愛
ステファニア・サンマルティーニは、伯爵家に生まれたが、実母が妹の方だけをひたすら可愛いと溺愛していた。
それが当たり前となった伯爵家で、ステファニアは必死になって妹と遊ぼうとしたが、母はそのたび、おかしなことを言うばかりだった。
そんなことがいつまで続くのかと思っていたのだが、王太子と婚約した途端、一変するとは思いもしなかった。
【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢
美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」
かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。
誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。
そこで彼女はある1人の人物と出会う。
彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。
ーー蜂蜜みたい。
これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。
幼なじみは、私に何を求めているのでしょう?自己中な彼女の頑張りどころが全くわかりませんが、私は強くなれているようです
珠宮さくら
恋愛
厄介なんて言葉で片付けられない幼なじみが、侯爵令嬢のヴィディヤ・カムダールにはいた。
その人物に散々なまでに振り回されて、他の者たちに頼られていたことで、すっかり疲弊していたが頼りになる従兄が助けてくれてりしていた。
だが、自己中すぎる幼なじみは、誰もが知っている彼女の母親すらとっくに越えていたようだ。
それだけでなく、ヴィディヤの周りには幼なじみによって、そこまでではないと思われてしまいがちな人たちがいたようで……。
奪いたがりの妹と奪われた姉、二人の結婚の結末 ~暗黒微笑系の隣国王子、賢姫を溺愛して「奪っちゃった♪」
朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
アメリアは賢姫と呼ばれる本好き令嬢だが、婚約者の王子は「生意気だ」と言って婚約破棄を宣言した。
「貴様との婚約を破棄する! 妹のエティーナの方が可愛げがある!」
王子はなぜかタンバリンを何度も叩いていた。
別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n3344ip/)
愛しているのは王女でなくて幼馴染
岡暁舟
恋愛
下級貴族出身のロビンソンは国境の治安維持・警備を仕事としていた。そんなロビンソンの幼馴染であるメリーはロビンソンに淡い恋心を抱いていた。ある日、視察に訪れていた王女アンナが盗賊に襲われる事件が発生、駆け付けたロビンソンによって事件はすぐに解決した。アンナは命を救ってくれたロビンソンを婚約者と宣言して…メリーは突如として行方不明になってしまい…。
私の感情が行方不明になったのは、母を亡くした悲しみと別け隔てない婚約者の優しさからだと思っていましたが、ある人の殺意が強かったようです
珠宮さくら
恋愛
ヴィルジ国に生まれたアデライードは、行き交う街の人たちの笑顔を見て元気になるような王女だったが、そんな彼女が笑わなくなったのは、大切な人を亡くしてからだった。
そんな彼女と婚約したのは、この国で将来を有望視されている子息で誰にでも優しくて別け隔てのない人だったのだが、彼の想い人は別にいたのをアデライードは知っていた。
でも、どうにも何もする気が起きずにいた。その原因が、他にちゃんとあったこアデライードが知るまでが大変だった。
厄介者扱いされ隣国に人質に出されたけど、冷血王子に溺愛された
今川幸乃
恋愛
オールディス王国の王女ヘレンは幼いころから家族に疎まれて育った。
オールディス王国が隣国スタンレット王国に戦争で敗北すると、国王や王妃ら家族はこれ幸いとばかりにヘレンを隣国の人質に送ることに決める。
しかも隣国の王子マイルズは”冷血王子”と呼ばれ、数々の恐ろしい噂が流れる人物であった。
恐怖と不安にさいなまれながら隣国に赴いたヘレンだが、
「ようやく君を手に入れることが出来たよ、ヘレン」
「え?」
マイルズの反応はヘレンの予想とは全く違うものであった。
病弱を演じていた性悪な姉は、仮病が原因で大変なことになってしまうようです
柚木ゆず
ファンタジー
優秀で性格の良い妹と比較されるのが嫌で、比較をされなくなる上に心配をしてもらえるようになるから。大嫌いな妹を、召し使いのように扱き使えるから。一日中ゴロゴロできて、なんでも好きな物を買ってもらえるから。
ファデアリア男爵家の長女ジュリアはそんな理由で仮病を使い、可哀想な令嬢を演じて理想的な毎日を過ごしていました。
ですが、そんな幸せな日常は――。これまで彼女が吐いてきた嘘によって、一変してしまうことになるのでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる